魔王は情熱に欠けることを気にしていた
「いい加減嫌がられていることに、気が付いてないの?って言ったんだけどね」
今日はデポラとディートリヒの三人で昼食を食べている。イザベラはスーリヤたちと一緒にいる。
昼食は、予約制度があるのでベルンハルトもこちらには来られないので安心だ。
「えー、またストーカー?」
「ストーカー気質多すぎよね」
スヴェンにアルフォンスにベルンハルト。アルフォンスはちょっと違う気もするが、三人並べると本当に気持ちが悪いわ。
「さすがにそこはまだ大丈夫だと思うけれど、この感情の名前が知りたいから、話せるようになるくらいは頑張りたいとか言い出してね」
「ピュアか」
「気持ち悪いわね」
「常識外れの行動に出たら、こちらも強引に止めるつもりだよ。その時はデポラ嬢にも協力して欲しいな」
ディートリヒの悪い笑顔が輝いている。
「物理的に止めるってことですね」
返事をしているデポラも悪い笑顔だ。デポラ、いつの間にか魔王の子分みたいになっているんだけど・・・。子分と言っても幹部だろうけど。いや、幹部と思わせてのラスボスっぽい。
「そうそう。デポラ嬢の物理的な止めと、エルヴィーラ嬢の魔法があれば、完璧でしょう?」
魔王、まさかの時は完膚なきまでにベルンハルトを止める気だな。もっと気合いを入れて鍛錬しよう。うっかり怪我をさせるのはまずいしな。加減も間違えられないし。
「うっかり怪我をさせても、認識阻害で僕たちにしかわからないようにするから。とりあえず、医務室の先生が治せる範囲ならぼこぼこにしてくれたらいいよ。王妃陛下の許可は既にもらっているから」
あぁぁぁぁ、魔王様。絶対に敵に回してはいけない相手。
「もちろん、私たちのことも周囲から隠して下さいね。協力する条件ですよ」
「うん?わかったよ」
デポラの乙女心をディートリヒは理解できていないようだ。まぁ、常識のある人ならデポラがウテシュ伯爵家の令嬢だって知ってるもんね。
「制服に剣でも仕込んでおこうかしら」
笑って言っているけれど、デポラは結構本気だな。いくらラスボスでも、王子に剣を抜いていいの?
「それにしても、何であんなに情熱的かな?早く冷静になってくれるといいんだけど」
確かに。友達でもいいんです!っていう男は下心ありありだとイザーク様が言ってた。
「あれって情熱じゃなくて、執念じゃないの?」
「デポラ・・・。怖いこと言わないでよ」
そういえば昔エーリヒが教えてくれた論文に面白いのがあったな。
「以前私の魔法の先生が、性格と得意魔法が影響し合っているっていう面白い論文を見せてくれたことがあって」
「うん?」
「何それ、面白そうね」
乙女デポラが食いついた。占いとか大好きだもんね。
「正式に認められた論文ではないのだけれど、統計で恋愛とか趣味に情熱的な人は、火魔法が得意な傾向があるって書いてあったよ」
「ベルンハルトにスヴェン・・・ってこと?アルフォンスも火魔法は得意だったはず」
「ダーリンも火魔法が得意だわ」
ちょっとデポラが嬉しそうにしているが、ディートリヒが挙げた三人だけで考えると思い込みが激しい人とも言う。言わないけどね。相思相愛なら、ストーカー気質でも問題ないのか?
「ディートリヒ様も私も火魔法が苦手でしょう?」
デポラに急に肩をぐっと掴まれた。何だ?
「ああ、デポラ嬢。エルヴィーラ嬢が火魔法が得意じゃないことはとっくに気が付いているから、心配しなくても大丈夫だよ」
「あっ・・・」
しまったぁぁぁぁぁぁぁ!
「どうせベルンに知られたくなかったんでしょ」
「内緒にして頂きたい!」
「今までも別に言っていないけれど、隠すつもりなら油断しすぎだよね。鈍感なベルンでも薄々気が付いていると思うよ」
思わず突っ伏した。どれだ、どこで失敗した。父にさえ未だに隠せているのに!
