34.暗殺者、嫁ドラゴンと修行し更なる強さを手にする
竜神王ベルナージュの襲撃を受けた後。
「はぁ……はぁ……いいぞ、だーりん……最高、なのだぁ……」
「もう……勘弁してくれ……」
「あはっ♡ だーめ、もっとなのだ! もっといっぱいするのだ!」
「いやもう無理だって……もうできないから……」
「ワタシはまだまだ物足りないぞ! ほらだーりん立って! 立たぬなら無理矢理立たせるからな!」
「……ちょっと、休憩挟ませてくれって」
「だーめっ♡ さぁいくのだ……食らえ!」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!
……もちろん、夜の行為的なアレじゃない。
ここは【影領域結界】の中だ。
俺はベルナージュと【とある目的】のため、【結界】に二人きりで入っているのである。
俺はベルナージュからのパンチをもろに腹に受けて、吹っ飛んだ。
「ガハッ……! はぁ……はぁ……」
「おー! やるようになったな! 少しずつ【闘気】を出せるようになっている証拠だぞ!」
嬉しそうに、ベルナージュが俺に近づいてくる。
俺の目の前にしゃがみ込む。
……ホットパンツの隙間から、つるつるの……って、おい!
「だから……ぜぇ……はぁ……俺の目の前でしゃがみ込むな!」
「嫌なのだ! だーりんはこーするとドキドキしてくれるから嬉しいのだ! ワタシは嫁として、旦那様がこーふんしてくれるのが嬉しくてたまらないのだっ!」
えへへ~♡ と無邪気に笑うベルナージュ。
はぁ……と俺はため息をつく。
「……だからおまえは俺の嫁じゃないって」
「いーや! だーりんはワタシのだーりんなのだ! ワタシはおまえ様に身も心も時間も初夜も捧げるつもりなのだ!」
にかーっと子供のようにベルナージュが笑う。
しょ、初夜って……いやいや! 何を想像してるんだ俺よ!
「さぁだーりん立って! 【闘気】習得の修行はまだ終わってないぞ!」
ぐいっ、とベルナージュが俺の腕を引っ張り上げようとする。
……そう。
現在、俺はこいつに、【修行】をつけてもらっているのだ。
「……む、無理だって。体力の限界だ」
「しょーがないだーりんだなっ。よーし、ワタシが癒やしてやるのだっ!」
ベルナージュは俺の胸に、手を当てる。
竜神王の体が、淡く、発光し出す。
それはともすれば呪力(魔力とも言う)のように見える。
だが呪力は内側から外側へと流れていくのに対して、青い光は外側から内側へと取り込まれていく。
この青い光が【闘気】なのだそうだ。
ベルナージュは闘気を自分の腕を通して、俺へと流し込む。
俺へと闘気が入り込むと、俺の体が青白く発光。
その瞬間、俺の疲れが完全に吹き飛んだのだ。
「どうだ?」
「……すげえ。完全回復している」
俺は自力で立ち上がる。
体には力があふれかえっていた。
「……【闘気】ってすごいんだな。相手を回復させることもできるのか」
「そうだ! 自分を強くすることもできるし、相手を癒やすこともできる。ガードにも攻撃にも補助にもつかえる、すごい技術なのだっ!」
というのが闘気というものらしい。
「魔神と戦うのなら【闘気】を身につけることが最低限なのだ。でないと1秒も持たずに殺されるのだ」
俺は【闘気】の修行を初めて、その必要性を実感させられた。
……竜神王が俺の元へ来てから、すでに半月ほどが経過している。
この2週間、俺はヴァイパーが作った【影領域結界】で、ベルナージュからつきっきりで闘気の修行をつけてもらっていた。
ベルナージュが言ったのだ。
【おまえにはもっと強くなってもらわないと困る! だから修行をつけてやる!】
と。
有無を言わさず俺はベルナージュと修行期間に入った。
最初は修行いるか……? と思った俺だったが、ベルナージュと手合わせして痛感させられた。
最初、俺は竜神王を前に、手も足も出なかったのだ。
魔神は、ベルナージュは、異次元の強さを持っていた。
攻撃の速さ、強さ、質……が段違いなのだ。
俺が生きてきて戦ってきたどんなやつよりも、魔神は強かった。
そして強さの秘訣をきいたところ、魔神は全員【闘気】という特殊なエネルギーを呼吸するように、体内に取り込んでいるとのこと。
「闘気はすごいんだぞ! 取り込めばご飯食べなくても寝なくても元気いっぱいになれるのだ!」
と言うことで、俺は寝ずに竜神王から闘気の特訓を受けている次第である。
さて。
ベルナージュからまたひとしきりボコられて、俺はその場に倒れ伏した。
こいつとの修行は、【闘気】を可能な限り練る→ボコられる→回復させられる→【闘気】を練る……というすごくシンプルな修行方法だ。
しかしやってて気付いたのだが、【闘気】は使えば使うほど、体の中に貯めておける【上限】が増えてくのである。
からになるまで【闘気】を使い、また練ってからになるまで……と繰り返すことが、闘気を身につける修行の基礎練習、みたいだ。
「おまえ様! すごいぞ! ここまで飲み込みの早いやつは初めて見たのだ! 天才ってヤツだな! さすがワタシのだーりん!」
ベルナージュは目に♡を浮かべると、俺の腹の上にまたがってくる。
「さぁだーりん! 今度は下から【闘気】を流してあげるのだっ!」
ベルナージュがホットパンツを脱ぎ捨てて言う。
……その下には、何も身につけてなかった。
「おまえだから下着はけよっ!」
「いやだなのだっ! ワタシ下着きらいなのだ。あれはとてもきゅーくつなのだ!」
こいつあろうことか、ブラもショーツも着てないのである。
ただでさえ巨乳なのに、ブラつけなくて痛くないのだろうか……ってそうじゃなくて!
