侯爵令嬢は会議に参加する
とりあえず緊急に話し合いが必要だと言うことになり、全員がベルンハルトの部屋にある会議室に集まることになった。
会議室もでかい。そもそも寮の部屋に会議室が必要なのかどうかにも疑問を感じる。
それぞれの使用人と御者がテーブルを取り囲むように立っているが、そちらの方が人数が多くて圧迫感が凄い。ハルトくんはいなかった。
ヨアヒムはユキちゃんと子どもたちを見てもらうために部屋に置いてきたが、コタローは肩のせで連れて来た。
「急に集めて悪かった。既に知っているとは思うが、昨日の雪崩で我々はここに閉じ込められていて補給は望めない。何処か通れそうなルートがないか調査は入っているが、厳しいようだ」
残念な情報をありがとう。
「これからも雪は降り続ける可能性が高いし、雪崩の規模から最悪の場合を想定したいと思っている。その場合、学院が再開する三ヶ月後まで道が復旧しないと考えて行動したい」
これからしばらくの間、もっと雪が降るってユキちゃんも言ってたもんなぁ。
「食料は俺の近衛騎士が充分な備蓄を持っているから心配はいらない。ただ、食料を無駄にしない為にも寮の備蓄から消費していきたいと考えている。問題は薪だ。かなり節約する必要がある」
ここにはいないルイーゼも含めた、あなたたちのせいでね。
「個々の部屋ではなく、全員が同じ部屋に集まって暖を取ろうと考えている」
やっぱりそうなるか。お兄様の予想通りになっているけれど、ベルンハルトと同じ部屋とか嫌。知らない人ばっかりだし、そもそも薪を全部持って行かれて無いんだけどな。脳内での愚痴が止まらないわ。
「ルイーゼが勝手に持っていった薪は、この後必ず取り戻す」
頑張れよ。会議室に全員が集まる間に、御者の人たちがルイーゼの件を抗議していたので、皆ルイーゼのしでかしたことを知っている。
ルイーゼから薪を取り上げるってことは、ルイーゼも同じ部屋になるよね?
「部屋は男性が二部屋を繋げて、女性は一部屋別にしようと考えている。日中はその部屋を繋げて利用して…」
やだやだ無理無理ありえない。イザーク様が挙手してくれた。
「無理です、殿下。ルイーゼ嬢たちは殿下の言うことしか聞かないでしょう。エルたちも同じ部屋にするのは反対です」
さっきベルンハルトの言うことも聞かなかったけどね。お兄様にも近寄らせたくない。対ルイーゼ用に顔をずっと変えていなくてはいけないし、顔を変えたら確実にベルンハルトたちにバレる。
ベルンハルトが私にも意見を求めてきた。話しかけないで欲しいけれど、これからの三か月間を考えたら、頑張ります。
「私たちノルン侯爵家は、私の部屋での滞在を希望します」
「え、エルちゃん俺も入れてよ」
イザーク様が驚いたように言った。緊張して言い方を間違えただけです。ごめん。イザーク様は私の脳内で私たちに含まれていたから!
「しかし、緊急事態だぞ」
ベルンハルトが怖い。私の緊張が伝わったのか、お兄様が代わりに発言をしてくれた。
「緊急事態だからこそです。ルイーゼ嬢たちは殿下といるべきだと思います。はっきり言わせて頂きますが、殿下が見ていないと全員が使用人の様に扱われるのは確実です」
「そうなのか?」
「そうですよ。保証致します」
「いや、そんな保証はいらないんだが…」
またベルンハルトが私を見る。止めて。頑張るけど。何の試練?
