表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/130

微笑みの貴公子とか恥ずかしいよね

 順番が来たので、主催者である王妃陛下とベルンハルトへの挨拶をする。

 王妃陛下は優しい笑顔で応えてくれたが、ベルンハルトはこちらの顔も見ずに、不機嫌そうに型どおりの挨拶をするだけだ。

 目くらい合わせろ、一般常識もないのか。イライラする。誰のせいで今ここにいると思っている!


 王妃陛下はさすがだ。優しい笑顔に上品な雰囲気で、素敵。しかも、王妃陛下も淡い紫色のドレスを選んでいた。自分が目立たないためだろう。発想が同じです!気が合いますね!


 挨拶を済ませれば、父の使用人とは別行動。会場の庭園にはしっかり王城所属の使用人たちがいるので、邪魔になる。

 付き添いは会場が見える場所に設置された椅子か、用意されている部屋でお茶会が終わるまで待機することになる。

 当然のように父の使用人は会場が見える場所に陣取った。


 ゆっくり優雅にを心がけて歩きながら、挨拶の列からは良く見えなかった、軽食が並べられているテーブルを見た。

 今回のお茶会は王妃陛下主催だけあって、スイーツは全て極上品が並んでいる。さっきから気になっていた。

 取り分けて、テーブルで食べるスタイルになっている。


 いい席が見つかったことだし、折角だからスイーツを楽しもう。お茶会だし、いいよね。ただ隠れているだけじゃ退屈だし。

 まだまだ来場が続いていることもあり、周囲の注目は主催者に集中している。この間にスイーツを取り分けてもらって、全種類制覇を目指そうかな。


 王妃陛下は体がこちらを向いているし、周囲への気配りが素晴らしい方だから、私の行動に気が付くはず。王妃陛下に気付かれれば、候補から外される可能性が上がる。

 交流が少ない伯爵令息の中で、後ろ姿だけで私が誰かわかる人は少ないだろう。悪い噂にならない程度になら、見られても構わない。


「すみません、スイーツは全部で何種類あるのでしょうか」

 給仕の人が、話しかけられたことで一瞬驚きの表情になったが、すぐに戻った。そりゃあ、開会の挨拶もまだなのに話しかけられたら驚きますよね。わかります。


 ある程度お茶会が進んでから軽食をつまんだりすることが多いのに、婚約者候補のくせに最初から食べる気満々だとは普通は思わない。そのつもりですが、何か?

「今回は三十種類ご用意させて頂いております」

 三十種類か。一つ一つが小さいし、いけるかな。


「全種類、一つずつ取り分けて頂けますか」

 ただの残念令嬢だと思われないように、できるだけ上品に優雅にと気をつけてお願いする。

「かしこまりました」

 きっとますます驚いているだろうが、もう顔には出さない。さすが王城の使用人。甘いものばかりだから、お茶はストレートティーにしよう。


「お茶会が始まりましたら、あちらのテーブルにストレートティーと一緒にお願いします」

 指し示したテーブルの位置から、私がベルンハルトに興味が無いことを給仕の人も察した。僅かにだが笑った気がする。

 まぁ、興味が無いからと言って、これだけのスイーツを食べようとしているんだから当然か。でも、好意的に感じるし、王城の使用人は口が堅いから大丈夫、なはず。


「茶葉は数種類用意しておりますが、いかがされますか」

「あなたのお勧めでお願いします」

「かしこまりました。用意が整い次第お持ちいたします」


 給仕の人はにっこり笑ってくれた。きっと甘いお菓子に合わせた、すっきりとした後味の茶葉を選んでくれるだろう。詳しい人に任せるのが正解派です。


 開会の挨拶が終わるとすぐに、紫陽花の影に引きこもった。

 ちょうど人が出入りしない側に視界が開けていて、綺麗な庭園を堪能しながら美味しいスイーツを食べることができる。最高だな!


 他の令嬢は思った通り目立つテーブルに集まっていて、庭園が一気に華やかになった。原色のドレスを着ている人が多い。

 私にはすぐにスイーツと紅茶が届けられた。

 紅茶を飲みながら観察していると、令嬢たちは早速ベルンハルトのテーブルに集まりつつあって、折角の演出が無駄になっている気がしないでもない。

 あの席にいれば、悪目立ちする所だった。いい席があって良かった。


 今回招待された令嬢の中で、グルスト公爵令嬢ルイーゼ、ハルン侯爵令嬢イザベラ、クレイスト伯爵令嬢スーリヤが、他に二十名程いる婚約者候補を既に取り込んでいるようだとの情報が入ってきていた。

