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不本意ながら婚活お茶会に出席する

初投稿です。優しい目で見守って頂けると幸いです。

ご指摘を頂いたので、この小説の世界観から妃殿下を王妃陛下へ切り替え中です。途中で敬称が変わりますが予めご了承下さい。最終的には王妃陛下で統一する予定です。

 エルヴィーラ・ハーヴィスはうんざりした気持ちで馬車に揺られていた。四人乗りの馬車の斜め前では、父の使用人が睨みを利かせている。

 私が今日、王妃陛下主催のお茶会に参加したくないことに彼女は気が付いているからだ。

 いくら参加したくないとはいえ、逃げだす様な愚かな真似はしないというのに、ずっとこちらを実際に睨み続けている。本当にうんざりだ。

 完全に無視をして、さして興味もないのに窓から王都の景色を眺めてやり過ごすことにした。


 王城は王都のほぼ中央にある小高い丘に建てられていて、王都からであればどこからでもその荘厳な姿を見ることが出来る。

 幾つもの尖塔があり、本館、西館、東館に分かれている。今日は公式のお茶会ではないので、西館にある王族の私的スペースにある庭園でお茶会が開かれる。


 非公式のお茶会ではあるけれど、今日のお茶会は第一王子ベルンハルトの婚約者候補を集めたお茶会でもある。だから行きたくないのだ。

 ベルンハルトに既に気に入っている令嬢がいれば良かったのだが、女性が嫌いなのか遠ざけがちで、今までその様な噂は入って来ていない。


 残念ながらやる気のない私にも、お茶会への招待状が来てしまった。国で四つある侯爵領の一つを持つ、ノルン侯爵令嬢。それが私だ。

 この国には大まかに言うと王家が国全体を、王家の血脈である公爵が王都を、四つの侯爵が国の東西南北に領地を構え、辺境伯が国境を任されている。他に伯爵、子爵、男爵領もある。

 我がハーヴィス家は、王都から南にあるノルン侯爵領を治めているので、ノルン侯爵家と一般には呼ばれている。気候は温暖で住みやすい。なので収入も良い。


 無理に王家と縁を結ぶ必要は無いのに、父は必ずベルンハルトの婚約者の座を勝ち取る様にと言ってきた。しかし、だ。私はベルンハルトが生理的に受け付けられないタイプなのだ。

 何と言うか、見ただけで血の気が引くのを感じてしまうし、後はただただ怖いのだ。そんな人と夫婦になるなんてありえない。


 父は私の気持ちなどお構いなしに勝手にこのお茶会への招待を受けた。令嬢本人が望んでいない場合は、普通は当主が断るらしい。

 断らないということは、令嬢本人の同意が得られていると周囲は考える。私の気持ちなどは一切考えない。そういう父だ。


 私の友人で、ウテシュ伯爵家令嬢のデポラは婚約者候補としての条件を満たしていたが、候補になることを断ったのでこの場には来ない。

 既に別の令息と、両家公認で恋愛中なのだ。羨ましい。


 国は多少の問題はあるものの基本的には安定している。なので、今は婚約者に特別な才能は求められていない。

 相手は第一王子なので、婚約者になればそのまま王妃になる確率が高いが、城には王妃を補佐してくれる優秀な人が大勢いるので、課される役割は上流貴族の夫人とあまり変わらない。


 今の婚約者に一番必要なのは、一定以上の魔力持ちであること。これは子どもの魔力量が両親に影響されることが分かっているからで、魔力量を維持したい王家には必須事項だ。残念ながら私の魔力量は多かった。

 後は本人の資質。余程物覚えが悪いとか、性格に問題がなければ大丈夫。幼少期の事情で馬鹿な振りをする余裕がなかったので、この条件も残念ながらクリアしてしまった。

 一応家格や領地の優良さも考慮されるが、正直一定以上の魔力持ちなら、誰が婚約者になってもいい状態だ。最悪。ベルンハルトが美しい王妃陛下に似ていることもあり、それなりに婚約者になりたい令嬢がいることがせめてもの救いだ。


