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43/119

43.暗殺者、クズ兄に圧倒的な力の差を見せつける


 火影の暗殺者たちを撃退したその数日後。

 結界内に侵入者があった。

 入った瞬間、迎撃システムが作動。


 侵入者は影領域結界の中へとワープされた……が、その後何らかの手段を使って、結界の外へ出たらしい。


 結界内に送り込まれた時点で、三流以下の雑魚であることは確定している。(手練れの魔神なら結界に送られる前に逃げる)


 俺はそこまで危機感を持たぬ状態で、侵入者の元へと【影転移】。


 場所は【奈落の森(アビス・ウッド)】の中。

)】の中。


 いつもの神社の境内にて。


 そこにヤツがいたのである。


「……グレン」


 俺の腹違いの兄、焰群ほむらグレンがそこにいたのだ。


「よぉ。ひさしぶりやなヒカゲ」


 俺より背が高く、顔もまあまあ整っている。

 チャラチャラした印象はあるものの、女に受けそうな見た目と服装をしている。


「なんやおまえ、まだ生きとったんやなぁ。おまえ火影の中で一番の雑魚やったから、とっととくたばっとる思ったら、なんやしぶとくいきとったんやな。ゴキブリみたいになぁ~?」


 グレンがニタニタと笑いながら、饒舌に語る。


 こいつにバカにされているからといって、俺は何も感じなかった。


 俺にとってのこいつは、家族でも何でも無い。


 むしろ小さい頃からずっといじめられ、蔑まれ続けた……いじめっ子の赤の他人という感じである。


「……それで、何のようだ?」


 まあ大方の予想はついている。

 妹のひなたから、俺は情報を仕入れていたからな。


「決まってるやろ? おまえを殺しにきたんや」


 邪悪に笑うグレン。

 ……だが、まあ俺からしたら、滑稽この上なかった。


 殺す? こいつが……俺を?


「……何の冗談だよ」


 ついぽろっと、本音が出てしまった。


「あ゛ぁあ!? なんやねんその態度はよぉ!! クソ雑魚ゴミ虫のくせにしゃしゃっとるんやねーぞごらぁ!!!!」


 グレンがすごむ。

 ……だがまあ、別にという感じだった。


 グレンからは何も感じなかった。

 こいつは【闘気オーラ】を習得していないらしい。


 魔神たちは基本的に、闘気を呼吸するかの如く使用する。

 怒りの感情をあらわにするだけで、ひしひしとその【闘気オーラ】を感じ取ることができる……のだが。


 こいつからは闘気をまるで感じなかった。

 闘気を身につけ、竜神王ベルナージュと出会い、数々の魔神を倒してきた俺からしたら……。


 グレンなど、もはや赤ん坊どころか、地を這うミミズと同じくらいにしか思えなかった。


「ヒカゲ。オレはおまえを今日殺す。見ろおぉ!!!!」


 ボッ……! とグレンの体から炎が上がる。


 グレンの炎の形は竜だったと記憶している。


「SHAOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 炎は9つの首を持った竜になった。


 ……1つだったような気がしたんだがな。

「どぉーーーーーーーーーだぁ見たか! 魔神シュナイダー様に邪血をもらいパワーアップした! オレの炎……九頭竜だぁ!」


 勝ち誇った顔のグレンを見ても、俺は特に何も思わなかった。


 だがヤツは今、気になる発言を2つした。

【シュナイダー】。そして、【邪血】。


 ……シュナイダーという単語に聞き覚えはない。

 だがご丁寧にシュナイダーが【魔神】であると、グレンは俺に教えてくれた。


 魔神は、人間に干渉しているのか……?