ベルナージュは俺に馬乗りになったまま、正面にぱたんと倒れてくる。
「なぁだーりん♡ 闘気の補充とともにきもちよーくなれるよ? ねーえー、子作りしょー?」
無邪気な瞳で、俺を見上げてくる。
とんでもなく張りのある、大きな乳房が、俺のむないたの上でグニグニと動く。
ベルナージュからは南国の花のような、強い甘い匂いがした。
乳房の感触と、濡れた肌のしっとりと吸いつく感触。
そして柔らかな女の体の感触に……俺は理性が解けそうになる。
だが……。
ーー脳裏に、エステルの笑顔がよぎる。
「…………」
俺は目を閉じて、すぅ……っと息を吸う。
だいじなのは呼吸の仕方だ。
特別な呼吸の方法があるのだ。
それを使うことで、大地に、空気に含まれる自然エネルギーを、体の中に取り込む。
この地に満ちる、純粋なる【生命】の力。それが【闘気】なのだ。
「おっ! おっ! いいぞっ! その調子だ!」
今までは闘気を、ベルナージュ経由で取り込んでいた(送り込まれていた)。
だが今……俺は自分の力だけで、闘気を取り込んでいる。
体に力が満ちる。
今までの何倍も何十倍も、何百倍も体に膨大な量のエネルギーがあふれる。
闘気を取り込んだ俺は、ブリッジの要領で、ベルナージュを押しのける。
ベルナージュは俺から飛び退く。
「いいぞだーりん! そのままバトルといこうじゃないかっ!」
ドンッ! とベルナージュが【闘気】を高める。
俺も再三におよび闘気を吐き出し流され続けたことで、自分の体の中に取り込める【闘気】の量が増大していた。
今俺は、竜神王と同等の闘気を、その身に宿している。
「いくぞっ! だーりん!」
だんっ……! とベルナージュが床を蹴って俺に向かってくる。
闘気を習得していなかった頃は、竜神王の動きを目で追えていなかった。
だが今は……はっきりと、このロリっこ魔神の動きを捉えることができる。
ベルナージュのタックルに、俺は両腕をクロスして待ち構える。
ぶつかり合う。
以前なら吹き飛んでいたが、俺は踏ん張れていた。
「そうだ! 闘気は全体に垂れ流すのではなく一カ所に集中させて使うのだ! こんなふうに!」
ベルナージュが両足に闘気を集中させる。
回し蹴り。
俺は両手に闘気を集めて、ベルナージュの蹴りを払う。
闘気が鎧となって、ベルナージュからの攻撃のダメージを防いでいた。
前に回し蹴りを払ったときは、俺の手の骨が全部折れた(その後闘気で元通りになった)。
ベルナージュは止まることなく、連続して蹴り技を食らわせてくる。
回し蹴り。サマーソルト。かかと落とし。
それは単なる通常攻撃だ。
だが闘気をまとうことで、1発1発が必殺技となる。
闘気を纏っていなかった頃は、ただのパンチで内臓を潰された。
魔神の前に闘気無しで立つということは、荒海に全裸で飛び込むのと同義だったな……。
「いいぞ! いいぞ最高だ! おまえ様は才能がある! 天才ってやつだ! ワタシもだーりんのふぃあんせとして、お鼻がえっへんなのだ!」
「……鼻が高いって言いたいのか」
「そうともいうな! さすがだーりん、物知りだなの!」
ベルナージュとの組み手をしながら、俺は会話する余裕があった。
闘気が使えることで、魔神と素手でやり合うことができるようになっている。
「よしだーりん! 今から卒業試験をやるぞ!」
ダンッ……! と地を蹴って、ベルナージュが俺から離れる。
「……卒業試験?」
「基礎をクリアしたかどうかをテストするのだ!」
そう言って、ベルナージュが右手を後に持って行く。
すると全身の闘気が、彼女の右手に収束していった。
「これは【闘気砲】という、闘気術の基本の奥義なのだ! 今からおまえ様はこれと同じことをして防ぐのだ! できたら合格だ!」
すさまじい量の闘気が、一点に集中していく。
空気がビリビリする。地面が揺れている。
誰が見てもわかった。
やつの次の一撃が、とんでもないものであると。
「……やり方教えろよ」
「闘気を集める! ぶっぱなす! 以上!」
