それぞれの根回し
休日、エルヴィーラはディートリヒと共にゲルン卿の元へ訓練に行っている。貸切にしたカフェには、エルヴィーラを除く親しい令嬢たちが集まっていた。デポラの呼びかけで集まった令嬢は、デポラが話し出すのを静かに待っている。
ここにいる令嬢はスーリヤともう一人を除いて社交界デビュー前。パーティーの招待状は当然届いているし、社交的にもこちらの行動的にも全員が不参加という選択肢はない。
多少の危険はあるが彼女たちも成績優秀、エスコートの男性も必ずついている。相手の目的であるエルから離れてさえいれば、巻き込まれる可能性は低いと信じるしかないと思って呼び出した。
「皆、集まってくれてありがとう。あのポンコツが、やっと自分の意志でエルにエスコートを申し込んだの」
「やっと!」
「遅すぎるわ」
「随分待たされたわ」
令嬢たちがやっとか、あのポンコツめと気持ちを一つにしながら話し出す。最近では毎日朝から晩まで、休日もずっと一緒にいることを全員が知っていた。
なのに一向に縮まっていかない二人の距離に、事情を知らない全員がヤキモキさせられていたのだ。二人はそんな甘い理由で一緒にいる訳ではないのだけれど、それを今言う必要はない。
「そこで今度のパーティーで皆がエルに話しかけると、エルがそっちの方が楽しくなっちゃうかもしれないから、わかるよね?」
「ポンコツ見守り隊としては、遠巻きに見守ります!」
「その意見に賛成!」
「そうなの。お願い。フォローが必要な時は私に任せて欲しいの」
「勿論!むしろ頼んだ!」
皆が微笑ましいという笑顔で納得し、デポラは満足そうに微笑んだ。
いつも通りのポンコツ見守り隊の話かと思っていたら、微妙にデポラの雰囲気が違うことに気が付いた。決意が漲っているが、その方向性が何か違うと感じた。解散した後、デポラに小声で話しかけた。
「デポラ、パーティーで何かあるの?」
一瞬、デポラの瞳に宿った決意が揺らぐのを見逃さなかった。何かあるのだ。それも、おそらくエルに。話したくても話せない、そんな感じだった。
最近エルがとても忙しくしていて、心に余裕がなさそうなのには気が付いていた。デポラもそうだった。ディートリヒが朝から晩まで一緒にいるし、休日もどこかに二人で出かけている。
一度見かけたことがあるけれど、二人はとてもぐったりと疲れた様子で、デートしてきたような甘い雰囲気ではなかった。
気になって何か協力できることがあればとデポラと鍛錬を繰り返しているクリストフルに声をかけたが、見守っていて欲しいと言われた。
「…大丈夫よ、スーリヤ。私に任せて」
「そう、なら…。デポラも気を付けて。後でちゃんと話すのよ」
「わかったわ」
デポラはふにゃっと笑って、足早に学院へ戻っていった。あの感じだと、今から鍛錬でもするつもりなのだろう。
私ではパーティーの招待状も入手できないし、もし入手できても、邪魔にしかならないだろう。参加する友人たちの無事を祈るしかなさそうだ。
他にも何か気付いていそうな友人への根回しくらいはしておこう。おそらく、そのパーティーで誰もエルに近付かないことが、デポラの、そしてエルの助けになる。




