今年の夏休みは社交!
ディートリヒはいつの間にかこちら側にすっかり馴染んでいた。デポラ、イザベラ、スーリヤの友人も一緒にいるから、クラスの大半の女子と一緒にいることになって、その中に一人だけ混じっているディートリヒが目立つ。
男子寮では、ついにディートリヒが本領を発揮して、ハーレムを作ったと話題になっているそうだ。クリス情報。ハーレムて。
確かにここまで女子の話題についてくるとは思っていなかった。王妃陛下と親戚だから、王都のお店に一杯伝手も持っていて、手に入りにくい最先端の品を代わりに取り寄せしたりもしてくれるらしく、むしろうまいこと使われている気がする。
ずっともだもだしていた伯爵令息と令嬢をそっとくっつけたりもしているし、手腕が凄いとしか言いようがない。
好きとかよくわからないって言っていたくせに、人のことは気付くんだな。
夏休みになった。いよいよ社交シーズンだ。今年は残念ながら、我が家のタウンハウスで過ごすことになった。お兄様とイザーク様は来年卒業を控えているために社交が忙しいし、私も友達が増えたので招待状が明らかに増えた。
男性がいる集まりにも出ないといけないし、ダンジョンには行けそうにない。慣れるまで大変そう。
招待状を自分で仕分けていると、まさかのベルンハルトから招待状が届いていた。勘弁して欲しい。わざわざ手書きで、イザベラも誘っているから頼むと書いてあった。何が頼むだ。協力するって言った覚えはないんだけれど。ディートリヒにすぐに相談した。
「ああ、令息令嬢だけが集まる割と大きなパーティだよ。僕たちの年代ではシーズン最初の一番大きなパーティになるね」
「何かイザベラも招待したから頼むって書いてあったんだけど、何を?」
「たぶん、イザベラ嬢にエスコートを申し込んだんじゃないかな?」
「迷惑!!」
「シーズン最初の場所でエスコートとなると、ひたすらイザベラ嬢に迷惑だよねぇ。何を考えているんだか」
「嫌がらせでしかないな!」
「イザベラ嬢に誰にエスコートしてもらうのか、聞いておいてよ。ベルンからの招待状だと、年齢を理由に断れないと思うから。最悪ハルトを引っ張り出すしかないかな。凄い不安だけど」
ハルトくんは年齢的に招待されていないらしい。知っているかと思ってついでに確認したら、ルイーゼも来ないそうだ。お兄様も安心だな。良かった。本来ならイザベラだって参加しなきゃいけない年齢じゃないのに、可哀想。
「わかった。また連絡するね」
早速イザベラに通話したら、イザベラはとっても困っていた。予想通りベルンハルトが俺がエスコートするとか書いてきちゃっていたらしい。迷惑な奴だ。代わりに誰にエスコートしてもらうかにとても悩んでいた。
年頃の親戚には既に相手がいるらしく、普通の伯爵令息ではベルンハルトの圧に負けるかもしれない。ハルトくんでは不安だってディートリヒが言っていたし、お兄様に頼んでおくからエスコートしてもらえばいいよって言っておいた。
イザベラは戸惑っていたようだけれど、とても喜んでいた。そりゃ、ほっとするよね。お兄様ならベルンハルトとやり合える。
イザーク様は誰かいるだろうし、ディートリヒにお願いして私はハルトくんに頼もうかな。お兄様に言う時は、何となくだけどイザーク様と一緒にいる時にしよう。
「絶対に許さん!!」
お兄様に言ったら、激怒された。そんなに怒らなくてもいいじゃない!!