……こいつ、教えるのへったくそすぎた。
だがこれが基礎の奥義というのなら、魔神たちは使えて当然の技術なのだろう。
「…………」
俺はベルナージュを真似て、闘気を手に集中させながら、考える。
ベルナージュは、自分を十二神将のひとりと言った。
詳細はわからないが……たぶん、こいつ以外の魔神が11人いるということだろう。
そいつらがミファを狙ってやってこないとは限らない。ならレベルアップできるときに、レベルアップしておかないと。
今回は……運が良かった。
たまたま最初に襲ってきたのがベルナージュだった。
ベルナージュに気に入られた。
それがどれだけ幸運なことだったか。
竜神王という、本物のバケモノと戦ったことで、己の幸運を理解した。
こいつから【闘気】を教わっていない状態で、他の魔神と戦っていたら……。
「よしっ! 十分たまったな! いくぞだーりん!」
ベルナージュが笑う。
黄金の瞳が、らんらんと輝いている。
そこには余裕が見て取れた。
たぶん手加減してくれている。
俺が闘気を貯めている間は、ベルナージュは貯めないでくれていた。
つまり手を抜いているのだ。
全力では……まだ勝てない。
だが……。
「いくぞ食らえなのだ!!」
俺はベルナージュをまねながら、手を前に突き出す。
「「【闘気砲】!」」
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
すさまじい衝撃とエネルギーが、俺の手から出る。
青い白い光線となって、俺とベルナージュとの闘気がぶつかり合う。
衝撃波が【影領域結界】を吹っ飛ばす。
ヴァイパーが最大出力の呪力をこめた結界を、衝撃波だけで破壊していた。
それどころか、森の木々を、まるで台風が来たかのように吹っ飛ばす。
……やがて、嵐が収まる。
俺たちが閉じ込められていたのは、奈落の森の中の一画。
鬱蒼と生い茂る木々の中だったはずなのに……そこに1本の木も生えていなかった。
「ぜえ……! はぁ……!」
俺は膝に手をやって、何度も荒い呼吸を繰り返す。
「すごい……すごいぞおまえ様!」
ベルナージュの声が前方からする。
彼女は……大の字になって、仰向けに寝ていた。
……全裸で。
「……おい」
俺はふらふらになりながらも、ベルナージュに近づく。
【織影】で毛布を作り、ベルナージュの体にかけてやる。
……つんと尖った桜色のそれと、ぷにっとした乳房が目に毒だった。
「最高……最高なのだ、おまえさまぁ~……♡」
目に♡を浮かべたベルナージュが、熱っぽくつぶやく。
「ワタシの1割の全力に、打ち勝ったのだ……♡ こんなやつはじめてなのだぁ♡」
あれで1割なのか……。
本気はどれだけ強いんだこいつ?
「誇ってくれだーりん。ワタシの本気の1割に負ける魔神は……4人くらいいる。つまりおまえ様は魔神を今の段階で4人は倒せるってことだぞ! すごいなっ!」
……こいつを含めて、まだ8人も上が居ることに、俺は絶望しかしなかった。
だが……たいした進歩だ。
だって今までの俺は、魔神の前で赤子同然だったのだ。
それが今、【闘気】を身につけ、魔神と同等の力を身につけかけている。
今はまだ基礎をクリアした段階に過ぎない。
これに影呪法を組み合わせたり、そして現状勝てる魔神を影喰いすれば……より強くなれるだろう。
だが何度も言うようだが、ベルナージュが【闘気】を教えてくれなかったら、俺は魔神たちと戦う強さを身につけられていなかった。
「……ありがとな、ベルナージュ」
それもこれも、この少女のおかげである。
「礼には及ばない。なぜならワタシはおまえ様の嫁だからなっ! さぁ子作りしようなのだ! 今のワタシはヘトヘトで動けないのだっ! 体を好きなよう、めちゃくちゃにしてくれなのだっ!」
……俺はベルナージュを無視して、彼女を持ち上げると、村へと帰還するのだった。
2週間も監禁(?)されていたしな。
エステルたちに無事を知らせに行かなければな。