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48.暗殺者、故郷へ帰りもう一匹の黒獣を取り込む



 義母くれないが来た数日後。


 俺の元に、火影の暗殺者が伝言を持ってきた。


【現当主・焰群ほむらシンラが死亡した】


 俺の親父は、グレンの毒に体をおかされていた。

 すでに瀕死の重体だった親父は、ついに息を引き取った……とのこと。


 親父の訃報を受け、俺は火影の関係者、つまり妹のひなたと、くれないを連れて、里帰りすることになった。


 留守中の村の警備は式神たちに任せている。


 本体である俺より数段格が落ちる式神でも、普通の人間や魔物からしたら、桁外れに強いからな。


 警備には十分だ。


 それに今は黒獣を危険視してか、あまり人が近寄ってこない。

 このまま厄介ごとが起きないといいのだが……。


 さて。


 闘気オーラで影転移を使って、火影の里まで一瞬で帰った。


「ヒカゲ様!」

「当主様!」


 火影の暗殺者たちが、熱狂的なまなざしを向けてくる。

 ……どうやら、俺が次期党首を継ぎにやってきたと勘違いしてるようだ。


「……くれない、みんなを集めておけ」

「旦那様♡ かしこまりましたぁ~……♡」


 うっとりとした目を向けるくれない。

 こいつの年齢は32(15歳の時にグレンを産んだ)。


 元々年齢を感じさせないほど若々しかった。


 だがヴァイパーが何かしたのか、魔法薬でも使ったのか、さらに見た目が若返っているようであった。


 20代前半くらいの美貌を手に入れていた。


 それでいて人妻特有の色気と官能的な肉体を持っている。


 ……いかん、何を他の女に見とれているんだ。

 俺はエステル一筋なんだ。


 くれないに火影の民を集めるよう指示した後、俺は親父の屋敷へと向かう。


 俺がここに来たのは、まあいちおう最後くらい親父の前で手を合わせておこうと思ったことが1つ。


 もう1つは、今抱えている厄介なこの【次期党首】問題だ。


 これについての解決方法を、強引だが思いついたのである。


 さて。


 俺とひなたは、親父の屋敷へと向かって歩く。


 ひなたの表情は暗い。


「……どうした?」

「いえ、せっしゃ……あの屋敷に、というかあの父に良い思い出がないですゆえ」


「……そうだな。俺も、おまえも、母さんも、みんなあの男に酷いことされたもんな」


 俺たちの母は、父の妾だった。

 親父はあまり良い親とは言えなかった。


 本妻であるくれないばかり優遇し、妾である母さんにいつも暴力を振るっていた。


 母さんが虐げられた原因は、実は俺にある。


 母さんは影呪法を受け継いだ子供を産んだ。だが生まれてきた子供が、あまりに貧弱(ハッキリ言って雑魚)だったからだ。


 いくら影呪法を使えるとは言え、当時の俺は本当に弱かった。ゆえに出来損ないを産んだと、母が虐げられる結果となったのだ。


 母と俺は父から酷い扱いを受けた。

 血が繋がっているはずなのに、親父からは肉親という扱いを受けてこなかった。


 その後母さんはひなたを産んだ後、大病を患い死亡。


 母さんが死んだときでさえ、親父は母さんの悪口を言っていた。


 残された俺とひなたは、親父からの体罰や罵倒を相変わらず受けながら育った。


 だから俺も、そしてひなたも、親父のことがきらいだった。


「死んでせいせいするでござる」


「……まあ、同感だな」


 そんなふうに歩いていると、親父の屋敷が見えてきた。


 ズキンッ……!