「だって、イザベラが可哀想じゃない!殿下のせいで結婚相手が見つからなくなるかもしれないんだよ」
「ヴェル、エルちゃんは俺が責任をもつから、イザベラ嬢を助けてあげるといい」
「ほらーー!!イザーク様だってそう言ってるじゃない!えっ、イザーク様いいの!?」
「元々一人で行くつもりだったから」
「そうなんだ。じゃあ、お願いします」
感謝を込めて手を握っておいた。
「エルの・・・、エルのエスコートは俺がするって決めてたのにーーー!!!」
「お兄様、煩い」
「イザークがイザベラ嬢をエスコートすればいいじゃないか!」
「十四歳で俺にエスコートされて来る令嬢、どうだ?俺と親しくしていなかったイザベラ嬢が、だぞ」
「・・・イザベラ嬢の評判に関わる・・・」
「だろう?」
「えっ、私の評判は大丈夫?」
「子どもの頃からの付き合いだし、大丈夫だろ」
「そういうもの?」
「そういうもの」
「ダメだーーー!!!」
よくわからないけれど、イザーク様がいる時に言って良かった。
ディートリヒに報告したら、驚いていた。
「よく・・・ヴェルナー様が納得したね」
「イザーク様と、後お母様も一緒になって説得したの」
「・・・お疲れ・・・。まぁ、それなら安心だね。僕もできるだけベルンの側にいるようにするよ」
「うん。デポラもいるから、何とかなると思うよ」
パーティ当日、お兄様はぶつぶつ言いながらもイザベラを迎えに行った。ぶつぶつ言っていても、今日のお兄様は一段と格好いいよ!私的にはイザベラを守ってくれるならどっちでもいいんだけど、イザーク様では問題があるなら仕方がないじゃないか。重度のシスコンを拗らせ過ぎて、イザベラにドン引きされませんように。
迎えに来てくれたイザーク様も、やたらに格好いいな!
「エルちゃん、似合ってるね」
「お世辞をありがとう」
「お世辞じゃないよ」
「はいはい」
会場に着くと、既にデポラとダーリンがいた。ダーリンは背が高いからすぐに見つけられる。
「ダーリング様、お久しぶりです」
そう、デポラのダーリンは本当はダーリング様という。デポラのダーリンだから私も勝手にダーリンと言っているだけで、本人には決して言わないのだ。
「殿下がそわそわしながらイザベラを探しているみたいね。エスコートを断られたくせに、頭悪いのかしら」
相変わらず容赦がない。デポラ情報によると、後から合流するスーリヤもイザベラの味方らしい。やはりか。姉御二人素敵です。
少し遅れてお兄様とイザベラが来た。気合いを入れて身だしなみを整えた、美男美女の迫力は凄かった。キラキラが眩しすぎて、直視できません!!うぉぉぉぉぉ、目が焼かれる!!
「デポラ嬢」
「はい?」
「デポラ嬢ならわかるよな」
「えっ?」
デポラがイザーク様の視線を追って、お兄様とイザベラを見た。
「ええ、そうですね。ふふっ」
「今度通話するよ」
イザーク様のその言葉に、ダーリンががっつりイザーク様を睨んでいる。デポラが、浮気じゃないから!って一生懸命ダーリンに説明している。よくわからないが、今日もデポラとダーリンは仲良し。
「こんばんは」
ディートリヒは赤いドレスの令嬢と、ベルンハルトを連れてきてしまった。今回こんなにややこしくした犯人を連れて来るなんて、何をしている!
「二人が会わないようにした方が良かったんじゃないの!?」
小声でディートリヒに詰め寄る。
「いや、これは見せた方が早いよ」
「????」
「俺もそう思う」
私たちの会話が聞こえていたイザーク様が賛成した。よくわからない。
ディートリヒと小声でひそひそと話をしていたら、赤いドレスの令嬢に思いっきり睨まれた。ディートリヒがエスコートしている令嬢か。こっわっっ。すぐに気が付いたイザーク様が、ベルンハルトに挨拶だけして離れていった。
「性格悪そうな女だな」
「大丈夫かな?」
「え?ああ、大丈夫だ。イザベラ嬢が嫌な思いをすることになったら、エルに嫌われるぞってヴェルには言っておいたから」
「それこそ大丈夫か?」
「細かい微調整はディートリヒが頑張るだろ。さて、挨拶回りに付き合ってもらうぞ」
「はぁい。侯爵令嬢らしくにこにこしてまっす!」
「伯爵令息が多いから、ちゃんと覚えておけよ」
「はぁい」
イザーク様が恥をかかないように、きっちり侯爵令嬢の仮面を被った。
普段の私しか知らないイザーク様は不安かもしれないが、ちゃんと令嬢らしく振る舞うこともできる。鞭で打たれながら修得したのだから、気を張っていれば完璧です!




