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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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侯爵令嬢は距離感が怖い

 最近、剣術演習の後に二組の伯爵令息アルフォンスに話しかけられるようになった。デポラ情報によると剣術馬鹿らしい。何で話しかけられるのかわからないが、二度も剣を手放した先にいたので邪険にはできない。

 いつももの凄く距離を詰めてくるので、後ずさりながら話を聞いている。それ以外のマナーはしっかりしているのに、何故だ。体は大きくて圧迫感があるし、何か情熱的過ぎて苦手なタイプだ。


 最近は何故か鍛錬メニューを持ってきて、自分がやっている鍛錬がいかに素晴らしいかを語ってくる。もっとわかる人に言わないと自慢にならないと思うし、筋肉の名前を言われても私にはさっぱりだ。友達いないのか?そして何故私?

 イザベラと逃げようとしても、勢いが止まらないので逆に二人で追い詰められる。どうしようもないのと怖いので、いつも気が利くクリスを生け贄に差し出して逃げている。意味がわからない。


 そうしたら、個別鍛錬後に寮の部屋へ戻ろうと思って歩いていた所に出くわしてしまった。今は一人だ。笑顔で挨拶されたが、怖過ぎる。

 近い。近い。移動しながら距離を取るが、ぐいぐいくる。強引に部屋の中までついてきそうだ。お招きしたくないが、スヴェンみたいにやらかしているわけじゃないので、断りにくい。




「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 怖すぎて走って逃げたらアルフォンスが追いかけてくる。

「早速かけっこで鍛練ですか!直ぐに追い付いてはつまらない。ハンデを差し上げましょう!ハハハハハ!」とか言って、追いかけて来る。ストーカーの次はサイコパスですか。言っている意味が全くわかりません。


 彼が入って来られない続きの間を目指すが、アルフォンスの足が速い、速すぎる!このままでは扉前の廊下で追いつかれる!!まずい!!

 誰も見ていないのをいいことに、風魔法で追い風にして最速で走り抜けて角を曲がった。そこにディートリヒとベルンハルトの姿が見えた。ディートリヒ!!


「ディ、ディートリヒ様ぁぁぁぁぁ!!!助け、助けて!水魔法使って、隠してぇぇぇぇぇぇ」

 驚きつつも私の必死さが伝わったのか、魔法で認識されにくくしてくれた。それでも不安で、ディートリヒの後ろに隠れた。ベルンハルトよりは細身だが、ケープもあるしこれなら見つからないだろう。

 息も切らさずアルフォンスも角を曲がってきた。危ない、ギリギリのタイミングだった。ディートリヒの素早い判断に感謝せねば。魔王様ありがとう。


「どうしたの?この先は続きの間しかないし、知っているとは思うけれど、アルフォンスは入れないよ」

「あ、こんにちは。殿下、ディートリヒ様。エルヴィーラ様を見かけませんでしたか?」

 さりげなくディートリヒの質問を完全に無視したな。人の話を聞かない人って、本当に怖い。


「続きの間に入っていった」

 ベルンハルト、ナイス!!たまにはいいこと言うな!!

「そうですか、ありがとうございます」

 アルフォンスはそう言ってそのまま続きの間へ向かって行き、扉ゼロ距離で待機した。えっ、気持ち悪い…。距離感って知っていますか。

 二人も見ている。絶対おかしいよね!後ずさっていなかったら、あの距離で話し続けられたってこと?無理無理!


「何で追いかけられているんだ。ちょ、チョロチョロすんな」

 ベルンハルト煩い!絶対に見つかりたくないのに。

「ディーから離れるな。その方がより強力に認識阻害されるから」

 更にディートリヒにひっついた。二人が続きの間から離れようとするので、アルフォンスから見えないように、ディートリヒの前に移動した。

「ちょっと、歩きにくいよ」

 ディートリヒに横に並ばされた。やめてぇぇぇぇぇ。見つかるかもしれないじゃない!

「触れている方が確実だから」

 そう言って腕を持ってくれたので、安心して廊下の角を曲がれた。


「それで、何をしたの?」

 えっ、何その前提。私が悪いとでも?

「何もして…なくもないですが、きちんと謝りましたよ」

「ちゃんと?」

 あれか、スライディング土下座しろってこと?あれはもう封印したぞ。

「ええ。剣術演習の時に、たまたま剣を二回飛ばしてしまいましたけれど…」

 ちゃんと避けてくれていたし、怪我もしていない。スライディング土下座じゃなくていいよね?


