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04.暗殺者、モンスターの大群を余裕で殲滅する



奈落の森アビス・ウッド】の森の中で、俺はエステルと、何年かぶりの再会を果たした。


 話はその十分後。

 俺はエステルたちとともに、【村】に向かっていた。


 エステル以外は気絶しており、俺の影式神・【影犬】の背中の上に乗っている。


「いやぁ、しかしほんと久しぶりだねぇ。ひかげくん、おっきくなったもんだ。お姉ちゃん嬉しいよ、うんうん」


 となりを歩くエステルが、腕を組んで言う。

 

 女性にしては長身。

 真っ白な肌にふわふわで長い金髪。

 エメラルドを彷彿とさせる瞳は、記憶の中のエステル姉ちゃん……もとい、エステルそのものだ。


「……エステルねえ……エステルもでかくなったな」

「ふふぅん♪ それはお姉ちゃんのおっぱいのことかなっ?」


 エステルが楽しそうに、両手で自分の大きな胸を挟む。


 当時まだつるペタだったのだが、今はもうばいんばいんだった。


「……ち、違えよ」


「気にしなくても良いよひかげくん。女子はね、男子におっぱいをガン見されるとうれしくなるものなのだよ♪」


「……そ、そうなのか?」


「そうだよ! たぶん」たぶんかよ。「少なくともお姉ちゃんは、ひかげくんにおっぱい見られて悪い気はしなかったよ! ほらもっと見ていいんだぜっ?」


 うりうり、とエステルが楽しそうに、俺の腕にしがみついていう。

 ぷるんとしたそれがう、腕に……やべえなんだこれ……。


「……なんでひっつく?」

「そりゃひさしぶりにお姉ちゃんの弟分と再会できたからだよぅ。しかもきみが【防人さきもりさま】だったとはねぇ」


「さきもり……?」


 聞き覚えない単語だった。


「なんだよ防人さきもりって?」


「んー……ごめん! お姉ちゃん長い説明するの苦手なのだ! すまんね!」


 にかっと笑うエステル。

 ああうん……エステルだ。

 このちょっとアホな感じ、まごう事なき彼女だ。懐かしさを覚える……。


「難しいことは【おばばさま】が教えてくれるはずだよ」


 ……そう。

 俺はその【おばばさま】とやらに用事があった。


 SS級モンスターを撃破した後。

 俺はこの森にかけられた【まじない】が、どうして解けてしまったのか気になった。


 エステルに聞いたところ、まじないの話は村の一番偉い巫女である【おばばさま】とやらしかわからないという。


 おばばさまがかけていた結界の魔法まじない。これがあったおかげで、村周辺の平和は保たれていた。


 しかしなぜだかまじないが切れた。


 結果、今までは寄りついていなかった、強力なモンスターが、村周辺(俺の住んでいる神社も含めて)に現れるようになったのだ。


 別に俺は影呪法が使えるので、自衛は可能。だが結界に頼っていた村人たちにとって、このままでは全滅の可能性が出てくる。


「…………」


「お? どうしたかねひかげくん? もうちょっとお姉ちゃんのビッグに成長したおっぱいを味わいたいのかね? よいよい健康な証拠だ! もっと触って良いよ!」


 にこにこーっと笑うエステル。


 ……彼女はあの村で暮らしているという。

 つまりこのまままじないが解けたままでは、エステルに危害が加わるかもしれない。


 それは、いやだった。

 だから結界が解けた原因を究明しようと、こうして俺は村へ向かっているのである。


「おーいひかげくん? 無反応はちょっとお姉ちゃんかなしいかな」

「あ、いや……ごめん」


「もうちょっとドキをむねむねさせてもいいんだよ?」


「ごめん何言ってるかわからねえ」


「きみのその若い欲望をお姉ちゃんの胸で発散させてもいいんだぜって意味。もんでもいいよ? もむ?」


「しねえよ!」


 ぐにぐにと自分の胸を押しつけるエステル。

 なんてでっかく育ったんだこの人は……。


「というかなんでそんなひっつくんだよ」

「んー、そりゃあひかげくんと久しぶりに会ったからだよ。お姉ちゃん、嬉しいんだ」


 にへっとエステルが笑った。


「あのときお姉ちゃんの前からひかげくんいなくなっちゃって、それ以降ずっと会えてなかったから。どうしてるかなって……ずっとずっと気がかりだったんだよ」


「…………」


 ……俺と彼女は、過去に交流があった。

 今からもうずいぶんと前。子供の頃、俺はエステルの住んでいる屋敷に、【任務】として潜り込んでいた。


 そのときに俺はエステルとともに同じ時間を過ごした。楽しい思い出だ。……だが、最後はとても悲しい別れ方をした。


「……ごめん」

「んー……えいやっと♪」


 エステルが立ち止まると、正面から俺をむぎゅっとハグする。


 か、顔になんかとんでもないものが!

