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侯爵令嬢は特権を利用する

 転移魔法のおかげか、午前中で全ての荷ほどきが無事に終わった。ノーラがお茶を用意してくれたので、三人で居間のテーブルを囲んでお茶休憩だ。

「立派な厨房があるし、毎日美味しい料理が食べられるね」

「お嬢様、他の方々はお部屋で料理はされませんよ。朝食は予約制で、我々が本館の厨房からお部屋までお持ちします。昼食は食堂でしか提供されないそうなので、食堂をご利用下さい。夕食は本館の談話室で提供されます」

「ノーラとマーサの分はどうするの?」

「私たちの分も全て本館厨房で提供されます」


「立派な厨房があるのに、皆料理ができる人を連れて来ないのかな?」

「そうですねぇ。上級使用人は基本料理は致しませんし、人数も六人までと決められておりますから、人数的に無理なのではないでしょうか」

「え、そうなの?」

「そうでございますよ。お嬢様は身の回りのことをご自分でされすぎなのです」

「二人とも一人で何役もこなすから忘れてたわ。夕食の談話室はさすがに嫌だから、夕食は部屋で作ろうよ」


「少しは令嬢らしいことをされないと、周囲から浮いてしまうのではないですか?」

「昼食はデポラと食堂に行くからいいけど、夕食の談話室は絶対無理。朝食はうん、二人が楽できるなら我慢する」

「…私たちでご用意します」

 ノーラが呆れたように言った。私が料理に参加するのは断固拒否という雰囲気だ。


「二人が休みたいときはいつでも厨房で予約してね」

 ノーラがまた渋い顔をした。ノーラは私が立派なお嬢様になることを諦めていない。今さら無理だ。外面は一応そうしているから許して欲しい。


 お昼の時間になったので、デポラを誘って食堂に行った。敷地が広すぎて迷子になりそうだ。食堂を利用しているのは私たちだけだった。

「片付けは終わった?」

「まだだけど、今日中に終わらせる予定」

「手伝う?」

「大丈夫よ」


 デポラは使用人をサラ一人しか連れてきていない。一人って。デポラこそ何でも自分でやり過ぎなのでは。

「一週間の入寮期間があるからか、初日から来る人は少なくて良かったよね。ルイーゼ様とイザベラ様はもう来ていたみたいだけれど、食堂に来たら挨拶するの面倒だねぇ」


「本人が来るわけないじゃない。先に使用人が荷物と一緒に来て、部屋の申し込みをするのよ。本人が来るのは部屋の用意が全て調ってからに決まってるでしょ」

「えっ、そうなの?」

「本当に侯爵令嬢なの?頭大丈夫?」


「ひどい言われ様…。慣れてるけど…。でも、私が来た時は、まだ馬車は着いてなかったよ」

「先に誰か一人だけ馬で来たんじゃない?ルイーゼ様の使用人は受付開始前に来たそうよ」

「そうなんだ。そんな発想無かったわ」

「でしょうね。初日に一緒に入寮しようって誘われた時からそう思ってた」


「デポラだって先にサラだけ行かせる気なんてないでしょう?部屋は先着順だよ?」

「別に人気のある部屋に興味なんて無かったし。でも、まさか別館とはね」

「だってさぁ、二人の間の部屋なんてありえないじゃない。二階は婚約者候補の巣窟になるのも目に見えているし。いい所があって良かったわ。広さもあるし、いつでも遊びに来て。デポラとサラならいつでも歓迎するから」


「そうね。マーサの美味しいスイーツが食べたくなったら行くわ」

「えー、私に会いに来てよ」

「どうせ授業で会うじゃない」

「むむむ…」

「エルは昼からどうするの?もう片付けは終わったんでしょ」

「お兄様から連絡があったから、続きの間へ行こうかと思って」

「そう、ヴェルナー様によろしく」


 二人で毎日食べたら胃もたれしそうな豪華なランチを堪能した。次からはセットメニューじゃなくて、単品で頼もう。

 部屋に戻る途中、寮から門まで凄い馬車の行列ができていた。先頭の馬車に公爵家の紋章がある。ルイーゼか。これだけの荷物を部屋に入れなきゃいけないから、無駄に広い部屋が必要なんだろうな。制服もあるのに、何がこんなに必要なんだろう?


