侯爵令嬢は頑張る
「皆さん、よろしくお願いします。怪我もなしですよ」
「任せな、エルちゃん!」「望むところだ!」「わくわくするぜ!」
盛り上がっていると、肩に手を置かれた。振り返るとディートリヒだった。
「エルヴィーラ嬢、気を付けて」
なななななんで!!変身魔法、使ってますけど!薄気味悪い笑顔でディートリヒは去っていった。凄い怖い。
「行くよ!」
私たちの集団は、デポラが指揮することになった。どうせ命令されるなら、美人がいいとジャンたちが言ったのだ。
おちゃらけた感じで言っていたが、全員デポラの実力に興味津々だ。指揮能力的にも問題ないし、ダーリン以外からの異議はなかった。
ダーリンの必死の牽制が微笑ましい。もう皆わかっていて、既に生暖かい目で見られていますよ。副はイザーク様になった。
デポラの号令で全員が一斉に動き出す。モンスターは雪兎、狐、雪猫の二足歩行筋骨隆々タイプばかりで、容赦なくいける。ちっとも可愛くない!もっとランクが高い狼や熊の目撃情報もあるが、二足歩行しか目撃情報がないらしい。数が多いだけと思おう。よし、大丈夫!
細い道へ向かって一直線に駆ける。周囲のモンスターは基本無視だ。速度を維持するために目もくれない。
エーリヒを中心に組み替えられた魔法師から援護魔法が放たれていく。私は周囲を一切気にせずに魔力を練ることに集中した。細い道を目前にして、集団の先頭に誘導される。タイミングを計って…。
いけぇぇぇぇ!!よしっ!いい感じ!
滑らかに道に沿ってモンスターを薙ぎ倒していく。それを速度を落とさずに追いかけていく。集団に吸収されるため、少し速度を落とす。
「やるじゃない、エル」
横を通った時、デポラから声がかかった。想定よりモンスターをなぎ倒せたようだ。良かった。ランクの高いモンスターは避けたり、致命傷を負わずに向かってくる。ここからは各個撃破だ。
デポラはもちろん、ダーリンもイザーク様もめちゃくちゃ格好いい。滑らかな流れの中で次々に倒していく。凄い。
いつもならじっくり観察して研究でもしたいところだが、少しでも三人が楽をできるように集中して、モンスターがばらけるように魔法を放つ。
今のところは順調だが、だんだんモンスターが増えてきた。ダンジョンが近いのかもしれない。援護とは別に魔力を練り始めよう。
「後半分だ!エル、第二弾準備!!」
「いつでもいける!」
「来い!!」
イザーク様に促されて先頭へ行き、もう一度風魔法を放った。
お兄様の防護魔法が一瞬破られた。まさか!
「ぐうっ・・・っつ」「サムっ!!!」
悲痛な叫びに、集団に吸収されつつ視線を向ける。サムが集団から弾き飛ばされていく。
「任せるっス!!」「SSだ!!」「集団を維持して!!私が行く!!」
皆の声がほぼ同時に聞こえた。助けに行こうと乱れかけた集団をデポラが正し、クリスの手からは魔力が伸びていく。
サムさん・・・!明らかに知能が発達しているのがわかる、熊のモンスターだ。弾き飛ばされ空中にいるサムにクリスの魔力が届くと、凄い勢いで防護魔法の中に連れ戻した。すごい、なにあれ。初めて見た。
タイミングを合わせて防護魔法内に戻ってこれるようにしたお兄様も凄い。
「やるじゃねぇか、坊主!!」
「やべぇ、命拾いした。助かったぜ」
サムの無事な声が聞こえて、涙が出そうになった。
「エル!前を向けっ!」「クリス、サムを渡せ!援護に集中しろっ」
前を向く。デポラがSSランクモンスターに対応するため後ろに下がっている。戦力の大幅ダウンだ。
二人が無事でいられるように、魔法を打ちまくった。デポラの代わりにはなれないから、一匹でも多く!少しでもダメージを!
まずい、私では圧倒的に足りない。徐々に捌ききれなくなったモンスターが増えてきている。速度が維持できなくなれば取り囲まれる!デポラ・・・!!
