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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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祝宴で大失敗?

 とても優しい何かに包まれている感覚だった。徐々に自分が覚醒してきているのがわかる。目を開いた瞬間、ベッドの天蓋が見えただけなのに、世界の全てがとても眩しく鮮やかに感じた。人の気配を感じて顔を横に向けると、笑顔のお母様とノーラがいた。ああ、本当に終わったんだ…。


「おはよう、お母様、ノーラ」

「おはよう、エルちゃん。体調はどう?問題ないようなら、美味しいご飯を用意してもらいましょうね」

「うん。凄く元気だよ!」

 お母様の胸に飛び込んで、抱きしめて貰った。目が潤んでいるノーラにも抱き着いた。幸せだ。マーサは数時間前に寝たばかりらしいので、このままの勢いで抱き着きに行くのは遠慮することにした。これからいくらでも時間はある。


 お母様の癒し魔法で三日間眠っていたと聞いて、とても納得した。あの優しい感じはお母様だったのか。二日目はデポラとも一緒に寝ていたらしい。デポラは優しくて心配性だから、心配しすぎちゃったんだろうな。

 ノーラが食事の準備をする為に退室した。そろそろ目が覚めると予想していたお母様は、ノーラと一緒に朝食を取らずに待っていてくれたのだ。少し遅めの朝食だ。


「大丈夫、エルちゃん?」

「うん。これから毎日楽しいことばっかりしようね!」

「もちろんよ。今までできなかったことを沢山しましょうね!」

 あれをしたい、これをしたいと話しているうちに、ノーラがワゴンと共に戻って来てくれた。


 久し振りに三人で食事をする。食事はどれもとても美味しいし、領地では日常的だった光景なのに、とても新鮮に感じた。三人でゆったりと食事をした後、お風呂に入った。丁寧にノーラが髪を梳いてくれていると、お母様が戻ってきた。


「お昼過ぎにゲルン卿が一度報告に戻ってこられるそうよ。皆その時に集まるそうだから、それまではのんびりしていま「エル!」

 お母様の話を遮ってデポラが突進して来たので、勢い余って椅子ごと倒れてしまった。そこそこ痛いけれど、ふかふかの絨毯と、デポラが私があまり痛くないようにしっかり抱えてくれているお陰で、それほどでもなかった。


 デポラは泣いているみたい。頭を撫でながらデポラが落ち着くのを待った。

「デポラ、私はもう大丈夫だよ」

「もう!心配させるんじゃないわよ」

 いつものデポラだ。


「…デポラ様ぁ…」

 ノーラの声が怖い。デポラもその気配を察知して、すごすごと起き上がり、私を立たせてくれた。鏡に映った私の髪型が酷過ぎて、皆で爆笑してしまった。


「ふふっ、この後お茶にする予定だから、デポラちゃんも一緒に飲みましょうね」

「はい!」

 嬉しそうなデポラがとっても可愛い。私の髪がまとまってから、今度は四人でお茶をした。


「あれ、そう言えばお兄様は?」

「まぁ、エルちゃん、忘れていたなんて言ったら、ヴェルくん泣いちゃうわよ」

「穏やか過ぎて忘れてた。何時もなら誰よりも早く、お構いなしに突進してきそうなのに」

「ヴェルナー様はイザベラの所よ。昼過ぎには戻ってくるみたい」

 なるほど!


 途中でゲルン侯爵夫人や北の辺境伯夫人も参加して、女子会になった。楽しい話ばかりをしていたから、時間はあっという間に過ぎて、クロムがゲルン卿の帰宅を告げた。


 食堂に入ると、暖かい笑顔で迎えられた。

「ご心配をおかけしましたが、おっほぉ!」

 お兄様の激しい体当たりに、最後まで言葉を言うことができなかった。勢いが凄すぎて吹っ飛んだ。痛いぃぃぃ!抱きしめる腕の力も強いぃぃぃ!デポラと違って硬いぃぃぃ!


