51.暗殺者、ドラゴン娘から子作りをせがまれる
恋人であるエステルと結ばれた翌朝。
村はずれの神社の中にて。
俺が目を覚ますと……目の前に全裸の美少女がいた。
寝ぼけ眼で、俺は彼女の柔らかな体に抱きつく。
腕の辺りの柔らかな感触に、折れそうなほど細い腰。
しっとり汗ばみ、吸いつくような肌。
……彼女の体を抱きしめていると、昨日の幸せな記憶がよみがえってくる。
「やんっ♡ だーりんってばだいたんなのだ♡」
「…………………………は?」
俺は抱きついている少女の顔をよく見やる。
美しい金髪……ではない。
ピンク色の長い髪を、サイドテールにしている。
……そういえばエステルにしては小柄だ……って!?
「お、おまっ!? べ、ベルナージュ!」
バッ……! と俺は今抱きついていた少女から離れる。
そこにいたのは竜神王ベルナージュだ。
「おはようなのだおまえ様♡」
ニカッと笑うベルナージュ。
俺は慌てて影でシャツと下着を作って着込んだ。
「おまっ! なにやってるんだよ!? なんでここにいるんだよ?」
この神社には俺とエステルしかいなかったはず……というかエステルどこ行った?
「決まっているのだ。おまえ様と子供を作りに来たのだっ!」
よいしょよいしょ、とベルナージュが俺の方へハイハイしながら近づいてくる。
「いや子供って……」
「だめなのか? エステルとは作っていたではないか」
「おまっ! 見てたのかっ!?」
俺の問いに、ベルナージュが首を振る。
「見てないのだ」
「そ、そうか……」
「ここへ来たら裸のおまえ様とエステルがいたのだ。エステルが目を覚まして教えてくれたのだ」
おいぃいいいいいいいい! ナニをばらしてるんだあのアホ姉ええええええええ!
「……エステルどこいった?」
あとでキツくお灸を据えておかねば。
「お風呂行ったのだ。体がベタベタするからって」
ああそう……。
というかあんまり広めないで欲しかった……。
「おまえ様? どうしたのだ?」
ベルナージュが至近距離まで、よつんばいでやってくる。
ぷるんっ、と重力に従って、柔らかそうなおっぱいが乳牛のように垂れ動く。
「ふ、服を着ろ……」
「えー。これから子作りするのに服を着るのか? おまえ様は変わった趣味をしているな」
「違えよ。風邪引くからさっさと服を着ろ」
「そしたら一緒に子作りしてくれるか?」
「しねえよ」
「じゃあ嫌なのだ! いーやっ!」
ベルナージュが笑顔で、俺の体に、正面から抱きつく。
か、顔にぐにっとしたものが!
エステルのものよりもさらに弾力があった。
ぐにぐにとした感触と、そして南国の花のような甘酸っぱい匂いが……っていかん!
俺は影呪法の潜影を使い、ベルナージュから逃れる。
離れたところに出現する。
「おまえ様はうぶなのだなー」
「お、おまえが開けっぴろげすぎるんだよ!」
「そうかー?」
ベルナージュが全裸で、こっちを見てあぐらをかく。
すると大股を広げている関係で……その、見えるわけだ。
つるっとしたなにがしが。
「あぐらをかくな!」
「おまえ様はどうしてそんなにワタシの裸を拒むのだ? 夫婦ではないか」
「……夫婦じゃねえ」
「夫婦なのだ!」
ああもう……話が進まない!
と思っていたそのときだ。
「ひかげくーん。起きたー」
ガラッと引き戸を開けて、エステルが入ってきた。
バスタオルを体に1枚という、実に扇情的な格好である。
タオルからおっぱいがこぼれそうになっていた。って、なにを見とれてるんだ。
というかやばい。
ベルナージュの今の格好、別の女と不倫をしている現場のようではないか!
「え、エステルこ、これはベルナージュがな……」
「子作りを迫っていたところなのだ!」
ベルナージュが元気に答える。
答えるなよ……!