 実際の動きを見ていても、情報通りのようだ。


 つまり、ベルンハルトの一目惚れとかいう馬鹿なことさえなければ、実際の争いはこの三人に絞られたと考えていい。

 取り込まれた令嬢は、トップの令嬢を基本応援するし、婚約者候補に選ばれた事実が欲しいだけの人もいる。基本というのがポイントでもある。

 機会があれば、婚約者の座を狙っている令嬢もいるはずだ。


 実際、ルイーゼの集団はそういう感じ。ルイーゼにだけ気付かれないように、アピールしている人が多い。まとまり無さすぎ。

 スーリヤの所は取り込んだというよりは、スーリヤを中心にして協力体制を築いた感じ。

 イザベラのところはしっかりまとまっていて、全員がイザベラを後押ししているように見える。

 王妃陛下から見れば、イザベラとスーリヤが有力かな。


 というわけで、ベルンハルトのテーブルに人が集まっている中、一人スイーツを堪能する。見た目も凝っているが、味ももちろん美味しい。

 給仕の人が選んでくれた茶葉はさすがだった。一口飲むたびに口の中がリセットされる。いくらでも食べられそう。


 誰も見ていないのをいいことに、満面の笑顔で頬張る。あぁ、美味しい。

 あっという間に一皿目を平らげてしまった。まだまだいけるな。次はもうちょっと時間をかけて食べよう。

 お茶会全体の予定は二時間だから、時間を調節しないとすることがなくなってしまう。いや、お花も綺麗だけど、綺麗だけど、ね?


 最初に話しかけた給仕が、いいタイミングで飲み物を補充してくれたので、ここから一歩も動かないでいられるのでとても素敵。

 しかも飽きないように最初と違う茶葉にしてくれている。さすがです。任せて正解でした。


 ついに最後の三皿目に手をつけようとした時、ベルンハルトの幼馴染、ディートリヒがこちらに近寄ってきた。

 ベルンハルトと一緒に令嬢達に囲まれていたはずだが、一段落ついたのだろうか。

 おっと、余計なこと考えている場合じゃなかった。慌てて紫陽花の上から見えなくなるように身を屈めた。葉の隙間から様子を窺う。気付かれたくない。彼は面倒な存在なのだ。


 一般的には微笑みの貴公子とか言われて、令嬢に人気があるらしい。微笑みの貴公子とか恥ずかしすぎるだろ。

 でも、ベルンハルトと親しくなりたい令嬢達には密かに小姑と呼ばれていたりする。小舅でもいいのだろうが、あえての小姑だ。


 常にベルンハルトの隣にいて、ディートリヒのお眼鏡にかなわないと碌に話すことができず、やっと会話になってもやんわり話を終わらせられるらしい。

 そのせいで、ベルンハルトと仲良くなる為に乗り越えなければならない、最大最強の壁になっているとか。そして、未だに成功者なしとか。

 だから小姑。

 空気を読まずに話しかけ続けたりすると、無言の威圧をされるが、その冷たい顔さえイケメンオーラが凄いらしい。よくわからん。


 このまま順調にいけば、ベルンハルトは王太子になり、それに伴いディートリヒも側近になると考えられている。

 小姑は王子をどうしたいのだ。側近が王子の恋路を邪魔してどうする。

 一部の令嬢に人気なあれだったりしたら面白いのだけれど、王子や側近としては失格か。


 ベルンハルトは腰まで伸ばしたプラチナブロンドの明るい碧眼で、子ども向け絵本の王子様風。

 整い過ぎた顔立ちは冷たささえ感じるが、中性的美貌を持っている。センター分けにしているので目が良く見える。

 とにかく眼光が鋭い。

 鋭すぎて怖い。

 視界に入りたくない。


 ディートリヒは明るい赤みがかかった茶髪でちょっと長めのショートヘア。いつも柔和な笑顔で佇んでいる。

 感情が読めなさすぎて怖い。

 いつも笑顔なのに怖い。

 いつも笑顔だからこそ怖い。


 二人が並んでいる姿は一部令嬢には特にご褒美らしいが、私は正直ベルンハルトは嫌いだし、ディートリヒは苦手だ。何時も二人は一緒にいるので、挨拶以外に話をしたこともない。


 ディートリヒが相変わらず嘘くさい笑顔を顔に貼り付けて、こちらに真っ直ぐ向かってきている気がする。葉の隙間から覗いているのに、目も合った気がする。

 逃げるか?いや、まさか。目は合っていないはずだ。空いているテーブルだと思われたのかな。

 あえて見える側の椅子にストールを置いておいたのに…。

 どうしよう。紫陽花から頭を出すか、隠れ続けるか…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