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08.暗殺者、モンスターを喰い新たな力を得る



 翌朝。


 村はずれの神社、その境内にて。

 俺は道着を纏って立っていた。


「ひかげくんのその格好、とってもかっこいいね!」

「……ど、どうも」


 俺の背後には、金髪お姉さんのエステルがいる。

 明るい笑顔と、目を見張るほどの大きな胸が特徴的だ。


 俺は最初、暇つぶし的にこの村周辺の魔物を狩っていた。だが昨日、俺はエステルと彼女が暮らす村を守ろうと決意したのだ。


「中に着てる黒いお洋服と、その上からはおってるジャケット……かっこいー! おっしゃれー!」


「……ジャケットというか、これ半纏はんてんな。そでのところに余裕を持たせることで影を作り、影が少ない場所でも暗器が作れるように着てるんだ。別にオシャレのためじゃない」


「ん~ムズい! 3文字でまとめてよ!あ、わかった難しいこと言って、お姉ちゃんを困らせてるのかなっ? もうっ、きみはほんとうにお姉ちゃん大好きなんだから~♡」


 えへーっ♡ とエステルが笑って、俺に抱きつく。むぎゅーっと、その柔らかな乳房が腕に……腕に、腕が沈んでる……だと?


「それでお姉ちゃんの可愛いひかげくんは、これから何するの?」


「……戦力の増強」


「せーよくの増強? あらやだひかげくん、むらむらするの? ちゃんと毎晩抜いてる?」


 むふふ♡ と笑って、エステルが手で筒を作り、意味深に上下させる。


「な、なにいってんだよ! ちげーよ!」


 まったくこのアホ姉は……。


「……戦力の増強だよ。魔王軍が本格的にミファを狙って村に侵攻してくるんだろ。今までみたいに雑魚ばかりが来るとは思えない。だから式神を新たに作ろうって思ってさ」


「お? おー……おうそうか! なるほどなるほど! うんうんそういうことね!」


 ……一ミリもわかってなさそうだった。


「ようするに新しいペットを増やそうって思ってるんだ」


「あ、なーんだそういうこと! んも~ひかげくんってば、難しい言葉たくさんしってるね。かっこいい!」


 普通のやつなら馬鹿にされているのかなと思う。が、エステルのこれは素なのだ。


「それでどうやってペット増やすの。お店いって買うの?」


「……ちげえよ。喰って仲間にすんだよ」


「喰う? やだひかげくん! ペット食べちゃダメだよ! ぺっ、しなさいぺっ!」


 俺はため息をついて、地面に手をつける。手印を組み、俺は影呪法(【影】を使った異能力)を発動。


 ずぉおおおおおおお!


 手の触れているところから、【影式神】が出てくる。


 そこにいたのは……。


「あ! お姉ちゃんこの子知ってる! 村を襲った鳥さんだ!」


 そう、そこにいたのは、鷲馬ヒポグリフだ。


 胴体が馬。鷲の頭と翼を持つモンスターである。


「ひかげくん、いつの間に鳥さんペットにしたの?」


「……このあいだこいつと戦ったとき。【影喰い】で喰ったモンスターは、こうして【影式神】として使うことができるんだ」


 もっとも、式神にしたやつが強ければそれだけ、呼び寄せるのに呪力と術者の技量レベルを必要とする。


 昔、貧弱だった頃は、犬や鴉と言った、【動物】を呼び出すのがせいぜいだった。

 

 だが今は違う。魔物を倒しまくって強い体を手に入れた。そしてこの森の中では、莫大な呪力を、無限に使える。


「だから動物じゃなくて、この奈落の森の魔物を式神にしようって思ってさ」


「………………お、おー。そっかそっか。理解したよ」


「一ミリも理解してねえだろ……。ようするに魔物をペットにしようって話」


「おー! そゆことねー! んも~、ひかげくんってばほんと、いたずら好きね♡ お姉ちゃん困らせるの大好きなんだから……けどそういうとこ、嫌いじゃないぞ♡」


 エステルが俺にひっつく。

 湿った、そしてぬくい胸の感触……。


 だからこの姉はどうしてことあるごとに俺にひっつくんだよ!