「おそっかー。んじゃお姉ちゃんはちょいと朝ご飯を作ってくるから、その間にすますんだよ♡」
「待て待て待て待て!!!」
俺はエステルを呼び止める。
「なんじゃらほい?」
「いやおまえ……いいのかよ」
「いいのとは?」
「だから……他の女と俺が、その……に、肉体関係持っても」
するとエステルが、きょとんとした表情で言う。
「うん」
「うんって……」
「別に良いじゃん。男の子ひとりと女の子ひとりしか結ばれちゃだめってわけじゃないし。ひかげくんとベルちゃんが愛し合ってるならそれに口を挟む権利はお姉ちゃんにはナッシングだよ」
ああそうだった。
ここ西方大陸は、俺の故郷である極東と考え方が異なるんだった。
特にここでは一夫多妻が普通なのだ。
「さすがにひかげくんが嫌がるベルちゃんを無理矢理犯すーみたいなことは許せないけど、ベルちゃん、ひかげくん好きなんだよねー?」
「おう! ワタシはだーりんを誰よりも愛してるのだっ!」
ニカッと笑い、ベルナージュが自分の胸をドンッとたたく。
「んじゃ問題ないじゃん。お姉ちゃんはクールに去るぜ。1時間くらいしたら来るからね♡」
「いやおいちょっと……!!」
俺が呼び止める前に、エステルが自分の着替えを持って、素早く建物を出て行った。
後には俺とそしてベルナージュだけが残される。
「そーゆーことだ!」
ベルナージュが俺のそばまでやってきて、ズボンを脱がそうとする。
「いや待ってくれって。落ち着いてくれ」
「落ち着いたら子作りしてくれるか?」
「……検討するから」
そうでも言わないとこいつ、いつまでもぐいぐいくるからな。考えるとは言っても別に本当にやるきはない。
「わかった! 落ち着くー!」
ベルナージュが笑顔であぐらをかいて座る。
「だからまたを広げて座るな。正座」
「したらしてくれるか?」
「……考えるから」
「わかった!」
素直に正座をするベルナージュ。
俺はため息をついて、影でブランケットを作り出し、彼女の体に向かって投げる。
「わっぷ」
ベルナージュの頭にブランケットがかかる。
彼女は「ぷはっ」と顔を出す。
「ワタシに風邪を引かないようにということなのだなっ。だーりんは優しいな~♡」
えへへっ、とベルナージュが無垢なる笑みを浮かべる。
だましてるようで悪い気がした……。
「あのなベルナージュ。前から言っているが別に俺はおまえと……その、子供を作る気は無い」
「だーりんにはなくってもワタシにはあるのだ!」
「そもそも俺とおまえは恋人でも結婚相手でも何でも無いだろ」
「? だからなんなのだ?」
ベルナージュが首をかしげる。
「おまえ様がワタシをどう思おうと、ワタシはおまえ様がこの世で一番好きだし、ワタシはおまえ様の子供をたくさん産みたいと思っているのだ」
……話が平行線過ぎた。
「いやこういうのってお互いが愛し合わないとダメなんじゃないか?」
「むぅ……よくわからないのだ」
うむむ、と腕を組むベルナージュ。
むにっ、とその巨乳がはみ出しそうになる。
「ワタシを愛せと命じてるわけでもなく、子供を作ろうと言っているだけなのに……おまえ様は難しいことを言うのだ」
「……そんな難しいこと言ってないだろ」
どうにも竜と人間とでは、俺とエステル以上に、価値観に違いがあるようだった。
「おまえ様はわざとワタシに難しいことを言って困らせるのが大好きなのか? エステルの言っていた【さでぃすと】ってやつなのか?」
「……違うよ」
変な言葉をこの子に教えないでくれよ、アホ姉よ……。
「ではどうすればいい? どうすればおまえ様は喜んでくれる? ワタシはおまえ様を喜ばしたい。どうすればいいのだ?」
……ベルナージュは、別に悪いやつではない。
魔神であっても邪血であるミファや、無関係の村人を襲おうとしない。
俺に闘気の使い方も教えてくれた。
……本当に、悪い女の子ではない。
だからこそ、無下に扱うことはできない。
「ベルナージュ。真面目な話をするとな、別におまえのこと、俺は嫌いじゃない」
「ふむふむ」
「ただ俺は……その、そう言う行為は、その……お互い愛し合ってその延長上にある物だと思っている」
「……むぅ。ようするにだーりんは、ワタシのことを抱きたくないというゆーことか? 生理的に無理という話か?」
しゅん……とベルナージュが捨てられた仔犬のような目になる。
「いや……そうじゃないよ」
「そうかっ! 良かったぁ~」
ほっ、とベルナージュが安堵の吐息をつく。
「ふぅむ……よしっ! おまえ様の言いたいことはわかったぞ!」
だっ! とベルナージュが立ち上がる。
肩にかけていたブランケットがパサッ……と落ちる。
「だから前を隠せ!」
「いやっ、隠さない! なぜなら隠さないほーが、おまえ様が喜んでくれるみたいだしな!」
ベルナージュが俺の腰の辺りを見て言う。
どこを見て判断してるんだ!?