 柔らかい……それに、なんだかとっても良い匂いが……って!


「もが……なにすんだよ……!」

「おおよしよし悲しかったんだね。もう大丈夫! お姉ちゃんが慰めてあげるから!」


 ……そのセリフは、子供の頃なんども、エステルから聞いた言葉だった。


 俺が落ち込んでいると、いつも抱きしめて頭をよしよしとしてくれた。


 ……本当に、懐かしい。


「落ち着いた?」

「……ああ」


 エステルが俺を離してくれる。

 彼女はニコッと笑うと、


「しかしひかげくんはかっこよくなったけど、中身はあのときのままだね。少し安心した」


「か、かっこよくなんて……なってないよ」


「いやいや~。なってるよ! ひかげくんちょーかっこよかった! さっきのドラゴンずばーん! ってやっつけるところとか!」


 しゅっしゅっ、とエステルが手刀で切るジェスチャーをする。


「背も伸びたし強くなったし……うんうん、きみがかっこよく成長しててくれて、お姉ちゃんとっても嬉しいぞ♡」


「ど、どうも……」


 なんでエステルが、俺の成長を喜んでくれてるのだろう。


 けど……まんざらでもなかった。というか、嬉しかった。


「さていこっか。もう少しいくとでっかい木が見えてくるから、その根元にお姉ちゃんたちの村があるの」


「でっかい木……なんてあるのか?」


 影探知は精度が低いと無機物までは探れないからな。村の中の構造とかは知らないのである。


「あるあるー。もうでっか過ぎてひかげくんちょーびっくりするよ。けど大丈夫! 後でお姉ちゃん待機してるから。お姉ちゃんのおっぱいクッションで受け止めてあげるから、安心して!」


 くいくい、と自分の胸を両手で挟んで、エステルが言う。


「い、いや、いらないよ」

「ひかげくんは照れやさんだなぁ」


 楽しそうに、エステルが俺の頬をつんつんとつつく。


 そんなふうにふたりで歩いていた……そのときだ。影探知にひっかかったのだ。


「エステル!」

「なに……わっ! ひ、ひかげくん!?」


 俺はエステルに覆い被さる。


「だ、だめだよひかげくん。お姉ちゃん確かに君のこと好きだけどまだ心の準備が……」


「アホなこと言ってないで伏せてろ」


 俺は警戒心を高めながら立ち上がる。


 今俺たちが通った後に、巨大な【蜂】がいたのだ。

 

「BURURUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」

「で、でっかい蜂だ! 人くらいある! しかも色が緑できしょくわるいよぅ……」


 エステルが青い顔をして言う。


「影犬、エステルを守れ」

 

 俺は影呪法のひとつ、【式影】を使って影の犬をもう2匹作る。


 1匹はエステルの護衛に。

 もう1匹は……式神の強さのテストに使う。


「だ、大丈夫なのひかげくん? 相手強そーだよ?」

「大丈夫だ。こいつはA級モンスター、【殺人蜂キラー・ビー】。今の式神なら……余裕で倒せる……はず」


 式神の強さは術者おれの強さに反映される。

 だいたい2ランクくらい強さが下がる。


 俺は少し前に、SS級を素手で倒せた。

 ならこの式神は、A級程度なら倒せる実力がある……ということだ。


「BUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUN!!!!」


 殺人蜂が目にもとまらぬ速さで動く。

 こちらを翻弄し、目を回したところでその毒針で殺すつもりだろう。


 残像というか、目で追えないスピードで動く殺人蜂。

 だが俺は、敵が早くてもあせることはなかった。


「殺せ、影犬」

「BAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!」


 影犬はすさまじい速さで動く。


 バツンッ…………!!!!