「そんじゃ……ちょっと行って良い魔物がいないか探してくる」


 俺は影鷲馬にまたがる。


「おっけー! ごーごー! だよ!」


 ……いつの間にか、俺の背後にエステルが乗っていた。


「なんでついてくんの?」

「弟のいるところお姉ちゃんあり……だよ!」


 わけわからん……。

 まあ、別についてきても問題ないか。

 いざとなったら俺が守れば良いし。


「んじゃいくぞ。振り落とされんなよ」

「おっけー! ひかげくんの体に、むぎゅー!」


 せ、背中にゴムまりが……?

 いやスライム……?

 それにすげえ良い匂いも……。


 いやいや! 今は仕事に集中だ。


 俺は影鷲馬を飛ばし、森の上へと飛び上がる。


「ひゃあ! たっかーい! すっごーい! ひかげくんすごいよー!」


「……別に俺がすごいんじゃなくて、この鷲馬ヒポグリフがすげえんだよ」


「それ使ってるのひかげくんじゃん、すごいよ! 天才だよぅ!」


 ……悪い気はしなかった。

 が、照れくさい。


「影探知では敵の詳細はわからんからな……こうして実際に見てみないと……とりあえず呪力の高い魔物のところへいけ」


 俺は影鷲馬に命じる。


 東の方へ飛ぶ。


「わ! わ! へびさん! でっかいヘビさんいるよヒカゲくん!」


「毒大蛇か……準S級モンスター。まあまあだな」


 準S級とは、確実にA級以上だがS級にはまだ強さの足りないくらいの魔物のことだ。


 昔は手こずっただろうが、強くなった今は、準S級なんて容易く倒せる。


「エステルは鷲馬ヒポグリフに乗っててくれ」

「おっけー! いってらっしゃい旦那様……きゃっ♡ なんつって~♡」


 ……アホ姉を残して、俺は影転移を発動させる。


 影鷲馬から、毒大蛇の背後の影へと一瞬で転移テレポート


「OROROROROROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 毒大蛇がおれに気付いた。

 俺は【織影】で小刀を作り、


 すぱぱぱぱぱぱぱぱっ…………!!!


「わー! すっごーい! へびさんがぶつ切りになったー!」


 上空でエステルが歓声を上げる。

 ヘビの背にのって、走りながらただ毒大蛇を切りまくっただっけだ。


「よし。んじゃ喰う……っと」


 俺は【影喰い】を発動させる。

 ずぶん……! と毒大蛇が影の沼に沈む。

 これで新しい式神、【影大蛇】を手に入れた。


「次だ」


 俺はまた鷲馬ヒポグリフの上へ転移。

【影探知】を使って、呪力の強い魔物の元へ行く。


【お、大鬼王オーガ・キングさま! 空に人間が!】

【なんだ貴様はぁ!?】


 眼下に大鬼オーガの軍勢がいた。

 大鬼はA級。大鬼王オーガ・キングはS級だ。


「ちょうど良い。まとめていただくとするか」


 俺は影鷲馬に乗った状態で、息をのむ。

 そして思い切り、眼下に向かって、思い切り息を吹きかけた。


 ずぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


【な、なんだぁ!?】


【大鬼王! 空から毒の霧が……ぐぁああああああああああああ!】


【こ、これは毒大蛇のスキル【毒霧ポイズン・ミスト】! なぜ人間が……ぐ、うごけなぃいいいいいいいいいい!】


 俺の出した毒の霧に触れた、大鬼たちが、その場で失神する。


「ひ、ひかげくん、今の紫のけむりなに?」


「毒大蛇のスキルだよ。今のは影呪法の一つ【影真似かげまね】。取り込んだ式神の能力を、こうして使うことができるんだ」 


 つまり影喰いでモンスターを食べると、式神として使うこともできるし、モンスターの能力もコピーできるって次第だ。


「さて食事だ」


 俺は【影喰い】を発動。

 失神する大鬼たちは、影の沼に沈んでいく。


 影鬼軍と、影大鬼を手に入れた。


 俺はさっそく、影鬼軍と、影大鬼を出現させる。

 

