32.暗殺者、妹と村人たちと宴会する
妹が俺の元にきた、その日の夕方。
俺が拠点として暮らしている、奈落の森の中にある村、【木花開耶村】。
ここには見上げるほどの大樹、【神樹】がある。
神樹の根元には祠がある。
異空間となっており、人が住めるスペースになっている。
ここに巫女の少女と俺、そしてエステルたちが住んでいるのだ。
さて。
祠の中の大きな和室にて。
俺を含めた村人たちが、集結していた。
みな畳に正座している。
目の前には料理が並んでいる。
上座には俺と妹とミファ、そして深緑色の髪の幼女が座っていた。
10にも届かないあどけない表情。
巫女服を着崩している彼女は、【サクヤ】。
この村の村長だ。
「えーみなのもの。今日集まってもらったのは他でもないのじゃ」
サクヤが立ち上がって言う。
「今日はこの村に新しい仲間が加わったのじゃ。それを祝してみなで飲み騒ごう!」
「「「はーい!!!」」」
村人たちが返事をする。
比較的年若い女たちが集まっていた。
というのもここに集まっているのは【SDC】のメンバーだけである。
……もっとも、この1ヶ月でさらに、SDCは会員が増えていた。なにゆえ……?
「では新しき仲間に自己紹介をしてもらおう。ひなた」
「はいでございますっ!」
しゅたっ、と妹が立ち上がり、サクヤの前に移動。
「きゃー♡ かわいいー!」「ちっちゃあい♡」「お人形さんみたいー!!!」
ひなたがみんなの前に立つと、黄色い声が上がる。
ひなたは明るい笑顔で言う。
「えー! みなさん! はじめましてでございます! せっしゃは【ひなた】というものでござる!」
ひなたが元気よく挨拶をする。
「ひなたちゃーん!」「かわいいー!」
きゃー♡ と歓声が上がる。
「えっとえっと……せっしゃは防人ヒカゲ様の実の妹にして、【ふぃあんせ】でござる!!!!」
ひなたが高らかに宣言する。
「「「「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡」」」
「おいっ!!!」
俺は立ち上がって妹の頭を、ぺんっ、とたたく。
「……おまえは何を言ってるんだっ」
「いやぁすみませぬ兄上。しかしこのひなた! 初めては兄上に捧げると幼き頃から誓っていた身!」
……またわけのわからないことを。
俺たちをよそに、村人たちが楽しそうに会話してる。
「防人様のフィアンセだって!」
「実の兄と妹との禁断の愛!」
「「「すてき~~~~~~♡♡♡♡」」」
……この村人、全体的に知能指数が低い気がする。
「うむうむ、美しい兄妹愛じゃのぅ」
「……おまえ、楽しんでるだろサクヤ」
「まぁな♡ 何せこの村娯楽が少ないからな。他人の色恋が一番の酒のつまみよ」
ぽんぽん、とサクヤが俺の肩をたたく。
「さてっ! 新メンバーの紹介も終わったことじゃ。サクッと乾杯といこう。乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
サクヤの合図で、全員が杯を掲げる。
乾杯が終わった瞬間。
「「「防人様~~~~~~~♡」」」
ドドドッ……! と村人たちが、俺の元へと駆け寄ってきた。
「防人様っ! おしゃくしますわっ!」
村人のひとりが、俺の前にやってきて言う。
「あー! ずっるい! ぼくが先だもん!」
「バカっ! アタシがおしゃくするんだからすっこんでなさいよ!」
ぎゃあぎゃあ、と村人たちが、競って俺にお酌しようとする。
「あ、兄上……すごい! 大人気だー! おなごにモテモテですなぁ!」
ぱぁ……! とひなたがなぜか喜んでいる。
「みなさんは兄上が好きなのですかっ?」
「「「はーい! 私たちSDCは、防人様が大好きでぇ~~~~~す♡」」」
村の若い女たちが、笑顔で手を上げる。
は、恥ずかしい……。
「SDC? なんでござる?」
「説明しようひなたくんっ!」
「姉上っ!」
メガネをかけたエステルが、ひなたの元へやってくる。
「うう……メガネって目が回るよぉう」
「……なら無理してかけるな」
俺はエステルからメガネを回収。
彼女は「ありがと♡ やさしいひかげくん♡」にひっ、と笑ってお礼を言う。
「SDCとは、【防人・大好き・クラブ】のこと! ひかげくん大好きなメンバーで構成されているファンクラブなのだっ! どやー!」
「おおっ! ふぁんくらぶー!」
ひなたが目をキラキラ~と輝かせる。
「兄上すごいです! 兄上のふぁんくらぶなんてものがあるなんて! すごい大人気だっ! せっしゃ妹として鼻が高いでござるー!」
なぜか妹が尊敬のまなざしを向けてくる。
……やめてほしかった。
すげえ恥ずかしい。
「ふふふ、ひなたちゃん。おぬしもSDCに入るかい?」
エステルがひなたの後に回って、むぎゅっと抱きしめて言う。
「いいのですか姉上っ!」
「おうともさ! ミファ、きゃもーん!」
すると村人たちをかき分けて、銀髪のハーフエルフがやってくる。
小柄だが胸と尻が出ている。