「ぐっ……!」


 俺は胸を押さえて、その場にしゃがみ込む。


「あ、兄上っ。だいじょうぶですかっ!?」

「……ああ。黒獣がうずいてな」


 ひなたが気遣わしげに俺を見てくる。

 俺は立ち上がって、ふぅと深呼吸。


「……おそらくこの中にいるもう一匹の黒獣に反応してるんだろうな」


 もう一匹の黒獣。

 つまり、親父の中にいるそれのことだ。


 影呪法の力の大本である霊獣。


 俺も親父も影呪法が使えた。

 つまり、親父の体にも、俺と同様の黒獣が備わっているのである。


 黒獣同士が共鳴しあっている……のだろうか。


「……ひなた。おまえ外で待ってろ」

「兄上……?」


「……万一に備えてだ」


 霊獣は、持ち主の肉体が滅ぶと同時に消滅する。

 ……裏を返すと、死体がまだある状態だと、やつの体の中には、まだ黒獣がいる可能性があった。


 俺はひなたを残して、屋敷の中に入る。


 親父の死体が安置されている場所までやってきた。


「…………ひさしぶりだな」


 布団に親父の死体が寝かされている。

 顔に白い布がかけられていた。


 俺は親父のそばへと近づいた……そのときだった。


 ……ドクンッ!


「ぐっ……!」


 俺の中で黒獣が暴れ出す。

 すると共鳴するように、親父の死体もまた、ビクビクと動き出したではないか。


 親父の体から影が吹き出す。

 それは死体を包み込むと、やがて1匹の獣の形を取る。


 見上げるほどの大きさの、漆黒の獣。


 親父は【黒獣】へと変化していた。


【GURURUU…………】


 親父が黒獣化した……か。

 やはり……。


【GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!】


 両手足をついて、獣の体勢を取る親父。


 そして黒獣となった親父が、俺めがけて突っ込んでくる。


 俺は生身の状態のまま、影で刀を作りだし、片方の手を伸ばす。


 闘気を飛ばす。

 親父はビクゥッ……! とその場から動けなくなった。


 吹っ飛ばされないだけ、そこら辺の有象無象とは違うか。


 俺は素早く影転移し、親父の背後に回る。

 刀に闘気オーラを混ぜ、親父の背中を切りつける。


【闘気】で強化することで、概念すら切れるようになっている。


 親父は黒獣化している。つまり影そのものになっている。

 だから通常攻撃は無効化される……。


 だが闘気を使える俺には、それは無意味だった。


 俺からの攻撃を受けた親父が、悲鳴を上げてのたうち回る。


 俺は悠々と刀を振り上げて、2撃目を食らわせようとする。


【GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!】


 親父はしっぽを9本に分裂させる。

 しっぽの尖端を刃に変えて、俺めがけて飛ばしてくる。


 俺は刀を振らない。

 しっぽは俺に届く前に止まる。


 闘気がバリアの役割を果たしているのだ。

 困惑する親父に、俺は歩いて近づく。


【GU……!】

「……逃がさねえよ」


 影転移で逃げようとした親父にめがけて、闘気を飛ばす。


 先ほどより強く闘気を飛ばした結果、親父は屋敷の外へと吹っ飛ばされる。


「なんだ!?」

「あれは当主様!?」


 外で火影の里の人間たちが騒いでいる。


 俺は影転移を使い、親父の頭の上に出現。

「ヒカゲ様だ!!!」

「おおっ!! すごい! 一瞬で出現したぞ!」


 俺は注目を浴びてしまっていた。

 ……騒ぎが大きくなる前に、さっさと処理するか。


 黒獣は俺を振り落とそうと、やたらめったら暴れまくる。


 俺は刀を4回、軽く振る。

 それだけで黒獣となった親父の四肢が吹っ飛ぶ。


 俺は親父の頭から降りると同時に、親父の首を切断した。


「な、なんだ!?」

「何が起きてるんだ!?」

「は、早すぎて見えねえ!」


 ギャラリーがびびっている。

 ……なんかやりにくいな。


 まあいい。

 俺は刀を構え、何度か振る。

 すると黒獣の体がバラバラになる。


 後は影喰いで親父の死体を食らう……と。

「「「…………」」」


 その場にいた全員が、唖然としていた。


 なんだ、その反応は……?