 ベルナージュを除く他の魔神たちは、人間のことにあまり関心が無いのだと思っていた。


 なぜなら人間たちが魔神によって滅ぼされていなかったからだ。


 魔神たちが本気で人間を征服したいと思っていたのなら、とっくに地上は魔神によって制圧されているだろう。


 そうなっていないのは、魔神たちが人間に興味が無いから……と思っていたのだが。

「……魔神、シュナイダーか」


 魔神が人間たちに干渉し始めている……? 厄介ごとの気配を感じるな。


 そしてシュナイダーから、グレンは【邪血】を注がれているといった。


 邪血。飲めば進化をもたらす特別な血。


 現在邪血はミファしか持っていない。


 だのに、シュナイダーは邪血を仕入れていた。ミファから取ったのか……?


 いや、ミファ目当てにやってくる魔神たちは、俺が全部撃退している。


 ならミファ以外の、邪血を持っているヤツがいるってことなのか……?


「おいヒカゲ! おまえ聞いとるか!?」


 グレンがいらだたしげに吠えている。


 ……まあ、だからなんだって感じだが。


「どうや! すごいやろ! びびったやろぉ!? 命乞いするなら楽に殺してやるで~?」


「…………」


 俺は……呆れた。

 この期に及んで、グレンは俺に勝てると思っているようだったからだ。


「オレは邪血でパワーアップしとる! みろやこの9匹の竜! 1匹でも最強やのに9匹もおるんやで! どーーや、すげーやろーーーーーーーー!」


 はぁ……と俺は深々とため息をついた。


 おめでたいヤツだ。

 いくら異能力を強化したところで、【闘気】を使えなければ、闘気を使えるやつとまともに戦いにならないというのにな。


「なんやねんその顔! もっと絶望しろや! 助けてって惨めに叫べやごらぁ!」


「……おまえに二つ選択肢をやるよ」


 俺はグレンに指を2本出す。


「……この場を引くか、俺と戦うか」


 俺は静かに闘気を練る。

 会話の片手間に闘気を練れるようになるまでになっていた。


「ここで逃げて、二度と俺の前に姿を現さないと約束するなら、見逃してやるよ」


 俺の闘気はすでに魔神を4柱飲み込んでいることでそこそこの量になっている。


 もっとも竜神王ベルナージュにはまだ歯が立たないが……。少なくとも人間相手に引けを取ることはなくなった。


「……なんやねん」


 ぷるぷる……とグレンが体を震わせる。

 

 その目には怒りの炎が浮かんでいた。


「おまえ何様のつもりやねん! 雑魚のくせに! 妾の子のくせに! なーーーーに調子のってんねん!!!!」


 グレンが呪力を高める。

 ……ああうん、呪力ね。


 闘気を出している相手に闘気を出さない時点で、こいつは何もわかっていなかった。

 彼我の実力差を、まるで理解してないらしい。


「ぶっ殺してやるわ!」


 9つの竜が、口を大きく開く。

 9つの顎に炎の球……炎玉が出現。


 それは超高密度、高温の炎の玉だ。

 あれに当たったらひとたまりも無いだろう。


ねや! この出来損ないがぁああああああああああああああ!!!」


 グレンの命令で、九頭竜が炎玉を撃つ。


 9つのそれが1つに合体し、俺に向かって襲いかかる。


「ハッハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!死ねやぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 炎玉は俺の元へ来る前に……一瞬で消え去った。


「ハッハー……………………………………………………は?」


 ぽかーん、とグレンが目と口を大きく開く。


「ど、どないなっとんねん!?!?」


 グレンが額に大汗を垂らしている。


 ……タネを明かすと簡単だ。

 炎玉が俺の【闘気】にぶつかって、消滅したのだ。


 闘気は超高密度の生命エネルギーだ。


 それは魔法や物理攻撃すらも、容易く凌駕するほどの、莫大な量のエネルギー量を秘めている。


 グレンの炎は俺の出す闘気によって、かき消されたのだ。

 闘気は闘気でしか打ち破れない。


 魔神との戦闘での基礎だ。

 そんなのも知らないようだ、この兄は。


 ……いや、魔神との戦闘って。

 それじゃあまるで、俺が魔神みたいじゃないか。


 俺が物思いにふけっている間も、グレンは何度も、俺に向かって炎を撃つ。


 だがそれらはすべて、俺の闘気の膜によって防がれていた。


「魔法か!? 防御スキルか!? どないなってんねん!」


 ……見当違いも甚だしい。

 

