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33.暗殺者、竜神王に求婚される


 村の厳重な結界を突き破り、やってきたその少女は、自らを【竜神王】と名乗った。


「ワタシは竜神王【ベルナージュ】というのだ。よろしくなのだっ」


 小柄な少女だ。

 ピンクの髪をサイドテールにしている。


 年齢は12歳くらいだろうか。

 大きくてつぶらな、まるで宝石のような黄金の瞳。


 よく見ると縦に瞳孔が割れている。

 口から除く八重歯が、なんともドラゴンらしさがあった。


 ベルナージュはホットパンツにタンクトップ、そして黒いマントを羽織っていた。


 見た目の幼さに反して、その胸は大きく、と太ももはムチッとしていて、体の端々から【女】を感じる。


 ベルナージュは一見するとかわいらしい女だ。


 だがその体内に内包する呪力量に……俺は思わず膝をついてしまう。


「おおっ! おまえワタシの呪力を感じ取れるのか! 【隠蔽(最上級)】で隠した状態のワタシの呪力を見抜くとは……すさまじいなっ!」


 俺は呪力を目に集めることで、相手の呪力を感じ取れるのだ。(極東では基本的な技術だ)


 俺も魔王やその配下を取り込んだことで、かなりの呪力量を手に入れた。


 しかしベルナージュは……その遥か上をいく。


 まさしく神の名前にふさわしいまでの、呪力量だった。


【ご主人様! 撤退すべきです!! ここを捨ていますぐに!】とヴァイパーが俺の影の中で警鐘を鳴らす。


 大賢者ヴァイパー。

 魔王の側近。


 魔法攻撃力なら魔王軍随一と言われた、最強の賢者が、なりふり構わず逃げることを選択し提案してきた。


 ……つまりそれほどまでに、こいつは強いってことだ。


「……ダメだ」

【なぜ!?】


 俺は影の中から、【鬼神刀】を取り出す。

「……守りたい人が後ろにいるからだ」


 エステルや、エステルが暮らす村、そこに住まう人々を、俺は背負っている。


 俺は逃げるわけにはいかないのだ。


 俺は、防人さきもり

 村の守り神だからだ。


 俺はいつでも戦えるよう、呪力を高めながら言う。


「いいなおまえ! ワタシの力を見てなお逃げないなんてな! 勇気のあるヤツだな! ナイス漢気おとこぎ!」

 

 ぐっ! とベルナージュが親指を立てて言う。

 

 なんだこの子供は……?


「……なんだよ、ナイス漢気って」


「父上がよく言っていたのだ! われら竜族のいさましい戦士たちが、いさましい行為をしたときにやるあれなのだと!」


 ……なるほど。

 さっぱりわからん。


「……それで、何のようだ?」

「おまえと戦いにきた!」


 ビシッ! とベルナージュが俺に指を突きつける。


「……どうして戦う? おまえもまた邪血を狙ってるのか?」


 魔王と同じで、こいつもまたミファを狙っているのかもしれないと思ったのだ。


 しかし予想に反して、ベルナージュがきょとん、と首をかしげる。


「【じゃけつ】ってなんなのだ?」


「…………」


 邪血狙いじゃない、だと……?


 バカな。じゃあなんでこのアホみたいに強い竜神王が、俺の元へ来たんだ……?


「……おまえ何しに来たんだよ」

「戦いに来たっていっただろうが! おまえはアホなのかっ?」


「……いや、だから戦う目的は何だよ」


「戦うためだ!」


 ……だめだこいつ話が、通じねえ! 


「……ええっとだな。おまえは俺と何で戦いたいんだ? 俺とバトルするからには、何か欲しいものでもあるのか?」


「お! おー! それな! ほしいものがあるのだ!」


 邪血じゃないとすると、こいつは何が欲しいんだ?


 ベルナージュは自分の胸に手を当てて言う。


「ワタシが欲しいもの……それは」


 くわっ! と目を見開いて言う。


「旦那さまだっ!!!」


 ……。

 …………。

 ………………はぁ?


「ダンナさま……って、結婚相手さがしてるのかおまえ」


「そうなのだ! わが一族は強いおとこつがいになるという取り決めがあるのだ! 自分より強い漢じゃないと結婚できないのだ! だから戦って強い漢を探してるのだ!」


 ……よくわからないが。


 こいつの話を真に受けるとすると、こいつが戦うのは自分より強いヤツを探すため。

 そして自分より強いやつとしか結婚できないから……と?