「ワタシは理解したぞ。よーするにおまえ様がワタシに惚れるよう、頑張れば良いんだなっ」
にかっと屈託のない笑みを浮かべるベルナージュ。
「ワタシはすでにおまえ様への愛情が最大値だ。あとはだーりんがワタシにメロメロになれば、お互いが愛し合っているとゆーことで、子作りをしてくれるとゆーことだろう?」
「いや……まあ、そう、なる……か?」
理論的に言うとそうなる……のか?
「なら話は簡単だなっ!」
ベルナージュが俺めがけて、びょんっ! と飛びついてくる。
彼女の全体的にぷにぷにと弾力ある体が、俺の体に当たってくる……。
「ワタシはこの体でだーりんをメロメロにするのだっ!」
むぎゅーっと、まるで動物のように、ベルナージュが俺の体にしがみついてくる。
む、胸や太ももが、押しつけられて……気持ちが良い……。
「ワタシはおまえ様の子供が欲しい。今すぐにでも抱いて欲しい。しかし大好きなだーりんがワタシのこと好きになってくれないとだめとゆーなら、だーりんが好きになってくれるように頑張るだけなのだっ!」
……この子は、エステルとはまた別のタイプで、前向きなのだろう。
「おまえ様はおっぱいと髪の毛が好きと聞いた! しゃぶっていいぞっ!」
「おいそれ誰から聞いた!?」
「エステルからなのだ!」
あとであのアホにはキツくお説教しておこう。
「しゃぶって!」
「しない!」
「遠慮せずになのだっ」
ベルナージュが長いサイドテールの先をつまんで、俺の鼻先につきつけてくる。
エステルの、蕩けるような甘い匂いとはまた異なり、むせ返るほどの甘酸っぱいにおいだ。
「ワタシの髪をおかずにしていいぞ!」
「おいエステルてめぇえええええええええええええええええ!」
それは黙っておけっていったのに!
「呼んだかいひかげくん!」
すぱーんっ! と神社の扉が横にスライドする。
「おっと行為の最中だったか! こりゃすまない。どうぞ続けて」
「違えよ! おいベルナージュ降りろ!」
「いやだっ! せっかくだーりんが、ワタシにこーふんしてくれてるのだっ! もっともっと気持ちよくなってもらいたいから、降りたくないのだ!」
ああくそ面倒だ!
「ほうほう。ひかげくんはああいう体勢が好き……と。ひかげくん! 今晩はその体勢でやろうぜ!」
「じゃあワタシは今夜ふたりの営みを見学し、だーりんがどんなことされると喜んでくれるか勉強するのだ!」
「おっ、いいよ~。おいで~」
「来るなぁああああああああ!」
……その後、俺はアホ二人に説教した。
しかしふたりは、俺が何に怒っているのか、理解してないようだった。
つ、疲れた……。