「……そんなもの使わなくても、おまえの攻撃は弱くて通らねえよ」


「ふざ……ふざけやがってえ!!! おい九頭竜! いけ! やつを丸呑みにしろ!!!!!」


 グレンが九頭竜に命じる。

 9匹の竜が、俺めがけて飛翔する。


 しかし……。


 ボッ……! と、闘気に触れた瞬間に消滅したのである。


「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?」


 グレンが驚愕に目を見開く。


「ば、バカな!? 嘘や!? こ、これは嘘や何かのインチキやぁああああああああああああああ!!!」


 グレンがまた呪力を練って、9匹の竜を生み出そうとする。


 俺は片手をグレンに向ける。

 ほんの少し、闘気をグレンに飛ばす。


 グレンの炎がかき消える……どころか。


 グレンは背後へ吹き飛び、大樹の幹に体をぶつけた。


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 グレンがその場にしゃがみ込み、大きな泣き声を上げる。


「骨が! 骨がぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! ゲホッ! ごぼっ!」


 ……もろい。

 なんてもろさだ。

 

 あの程度で吹っ飛ぶなんてな。

 それに骨が折れるだって? もろすぎる……。


 あんなの攻撃のウチに入らない。

 ただ闘気をちょっと飛ばしただけだ。

 それでこの大騒ぎとは……。


「ひぃ……ひぃ……あ、あかんかった……部下の報告は、ほんまやったんやぁ~……」


 グレンが眼に涙を流しながら、赤ん坊のように、よちよち歩きで逃げようとする。


「ひ、ヒカゲは思った以上にバケもんやった……あんなん……あんなんもう人間やない……。人間が適う相手やないんやぁ……」


 ……またバケモノ扱いされた。

 まあ、闘気を自在に操れてる時点で人間じゃないか。


 逃げようとするグレン。

 まあ、痛めつけたし、実力差も思い知っただろう。


 これなら放っておいても問題ないか……と思ったそのときだ。


「しゅ、シュナイダー様!?」


 グレンが急に動きを止めたのだ。


「いっ、いいえっ! け、決して逃げようだなんて思っておりません!!! ほんまです!」

「…………?」


 周りには誰もいない。

 ……どうやらグレンはシュナイダーと、念話テレパシーかなにかで会話しているようだった。


「そ、そんな殺生な! お、オレに死ねっていうんですか!?」


 グレンが涙と鼻水を流しながら、魔神と会話している。

 

「い、いやです死にたくない! 死にたくありませ……ぎゃぁあああああああああああああああああああああああ!!」


 グレンの体全身が、炎に包まれた。

 ややあって……グレンは九頭竜へと変化していた。


「……霊獣化か」


 俺の【月影黒獣狂化】同様、体を霊獣に明け渡す最終術式だ。


 火影の人間は皆あれが使えるのである。


【ヒカゲ……ヒカゲぇええええええええええええええええええええ!!!】


 九頭竜が俺を見て吠える。

 どうやら意識は吹っ飛んでないようだった。


 自爆術式を使うと、意識が霊獣に乗っ取られるんだがな。

 邪血によるパワーアップのおかげなのだろうか。


【おまえのせいでオレの人生はめちゃくちゃや! 死ね! 苦しんで死ねやぁああああああああああああああああああ!】


 九頭竜と化したグレンが、俺に向かって飛んでくる。


 ……さすが火影の霊獣。

 俺の闘気を受けても、さっきみたいに吹き飛ばなかった。


 九頭竜の頭が、俺に向かって突撃してくる。


【くたばりゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!】


 パシッ……!


