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54.暗殺者、魔神を部下に加える



 3柱の魔神を退けた俺。


 だがそのうちの1柱、操網そうもう神・シュナイダーは、殺したはずなのに生きていた。


 シュナイダーは俺と話しに来た……という。


 話はその数分後。

 村はずれの神社にて。


 建物の中、俺は魔神シュナイダーと対峙していた。


 目の前に座るのは、白いスーツを着込んだ、銀髪の男だ。


 一見すると人間のように見える。

 だが耳は少しばかり尖っていた。


 髪を短くカットしている。

 すっ……と通る鼻梁に、にこやかな笑み。

 一点の曇りのない白い肌にスーツ。

 ……なんとも外見優れたイケメンだ。


「……すごい人が来たわね」「……見た目はいいわよね」「……えー、けどちょっと怖くない? ちがかよってなさそー」


 神社の入り口に、村の女たちが集まっていた。

 おそらくは外部から来た人間の男に興味を持っているのだろうか。


「わたしはあの人より防人様の方がかっこいいと思うわ」

「アタシも! ヒカゲ様の方がかわいくって好き!」

「あの白い人、確かに見た目は整っているけど、整っているだけって感じ。やっぱりヒカゲ様の方が素敵だよ!」


「「「ねー!」」」


 村人たちがきゃっきゃ、と騒いでいる。


 俺は影転移を発動させ、村人たちを木花開耶このはなさくや村へ送る。

 魔神きけんぶんしにあまり近づけたくなかった。


「おもてになられるのですね、ヒカゲ様。うらやましいです」


「……ケンカ売ってるのか?」


 どう見てもこいつの方が見た目整っているじゃねえか。


「滅相もございません。現に木花開耶このはなさくや村の方々の中で、私よりもヒカゲ様の方が好かれているではありませんか」


 ……この魔神。

 村の本名を知っていた。


 この村は閉鎖的な空間だ。

 外でこの村の存在はおろか、村の名前なんて知ることも不可能だろう。


 だというのに、この白スーツの魔神は、村の名前を言い当てた。


 ……どこから情報を仕入れてやがる。

 どこまで、知ってやがる。


「そう警戒なさらないでください。私はあなたの敵ではありません」


「…………」


 まったく信じられねえ。


「信用なさって、と言っても信じられないのは当たり前だと思います。しかしヒカゲ様、よくお考えになってください。私は魔神最弱。これに嘘偽りはありません。現に【私】は、あなた様の手によって瞬殺されてたではありませんか」


 ……確かに。

 こいつと戦ったとき、あまりの手応えのなさに驚いたものだ。


 賢狼や牛鬼は、まあ弱かったが、少なくともシュナイダーよりは強かった。


 こいつは、魔神のくせに、あまりに弱かったのである。しかし……。


「……そうだ。おまえ、俺が倒したのにどうして生きてるんだよ? 蘇生でもしたのか?」


「いいえ、違います」


 シュナイダーはパチンッ、と指を鳴らす。

 するとぞぞぞっ……! と天井裏や床下から、無数の白いネズミが出現した。


 き、きもい……。


 ネズミの数匹は、その場で白スーツの魔神、シュナイダーへと変化した。


「このネズミ一匹一匹がすべて【私】なのです。魔神シュナイダーとは、このネズミの集合体でもあり、このネズミ一匹一匹が魔神シュナイダーなのです」


 ぱちんっ、とシュナイダーが指を鳴らす。

 すると大量にいたネズミが、あっという間に消え去った。


「ようするに私のスペアはたくさんいるのです。私個人の能力は魔神最弱。しかし数が誰よりも多い。ただそれだけの利点を持っただけの雑魚ですよ」


 ……なるほど。

 あの無数のネズミを各地に散らばらせているのか。


 それで情報を収集している訳なのだな。


 ……十分に脅威じゃねえか。

 倒す……という方法は無駄だ。


 なにせあの数だ。

 全部を倒し、影喰いすることは不可能である。


 今この場に現れたネズミが、魔神のすべてとは到底思えない。

 あのネズミは、世界に散らばっている可能性がある。


 世界中にいる、数え切れないほどのネズミ全部を討伐することは……できない。


 確かに俺はシュナイダーに対して戦闘力では圧倒している。

 だが数という一点においては、惨敗しているのだ。


 ヘタにこちらは手を出せないし、向こうはそもそも俺には勝てない。


 そんな危ういバランスの上で、俺と魔神シュナイダーは相対している。


「……それで、何しに来た?」


「まずは話を聞いてくださり誠にありがとうございます」


「……そういうのいいから、用件をさっさと言え」


 シュナイダーは居住まいを正して言う。


「ヒカゲ様。この魔神シュナイダーを、あなた様の配下にくわえていただきたいのです」


 ……。

 …………。

 …………う、うさんくせえ。


「……どうしてだよ?」

「それはもちろん、あなた様がこの世界の誰よりも強いからです」


 シュナイダーが続ける。


「ハッキリ言いましょう。魔神ではあなたに太刀打ちできません。残りの魔神たちもあなたには適わないでしょう。ようするに力関係で言えば、あなた様の方が魔神より上と言うことになります」


 ベルナージュは魔神最強なのだそうだ。

 そのベルナージュを越えた力を、俺は持っている。


 しかも黒獣を二匹かっていることで、取り込める経験値は現在2倍となっている。


 ベルナージュと戦ったときより、俺はさらに強くなっていた。


「私は臆病者です。自分の命がおしい。そこで私はあなた様の庇護下においてほしいと、こうして参上したまでです」


 ……この魔神、うさんくさすぎて、提案をまともに受ける気にはなれない。


 しかしこいつ一匹一匹の強さは全然弱くとも、数において俺は負けている。


 さらに俺は、この魔神の腹の奥を読むことはできない。何か腹に一物抱えているようにしか思えなかった。


 敵に回すと厄介そうだ。

 なら自分の配下としてくわえた方がいい……か?


