侯爵令嬢は傍観者
魔法学院で授業が始まる前に、クラス分けの為の魔法実力審査が始まった。
全員学校指定のジャージ姿で並んでいるのが新鮮過ぎる。いつも着飾っている姿しか見ていないので、令嬢たちが特に新鮮だった。
端から見ると私もそうなるのだろう。かなりの視線を感じた。
今年はベルンハルト入学の影響で、寮で受け入れ可能な最大人数まで入学している。
今回は一クラス二十人で一組から六組まで作られ、素養が高い人から順に一組、二組になっていくそうだ。
ベルンハルトを徹底的に避けるなら一組も避けるべきだが、侯爵家として一組にならないわけにはいかないし、ここは諦めることにした。
デポラも間違いなく一組になるはずだし、親友がいるなら耐えようではないか。順位としては十位以内には入っておきたい所。目立たず、なめられずが理想だ。
審査は簡単だった。離れた場所にある的に得意魔法をかける、というものだった。魔法の効果範囲と威力の確認だろう。
遠慮無く的をズバッと得意の風魔法で切りたいところだが、他に比べると苦手な火魔法で燃やしてみた。
結果、一組にはなったが十二位だった。失敗した。七位から十位の間が良かった。デポラも厄介事はごめんだと同じように手を抜いて、七位だった。お見事です。
「侯爵令嬢なのに、手を抜きすぎでしょ。なめられるわよ」
「はい、仰るとおりでございます」
一位はベルンハルト、二位にイザベラの弟スヴェン、三位がディートリヒ。イケメンと言われる人は顔だけじゃないんですね。
婚約者候補では、まさかのルイーゼとスーリヤが二組になっていたと聞いて驚いた。派閥の人が一組で、リーダーが二組ってどうなの?
その後、噂によると二人はクラス分けを学院に抗議したが、魔法の授業は実力差があると危険があるという理由で、断られてしまったらしい。
夕食時の談話室は、ルイーゼを筆頭に雰囲気が最悪で面白かったとデポラが言っていた。別館万歳!!
今日は午前中がオリエンテーションで、午後からは魔法理論の授業がある。教室は席が自由だったので、デポラと一緒に最後列に座った。
最前列の端に座ったベルンハルトとディートリヒを取り囲むように令嬢が席を確保して、チャイムが鳴るまで一生懸命話しかけていた。
ルイーゼとスーリヤがいないのも大きいけれど、皆と同じ制服を着ていてもイザベラが一番派手で目立っている。
制服はシンプルなシャツにベージュのブレザーで、中に指定のセーターやベストを着てもいい。
女子は膝上のプリーツスカートに、お肌を見せないための編み上げブーツとタイツのコンボ。
編み上げブーツ、見た目は可愛いけれど面倒くさい。蒸れるし。風魔法を常備して、蒸れないようにした。
タイツも嫌いなので、こっそりニーハイソックスをはいている。ちなみに男はズボンに革靴で楽そう。
学院で交流を深めて婚約者を選ぶと決めた割には、ベルンハルトの対応はおざなりで、ディートリヒは令嬢をベルンハルトからさりげなく遠ざけている。
ディートリヒのポジションは小姑としてはバッチリだと思うが、在学中まで令嬢を遠ざけるのってどうなんだろう。
ベルンハルトはちゃんと婚約者を選ぶ気はあるのだろうか。真剣に選べ。そして、私の事は絶対に選ばないでくれ。
休憩時間になると、ルイーゼとスーリヤたちが一組に現れた。十五分しかないのに偉いな。二人の席は完全に令嬢に囲まれてしまっている。
同じように話しかけたい令息が、遠慮するほど凄いことになっている。
「凄いね。あれじゃ珍獣みたい」
「ルイーゼ様のご機嫌取りに結構集まっているわね。何人かは明らかにルイーゼ様よりディートリヒ様を優先しているけれど」
「えぇー、腹黒そうなのにどこが良いの?」
周囲に聞こえないように、声を潜めて話す。
「いつも笑顔だけれど、話すとクールなのがいいらしいわ」
「えぇー。あんな笑顔怖くてしょうがないわ。まさか、デポラも?」
「殿下と小姑よ、興味ないって」
「見た目の話だよ」
「敢えて言うなら殿下かな」
「うわぁ、趣味悪い」
「聞いておいてなんだ。エルはどっち?」
「お兄様一択で」
「そんなの、私だってダーリン一択に決まってるわ」