「それだけでは人数に偏りがでますので、クリストフルさんとその使用人、フランツとフレドリクに御者の皆さんをこちらで引き取ります」
「いや、御者は…」
あれ?お兄様が否定的だ。あ、またイザーク様の名前を出し忘れた。切ない顔で見ないで。
「エルヴィーラ嬢の部屋はそんなに広くないよね?二階建てだし、効率が悪いんじゃないかな」
ディートリヒめ、余計なことを。
「そうですね。御者の方には一階の応接室をと考えています」
ディートリヒの顔を見ながらなら、落ち着いて返事が出来る。
「二階建てでは、部屋を効率よく暖められないだろう。薪の節約にならない」
ベルンハルトもうるさいな。まぁ、そうなんだけれど、お兄様の防護魔法があれば何とかなると思う。御者の人たちも多少手狭で寒くても、ルイーゼたちと一緒になるよりは快適だと泣いて喜ぶと思う。
ベルンハルトは悩みはしたものの、私たちの意見も取り入れて、ルイーゼたちに対抗できそうな自分たちとディートリヒとハルトくん。
それから、私の部屋では効率が悪いからと、御者の人たち十人がルイーゼたちと共に男子寮で過ごすと決めた。
散々な目に遭ったのに、ルイーゼたちから離れられないなんて可哀想。全員の部屋を繋げて過ごすと安易に言っているけれど、凄いことになると思うぞ。
お兄様も珍しくベルンハルト側についた。どうして?と思っていると、小声でいくら何でも御者とエルたちを一緒にはさせられないと言った。
一階だし、別にいいと思うんだけどな。ルイーゼたちは隣部屋なのにそれはいいのか。
私の部屋でクリストフルと従者のフラウ、フランツが一緒に過ごすことになった。勿論イザーク様もこちらで九人。まぁまぁ引き取った。
フレドリクは男子寮の使用人として、あちら側に取り残されることになった。可哀想に…。あの感じだと、ベルンハルトやディートリヒは、ルイーゼの真の恐ろしさをわかっていない。
ルイーゼの真の恐ろしさは使用人たちにある。しょっちゅう女子寮の使用人から愚痴を聞いているだけあって、どれだけ凄いか私は知っている。
男子寮で過ごす人たちは誰も知らないのだ。ご愁傷様。
「後、料理ができるやつはいるか。簡単なものでもいい」
イザーク様とノルン侯爵家関係者全員。後、恐る恐るクリストフルが手を上げた。あれ、上級使用人はともかく、皆できないの?
「悪いが、朝昼晩、全員の分を用意してくれないか。手伝いが必要な時は言ってくれ。俺も手伝う」
いやいや、ベルンハルトにじゃがいもの皮を剥けとか誰も言えねーわ。考えろよ。
そもそも、料理ができない人には近衛騎士が持っている王城料理を渡せばいいじゃないか。
元々滞在申請をしていた人は、皆私の部屋にいることになる。こっちで勝手に自炊するわ。最初の予定通り食材消費するわ。
ここでまさかのノーラが挙手をした。どうしたノーラ。何を言うつもりだ!冷たい気配が漂ってきている。助けを求めてマーサを見ると、同じくらい冷たい気配が漂っている。
二人ともどうした!何をそんなに怒っているの。ベルンハルトも発言の許可しないで!
「発言をお許し頂きありがとうございます。ヴェルナー様とエルヴィーラ様は我々の大切な主人です。たくさんの使用人がいる中で、まさか我々の主人に使用人のまねごとをして、使用人の分まで料理を作れとおっしゃるのですか」
あーーーー!!ノーラーーーー!気持ちは嬉しいけれど、ベルンハルトの前でそんなこと言っちゃまずいよ!
「しかも料理人でもない、少人数で、この人数分を?」
わーー。背筋がぞくぞくする。ノーラが怒るとそれはもう怖いのだ。お兄様もつい俯いている。
子どもの頃に危ないこととかをして二人でよく怒られた。ちょっと年上なだけなのに、すんごい怖い。私たちにとっては最凶のお姉ちゃんだ。
「…すまない、俺は料理が全くできないので、よくわかっていなかった」
ベルンハルトが折れてくれた。良かった。今のうちにノーラ落ち着いて!ノーラを見ても、目も合わせてくれない。マーサもベルンハルトを真っ直ぐに見つめている。ダメだ。
「今まで包丁も鍋も触ったことがない者ばかりではないでしょう。各使用人が主人の分も自分たちの分も料理すべきです。我々の主人や、次期当主の仕事ではありません」
「…わかった。そうしよう…」
あのベルンハルトがノーラの圧に完全に押されている。凄い、ノーラ。最凶お姉ちゃん、発動。頼もしいし、凄く格好良いよ!
結局、ノーラ自らが質問すると、本当に料理をしたことがない人はほとんどいなかった。王侯貴族に食べてもらえるレベルではないと恐れて言わなかっただけだった。
ベルンハルトの近衛騎士は騎士団の野営訓練で作ったことがあったし、御者の人たちはほとんどが簡単なものは普通に作れた。
上級使用人が全滅しているのがさすがだが、何とかなるだろう。フルコースなんか食べなくても人間は生きていける。
そもそも無理をして料理に参加しようとしなくても、王城料理を最初からそちらには支給したらいいと思う。ノーラが怖すぎるせいか誰もそのことに対して発言しないまま、会議が終了してしまった。
まぁ、部屋の面でも食事に関しても、ベルンハルトやルイーゼとは完全に別行動になれることが分かったので、一先ず安心できた。
残るは薪の問題か。一番厄介そう。