 影大鬼は手下を命令して動かしてくれるから楽だ。

 

 鬼の軍隊が、森に散らばっていく。


「これでちょっと強いモンスターにも対処できる」

「はえー……すっごいよ~」


 次だ。


 今度は、今まで以上にでかい気配を感じた場所へ行く。

 

 そこにいたのは……。


「な、なんじゃありゃーーーーーー! か、火山が動いてるよぉーーーーーーーー!」


「……あれは、火山亀だな」


 SS級のモンスターだ。

 山と見まがう巨体を持った、岩の亀である。


 ずずぅーん……ずずぅーん……と、結界へ向かって進行してくる。


「あ、あんなのがきたら……ひとたまりもないようぅ。ひかげくん、どうしよ~」


 エステルが泣きそうな声で言う。


「……問題ない」


 俺はついさっき、大鬼王からコピーしたスキルを発動。


【身体能力・超強化】


 発動すると、俺の体に、気力がみなぎってくるのがわかる。


 俺は織影で刀を作った。

 森の呪力を、極限まで、刀に込める。


「……昔は、こんな勇者みたいなこと、できなかったんだがなぁ」


 基本的に闇討ちだからな、俺の戦い方。


「な、なにするのひかげくん?」

「こうすんだよ」


 呪力をフルチャージ。

 今、身体能力は、普段の何倍も強化されている。


「……いってくる」

「うんっ、いってらっしゃい!」


 俺は影転移で、火山亀の足下へ転移。


 仰ぎ見るほどの巨体がそこにある。

 その足めがけて、俺は刀を振るった。


「っらぁああああああああああああああああああああ!!!」


 すぱぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!


 山かと思うほどの足が、すっぱり両断される。


「GIROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 悲鳴を上げる火山亀。

 俺は転移を繰り返し、残り3本の足を切り飛ばした。


「すごーい! 足が大根みたいにすぱすぱきれてるよー!」


 ……遠くでエステルの声。


 亀の足をすべて切り飛ばし、最後に俺は、火山亀の正面へと回る。


「GIROROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 最後のあがきだろうか、火山亀が、背負った火山から、巨大な溶岩の球を噴射!


 どしゅぅううううううううううううううううううう!


 溶岩の球が、俺めがけて飛んでくる。


「……きかねえよ」


 俺は【織影】そして【影喰い】を発動。

 影の沼から、影で作った触手が生える。


 飛んでくる溶岩を触手がとらえ、そのまま影の沼へと沈める。


「魔法攻撃も消せるのか……影喰いも進化してるんだな」


 さて……。


「おまえはもう、用済みだ」


 俺は呪力装填した刀を、渾身の力を込めて、縦に振る。


 ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!


 ……火山亀は、一刀両断され、絶命。

 あとは【影喰い】で、その巨体を沼に沈めた。

 

 これで影火山亀ゲットだ。


 俺は影転移を使って、エステル達の元へ帰る。


「ただいま」

「…………」


 エステルが、瞠目している。


「どうした?」

「ひ、ひかげくん……」


 ぷるぷる……とエステルが体を震わせる。

「すごいすごい、すっごーーーーーい!」


 エステルがきらきらとした目で、俺を見やる。


 感極まった表情で、俺に抱きつく。


「すごいよやばいよ! あんなバケモノずばあーんって倒したよ! 強い! 強すぎる! きみのほうがバケモノかっ! だよ!」


 きゃあきゃあ♡ と大はしゃぎのエステル。


「いや……バケモノって……ひどくないか?」

「そんなことないよ! バケモノ級に強いってことだよ! 褒め言葉! ほめほめだよ!」


「そ、そう……」


 まあ悪いニュアンスで使われてないだけいいか。


「さて次の獲物は……」


 と、そのときだった。


「…………」

「どうしたの?」


「いや……」


 影探知に、反応があった。

 でかい呪力だ。数は2。


 ひとつは、四天王級に強い呪力。

 そしてもうひとつは……勇者の呪力。


「…………」

「ひかげくん、顔が怖いよ」


「……なんでもない。いってくる」



 

 

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