「ですよね~」
結局イライラしたらしいベルンハルトが全員を追い払ったのと、次の授業開始のチャイムが重なった。
学院の授業は週四日で、午前中が座学か魔法演習、午後は個別鍛錬。訓練施設の予約方法、利用時の決まり事などを説明された。
ゆるい学院だと思うが、ここに入学する令息令嬢は、座学も魔法も剣も家庭教師から学んでいるのが普通なので、あまりしっかりとした授業は必要なかったりする。
しっかりした授業が必要だと感じた場合は、個別鍛練の時間に先生から教えて貰うこともできるようになっている。
昼食時も凄いことになるかと思ったが、二人は食堂に来なかった。まぁ、それが無難だよね。
使用人は校舎に入れないので、各令嬢が派閥ごとに捜索していたが、見つからなかったようだ。
彼女たちはちゃんと昼食を食べられたのかと心配になった。その後も一日中ベルンハルトとディートリヒは令嬢たちに囲まれていた。
放課後はデポラと別れて続きの間に行った。心配性なお兄様からの呼び出しだ。
クラス分けも通話でちゃんと報告したのに、会って話を聞きたいとか。何だそれ。行きますけどね。お兄様好きだし。
続きの間に入ると、ベルンハルトとディートリヒがいた。げっ!最悪だ。
思わず口に出して言ってしまいそうになり、慌てて飲み込んだ。せめて個室に入っていてよ!お辞儀だけして通り過ぎよう。
「やぁ、エルヴィーラ嬢。早速ここを見に来たの?」
お前ぇぇぇぇぇ。ベルンハルトと一緒の時に話しかけてくるな!心底近寄りたくないって言ったでしょうが!
「いえ、お兄様と待ち合わせをしています」
「そうなんだ。まだ来られていないようだよ」
見ればわかるわ。しかも、さりげなく隣に座れるようにスペースを空けられた。いや、他にもたくさん椅子あるし結構ですぅぅぅぅぅ!と叫びたかったが言えなかった。
座るとすぐにディートリヒがメニューを差し出してくれた。長居するつもりはないのに、いつもイケメンですね!早く来て、お兄様!!
「今日は休憩時間も煩くしてしまって申し訳なかったね」
「いえ、ディートリヒ様が謝る必要はありませんわ」
「そう?」
何かを企んでいる腹黒い顔にしか見えません。そして、何を企んでいるのかが私にはわかりません。怖い。逃げたい。正面にいる、不機嫌なベルンハルトも怖い。逃げたい。
メニューを使ってベルンハルトの顔が見えないようにした。
「昼の食堂はどんな感じだった?」
「?普通でしたけれど」
「彼女たちのことだよ」
ああ、婚約者候補達のことか。ストレートに言ってくれないとわからない。情報が欲しいのか。察せられないから、私。っていうか、私じゃなく男友達に聞けよ。
「お二人を探していたようですよ」
「本人達も?」
「いえ、ご友人の方々が中心だったと思います」
ルイーゼは取り巻きを顎で使っていて、イザベラは自分も探しに行こうとして、周囲に止められていた。
スーリヤはどうだったかな?記憶にない。
「そうなんだ、ありがとう」
こちらから話しかける理由もないので、無言で紅茶を飲む。どれにするか悩んでいたら、ディートリヒにお勧めされたので、花の香りがする紅茶にした。
いい匂い。このメンバーでなければテンション上がるのに。
ベルンハルトが不機嫌なままひと言もしゃべらないから、それだけが救いだった。見た目は壮絶に怖いけど。
整った顔の不機嫌って、普通より怖く見えるのかな。
お兄様がやっと来たので個室へ移動した。お兄様は、三人でお茶をしていたのに驚いていた。
ディートリヒが他の候補者の情報が欲しかっただけだと説明した。
「なるほどね…。きっと昼食はここで食べたんだよ。候補で入れるのは二人しかいないだろう?二人の派閥は全員伯爵令嬢だし、自分で探さないと永久に見つからないね」
お兄様も中々に悪い笑顔で言った。考えたなとも思うけど、そのうち見つかるだろうなとも思った。さっさと自炊に切り替えればいいのに。
お兄様は私の制服姿を散々褒めた後、午後の個別鍛錬を一緒にする約束をして別れた。
あの恐怖の時間を考えると、これってわざわざ会う必要あった?