 魔法学院と専門学院の敷地は、お互いに行き来できないように高い壁で囲まれている。それぞれに校舎と男子寮、女子寮、食堂などの必要な設備があり、共同で使用するのは魔法や剣の訓練をする施設のみになるが、出入り口も別々で完全予約制の個室になっている。

 学院はそれぞれの学院生の交流を基本的に禁止しているような感じだ。理由は知らない。


 そんな学院に、侯爵家以上の人だけが使える続きの間と呼ばれる部屋がある。そこはお互いを阻む壁の上を横切るように作られた広い部屋で、魔法学院側と専門学院側にそれぞれ扉があって、中で交流できる。

 部屋専属の使用人も常駐していて、これが上流階級の特権というものらしい。

 お兄様と気軽に会えるのは嬉しいけれど、普通に誰でも行き来できるようにすればデポラも連れて来られるのに、何か面倒臭い。


 デポラと別れた後、案内図を見ながら続きの間へ向かった。壁沿いに行けばいいので、わかりやすい。学生証をかざすと鍵が開いた音がして、すぐに内側から扉が開いた。自分で開けるんじゃないんだ。

「エルヴィーラ様ですね、ようこそ」

「エルヴィーラ・ハーヴィスです。これからよろしくお願いいたします」


 既に把握されているなんて、さすが。室内は豪華な調度品に溢れていた。部屋の説明を聞いている間、お兄様がいかにもふかふかそうなソファに腰掛けて、私の事を待ってくれている。

 ええ、もう、我が兄ながら絵画のようです。顔の造作は似ているけど、父とは違う穏やかで優しい笑顔に胸きゅんです。

 メニューが置かれていて、常駐している料理人が食事もお菓子も何でも用意してくれる。便利だね。


「お待たせしました」

「いや、大丈夫だよ。個室で話そうか」

 プライバシー保護のために個室もあるのです。個室さえ豪華だ。すげぇな。


 お茶とクッキーを注文して、お兄様に近況報告とこれからのことについて相談した。

「寮の部屋はどうなったの?いい部屋を選べた?」

「別館を押さえたの!」

「別館…?そんなのあったっけ?」


「出入り口が使用人部屋と同じになっているから、普通に入っただけではわからないと思う。使用人用の部屋か何かだと皆思っているんじゃないかな」

「使用人部屋の並びにあるってこと?」


「渡り廊下で繋がっているから、並びじゃないよ。外扉もついていて、エントランスを経由せずに自由に出入りできるんだよね。いいと思わない?」

「そう、それは…興味深いね」


「また、時間がある時に遊びに来てね」

「すぐに行きたいところだけれど、授業もあるから入学式の時に行くよ」

「わかった。ノーラとマーサに言っておくね」


 入学式は魔法学院と専門学院同時に行われ、在校生は休みになる。入学式なんてどうせ退屈なだけなのだから、参列せずに終わってから来たらいいと言ったのだが、絶対に参列すると言われてしばらく揉めた。エルにだけ参列者がいないなんてダメだ、の一点張り。

 私が折れることになった。それだけ参列したいならすればいい。絶対退屈なのに。私はきっと寝ちゃうよ。

 父は仕事で来ないし、お母様は来たがっていたけれど、来なくて良いと言って強引に領地に置いてきた。近いのならまだしも、我が侯爵領はここから遠いのだ。


 その後はしつこく近況報告を求められたが、しょっちゅう通話をしているし、ついこの間まで冬休みのお兄様と一緒に領地で過ごしていた。その後ものんびり入学準備をしていただけなので、特に話すこともない。

 それなのにたっぷり三時間以上は一緒にいた。次に会うのは入学式にしてもらった。デポラと敷地内を探索したい。寂しそうな顔をしていても、そこは譲らないよ!


 入寮期間終了間近になって、ルイーゼやイザベラ本人も登場したらしい。私がフランツに勧められた二人の間の部屋は、スーリヤが入ったそうだ。私は極力本館には近寄らず、全てデポラから情報を頂いている。

 こそこそと使用人扉から、デポラの部屋へ行くことしかしていない。エントランスでの滞在時間は秒しかない。しかもデポラの部屋は階段の影になっている。ばっちりだ。


 三人がたまたまエントランスでかち合った時、お互いに取り巻き含めてバチバチに牽制し合っていたとかで、デポラは面白いものが見られたと喜んでいた。本当に一番怖いのはデポラみたいなタイプじゃないだろうか。


 私はデポラと食堂で昼食を取ったり、敷地内を散策したりして過ごしていた。寮の談話室での夕食は怖すぎるので、ほとんど誰も到着していなかった間しか利用していない。

 人が増えてからは、自室での自炊に徹している。図書館の規模が素晴らしかったと付け加えておこう。


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