ほむらちゃんとたつきちゃん
「ねぇ、龍姫ちゃん。潤さんが巻き戻した最初の未来はどうなっていたの?」
「あー、全部に共通していたのは、エルヴィーラさんがベルンハルト王子の婚約者になっていて、ベルンハルト王子に殺されてしまうことかな」
「えーーーーっ!酷い!」
「エルヴィーラさんは父親に虐待されていた自覚がなかったの。だから、自分のことをどうしようもない人間だと思い込んでいたの。躾が必要な駄目人間だってね」
「何で誰も教えてあげなかったの?」
「それは恥ずべきことだと教え込まれていて、周囲に言えなかったのと、身内のヴェルナーさんは、何時までも父親に鞭打ちされているエルヴィーラさんを、愚か過ぎると切り捨てていたの。母親は傷が元で亡くなっていたしね」
「そんな…」
「自分が駄目人間だと思い込んでいたエルヴィーラさんは、自信が持てなくて交友関係が狭かった。ほむらちゃんがディートリヒさんから聞いていたみたいな、頼もしい味方がいなかったんだよね」
「どこで未来が変わったの?」
「エルヴィーラさんがデポラさんに、勇気を出して虐待されていることを伝えた時かな。デポラさんのお陰でエルヴィーラさんの気持ちが変わったの」
「どの未来でも、親友じゃなかったの!?」
「違うよー。ただの同級生レベルかな。デポラさんは王家の近衛騎士になりたくなかったし、エルヴィーラさんもそれを知っていたから、お互いに深くは関わらなかったんだよ」
「そっか。デポラが最重要人物だったんだ。ディートリヒかと思ってた」
「ほむらちゃんのアドバイスを聞いて、ディートリヒさんがベルンハルト王子との婚約をさせなかったのも良かったと思うよ。あれで本格的に流れが変わったと思うから」
「少しは私も役に立てて良かった。でも、エルヴィーラが死ぬと世界が終わっちゃうなんて、これから凄い偉業とかを成し遂げるの?」
「エルヴィーラさんが死ぬってことは、王弟の計画が成功したってことでしょう?」
「うん」
「王妃は賢い人だから、王弟が自分の大切な息子に何かして、更に愛する旦那様を殺したことに必ず気が付くの。そんな人と再婚なんてすると思う?」
「絶対嫌!」
「そうでしょう?王妃は理由は違うけれど、どの未来でも亡くなるの。それで王弟は、国を放置して、死者を蘇らせる禁術の研究を始めて、それが原因になって世界が崩れて終わり」
「ヒロインは?」
「彼女は全員を侍らせようとするけれど、イザークさんとディートリヒさんは全く引っ掛からないよ。引っかかったと思っていたのは、完全に彼女の思い込み。だけど、毎回ベルンハルト王子はある程度引っかかる。それでベルンハルト王子にかかっている、暗示の効果がしっかり出ちゃうっていう」
「だから、こちらにも原因があるって言ってたんだね」
「そういう事」
「一度も引っ掛からないなんて、良くやった、ディートリヒ!」
「多分、王子の婚約者だから諦めるしか無かったけれど、エルヴィーラさんが好きだったんじゃないかなぁ。最期を看取ったこともあったしね。ひたむきに努力する人が好きなんだと思うな」
「そっかぁ。龍姫ちゃんがそういうなら、そうだったんだろうね。でも、ヴェルナーまでひっかかるのに、凄いよ」
「うん。ヴェルナーさんとベルンハルト王子は、以前の未来では女性に免疫がないまま育ってきちゃったから、ころっとね」
「残念な二人だね」
「それだけヒロインさんはこちらで手練手管を磨いていたってことだよ」
「私、調べたから知ってる。ヒロインはこっちでやり過ぎて、痴情のもつれで刺されて死んじゃったんでしょう?」
「調べちゃったの?そんな事しちゃ駄目だよ」
「龍姫ちゃん教えてくれないし、気になったんだもん」
「だけど、どうして私はディートリヒに干渉できたの?」
「王妃がベルンハルト王子に”王家の秘術”と言う名の”命と引き換えに潤さんにお願いごとを伝えます”な術を使わせて、時間を巻き戻させようとするの。その未来のベルンハルト王子はヒロインさんを死なせてしまっていたから、喜んで応じたわ。それだけなら、私利私欲過ぎて潤さんも願いを叶えるか悩むところだけれど、王妃自身も自身の命をかけて、お願い事を伝えてきたの」
「恨みとか、きっと凄いよね」
「恨みつらみもあったと思うけど、彼女と旦那様は間違いなく国王、王妃としての強い覚悟があった。彼女がただ一つ願ったのは、エルヴィーラさんの幸せ。それが国の乗っ取りにも関わっていたし、自分たちが若い頃に力がなかったせいで、いざこざに巻き込んでしまったことを何より悔やんでいた。そして、王妃はディートリヒさんの気持ちに気が付いていたんだと思う。だから、ちょっとだけだけどディートリヒさんが力になれればと思っていた。だからディートリヒさんに夢という形でだけ、干渉できたの」
「そっかぁ。自分でも、息子でもなく、エルヴィーラかぁ…」
「凄い人だよね」
「うん」
「巻き戻した後も、どこかに記憶は存在するって言ったでしょ?王妃は初めて見た筈なのにエルヴィーラさんが気になって仕方がなかったし、ディートリヒさんは、ベルンハルト王子がどうしても信用できなかった。エルヴィーラさんはベルンハルト王子が怖くて仕方がなかったっていうのも、いい方向へ向かう要因だったと思う」
「なるほどなぁ。今度こそ、ディートリヒはエルヴィーラに想いを伝えられると思う?」
「何度も感情を押し殺していた未来があったからなぁ。時間はかかると思うな」
「エルヴィーラにもディートリヒにも、幸せになって欲しいな。そうしたら、命を賭けた王妃も報われるよね?」
「そうなるといいね。きっと大丈夫だよ」
「あっ、今回ヒロインはどうなるの?」
「うーん。……精神が異常をきたしていると思われて、精神病院みたいな所に入れられているけれど、出てくる、ね。懲りてないから、また侍らそうとするけど…、引っかかる人はやっぱりいるね」
「えーーー」