【あぁああああああああ!?!?】

「……こんなもんか」


 俺は九頭竜の鼻先を、片手で掴んで止めていた。


 九頭竜は俺に受け止められ、完全に動きを停止していた。


【な、なんやなんやなにをしたんやーーーーーーーーーーーーー!】


「……なんもしてねえよ」


 闘気で体を強化し、掴んだ。

 それだけで、邪血でパワーアップした霊獣は、動きを封じられたようだった。


 掴んでいる部分も炎なのだが、俺の体にはいっさいダメージが入らない。

 闘気の鎧が、炎を防いでいるのだ。


【ば、バケモノめ! ほんまおまえ人間ちゃうぞ!?】


「……失礼なヤツだな」


 俺は影で刀を作る。

 こいつ相手に、鬼神刀は必要ない。


【ハッ! バカかおまえ! 炎の竜に実態なんてあらへんわ!】


「……そうか」


 俺は九頭竜の首の一つを、斬る。


【ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!】


 のたうち回る九頭竜……いや、もう8つ頭か。


【ど、どないなっとんねん!?】


「……闘気を刀にまぜただけだ」


 闘気の攻撃は炎や雷など、実体のないもの相手でも有効なのだ。


 やろうと思えば、俺は魔法を切り落とすことができるだろう。


【し、信じられへん!? 無敵の九頭竜が!】

「……この程度で無敵を名乗るな」


 俺は九頭竜から手を離す。


【しめた! これで逃げれ………………れ? れれ……????】


 俺は用事を終えて、影の刀を消す。


【な、なんれ……? 体……ばらばら……に? 何……され………………】


 俺の目の前には、体をバラバラに切断された九頭竜がいた。


 こいつは、俺の動きを目で追えていないようだった。


 手を離し、刀でこいつの体を切り刻んだ。それだけだ。


 それを超高速でやっただけ。

 この程度の速度ですら、グレンは目で追えなかったと。


【ばけ……もん、が……】


「……おまえが弱すぎるんだよ」


 俺はグレンを見下ろす。


【うそ……やろ……。おまえ……昔は……あんな弱っカスだったのに……おまえ……どうして……そんな……強ぉなった……?】


 グレンの問いに、俺は答えない。

 答える義理も意味も無いからな。


【いや……や……死にとう……ない……お、オレは火影の……頭領になる……男……や…………………………】


 そう言って、九頭竜は絶命した。

 俺は腹違いとは言え兄を殺したというのに、何の感慨もわかなかった。


 まあ命を狙ってきている時点で敵だし。

 こいつからはずっと虐められ続けてきたしな。


 ……それでも、兄を殺したら、何かを感じるかと思ったのだが。


「…………」


 いや、深く考えるのはやめておこう。

 俺は【黒獣食い】を発動。


 九頭竜の遺体を、黒獣が食った……そのときだ。


 ……ドクンッ。


「ぐっ……!」


 俺はその場に膝をつく。

 心臓が……早鐘のように脈打っている。


「なんだ……?」


 ーー血だっ! 古き神の血だぁぁああああああああああああああああああああ!


 ……俺の体の中で、黒獣が歓喜に吠えていた。


 古き神の血……?


「ぐっ……くっ……!」


 黒獣が体の中で暴れ回る。

 俺は必死になって黒獣の力を闘気を使って静めようとする。


 ……ややあって、黒獣の動きが止まった。

「はぁ……はぁ……な、なんだったんだ……今のは……?」


 俺は額の脂汗を拭う。

 体に変化は……特にないようだった。


 さっきまでウルサかった黒獣も、今は体の中でおとなしくしている。


「……一体全体、なんだっていうんだよ……」


 かくして兄を倒した俺だったが、新たな疑問が浮上した。


 新たな魔神シュナイダーとは。

 邪血の出所。

 そして黒獣が活性化した理由。


 ……面倒ごとが、増えそうだった。


 俺は単に、静かに森の中で、愛しい人と過ごしたいだけなのにな。

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