「……ふざけた理由で戦ってやがる」


「ふざけてなどいないぞ! ワタシは本気だ! 未来のだーりんを探してるのだ!」


 ……なんだろう、この竜神王。


 尋常じゃない呪力つよさに反して、中身がまるきり子供だぞ……。


「さぁおまえ! ワタシと勝負だ!」

「……俺、別におまえと戦う理由ないんだけど」


 俺が戦うのは人を守るためだ。


 だがこいつは俺以外を傷つける(戦う)気はないという。


 なら俺に戦う意味はなかった。


「うるさい! 戦えなのだ! でないと~~~~~! とりゃー!」


 ベルナージュが右手をぐっ、と握りしめる。

 

 ブンッ! とベルナージュが拳を天に向かって振り上げる。


「……!?」


 俺は目をむいた。

 今……時刻は夜。


 今日はあいにくの曇天だった。

 はず……なのだが。


「空が……割れてる、だと?」


 分厚い雲が、きれいさっぱりと無くなっているのだ。


 否、えぐれていた。

 雲の一部分だけが、まるで何かで削り取ったかのように消失しているのである。


 そしてもう一つ驚くべきことがあった。


「月まで……削れてやがる」


 満月が1/3ほど削れていた。

 

「おっとお月様まで削っちゃったのだ。ごめんなさいなのだ」


 ベルナージュが突き上げた拳を開き、そしてまたぎゅっ、と閉じる。


「!?」


 削り取られた月が、元通りの満月へと戻ったのだ。


「……バケモノ、か」


 冒険者たちが俺をそう呼んだ。

 ……だがそれは間違いだ。


 こいつこそ正真正銘のバケモノだ。

 俺なんて本物と比べれば、まだまだである。


「おまえが戦ってくれないとワタシはめちゃくちゃに暴れ回っちゃうのだ! あーあー! この星が大変なことになっちゃうのだ! おまえのせいで星がめちゃくちゃになっちゃうぞー!」


「……そうか」


 俺は鬼神刀を構える。


「……戦う理由ができた」


 こいつからは不思議と悪意を感じられない。

 さっきのあの力を使って、村人を人質に取ることもできるだろう。


 なのにしなかった。


 単に俺のせいで周りに迷惑かけちゃうぞとおどしているわけである(殺すとまでは言ってない。まあ結果的に人が死ぬだろうけどそこまで想像がいってない感じ)


 ただ暴れまくった結果として、村人たちの命に影響が及んでしまうだろう。

 

 だから俺はこの竜神王と戦うのだ。


「おっと待つのだ【神殺し】よ!」


 バッ! とベルナージュが右手を差し出す。


「……なんだ?」

「最初の一発は、くれてやるのだ!」


 ビシッ! と自分の親指で胸をさして言う。


「……どういうことだ?」


「そのままの意味なのだ。ワタシは誰と戦うときでも、まずは一発相手の攻撃を受けることにしてるのだ」


「……それは、なんでだ?」


「ワタシは攻撃を受けると、そのものが持つ【漢気】を測ることができるのだ!」


 俺は首をかしげる。


「だから【漢気】ってなんなんだよ」

「漢気は漢気だ! そんなのもわからないのか? おまえはアホだな!」


 アホにアホって言われた……。


「とにかく一撃受けさせろ。そうすればおまえがどの程度のおとこなのかわかる!」


 ……ようするに漢気とは男としての強さ的な意味合いだろうか……?


