67.暗殺者、天の騎士たちを本気にさせる
暗殺者ヒカゲが、大事な人たちと風呂に入っている、一方その頃。
天道教会では、13使徒たちが集められていた。
円卓には、13人の騎士が座っている。
そのうち5人はすでに、神器を失っているものたちだ。
「っかー! なっさけね~。実になさけねえ! あんなクソガキに13使徒が5人も負けるなんてなぁ~?」
「【スリー】。そんな言い方はないだろう?」
リーダーの男・【竜一】が、男騎士の【スリー】を注意する。
「おいおいおいおい竜一さんよぉ~。主に背く悪ガキを成敗できなかった雑魚5人に対してよぉ、おとがめ無しでいいのかい?」
うぐっ……と5人が口ごもり、うつむく。
「負けてしまったのは仕方ない。黒獣の強さが、我々の想定を上回っていただけさ」
「あー? ンだよ竜一。こいつらになんもしないわけ……つまんねー」
安堵の表情を、5人が浮かべる。
そう、このスリーと違って13使徒のリーダーは、慈悲深き男なのだ。
「ああ、スリー。勘違いしては困るよ」
「あん? どーゆーこった?」
竜一はにこりと笑う。
「負けたのは仕方ない。けれど……」
チャキッ。
シュパッ……!
「人外ごときに後れを取った彼らを、許すつもりは毛頭無いよ」
「「「「へ……?」」」」
竜一の手には、芸術品のような、美しい聖なる剣が握られている。
だがその刃は、血でぬれていた。
ブシュゥウウウウウウウウウウ!!!
ワンテンポ遅れて、5人の首から、勢いよく血液が放出される。
「ひっ……! くっ、くっ、首がぁあああああああああああ!」
女性の使徒が、青ざめた顔で彼らを見やる。
ヒカゲに負けた使徒5人の首が……なかった。
足下に首は転がっていない。
「っかー! すっげえ! さっすが竜一~。絶対切断の聖剣の威力はんぱねー!」
万物を切り裂く聖剣。
それが竜一の使う神器だ。
目にもとまらぬ早さで竜一は剣を抜き、5人全員の首を……いや、彼らの頭を切り飛ばしたのだ。
「【獅子座の聖剣】……いつ見ても惚れ惚れする威力だぜぇ。なぁ?」
スリーが、残る8人の使徒達を見回す。
リーダーの竜一は、何事もなかったかのように微笑んでいる。
サブリーダーの二郎はため息をついた。
「あの、その……」
「ん? どうしたんだい、五和?」
使徒のひとりが、手を上げる。
それはさっき、悲鳴を上げていた女使徒だった。
「彼らを、埋葬してきても良いでしょうか……?」
「ああ、かまわないよ。五和、きみは慈悲深いね」
沈んだ表情で、五和は立ち上がると、神器を使う。
五和の手には、1枚のハンカチがあった。
彼女は死体の1つに、ハンカチをかぶせる。
すると布の中へ、死体が収納された。
「五和ちゃんの【乙女座の布巾】もやべえよなぁ。何でも収納できる布って、攻撃防御補助すべてできるんだもんなぁー」
スリーに褒められても、五和の表情は晴れなかった。
残りの死体をすべて片付ける。
「わたしは、これで失礼します……」
真っ青な顔をして、五和は会議室を出て行った。
残された使徒は8名。
「竜一。これからどうする?」
副リーダーの二郎が、長である少年に問いかける。
「黒獣にやられた5人は、たしかにおれたちのなかでは弱い部類。しかし彼らの使う神器は特級品だった。それが負けたってことは、黒獣は相当な強さということになるだろ?」
「そうだね。我々も、本気で取りかかるべきだろう。これ以上この世界の空気を、人外の化け者どものせいで汚すわけにはいかない」
ただ、と竜一が続ける。
「人外狩りは何も黒獣だけを対象としているわけではない。我ら使徒全員が一気に奈落の森へ行けば通常業務が滞る」
「ンじゃどーすんだよ?」
「聖職者たちの力を借りよう」
「あん? 天道教会に所属するシスターや司教のこと言ってるのか?」
スリーの言葉に、竜一がうなずく。
「でもよぉ、竜一。ハッキリってあいつら雑魚だぜ? それこそ13使徒よりもだ」
「そうだね。けれど【協力者】の報告によると、黒獣は随分と慈悲深いようだ。それに、使徒をあいつは殺さなかった」
「つまり?」
「黒獣は人を殺せない。なら一般人を大量に投入しよう。向こうはこちらを殺せない」
静かな笑みをたたえたまま、竜一が作戦を言い渡す。
「物量で押して疲弊させるんだ。昼夜問わず投入しよう。そして一般人に混じって我々が向かう」
「おー! いーじゃんそれ! ド派手な作戦、嫌いじゃないぜぇ?」
スリーが嬉々として手をたたく。
「けれど竜一。そんな大規模な作戦……もはや戦だ。聖職者たる彼らは、血を流す戦を好まない。どうやって言うことを聞かせるんだ?」
二郎の意見に、竜一が微笑んで返す。
「二郎、これは聖戦だ。この世界の平和を乱す悪しき魔獣を、我らの手で駆除する。これは人殺しではない。聖なる戦いなのだよ」
「なるほど……そうやって人をたぶらかすわけだ。先導はおまえがやってくれるんだよな?」
「無論だ。大丈夫、敬虔なるシスター・司教のみんなは、きっと我々の言うことを聞いて、喜んで殺されにいってくれるさ」
……と、会議室の中で、狂気とも言える作戦が立案されている。
その様子を、ドアの向こうから、魔神シュナイダーはうかがっていた。
「ふふっ、良いですねぇ~……。面白いことになりそうだ」
白スーツに狐のような細い目の彼は、にやりと笑う。
「あの……シュナイダーさん?」
「これは五和嬢。どうしました?」
遺体を弔って帰ってきた五和が、シュナイダーを見上げていう。
「あなたは、どちらの味方なのですか?」
「もちろん、天の騎士である、あなたたちの味方に決まっていますよ♡」
ノータイムで返すと、五和は「そうですか……」と不安げな表情でつぶやく。
「五和様は黒獣討伐に乗り気ではないのですか?」
「そう……ですね。相手は、年端もいかない子供と言いますし……」
きゅっ、と五和が唇をかみしめる。
「このままではあんないたいけな少年が、聖なる騎士達の刃によって殺されてしまいますね。……あなたの出身の、孤児院の子供達のように」
シュナイダーは的確に、五和の心の奥底に秘めた思いをゆさぶる。
「可愛そうに。あんな小さな子供が、人間じゃないという理由だけで理不尽に殺されてしまうとは……」
「…………」
五和は目を閉じて、決然とした表情を浮かべる。
そして会議室のドアを開く。
「あの、竜一さん?」
五和は硬い表情のまま、リーダーたる少年に言う。
「作戦の前に、わたしに黒獣討伐を任せていただけませんか?」
「あーん? どーゆーこった?」
スリーが問うてくる。
「今回の作戦では、多くの無辜の聖職者達の血が流れかねません。彼らもまた騎士である我々が守るべき存在。そうは思いませんか?」
「なるほど……つまり五和は、彼らの代わりになろうと?」
こくり、と五和がうなずく。
「人員を集めるのにも時間が掛かるでしょう? ならその間だけでもいいので、わたしに先行させてください」
「なるほど……いいよ。行ってきなさい」
五和は頭を下げて、会議室を出て行く。
その背後で、シュナイダーが実に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「わたしが……止める。悲劇の、連鎖を……」
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