「私があなた様の配下になることで、メリットはございます」


「……たとえば?」


「あなた様に提供できる大きな利点としては2つあります。1つは情報の提供。もう1つは情報操作協力です」


 1つ目はなんとなくわかる。

 魔神シュナイダーは、ネズミの姿で、この世界に無数に存在する。


 あの小さな体でなら、どこへだって忍び込めるだろう。


 そしてあの数だ。

 この広い世界にある情報を、ひょっとしたらすべて把握してるかもしれない。


「……2つ目の情報操作の協力ってなんだ?」


「文字通りです。情報を操作し、ヒカゲ様のもとへやってくる人間たちがこないようお手伝いさせていただくことです」


「……よくわかんねえんだが」


「そうですね……。ヒカゲ様、今ご自分が、世界中からの注目を集めていることを、ご存じですか?」


 ……はぁ? 注目?


 シュナイダー曰く。

・冒険者ギルドは、冒険者たちに黒獣へ近づくことを禁止している。


・国は奈落の森へ人が近寄らないように動いている。


・しかし外国は黒獣という新たに出現した魔神を手に入れようと、虎視眈々と狙っている。


 ……と。


「国内外に限らずあなた様を狙うやからは実に多いのです」

「……そんなことになっていたのか」


 まるで知らなかった。

 こっちは森から一歩も出ないからな。


「最強の力を持つあなた様にかかれば、降りかかる火の粉を払うことは容易いでしょう。……しかしこの世界の人間は、数が膨大です。そのすべてを振り払うのは、少々厄介ではありませんか?」


 ……そうだ。

 俺は人間を別に無差別に殺すつもりはない。

 

 俺はただ平穏に暮らしたいだけだ。


 それに人間たちって、追い払うの面倒なんだよな。

 ちょっとでも本気を出したら、すぐに死んでしまう。


 殺さないよう手加減するのは、意外と骨の折れる作業なのだ。


 それが何千、何万人と押し寄せてきたら……それらの対応は、面倒なことこの上ないだろう。


「私は情報において右に出る物がいません。国内外の情報の収集。そして森へと足を踏み入れようとする人間たちが、ここへ来ないよう誘導する作業を……我々魔神【シュナイダー】たちがお手伝いします」


 シュナイダーは独自の情報網を持っている。

 それが手に入るとなると、厄介ごとに気を裂かずにすみ、この先かなり生活が楽になる。


「無論この世界に住む人間全員をここへ来ないようにはできません。ただ、来る数はグッと減るのではないかと」


 ……俺はしばし考える。


 この魔神を消滅させることは、理論上不可能だ。


 ならいっそ、手を組んで、利用する方がいいかもしれない。


 ……ただ、こいつの腹の底が計り知れない以上、心を完全に許すわけにもいかない。


 協力関係は結ぶし、情報も利用する。が、完全に信用しない。……そういうスタンスで行くのがベターか。


「……わかった。おまえの申し出を受け入れる」


「ありがとうございます、ヒカゲ様。あなた様の部下になれたこと、私は心からうれしく思います」


 ……白々しいヤツめ。まあいい。


「……シュナイダー。約束通りおまえには情報収集と情報操作をまかせる。情報操作の方は火影の里の人間と協力して行え」


「承知いたしました」


 そう言って、魔神シュナイダーは、その場を後にする。


「……ヴァイパー。くれない」


「「御身の前に」」


 俺の影から、従者であるふたりが出てくる。


「……魔神の監視はおまえらに任せる。全部を監視しきるのは無理なのはわかっているが、表立って悪事を働かせないよう、なるべくあの魔神を見張れ」


「「御意」」


 そう言って、くれないとヴァイパーもその場を後にする。


 俺はその場に、大の字になって横になる。


「……めんどうだ」


 あのうさんくさい白スーツを引き込んだことで、また新たな厄介ごとを抱えてしまった。


 まあ世界規模で俺を狙っているという情勢の中では、あの魔神の情報収集能力は貴重な武器となろう。


 だがあの魔神を信用しては決していけない。

 なぜなら俺の腹違いの兄は、あのシュナイダーと通じていた。


 兄のかたき……なんてまったく思っていない。


 問題なのは、シュナイダーが他者の命をゴミ程度にしか思っておらず、なおかつ他者を利用し、簡単に切り捨てる残忍性を持っていると言うこと。


 利用できる人物ではあるが、危険人物でもある。


 果たしてあいつを取り込んだことが、吉と出るか、凶と出るか……。


「……はぁ」


 俺は深々とため息をついた。

 こんな雑事に頭を悩ませたくはなかった。

 俺はただ、愛しい人とこの森で静かに暮らしたいだけなのにな……。


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