 お怒りモード全開のノーラに助け出され、お兄様がノーラに怒られている間に、皆にお礼を言うことができた。ゲルン卿はノーラを怯えた目で見ながらも、ハグしてくれた。勢い余って吹っ飛ばしたりしなければ大丈夫だと思う。多分。

 ノーラの気が済んでから、全員分のお茶が用意されて、ゲルン卿の報告が始まった。


「まず、陛下から伝言だ。王弟のクーデター阻止への協力を感謝する、とのことだ。いずれは全員で登城することになると思うが、今王城はてんやわんやでな。それが落ち着いてからになる。当分先になるだろう」

 そっか。私的にはそっちがメインじゃなかったけれど、結果的にはそうなるな。


「まずは結果から報告する。王弟とノルン卿、二人の関係者と思われる騎士団員、文官、使用人、実行犯、現在総勢八十名程度が捕縛されている。実際に協力までしていたかは調査中で、怪しい人間は全員捕縛した状態だ」


 王弟がいずれ駒にする為に裏から画策していたようで、騎士団員はウテシュ卿とフォード卿によって、文官は宰相とガロン卿によって不正をしている人間をまとめて捕縛したらしい。

 正直人数が多すぎて牢屋が足りない上に、騎士団員不足で、牢屋の見張りさえ応援を呼ぶ羽目になっているそうだ。


 よくそんな状態で今まで滞らなかったなと思ってしまったが、口利きや少額の横領まで含めるとそんなことになってしまったらしい。王弟が学院を卒業した時からじわじわそういったことの証拠が出ないようにしていたらしく、およそ二十年の膿をだそうとしたら、こういう結果になってしまったらしい。

 事前に宰相とフォード卿が捕縛人数を確認した時、お互いにえっ!?そっち多くね!?となったそうだ。結果、どちらも多くててんやわんや。


 父の使用人も全員捕縛されたので、タウンハウスはゲルン卿が手配した人が見てくれているらしい。近いうちに一度戻るように言われた。

 王弟や父に協力していようがいまいが、父の使用人は全員解雇する予定なので、その手続きも必要になる。クーデターに参加した父が、戻って来ることはもうない。

 ベルンハルトに関しては、王弟によって幼い頃から催眠術なる魔法とは異なる、古代の英知?みたいなものを施されていて操られていたとのことだった。


 王弟がクーデターを企んでいたこととベルンハルトがしばらく休養することが明後日に発表される予定だが、父に関する発表は後回しになる。爵位持ちに対する通常対応として、罪状が確定するまでは箝口令が敷かれるのだ。これは罪に加担していなかったと認められた跡継ぎがいる場合、円滑に跡を継ぐ為に必要な根回し期間を与える為だ。

 ゲルン卿は従兄の動向にも注意するように言ってきた。従兄本人は小物だが、分家全員に協力されると面倒だから、早めにその芽を潰しておくように言われていた。お飾りとして操るには、とても素敵な人らしい。


「ああ、それと。クリストフルくんが捕まえてくれたあの給仕、王弟が秘密裏に飼っていた影だったことがわかった。元々怪しい動きをしている誰かがいるのはわかっていたが、身体能力が高い上に頭も働くらしくてな。今まで捕まえることができなかったそうだ。あれを捕まえてくれたクリストフルくんに、王家の影が感謝していた」

 全員が思わずクリスを見た。王家の影が捕まえられなかった人を捕まえるって、どんだけ!?クリスのお母様が息子の活躍に誇らしげにしていた。


「身体能力の高い男でな。妹を王弟の側仕えにされて人質に取られていたそうだ。王弟と関係者がほぼ全員捕まっていると知って、妹の保護を求めてきた。今は聞けば何でも教えてくれているよ。それで催眠術の存在が明るみに出たし、王弟に繋がる証拠も申し分ないほど出た」