「う、うそぉ~……。あのでっかい蜂さん……ひと噛みで倒しちゃった……!」


 影犬は嗅覚に優れる。

 目で相手をおわないので、いくら敵が早く動こうと関係ないのだ。


「しかしA級を一撃か……もしかして2ランク落ちていてもSなのか……? いや、さすがにそれはないか……」


 けれどSS級を素手で倒せたんだから、SSS級もひょっとして倒せるんじゃ無いかって思ってしまう。まぁ、さすがにそれはないか。


 だって魔王レベルで強い魔物を、倒せるってことだから。


 それはつまり俺は、人類最強である勇者と同レベルのつよさをもっていることになるのだが……まあねえな。


「すごいよひかげくん! あんなでっかい蜂を一撃で!」

「喜ぶの早い。伏せてろ」


「なんで? ……って、ぎゃー! 蜂の大群だぁああああああああ!」


 数え切れないほどの殺人蜂が、俺たちめがけてやってきていた。


 ……俺はそこに違和感を感じた。

 魔物よけの結界が解けたから、魔物がやってくる。それはわかる。


 解せないのは……次から次へ、俺たちだけを狙ってやってきてるってことだ。


 だって俺たちの向かう先には、村がある。そこにはたくさんの人間えさがいるだろう。


 そんな【えさ場】がちょっと離れたところにあるのに、俺たちだけにここまで大群が押し寄せるのはおかしかった。


「なにか、引き寄せる物でもあるのか……?」


 いや、考えるのは後にしよう。

 

「どどどど、どうしようひかげくん!」

「大丈夫だ。俺に、任せてくれ」


 俺はすっ……としゃがみ込む。

 地面に、影に触れる。


 影呪法を使うには、呪力、つまり魔力を消費する。


 影呪法に使われる呪力は、影の面積が広ければ広い分だけ、消費量が少なくなる。


 俺のいるこの【奈落の森】は、超広範囲にわたって広がる、光の届かぬ密林だ。


 つまり影は腐るほどある。すなわち……


「俺の呪力は、この森に限って、無限だ」


 俺は式神を発動させる。


 ずぁあああああああああああああああああああああああ…………!!!


「うぁああああああああ! か、影の中からワンコの大群ができたぁ……!」


 殺人蜂に負けぬほどの、影犬の大群を俺は呼ぶ。


「ダメ押しだ。でてこい影鴉」

「こ、今度はカラスさんの大群だよぉ! ひかげくんがわくわく動物ランドだよぉ!」


 背後でエステルが意味不明なこと言ってるが、今はそれどころじゃない。


「殲滅しろ」


 俺の出した影犬、影鴉の大群が、いっきに殺人蜂キラー・ビーに食いかかる。


 バツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツバツ…………………………!!!!!!!


 犬も鴉も、片端から蜂を食い散らかしていく。

 圧倒的だった。


 こちらは無限に式神を作れる上に、出した式神も、1匹1匹かなりの強さを持つ(Aランク相当)。


「……Aランクの召喚獣を無制限に出せるとか、外の人間が知ったら仰天するだろうな」


 俺はもう緊張感は無かった。

 あとは作業だ。影犬と影鴉が蜂を残さず食っていく。


 ややあって。


「う、うそぉ……? あんな蜂の軍勢が、きれいさっぱり消えちゃってるよぅ……」


 エステルが目をむいてつぶやく。


「あんな強そうなモンスターを倒せるモンスターが、こんなたくさん……しかも全部ひかげくんが出したとか……すごい! すごすぎるよー!」


 キラキラとした目を、エステルが俺に向けてくる。照れくさかった。


「……しかしこれは手を打っておく必要があるな」


 予想以上に魔物が大量に出現していた。


 結界が解けている今、何か対策を講じないと、村にモンスターがおしよせることとなる。


「よし」

「ひかげくん? なにするの……って、また動物めっちゃでてるー!?」


 俺は影式神を、出せるだけ出した。

 呪力がほぼ無尽蔵なので、これだけ出しても痛くもかゆくもない。


 ある程度式神を出した後。

 

「おまえら、村周辺を警護しろ。A級以下のザコをこの村に一切近づけるな」


 式神たちはうなずくと散開する。

 後には俺とエステル、そして気を失っている2名のみ。


「ひゃぁー……ひかげくん、ほんとすごくなったんだねぇ~……」


 感心したように、エステルがつぶやいた。

「ど、どうも……。それより、いこう」

「うん! わかった! 道案内はお姉ちゃんに任せるんだ!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「なんで、ひっつくのか?」を二回も聞かせる必要はないと思います。
2020/03/31 17:16 退会済み
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