暇?違う!寂しい!
冬休みの間は滞在すると思っていたディーとハルトくんが、陛下たちと一緒に王都へ帰ってしまった。
連絡をくれたハルトくんによると、ディーが通話機を取り上げられた状態で、宰相様のお手伝いに駆り出されているそうだ。
学生の手さえ借りたくなるほど、仕事が滞っているとか、大丈夫なの…?
公表されていない内容の書類の受け渡しに使われたり、ファイリングしたり、頼まれてお菓子を買いに行ったりしているらしい。
ハルトくんは落ち込んでいるレオンハルト殿下と一緒にいる様にしているそうだ。さすがハルトくん、優しい。
朝起きて、支度をして皆で朝食を食べる。イザベラとお母様、ゲルン侯爵夫人に誘われてご婦人たちの色々な逸話や人となりを教えて貰った。
中々面白い話が多かった。けれど、ノルン侯爵夫人になると決まっているイザベラと、婚約者さえ決まっていない私との温度差を感じた。
私が頻繁に参加すると、ちょっとお邪魔かも知れない。内容に合わせて声をかけてくれたのはわかっているので、誘われた時だけ参加しよう。
翌日は思った通りお誘いがなかったのでどうしようかと思っていたら、エーリヒに一緒に魔法の練習に参加しないかと誘われたので参加した。
皆がいるし、一人になることもないのに、何故か物足りなさを感じる。ここ最近やたらと忙しかったのが、なくなったせいなのかもしれない。
一度ディーに通話してみたが、忙しかったのか出なかった。珍しく折り返しさえなかった。
代わりにハルトくんから通話が来て、ディーが通話機を置いたまま外出しているので、しばらく通話は無理だと聞かされた。
特に用事があった訳ではないので、折り返しは不要だと伝えて貰うことにした。
その後はデポラやスーちゃんたちに連絡してみたりもしたが、いよいよ物足りなく感じてしまった。何か今までと違う?
思い起こせば、隣にはいつもディーがいた。ディーがいないことが物足りないと感じる原因だと気が付いた。いつも一緒にいたから気が付かない間に依存してしまっていたようだ。
物足りなさの原因を理解しても、もやっとした気持ちが消える訳でもなく、コタローをもふりたおして誤魔化すことにした。
今は同じクラスだし、ベルンハルトや王弟の件があったからこそ一緒にいることが多かった。これからは今までとは変わっていく。おそらく一緒にいる時間が減る。それって何か、凄く寂しい。
だけど、今から慣れておかないと会いたくなってディーの所へ押しかけてしまいそうだ。いや、友達だし押しかけてもいいのかもしれないけれど。うーん?
*
エルちゃんの膝の上でゴロゴロしていたら、扉の隙間からクリスがおいでおいでしているので行ってみた。そこにはエルちゃんのお母さんがいた。優しいし、適度な距離感を保ってくれるから好き。
「コタローちゃん、エルちゃんの様子はどんな感じ?」
『寂しそう』
「そう、後もう一押しかしら。エルちゃんと一緒にいてあげてくれる?」
『勿論』
こんな時ディーがいればいいのに。ディーならこういう時、エルちゃんの側にいるだけじゃなくて、上手にエルちゃんを楽しい気分にしてくれるのに。僕には出来ない。僕はエルちゃんの所へ戻った。僕はエルちゃんといつも一緒にいるよ。
*
二日くらい考えに考えた結果、自分はディーに依存しているのではなく、もしや好きなのでは?という結論に至った。
一番苦しい時に一緒にいてくれたから実際に依存している気もするが、それとは別に、ディーに婚約者が出来て思うように会えなくなったら寂しいと思ったのだ。それ以上に嫌だとも。
自分がディーの隣にいて、私の隣にはディーがいて欲しい。今までは考える余裕がなかったのもあるが、じっくり考えてみるとそういう結論に至った。それが依存なのか好意なのかが微妙。こういう時はデポラだと思って通話した。
「…依存?はぁ?」