 下衆にも程があると思う。全員が渋い顔をしていた。


 チラチラとゲルン卿が私やお母様の表情を伺っているが、平静なまま話を聞けている。お母様も大丈夫そうだし、私も自分でもちょっと不思議なほど感情に揺らぎが無い。お母様の癒し魔法の効果な気がする。取り調べはまだまだこれからだということで、報告は終わった。


 お母様とお兄様はゲルン卿と分家への対応策を協議することになった。私はまだ休んでいるように言われてしまったので、デポラやディートリヒ、クリスと一緒に夕食まで庭でぶらぶらすることにした。皆で他愛のない話をした。

 ダーリンはフォード卿を手伝う為に一旦王城へ行ってしまったが、夜にはデポラを迎えに来て、デポラと一緒にそれぞれのタウンハウスへ帰ることになってしまった。もうちょっと一緒にいたかったが、デポラの両親も娘に会いたいはずなので、我慢…。


 大人たちは夕食が済むと残務処理とかで忙しいらしく直ぐにいなくなってしまったので、残り全員で応接室へ移動した。イザーク様の提案で軽く祝宴をしようかという話になり、お酒とおつまみが持ち込まれた。渡されたお酒はイザーク様お勧めの甘くて飲みやすいお酒で、ジュース感覚でごくごく飲めた。

 お兄様があまり飲んではいけないとうるさい横で、イザーク様とデポラはもっと飲めと囃し立てる。デポラはお酒を既に嗜んで長いらしく、普通に飲んでいる。ほんのり頬が上気していて、なんか、こう、色気が漂って来た気がする。私は顔に全くでなかった。


「エルちゃんは、カリーナ様やヴェルと一緒でかなりお酒に強そうだな!」

 イザーク様は見た目に変化はないけれど、何か雰囲気が変わってきた。色気がだだ漏れというか、色気を通り越して何かエロい。言葉では聞いたことがあったが、これがエロいということかと理解した。


「確かに。ちょっと体温が上がったくらいかな。でも、楽しいよ」

 ディートリヒやクリスはイザーク様にがんがんお酒を勧められて、ディートリヒは真っ赤になっているが、クリスは素のままだ。

「辺境ではお酒に強くないとやっていけないでスから。お水を飲むのと同じ感覚でス」

 だったらお水でもいいのではと思ったが、お酒はお酒で好きらしい。水じゃダメなんだって。同じ感覚って自分で言ったのに、よくわからん。

 

 残念ながらデポラは帰ってきたダーリンに連れられて途中で帰った。色っぽいとちゃかすイザーク様を睨むダーリンを見て、初めて怖いと思った。デポラが帰ってしまったのは残念だったが、イザーク様やクリスと話すうちに楽しくなってきて、四杯目を飲もうとしたらお兄様に全力で止められて、クリスにまで止められて、ディートリヒは寝そうになっていて、つい止めてくる周囲を煩わしく思い、良くわからない魔法を使ってしまった、所まではしっかり覚えている。


 目が覚めた。スッキリパッチリだ。なのですぐに現状を理解してしまった。何故か私は魔王様の背中を枕にして床で寝ていた。更にうつ伏せで床に寝ているお兄様の頭を足蹴にし、同じく床に寝ているクリスの顔を、手で押さえつけていた。首がちょっと変な方向に曲がっていて、痛そう。どうしてこうなった!?


 幸い皆はまだ熟睡しているようだし、今は夜が明けた所の様だ。そっと、そーっと重力魔法を駆使して皆の寝姿を正し、ちなみにイザーク様はちゃんとソファで寝ていたけれど。

 全員がそれなりになる様にして、自分には認識阻害をかけて部屋から逃げ切った。一体何があったんだろう。わからな過ぎて怖いけれど、私の本能が、私こそが危ない奴だと教えていた。


 いそいそと部屋に戻って、さも最初からベッドで寝ていた様に装った。このままノーラかマーサが起こしに来るのを待てばいい…。待つ…二度寝してしまった。ぐー。


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[一言] 相変わらずのベルンハルトの扱いww
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