「やるなっ、嬢ちゃん」「さすが美人」
「うるさいっ」
デポラが先頭に戻ってきた。一気に形勢逆転だ。お兄様の防護魔法を破り、Sランクのサムを弾き飛ばしたモンスターをこの速度を維持した上で短時間で倒したということだ。知ってはいたけれど、デポラ凄い。それ以上にほっとした。
全員が進む速度も全く落ちずにすんだ。距離はあるが、建物が見えてきた。あと、もう少し!
「油断するな!」「一気に駆け抜けるぞ!」
「エル!前方の集団を牽制して!」
「はいっ」
「クリス!左にも集団だ!」
「わかったっス」
どんどん町が近付いてくる。周囲が壁に囲まれた要塞のようになっている。私たち集団に気が付いたのか、町からも援護の魔法が飛んでくる。
「母っス!あそこに向かって下さい!!」
集団が一斉に目指す一点を定めた。タイミングを合わせたように門が開き、全員でなだれ込む。
「いそげぇぇぇぇ、閉じろぉぉぉぉ」
「ついてくるぞ、迎え撃て!!」
私たちは全員壁の内側に到着した。
「このまま領館へ!我々が先導します!」
クリスのお母様か!格好いい!先頭でモンスターをなぎ倒しながら駆け抜けていく。
「状況の報告を」
デポラの鎧に刻まれた紋章を見た人たちが一斉に報告を始めた。
「クリス様から連絡があったので自分たちはこの門を死守していました!」
「壁を越えて町中にモンスターが侵入しています!」
「住民は全て領館へ避難が完了しています!」
先導されて、モンスターと戦いながら町中を疾走する。さすが辺境伯の兵。全員速度が速い。またついていくのに必死になった。町中で速度を維持するのは難しい。が、無事に領館へ到着した。
「馬をお預かりします」
「食料の備蓄に不安があります」
「負傷者の方はこちらへ。癒やしの魔法が得意な者がおります」
イザーク様やダーリンを含む何人かが離れていった。やはり、皆無事ではなかったのか。私が不甲斐ないばかりにごめんなさい。
「武器が残り僅かです」
「兵士が交代で館を守っています。皆さんも少し休憩して下さい」
「いえ、私たちはまだいけます。状況を変えるために、館の側にいるモンスターを一掃します」
デポラは無傷だ。やっぱり凄い。
「ヴェル、館の周囲に防護魔法を張れる?」
「もう少し範囲が狭くないと維持ができない」
「土魔法で壁を高くしようか。内側に傾くように高くして、そこにフタをする感じにすればいけるんじゃないか」
お兄様とトムが詳細の相談を始めた。二人で協力すればお兄様に負担はあるが、何とかなるとわかった。さすがお兄様。コタローが私のフードからお兄様に駆け寄った。良くわかっている。
「提供、する、一緒に」
「補助する魔石を提供する」
「魔石を各所に配置せよ!総員に壁から離れるよう連絡!」
トムの土魔法で一斉に元の壁が倍くらいの高さになった。トム凄い。ドーム型のようになったので、全体が暗くなるが、すぐにそこにお兄様が防護魔法をかけた。
「何て範囲だ・・・」
兵士から感嘆の声が上がる。ふふふん。トムと私のお兄様だもん。つい、自慢気にしてしまう。
「侵入されると音が鳴るようにしました。人の出入りは自由になっているので、気をつけて下さい」
歓声があがった。これだけでも、ずっと楽になる。
「エル、クリス、トム、ジョージ、まだいける?」
「大丈夫!」「問題ないっス」「俺は枯渇寸前だ」「あと少しなら」
遠距離攻撃魔法が得意な人ばかりだ。
「トムは休んで。壁付近の状況がわかる人は教えて」
「この建物に生き物が集中しているので、領館の壁沿いにモンスターが集まっています」
「今までは壁を越えてくるモンスターのみ対応していたので、とにかく数が多いです」
「わかった。風向きは?」
「今は西風です」
「西から行くわ」