じっくり話を聞いてくれて嬉しいけれど、第一声が酷いです、デポラ。
「ディートリヒが相手をしてくれなくなったら、嫌なんでしょう?」
「うん、それは、嫌だと思う。押しかけようと思うくらいには」
「もうさぁ、転移でも何でもして会いに行きなよ。会って依存なのか好きなのか確かめればいいじゃない。好きなら会えたら嬉しいし、楽しいでしょ」
「いやいや、ディーは王城にいるし、忙しいらしいから、そんな気軽に転移なんて出来ないよ」
「じゃあこのまま冬休みが終わるまで、会えないわね。それでいいなら好きにすれば」
「いや、ちょっとデポラ様、私真剣なの」
「わかってるわよ。私にはダンジョンから帰って来て、へとへとだと知っているのに通話してきてるじゃない。しかも、私に会いたいと思ったら、いつものエルなら今すぐにでも来そう」
「確かに。デポラに会いたかったら、今すぐ転移してるな…」
「友達では遠慮しないのに、うじうじしているっているのはそういう事でしょ」
「デポラは優しいから、受け入れてくれると思って…」
「ディートリヒだって優しいじゃない?」
「うっ、まぁ、そうですね」
「じゃ、今からダーリンと反省会だから!」
「待って~!」
…切られた。デポラからしたらもう結論は出ているということ。思い切ってディーに通話して、会いたいって言ってみようかな。通話機を見つめるけれど、中々勇気が出ないんですけど。
今忙しいとか言わて直ぐに切られたらショック過ぎる。何か私の心を誤魔化してくれる用事ってないかな…。差し入れとか?…悩むのは性に合わないし、いいや。勢いで通話しよう!
「はい、こちらディーの通話機でーす!エルちゃん、クレメンティーネですよ~」
「お、お、お、王妃陛下!?」
「そうです!ディーの通話機は、今私が持ってるのよ。驚かせてごめんね?ディーへの伝言を聞くわよ?」
「いや、あの~、その~。あ、忙しいと聞きましたので、差し入れとかどうかと思いまして…」
「えっ!?それは楽しみ~。三日後の二時にディーに会いに来て。伝えておくわ」
「はい。わかりました。失礼します」
折角勇気を出して通話したのに、まさかの王妃陛下が出るなんて!驚きもそうだけど、話せなかったがっかり感が凄い。
クロムに事前連絡をして、タウンハウスに転移した。早めに転移したのに、ディーは既に到着していた。早い。
「エル!」
軽く挨拶をしていたら、クロムに席を勧められた。ディーは対面に座ってニコニコしている。笑顔が見れて嬉しい、かも…。クロムが無言でお茶の準備をし始めた。
「タルトとかケーキ持って来たけど、食べる?」
凄いキラキラした目で見られた。返事を聞かなくてもわかる。事前に用意しておいた、色々な種類を乗せておいたのを出す。
「ありがとう。本当に嬉しいよ」
その後、ディーが最近何をしていたのかを聞きながらお茶をした。他愛のない話をしているだけなのに、妙に落ち着くし、体がほこほこしてくる。満たされるというか、それだけでなくとにかく楽しい。
あまり遅くなるのはよくないと、クロムに声をかけられるまで気が付かなかった。あっという間だった気がする。もっと一緒にいたいし、話をしたかったな…。
陛下や王妃陛下、ハルトくん用のお土産を渡してタウンハウスから領地に戻った。ちゃんと王妃陛下用に激辛串焼きも買っておいた。そう言えばハルトくん来なかったな。来るかと思ってた。
数日後にはまた連絡を入れて会いに行こうかと思っていたけれど、お兄様、イザベラ、ゲルン卿と一緒に少し離れた領地に行ったりしている間に、また一週間が過ぎた。
その間にディーから、次はいつ来る?って通話が来て嬉しくなった。うん、これはもう、です。向こうも会いたいと思ってくれていることが嬉しい。思い返せばキツイ時、辛い時いつもディーは側にいてくれた。そんなの好きになるに決まってる。
 