「スヴェンの火魔法を処理した時。あれ、風魔法と重力魔法だよね。スヴェンの火魔法より断然威力が強かった。後、ハルトを助けに行った時。どう考えても得意魔法は風魔法か重力魔法だと考えるよね」
撃沈した。どちらもベルンハルトがいる時だ。怒ったり心配したりで、完全に油断していた。
「本当の得意魔法はなんなの?」
「風魔法よ」
「水魔法も結構できるよね」
「ええ。エルは鈍くさいけど、魔法に関しては天才よ」
「へぇ…。デポラ嬢にそう言われるなんて、余程なんだね」
本人を無視してデポラとディートリヒの話が続いていく。
「ベルンが強硬手段に出たとしたら・・・」
「そうね。エルの風魔法で火を散らして、突っ込んで切りつけるわ」
「僕の水魔法で防護魔法をしたら、相性がいいからデポラ嬢を確実に守れるよね。ベルンの足下を同時に崩してもいいな」
「殿下の防護魔法さえ壊せば、後はエルの重力魔法で完全に動きを封じられるわね」
「後は反省するまでぼこぼこに・・・」
「剣に付与魔法をつけてもいいわよね」
「いやいや、デポラ嬢の実力で、剣の威力まで上げちゃったらベルンが死んじゃうよ」
「あら、王子なのに脆いわね」
二人とも、暗殺計画みたいになってるよ・・・。
「まぁ、知られたところでベルンに選ばれることはないと思うよ」
「そう・・・だよね、イザベラを追いかけておいて私が婚約者とかないよね・・・。でも父が・・・」
「そこは自分で頑張るしかないね。お互いにその気がなくても、候補である限り可能性は否定できないよね」
酷い、ばっさり切らないでディートリヒ様。何か考えてよ。
「エルの得意な風魔法はどういう性格なの?」
「自由・・・」
「自由人、なるほどね。当たっているわね・・・」
「そうだね・・・」
「二人とも、褒めてないよね?」
「防護魔法は?」
「守りたいと思うものが明確にある人」
「あぁ、だから過保護のヴェルナー様が異常なほど得意なのね」
「重度のシスコンか・・・」
「当たってるでしょ?でも、性格を分類するって難しいから正式な論文になってないんだよね」
「当たっている・・・。それはつまり、・・・僕には情熱が欠けているってことか・・・。火魔法全然使えないんだよね・・・」
「エルもだけど、ディートリヒ様がポンコツってことね!」
「デポラ酷い!」
「いや、僕は・・・凄くしっくりきたよ・・・」
味方がいない!!
「今まで全然理解できなかったんだよね。恋だの愛だの趣味とか色々・・・」
こちらはこちらで思いの外ダメージを受けているようだ。
「バランス型は?」
「性格もバランスがとれているんだって。イザーク様とかデポラだよね」
「なるほどね」
あっ、デポラがにやにやしているから、よりディートリヒにダメージを与えようと楽しんでいることに気が付いてしまった。あああ・・・。うっかり荷担しちゃった。
「み、水魔法は冷静沈着な人が得意らしいよ!」
丸まってしまったディートリヒの肩に向かってフォローした。冷徹な面があるとか感情の起伏が乏しいとも書かれていたけれど、言わない。
「情熱と真反対・・・」
「ダメだ、これ」
「いやいや、とどめを刺したのはエルでしょ」
「え、私?」
ディートリヒが崩れ落ちた。面白がっているデポラがディートリヒを質問攻めにしている。
「どれくらいポンコツなの?」
「聞き方がストレートすぎるよ、デポラ!」
弱々しいけれど、ディートリヒがもごもご返事をしている。案外真面目だから、質問には答えてしまう質らしい。
「えー!好きな人がいたことないの!?」
デポラが容赦なく抉っている。ちゃんと声を潜めるところは優しいけれど、その優しさがあるなら、抉るのやめてあげたらいいのに。
「婚約者候補とかいるでしょ、どうしてるのよ」
「・・・正直、皆一緒、かな・・・。服が似合ってるとか、そういうのはわかるんだけど」
「ポンコツ過ぎるわ・・・」
このままにしておくと、ディートリヒが机にめり込んでいきそうだ。
「趣味は?」
助け船のつもりだったんだけれど、ディートリヒが全然上がってこない。
「・・・ないんだよね。好きなものとか、特に」
「うわぁ、人生寂しいわね!」
あぁ、デポラ様…。手を緩めて差し上げて…。
「仕方がないから、流行を追うようにしているんだ・・・」
「重傷だな!終わってるわ~」
「こらっ!エル、とどめを刺しちゃダメだってば!」
昼休憩が終わると、ディートリヒがとぼとぼと教室に帰っていくので、そっとコタローを頭にのせておいた。もふもふで癒やされたらいいよ・・・。
「変に哀愁漂う背中の人にコタローをのせるって、私を笑わす気?」
「えっ!?そんなつもりじゃなかったんだけど!回収する?回収するべき?」
「いや、面白いからいいんじゃない」