「……なめてるのか?」

「まぁな! だってワタシ強いしな!」


 ふふん、とベルナージュが胸を張る。


「だいたいのおとこは一撃を受けた瞬間、弱い漢気しかもたぬつまらないやつらばっかりなのだ。戦ってもだいたい相手は負けるのだ」


「……なるほど」


 と言って、これはチャンスだと俺は思った。

 こいつはどうやら、人間おれを見下しているらしかった。


 一撃目を受けてくれるそうだ。


「……障壁とか張るんじゃないか?」

「そんなことしないのだ。力を試してやるって言ったのだ!」


 ……なるほど。

 なら存分に受けてもらおうか。


「……ここだと村に被害が出る。場所を移動したい」

「かまわないぞ! ワタシはか……か……かんよーだからな!」


 影鷲馬ヒポグリフを作りだし、俺たちはそれに乗って、村から離れる。


 村から十分に距離を取った場所で降り立つ。


「……ここでいい」

「よーし! ばっちこいなのだー!」


 俺は鬼神刀を構え、そこに呪力を流し込む。


「……ヴァイパー。【能力統合・変質化】だ。鬼神刀に黒獣を宿せ」


「し、しかしあの【技】はまだ未完成の必殺技ではありませんか?」


「……かまわん。やるぞ」


 俺は片方の手で鬼神刀を持ち、逆の手で手印を組む。


 魔王を倒し手に入れた【能力統合・変質化】。これは二つ以上の能力を組み合わせ、別の能力を作るスキルだ。


 鬼神刀。切ると異空間に物体を送り込む。

 黒獣は、触れるだけで物体を喰らう。


 どちらも物体を削り取る最強の能力。

 それを掛け合わせることで……より強力な攻撃が可能となるのだ。


 ……だがその能力は、あまりに強力すぎて、完全に扱うことができない。


 だから今俺が打てる最大級の必殺技を打つ。


 鬼神刀に呪力と黒獣を宿す。

 刀身が闇のように黒くなっていく。


 呪力を過剰に込めた影響か、バリバリと黒い雷が爆ぜていた。


「……いくぞ」

「おう! こいやー!」


 俺は最大の一撃を、ベルナージュに向けて放つ。


 刀を、縦に振る。

 動作的にはそれだけだ。


 ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


 すると巨大な黒い刃が、衝撃波となって飛び出す。


 刃は地面だけでなく、周りの空間を飲み込みながら、ベルナージュへと殺到する。


 黒く輝く衝撃波が、ベルナージュの体に激突する。


 余波で森の木々が消し飛んでいく。

 すさまじい轟音だ。


「うぉおおおおおおおおお! いいぞぉおおおおおおおおおおおおおお! 最高だぁあああああああああああああ!!!」


 ベルナージュが何かを叫んでいる……が、こちとら何も聞こえなかった。


 ややあって、衝撃波が止まる。

 俺はその場に……前倒しで倒れた。


「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」


 完全に……制御できなかった。

 鬼神刀に宿した黒獣に、俺の持つ呪力すべてを吸い取られた。


 その呪力は攻撃力へと、すべて変換できなかった。

 黒獣に食われてしまったのだ。


「クソッ! ぶっつけ本番は……無理だったか……」


 俺は立ち上がろうとするが、無理だった。

 その場から一歩も動けない。


「……やったか?」


 俺は見上げる。

 するとそこには……。


 ベルナージュがいた。

 ぴんぴんしていた。

 そして……全裸だった。


「なんで、全裸?」

「…………」


 俺の問いに答えないベルナージュ。

 多分服が消し飛んだってことだろうか。


 逆に言えば、全力を出して、服を消し飛ばすことしかできなかったと言うことだ。


 悔しさが残る。

 ……俺は隠れて、手印を組む。

 こうなったら、俺もろとも、こいつを……と思った、そのときだ。


「…………」


 ベルナージュはしゃがみ込む。

 ちょうど俺の目の前に、こいつの下半身が……っておい!!!


 つるつるのあれが見えて……って違う違う!!!


「好き……♡」

「……は?」


 ベルナージュが、俺に熱っぽい視線を送り、そして俺の顔を掴む。


 そして俺の唇に、自分の唇を重ねてきた。

 果実のように柔らかく甘い口づけに、俺は戸惑うばかりである。


 ぱっ……とベルナージュが顔を離す。



「だーりん♡ やっと見つけたのだぁ♡」



「……はぁ!? だ、ダーリンだぁ!?」


 ベルナージュが目に♡を浮かべながら、熱っぽくつぶやく。


「だーりん。ワタシはやっと見つけたのだ♡ 運命の相手を……♡」


 熱っぽくベルナージュがつぶやく。


「待て待て意味がわからんぞ!」

「さっきの攻撃、とってもとっても、とぉ~~~~~っても、ナイス漢気だったのだ!」


 ベルナージュが恋する乙女のような表情で言う。


「あの漢気あふれる一撃に、ワタシはおまえ様の未来を見た!」


 ビシッ! とベルナージュが俺に指を立てる。


「おまえはもっともっと強くなる! 魔神を超越した力を手にする! 十二神将を越える最強の神殺しとなる!」


「……なんで、そんなことがわかるんだよ?」


 俺の問いかけに、ベルナージュが即答する。


「わかる! おまえ様の漢気あふれる一撃から、おまえ様の過去、現在、そして未来。すべてを読み取った!」


「……それは竜族に伝わる特別なスキルか何かなのか?」


「しらん! 女の……勘だ!」


 ……意味が、わからねえ。

 だがひとつだけわかったことがある。


 こいつ……マジだ。


「おまえ様♡ すきっ♡」


 ちゅっちゅっ、とベルナージュが俺のほっぺにキスをする。


「すきっ♡ すきすきっ♡ だぁ~~~~~い好きっ♡」


 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、とキスの嵐を喰らわせてくる。


「ワタシは強い雄が大好きだ♡ やっと見つけた……ワタシと並び立つ、いや! ワタシを凌駕する最強の雄を……それはだーりん、おまえ様だ!」


 全裸のロリ巨乳が、俺に抱きつく。

 そして俺の腹の上にまたがって言う。


「さぁだーりん! ワタシと子作りをしよう! 最強と最強の遺伝子を掛け合わせた……最強の赤ん坊を作るのだ!」


 こいつ何言ってるんだ……!?

 わけわからねえよ……!!


 するとヴァイパーが出現。

 良かったヴァイパー。俺を助けてくれるんだな!

 

「ベルナージュ様」

「なんだ貴様?」


「ここは外。夜の営みをいたすなら、室内のほうが落ち着いてできるかと」


 おいぃいいいいいいいいい。何言ってるんだこの変態エルフーーーーーーーー!


「それもそうだな! よしエルフ! だーりんとワタシが愛し合える場所へつれていけ!」


「かしこまりました」


 ひょいっ、とベルナージュが俺をお姫様抱っこする。

 ヴァイパーが先導する。


「……ヒカゲ様。とりあえず神社へ戻りましょう。今は体を休めるべきです」


 こっそりとヴァイパーが耳打ちする。

 良かった、こいつ変態だが、俺の体を気遣ってくれているらしい。


「……すまねえ」

「……体を十分に休めてからレッツ子作りです」

「少しでもありがとうって思った俺の気持ち返してくれない!?」


 ……かくして俺は危機を回避できた。

 なぜか知らないが、竜神王ベルナージュにすごく気に入られてしまったのだった。


 これから先、どうなることやら……

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