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イザークのひとりごと

ゲルン侯爵家はイザーク様、ガロン侯爵家はディートリヒ、ハルン侯爵家はイザベラ、ノルン侯爵家はエルヴィーラのところです

 エルに初めて会った時、庭の隅っこで泣いていた。ドレスは破れていたし、膝から血も出ていた。手を引いて母の所に連れて行った。母が心配して部屋ですぐに膝を手当てしようとしたが、膝よりドレスが何とかならないかと泣きながら言うので、母親を呼んでくるように頼まれた。膝も切っていて、結構血がでているのに痛くないのかな。

 母親を連れてきた。エルはすぐに母親に泣きながら飛びついた。

「お母様、どうしよう!ドレスが破れちゃった。お父様に怒られる?」

「あぁ、大丈夫よ、エル。お母様が何とかするわ」

「ダメよ、お母様。私の代わりに鞭で打たれて欲しくない!」

 今、何て言った?思わず母と顔を見合わせた。子どもがドレスを破っただけで、親子共々鞭打ち?ありえない。


「どういうことかしら、カリーナ」

 母の言葉に母親がビクッとした。娘の失言に今気が付いたようだ。おろおろしている。母に父を連れてくるように言われて部屋を出た。

 父が修復魔法と浄化魔法を使ってドレスを直すと、エルがこぼれんばかりの笑顔で父に飛びついた。

「ありがとう、おじさま!」

 男ばかりの三人兄弟で娘に免疫のない父がデレデレしている。大喜びしているが、膝は血まみれのままだ。母が癒やしの魔法で治した後、エルと二人で部屋を追い出された。


 後で話を聞くと、エルの父親は日常的に鞭で暴力を振るっているらしい。助けてあげられないのかと聞くと、今は無理だと言われた。証拠もなく、実家に帰ることもできず、もし修道院へ逃げれば幼い子どもは児童養護施設に入れられるから、子どもだけは侯爵家へ連れ戻されると言われた。耐えるしかないなんて残酷だ。


 それからよく両親はエルたちを家へ招待するようになった。父は懐いたエルに完全にデレデレだし、母も同じだった。確かに素直で笑顔も可愛い。妹がいたらこんな感じかと思った。

 エルは俺にも凄く懐いた。いつもちょこちょこと後ろをついてくる。家で遊ぶ時は怪我をしてもドレスを汚しても、全て両親が元通りにしてくれる。安心したエルは本来はお転婆だったようで、泥遊びや木登りにも積極的だった。運動神経は、・・・うん、イマイチそうだ。鈍くさい。

 そのうちヴェルナーも来るようになった。今までにも会ったことはあったが、あまり印象に残るタイプではなかった。結構シスコンだった。元々活発に遊べなかった上に、何でもヴェルナーに禁止されちゃうから運動神経が微妙なんだろうな。


 エルは心を完全に開いて、色々な話をしてくれた。母親が自分たちを一人で守ろうとして、精神状態が普通でなくなってしまっているのを元に戻そうとしていることや、自分の将来のために色々な選択肢を選べるようになりたいと思っていることを聞いた。あの父親だ。どんな男に嫁に行かされるかなんてわからない。良い考えだと思う。

 力になってあげたいなと思った。エルは魔法の才能があったので、魔法を色々と教えた。父には修復魔法を、母には癒やしの魔法も教わっていた。短い時間でどんどん吸収していく様子に、本気度を感じた。鈍くさいけどしっかりしている。頭もいい。母親の説得に成功して、普段はカントリーハウスにいることになったと嬉しそうに言っていた。


 それから以前ほどは頻繁に会えなくなったが、めきめき魔法は上達していったし、母親の協力で平民としても生きていけるようにお勉強中なんだそうだ。そうならないように、いい男と結婚できれば良いなと心底思った。

