59.暗殺者、新たな敵に狙われる
それは夏が終わり、秋に入ったある日のこと。
人間国の南西部の農村では、今まさに、SSランクモンスターによる被害を受けていた。
九頭バジリスク。
山を飲み込むほどの巨大な蛇が、9匹集まって出来た、大蛇の悪魔だ。
バジリスクが通った後には何も残らない。
家を、村を、大地を、山を。
すべて飲み込んでいく。
吐き出す火炎は呪いの炎。
受けたものをドロドロに溶かし、バジリスクのエサとする。
この日、農村を襲ったバジリスクは、村人を片端から飲み込んでいった。
炎であぶり、悲鳴を上げる村人を見て、にやりとバジリスクは笑う。
強力なモンスターは、ランクが上がれば上がるほど賢さが増す。知性を得る。
バジリスクは人間たちの悲鳴が何よりも大好きなのだ。
……さて。
バジリスクは村人を、年老いた順に食っていった。
デザートは最後に取っておくらしい。
若い人間ほど美味い。そして女ならなおのこと。赤子を産むほどのエネルギーをその身に秘めているためか、女は栄養満点なのだ。
村で一番幼い女の子は、村人たちが一人一人食われていく様を、タンスの中で隠れて見ていた。
両親に、ここに隠れてなさいと、押し込まれたのだ。
……その両親も、バジリスクの炎でドロドロに溶け、そして食われた。
残るのは、幼女のみとなった。
バジリスクは幼女を発見できずにいるようだった
幼女は安堵の吐息をついた。
……だが。
バキバキッ……!!!
タンスが壊れ、幼女が、バジリスクの前にまろびでる。
バジリスクは、幼女を見下ろして笑っていた。
希望を持たせておいて、そこから絶望の淵にたたき込む。
より深い絶望を感じたとき、人間はよりよい悲鳴を上げると、バジリスクは知っていたのだ。
最後に残った一人。
もう生きていてもしょうがないかも知れない。
幼女は死を覚悟した。
目を閉じて……バジリスクに食われるのをただ待った。
そのときだ。
ザシュッ……!!!
何かが、キレる音がした。
目を開けるとそこには、白銀に光り輝く、聖なる鎧に身を纏った男がいた。
「君、大丈夫かい?」
青年は、珍しいことに、黒髪に黒目をしていた。
彼は微笑みながら語りかける。
幼女はこくり……とおそるおそるうなずいた。
「そうか。それは良かった。安心したよ」
青年は幼女の頭を撫でる。
立ち上がると、腰から剣を抜く。
神々しい……。
幼女はそれにみとれた。
青年が持つ剣は、7つの色の発光しているではないか。
青年が剣を構える。
その先にいるのは、9つの頭を持つバジリスク。
バジリスクが炎を吐く。
あれは、触れた物をドロドロにする炎だ。
炎が青年にあびせられる。
もうダメだ。村人のように、かれも死んでしまう!
「効かないよ、そんな攻撃」
だがなんということだろうか。
青年は炎を受けても、まるでダメージがないではないか。
「私は神の加護を受けている。私は、並大抵の攻撃は喰らわない。私のスキル、【絶対防御】。そして……」
青年が剣を振りかぶる。
七色の光が、剣に収束する。
「これが……【極光剣】! はぁあああああああ!!!」
青年が剣を振り下ろす。
突如、七色の光が、ごぉっ……! と周囲を包み込んだ。
一直線上に走る光……それは極光。
極光の輝きはバジリスクを飲み込むと、跡形もなく、消滅させた。
「ふぅ……安心したまえ。悪いモンスターは私が倒した」
「ありがとう……騎士様……」
青年は微笑む。
幼女はかれに近づいて、ペコッと頭を下げた。
「気にするな。人を守るのが我ら天導教会の騎士の使命だ」
青年は、泣きたくなるくらい、優しい笑みを浮かべた。
ホッ……と気をゆるませた、そのときだ。
くしゃっ……と彼の顔が、不快にゆがんだ。
「……貴様。人外のものか?」
「え……? アッ!!!!」
幼女は自らの失態に気付いた。
先ほどまでは、【隠蔽】の術式で、自分の【角】を隠していたのだが。
ホッとして、気が緩んでしまった。
彼女の額には、1本の角が現れていたのだ。
「そうか。この村は【鬼族】の村だったか。鬼。人間を喰らう、悪鬼……」
「ち、違うの! わたし……人間なんて食べたことない! それに、もう鬼族のみんなは人間を食べないって決めたの! だから!」
「だから……なんだ?」
青年が、ぞっとするような低い声で言う。
先ほどの輝くばかりの笑みはなりを潜め、今そこにいるのは、恐ろしいモンスターのようであった。
「貴様ら人外の化生は、生きてるだけで罪だ。人を喰らい、神が定めし秩序を乱す……悪だ」
青年は剣を抜く。
幼女は知っている。
七色の光に触れれば、跡形もなく消えてしまうことを。
「た、助けて! 助けてぇえええええええええ!!!」
「……人の姿をした化けものめ。神に代わって私が滅する」
青年は剣を振り上げて、容赦なく振り下ろす。
バジリスクにはなったものと同等の物を、幼女めがけて、何の躊躇もなく放出した。
当然、幼女は悲鳴を上げることもできず消滅。
「チッ……! 虫唾が走る……」
青年はポケットからハンカチを取り出す。
手をゴシゴシと、過剰なまでに拭く。
そして拭き終わったハンカチは、極光で消した。
「ふぅー……」
「おーおー、はーでにやってくれんじゃん、リーダー」
「……二郎」
振り返ると、そこには13使徒のひとり、背の高い男がいた。
「おっす竜一。首尾は……聞かなくてもわかるわな」
「ああ。この世の秩序を乱す悪は、私の極光剣で消し飛ばした」
「あの幼女ちゃんも? あーあー、怖いこった」
二郎は肩をすくめる。
「おれら13使徒のリーダー様は、よほど人外がお嫌いと見える」
「当然だろう。神が作ったのは人間のみだ。亜人や魔族、モンスターは神が作り出していない。いわばこの世の害虫であり、バグは速やかに排除する。それが我らの使命だ」
「おーおー、浸ってるね~……。怖いくらいの信仰心だ。んま、おれは別にあんたがどんな性格だろうとどーでもいいけどよ」
二郎はポンッ、と竜一の肩を叩く。
「ところでどうした? 何のようだ」
「調査隊からの報告もってきたんよ。黒獣が見つかったそうだぜ」
「……そうか」
竜一は剣を鞘に戻し、きびすを返す。
「二郎。戻ったらすぐに会議だ。みんなを集めてくれ」
「へいへい。さぁて、忙しくなりそうだぜ~」
竜一の後を、二郎がついてくる。
「しっかし相手はちょー強いらしいぜ? どーするよ、竜一?」
「どうもこうも、私たちの使命はただ一つ。この世の秩序を乱す悪を、神に代わって、この剣で切り捨てる。ただそれだけだ」
「おー、こわいこわい。いやぁ、黒獣くんも災難だわー。触れると即死の聖剣と、絶対防御のスキルを持った、鬼のリーダーが殺しにかかってくるんだから、こりゃごしゅーしょーさまだわ」
そう言って、ふたりはメンバーたちのもとへ向かう。
次なる標的、黒獣こと、暗殺者・焰群ヒカゲを殺すために……。
新連載、はじめてます!
広告下のリンクから飛べますので、よろしければぜひ!