「あぁ、あれか…。すっぽ抜けたやつな。二度ともアルフォンスに当たったのか」

 ベルンハルトが納得した。問題はそこじゃないんだよ!当たってないし!

「それで?謝ったのに許してもらえないの?」

 いや、問題はそこでもない。

「鍛錬のメニューを持って来られて、それを毎日熱心に私に説明されるのです。それで今日は、実際に一緒にやってみようと言われました」

「鍛錬?何で?」

「それが…よくわからないのです。私に騎士の素質がある、一から鍛え上げるから一緒に鍛錬しようと言われました。騎士を目指していないと、断っても断ってもわかって貰えず、思い切って逃げました」


「えっ。何それ」

 ほんとそれな、ディートリヒ。

「でしょう?人の話を聞かないタイプみたいで」

「スヴェンみたいだな」

 マジそれな、ベルンハルト。


「じゃあ、二人に一ホールずつお菓子ね。僕は苺のタルトがいいな」

「俺は前にもらったチーズケーキがいい」

 えっ、何で?

「認識阻害のお礼」

「これからアルフォンスに注意するお礼」

 何ですとぉ!?


 ついに強引に鍛錬させられそうになったことをデポラとイザベラ、クリスにも相談した。座学では令嬢が、剣術演習ではクリスの友人含む令息が壁になって逃がしてくれるようになったけれど、まだ来る。怖い。

 早く対応して欲しい。報酬を受け取るまでは対応してくれないってこと?次の休みはお菓子作りをしなければ。


 いつも生け贄にしているクリスにもケーキを用意したけれど、アルフォンスがいる男子寮へ持っていくのが怖くてフランツに頼むことにした。

 そのお礼にフランツの分を作るなら、助けてくれている人達の分も必要かと思って作り出したら一日かかってしまった。


 何だこの状況?私の立ち位置はどこだ…。これではお菓子を配る人ではないか!!一応侯爵令嬢なのに…!はっ!ある程度既製品を買ってくれば良かった!

 ダンジョンへ行かない休みの日に、最近お菓子作りばかりしている気がする。そろそろ趣味だと言っても良い気がする。新しい魔法に挑戦しようと思っていたのに。


 お兄様と夕食を食べるために続きの間に行った時、お兄様はまだ来ていなくて先にいたベルンハルトとディートリヒに呼ばれた。またディートリヒおすすめの紅茶を頼んだ。詳しいよね。そして外さない。


「やっぱりアルフォンスは人の話を聞かないタイプだった…」

 ベルンハルトが暗い。やはりか。そうだと思っていたよ!俯いてくれているので様子を見られる。二十四時間俯いてくれていたらいいのに。

「とりあえず、俺の言っていることの意味がわかるまで、エルヴィーラを追いかけるなとは言っておいた」

 言うこと聞いてくれるのか?


「スヴェンとは違って、その辺はまだまともだったよ。追いかけないことに納得するまで時間がかかったけどね」

 そうか、良かった。だったら永久に追いかけられなさそうだ。でも説得しに来られても困る。

「剣術に関係することで、話しかけるなとも言っておいた」

 距離感が近すぎて、単純にあまり近寄らないで欲しくもある。ゼロ距離怖い。


「たぶんアルフォンスに剣術以外の話題はないから、話しかけられることもなくなると思うよ」

 そうか。なら安心。さらばゼロ距離。

「時間をくれ…」

 既に疲れを感じた。ルイーゼの時よりは元気そうだから、ついでに距離感が近すぎることも注意してくれ。あ、忘れてはいけない。


「最近はイザベラも追いかけられて困っているので、そちらもお願いできないでしょうか」

「え?何でイザベラ嬢まで?」

「同じことを言っています…」

「あいつ…。一体何がしたいんだ…?」

 ほんとにな!


 話しかけられたり、追いかけられることもなくなって、すっかりアルフォンスの存在を忘れていた頃、ベルンハルトがもっとケーキを要求すれば良かったと言ってきた。何の話か一瞬わからないくらいだった。

 アルフォンスに理解させるのに、つい最近までかかっていたそうだ。えらい長丁場だな。ただ、ちゃんと説明して理解させることには成功したようだ。

 良かった。気が向いたら追加でチーズケーキを作ってもいいかな。ディートリヒ曰く、ルイーゼとの日々でベルンハルトが鍛え上げられた成果だそうだ。…良かったね。あの冬休みに少しはいいこともあって。



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