「兄上ー!」

「旦那様ぁっ!!!」


 だっ……! と妹と義母が、俺の元へやってくる。


「すごいです兄上! 一瞬で黒獣が消えました! すさまじい早業!」


「さすがです旦那様……♡ 素敵……♡」


 ……ああ、そうか。

 一般人には、俺の動きが速すぎて、何をやったのか目で追えなかったのか。


「さすが当主様!」「新たな当主様の誕生だ!」「最強の当主を据えて、火影は安泰だなぁ!」


 やんややんやと火影の民たち。

 

 ……ちょうど良い。

 今ここで言うか。


「……おまえら、聞け」


 俺は火影の人間たちに言う。

 ピタッ……! とギャラリーが黙り、俺の言葉に耳を傾ける。


「……俺は、当主にならない」


 里の人間たちが「そんな!」「お願いします!」「あなた様しかいないのです!」と全員土下座して懇願する。


 ……ちょっと前までは、出来損ないだの何だの言ってきたやつらが、調子の良いことだ。


 まあどうでもいいのだが。


「……聞け。俺は正妻の子じゃない。だから当主を継ぐ資格がない」


「し、しかしくれない様の子供であるグレンは死亡したので、あなた様しかいないのでは……?」


 民の言葉に、俺は首を振って答える。


「……いや、聞け。正妻の子どもはいないが、正妻は存命だ」


 俺はくれないに命令する。


 俺の前に、くれないが立つ。


「……今日からこの女が、おまえらの新しい当主だ」


 俺には村の守り神の役割がある。

 だから火影の統率なんて取る暇は無いのだ。


 それをこのくれないにまかせようというのだ。


「……正妻の子供がいない以上、正妻であるこいつが火影当主になるべきだろう」


「し、しかし……くれない様は、ヒカゲ様のように【影呪法】を使えないではありませんか」


 当主になる条件の一つに、ある程度の強さの影呪法を持っていることがある。


 突っ込まれることはわかっていた。

 だが俺は仕込み済みだ。


「……くれない。見せてやれ」


「かしこまりました、旦那様♡」


 くれないはうなずくと、手印を組む。


 するとくれないの影から、何本ものの影の触手が出現した。


「おおっ! 織影の触手だ!」


 その後もくれないは、10ある影呪法のうち、月影黒獣狂化、以外の技をやってみせた。


「すごい! くれない様も影呪法を!」


 ワッ……! と沸き立つ民衆。


 ひなたがすすっ、と俺に近づいてくる。


「……兄上、あれはいったい?」

「……単純だ。くれないの影の中に、ヴァイパーがいるんだよ」


 ヴァイパーは俺の式神だ。

 俺と深くリンクしているからだろうか、やつも影呪法を使える。


 くれないの影にヴァイパーを仕込ませる。

 義母が術式を使う、と見せかけて、本当は影の中のヴァイパーが術式を使っているという。


 こうすることで、本当にくれないが影呪法を自在に操っているように見えるというわけだ。


 単純すぎるトリックだった。


「……見ただろ。くれないは術式を親父の魂から受け継いだんだ。資格として十分だろ?」


 俺が言うと、ワッ……! と里の人間たちが沸き立つ。


 くれないコールが始まる。


 俺はくれないを残して、その場を後にする。


「……これで面倒はあの女に任せられるな」


 それに里の暗殺者たちを使えば、国外や国内の情勢を知ることもできるだろう。


「さすがです兄上。当主問題を鮮やかに解決しただけにとどまらず、諜報員も確保するとは! さすがでございますー!」


 ひなたが俺の腕にダキッ! と抱きつく。

「……別に、たいしたことしてねえよ」


「いいや! 兄上はすごい! 尊敬します! せっしゃ、兄上の妹であることを、誇りに思いますでござるー!」


 俺ははぁとため息をついて、その場を後にする。


 それと今回、俺はもう1匹の黒獣を手に入れた。


 そのおかげで黒獣がさらに進化し、一段上の強さと能力を手に入れたのだった。

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