 ようやく窓から王城が見えなくなった。後少しで王城へ到着する。この狭い空間で睨まれ続ける時間も後僅かだ。


 主催者への挨拶の為に出来ている列の、最後尾に並んだ。私の前に並んでいるのは全員令息だ。

 多数の令息もこのお茶会に参加するのは、本来の目的を隠す意味がある。隠すのは、ベルンハルトが誰も気に入らなかった場合に、女性に恥をかかせない為の配慮。


 けれど、参加する令息たちの本当の狙いは、優秀な令嬢のおこぼれ狙いである。

 お茶会に参加していれば、誰がベルンハルトの目に留まらなかったかがすぐにわかるからだ。

 優秀な令嬢は競争率も高いので、ベルンハルトの動向を確認した後に、野心のある令息たちは一斉に動き出す。


 今日この場で婚約者が選ばれる場合もあるし、そうでない場合は魔法学院の在学中に婚約者候補と交流を深めて選ぶことになる。

 婚約者候補以外から選ばれたこともあるらしいが、それは稀だ。私の平穏な学生生活の為にも、是非今日、誰かが選ばれて欲しい。


 魔法学院は中央、西、東、北、南に五校あり、中央は伯爵家以上で一定以上の魔力量を持つ者が入学することになる。私は年が明ければ中央魔法学院へ入学する。


 大人扱いになる社交界デビューは、十八歳と決められていて、王家を除き、正式な婚約を結べるようになるのも十八歳から。

 社交界デビューを考えて、令嬢は十三歳、令息は十五歳で魔法学院へ入学する人が多いが、婚約予定の人や兄弟姉妹と合わせることもあり、特に年齢は決められていない。

 三年間魔法学院で学んだ後は、専門学院へ進学する。専門学院で令嬢は二年間、マナーなどの花嫁修業をし、令息は四年間、剣技や魔法、座学を専門的に学び、王城での仕官や騎士を目指す人が多い。


 私は今年十四歳、入学の年には十五歳になる。

 本当は十三歳で入学したかったのだが、ベルンハルトが十五歳で入学すると事前に発表されていたために、父に入学時期を調整させられた。

 このお茶会でベルンハルトに見初められるか、在学中に親交を深めて婚約者に収まるというのが父の計画だが、私は断固拒否だ。

 厄介すぎる野望を抱かないで欲しい。


 他の貴族も似たような考えで、来年は様々な家の令息令嬢が一斉に入学する。

 令息はベルンハルトと懇意になれば将来出世できるかもしれないし、側近候補になるかもしれない。令嬢はいい位置にいる令息を見定めて、お近づきになることもできる。

 伯爵家などは王族との交友をちらつかせれば、婚約者選びに優位になることもあるらしく、有力者とお近づきになりたい人にはいいことづくめと思われている。


 そういったことを頑張る気は全くないが、せめて逃げ回らなくて良い学生生活を送りたい。


 徐々に列が主催者に近付き、王妃陛下お気に入りと噂の、紫陽花が咲き誇る庭園が見えてきた。

 確かにとても綺麗だし、紫陽花をやんわりとした壁代わりにして区切っているので、閉塞感もない。

 座れば淡い色の紫陽花に囲まれて華やかな衣装は引き立てられるし、立てば他の庭園に咲いている花も見ることができる。


 私はアメジスト色の瞳に合わせて作られた、淡い青紫が絶妙なグラデーションになっているドレスを選んだ。私も紫陽花と一緒に壁になろう作戦です。

 会場の紫陽花を見た瞬間に、父の使用人が舌打ちした。でしょうね。朝から彼女と大いに喧嘩した。彼女は父が勝手に作っていた、露出の多い原色のドレスばかりを勧めてきた。


 私がベルンハルトの婚約者に選ばれた時、後押ししたのは自分だと、父にアピールしたいのはみえみえだ。父へのご機嫌取りは他でやってくれ。

 彼女の意見を無視して、全て自分で選んだ。「このまま揉めていれば、遅刻するわね?」の一言で、私が勝った。


 お世辞以外で褒めてもらったことがあるのは白くてきめの細かい肌と、つややかな銀髪だけなので、肌は露出せず、髪はアップにさせた。

 隠してしまえばより地味で平凡。完璧のはずだけれど…。


 列に並んでいる令息から、注目されている気がするのは気のせいだと思いたい。

 身分が高い人や主賓の待ち時間を短くする為に、それ以外の人は早めに来場するのが暗黙のルールだ。

 今回それには、婚約者候補が当てはまる。なので、他の婚約者候補たちは列が無くなるもう少し後に来る。

 本来並ばなくていい令嬢が並んでいるから、目立ってしまう。仕方が無い。より大きな目標を成就させるために、この時間は諦めようと最初から思っていた。

 予想以上に目立っている気もするが。いや、気にしない。気にしちゃ駄目。


 周囲に悟られないように全力で気配を消せる席がないかを探す。ベルンハルトが自分に興味のない令嬢には全く興味を示さないことは調査済。

 視界に入らず、例え視界に入っても、興味が無いと態度で示せばいい。


 今回のお茶会では席を決められていないので、私にとっていい席を押さえるためにわざわざ早めに会場入りをしたのだ。

 主催者からよく見える位置で、令嬢が大輪の花として引き立つようにテーブルが設置されている。私にとっては余計な演出だ。紫陽花が良い背景になりますね!


 他の令嬢たちは当然あそこに座るだろうが、絶対に嫌だ。

 会場端に、紫陽花で半分主催者側から隠れているテーブルを発見した。気配を消すのに丁度良さそうだ。あそこにしよう。

 本当は疲れた時にこっそり休憩するための場所なのだろうが、さっさと占領してしまおう。


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