男たちの昼の密会
「エルが父から、必ず出るようにとパーティーの招待状を渡されました。しかも、ベルンハルト殿下にエスコートを頼むようにも書いてあったそうです。今の所そのパーティが一番怪しいですが、本格的に社交デビューを果たしている人は、招待状が入手できないものです」
「ベルンハルト殿下からエスコートを申し込ませることに失敗したんだな。これは僥倖だ」
「別の人にご執心らしいですよ」
「エルちゃんのエスコートはディートリヒに頼もう。デポラ嬢とクリスに頼めば、三人でエルちゃんを守れるし、ダーリングが全体をフォローしてくれるだろう」
「俺はイザベラ嬢に招待状を入手できないか聞いてみます。入手できれば、会場で落ち合う予定だとか言って、会場に入れますよね?」
「可能だけれど、普通はあり得ないな。目立つかもしれない」
「他の方法も考えよう」
「北の辺境伯本人も全面的に協力してくれることになったぞ。数年ぶりにシーズンに王都へ来てくれることになった」
「それは良かった。パーティー会場周辺は、これで万全にできますね」
「すぐにディートリヒくんに連絡して、王妃陛下に当日の会場警備に根回しをしてもらおう」
「既に連絡済みです。悟られないように、結界を張る側にクロムをねじ込んで貰えるように依頼しました。これで会場の外からでも、結界が破壊されればすぐにクロムにわかります」
「クロム、エルちゃんの魔法はどうなった?」
「問題はなくなりました。いつでも発動できますし、エルヴィーラ嬢だけでなく、イザーク様、クリストフル様、デポラ嬢でも転移魔法に合図を送れるようになりました。これでエルヴィーラ嬢の反射神経問題は解決しました。空間収納に関しても三人は勝手に発動できるようになっていますので、三人の武器も問題ありません。転移魔法そのものは、エルヴィーラ嬢にしか発動できませんが、私、ユキちゃん、コタローがいつでも飛び出せます。武器を取るのはまだ苦手なので、動揺すれば落とす可能性があります」
「特注しておいたドレスとネックレスも届いている。とりあえずは身を守れるだろう。デポラ嬢から会場入り後に、ディートリヒにもネックレスを渡してもらおう」
「薬は?」
「既に父の手元に」
「ごろつき達との契約も終わったようです」
「ディートリヒくんからの連絡で調べていたんだが、気のせいでなければベルンハルト殿下は王弟と会った後に、必ずエルちゃんを気にするようになるらしい」
「確かなのですか?」
「思い違いならいいが、本人は無意識にそういった行動をしているらしい。王弟が既にベルンハルト殿下に何かを仕込んでいる可能性がある。二人が会うのは強力な結界がある王城内、それ以外では確認されていないので、魔法以外でそういう類のものがないか調べるように頼まれていたが、今の所方法がわからない」
「王家だけに伝わる秘術ですかね?」
「わからん。が、密かに陛下と王妃陛下も調べてくれているらしいが、まだ良い情報はない」
「厄介ですね…」
「あぁ。頭には入れておいてくれ。例え結界が破壊されていなくても、ベルンハルト殿下は動くかもしれない」
「だったら、近付く理由になるディートリヒより、クリスにエスコートを頼んだ方が良いんじゃないでしょうか」
「いや、ディートリヒが任せてくれと言っていたから、そこを信頼したいと思う。あれ、絶対エルちゃんのことを好きだろ?自覚があるかどうかはまだ微妙な気はするが、お人好しでうっかり命を懸けるかもしれないクリスより、無自覚かもしれないけれど、危ない橋を渡る気があるディートリヒだろ」
「納得がいかん!」
「僕もです、ゲルン卿」
「平日も休日もずーーーっと一緒にいるそうですよ」
「クロム、誰からの情報だ!?」
「デポラ嬢です」
「…………」
「二人とも諦めろ。ヴェルは実際に見ているのだからわかるだろう。エルちゃんはそれどころじゃないから異性として意識はしていないが、確実に今のエルちゃんの精神的支えはディートリヒだ」
「エルヴィーラ嬢はおそらく、自分がノルン卿に殺されようとしているのに気が付かれていると思いますよ」
「あぁ。俺もそれは感じていたし、デポラ嬢も言っていたから確実だろうな」
「エル…」
「エルちゃん…」