 今だとベルンハルトとかになるのかな。王子は暴力は振るわないとは思うけれど、性格まではよくわからない。興味が無いからあまり話をしたことがない。

 エルに聞いてみたら、エルはベルンハルトが大嫌いだった。理由を聞くと、女性を見る目が父親と一緒だから嫌いだと言っていた。後、単純に怖いとも言っていた。なるほど。確かにそうかも。そういう視点で見ていくと、確かにまともな男がいない。

 侯爵家以上となるとディートリヒくらいかな。ベルンハルトと一緒にいすぎるから、そのうち影響を受けるかもしれない。スヴェンはもっての他だ。


 人を好きか嫌いかだけで判断していたけれど、新しい視点が加わった。伯爵令息にはまともな男もいるが、わざわざ侯爵家から嫁にいく相手じゃない。ノルン卿は許さないだろう。いつの間に俺はエルの相手探しをしているのだろう。たいして歳も変わらないのに、気分は父親だ。頭の中に令息がリストアップされていく。

 いつの間にか父も同じように探していた。俺と同じく令息をピックアップしていて、そのリストを見せられたが、ほとんど俺と同じ考えだった。交友関係が似ているから新たな発見はなかった。

「俺の婚約者として打診でもしてみるか?権力的にはそんなに悪くないだろ」

 一度、そう父に言ったことがある。

「お前みたいな遊び人は、絶対ダメっ!!娘はやらん!!」

 そもそも娘じゃないし、実の息子に何て言い方だ。否定はしないしできないけれど、自分だって若い頃は散々遊んでいたくせに。ただ、父親の立場として考えてみた時に、自分でも嫌だなと思った。真面目で優しい、エルを何よりも大切にする男がいい。


 俺と父が勝手に父親化している間に、ヴェルも重度のシスコンになっていた。いつの間に。だんだんヴェルも面白い男になってきた。一緒に学院へ入学したのでよくつるむようになった。


 残念ながらエルは、正式にベルンハルトの婚約者候補になってしまった。父が婚約者に選ばれないよう裏から手を回したが、陛下と妃殿下にとってもエルヴィーラは本命だったようでうまくいかなかったらしく、発狂しそうになっていた。

 同じ本命のイザベラに協力するように言われたが、ベルンハルトともイザベラとも碌な親交がないのにどうしろと言うのだ。


 いざという時のために、俺の隣を空けておくように父に言われた。特別気に入った令嬢もいなかったので従うことにしたが、父はかなり本気だと思う。本当の娘にしたいと言い続けているが、エルが伯爵令息を選んでも嫁にいけるように何やら動いているようだ。相変わらずデレデレのメロメロだ。我が父ながら、時々気持ち悪い。


 エルも学院に入学したので、度々会うようになった。ますます綺麗になったし、俺の前ですっかり油断している姿も可愛い。そのうち、どんな男も狼だと教えなければ。

 元々興味があったので、ダンジョンへ行く二人に同行した。おっさんを中心に周囲をどんどん虜にしていく。エルは魔性の女なのか。ヴェルに聞くと、今までに行った全てのダンジョンでギルド員から可愛がられているそうだ。やはり魔性か。


 冬休みには思い切りお人好しが発揮されて、ヴェルに隠れて御者とまで仲良くしていた。こういう所が人を惹きつけてしまうのだろうな。雪猫までも懐いている。

 魔法の才能も完全に開花していて、普通はもっと時間がかかるものだけれど、ちょっと理論を話しただけですぐに実践できた。本人は自分の凄さに気が付いていないのが、残念なような、ほっとするような。


 今回の作戦もエルの魔法にかかっているが、エルなら問題なくやってくれるという信頼がある。更に強化することまで考えてくれていたし、野菜でしか試していなくても必ず本番でできる。それほどの才能がエルにはある。

 緊張しているだろうから、ほぐしに行ったが問題になるほどでもなさそうだ。父に、命に替えても絶対に傷一つつけるなと言われた。娘が可愛いのはわかるが、少しは息子の命も心配して欲しいものだ。


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