さらさらとした長髪に、尖った耳。
この子はミファ。
ハーフエルフにして、この村の巫女である。
「ひなたちゃんがSDCの仲間に加わるそうだ! ミファ、会員証を発行してあげなさいな!」
「ねぇ様。わかりました」
ミファがそう言って、親指の腹を、歯でかりっ、とかみ切る。
じわ……とミファの指の表面に血が浮かび上がる。
するとその血は……ぽた……と地面に落ちる前に、1枚のカードへと変化した。
「み、ミファどのっ! 今のはいったい!?」
「これは、わたしの能力、です。わたしの血は万物を生み出す特別な、血なんです」
ミファは【邪血】という特別な血を持っている。
これに触れたものは存在を進化させるし、血から物体を作ることもできる。
この村の衣服や食い物は、こうしてミファが邪血から作り出してるらしい。
1滴の血でかなりの量の物体を作れるのだそうだ。また作る数も制御できるらしい(今回はカード1枚だったが、やろうと思えばあの血一滴で莫大な量のカードが作れるのだそうだ)
「ミファどのは……すごいですなぁ!」
きらきらーとひなたが尊敬のまなざしを、ミファに向ける。
「ひなた……ちゃん。わたしも……お姉ちゃんって呼んで欲しいです」
もじもじしながらミファが言う。
「よいのでございますか?」
「はい。わたし、末っ子でしたので。妹が欲しかった、んです」
そうなのか……。
「わかりました! では……ミファ姉さま!」
「えへっ♡ ひなたちゃん♡」
むぎゅっ、とひなたがミファの体に抱きつく。
ミファもひなたも実にうれしそうだ。
「兄上……ありがとうございます」
ぐすんっ、と鼻を鳴らしながら、ひなたが言う。
「……おいどうしたんだよ?」
俺は村人たちからのお酌攻撃をかわしながら言う。
「兄上がこのような素敵な場所にいてくれたおかげで……姉上がたくさんできました」
ひなたが花が咲いたように笑う。
「兄上のおかげです! ありがとう兄上!」
お礼を言われても、俺は戸惑うことしかできなかった。
なにゆえひなたは姉ができたことに感謝してるのだろうか……?
「せっしゃお姉ちゃんが欲しかったのでござる。兄上と姉上たくさんで……えへっ♡ うれしいです♡」
そういえばひなたは俺と二人きりの兄弟だからな。
俺以外の兄弟が欲しかったのだろう。
「ひなたちゃん! お姉さんたちがずぅっとかわいがってあげるわ!」
「そうだよ! ぼくたちとずっと一緒に暮らそうよ!」
SDCのメンバーたちがひなたを抱きしめて、よしよしする。
「皆様……ありがとう! そして……ありがとう兄上! 兄上のおかげですー!」
ぶんぶんぶん! とひなたが手を振る。
だから俺はなんもしてないってば……。
「よーし! 野郎ども! ひかげくんに日頃の感謝を込めて、いっぱいご奉仕しようぜー!」
エステルが先導をきっていう。
何を言ってるんだこいつ……。
「「「はーい!!!」」」
するとSDCたちが、またお酒をつごうと、俺に近づいてくる。
「お酌しますわ!」「どきなさい! ヒカゲ様はわたくしのものなのですよ!」「ばっか! ひかげさまはアタシたちみんなのものでしょ!?」
誰がお酒をつぐかでもめるSDCたち。
「ひ、ひかげさま……」
「……なんだミファ。って、ミファ!?」
銀髪ハーフエルフは、身につけているものをはだけ、胸を露出していた。
真っ白な肌。
ぷっくりと柔らかそうな二つの丘。
その谷間に、お酒がつがれていた。
「ミファのお酒……飲んでくださいまし」
「胸をしまえ!!!」
するとミファを見た村人たちが「「「その手があったか!!!」」」
と全員が上着を脱ぎ出す。
俺は慌てて目をそらした。
「防人様っ! ぼくのお酒飲んでください!」
ボーイッシュな村人が、胸の谷間に酒をつぎ、嬉しそうに言う。
「ばっか! そんなぺちゃぱいでヒカゲ様の気が引けるとでも? ヒカゲ様♡ アタシのほうがあの貧乳より胸が大きくて飲みやすいと思いますよ♡」
気が強そうな村人が、同じく谷間のお酒を勧めてくる。
「……胸をしまえおまえら!」
こいつら羞恥心ってないのか!?
「あ。兄上~……」
ひなたが泣きそうな顔で俺を見上げる。
「せっしゃおっぱいペチャンコでございます……胸が小さい女の子は、きらいですか?」
「……ンなこと一言も言ってないだろ!」
「だいじょぶだよひなたちゃん!」
エステルがひなたを抱きしめる。
「貧乳も今は需要あるから! それに胸がダメならわかめ酒ってやつがだね」
「え、エステルてめえ変なことを妹におしえんなー!!!」
するとエステルが、にんまり笑う。
「およよ? ひかげくん知ってるの~?」
「あ、いやその……」
俺もいちおう年頃の男だからな。
性に興味がないわけでは……ない。
「よーしわかった! 野郎ども! 女体盛りだ! ひかげくんは女体盛りを所望してるぞー!」
「してねえよ!」
「「「おっけー!」」」
「オッケーするな!!!」
村人たちが、嬉々として全裸になろうとする。
どうしてこいつら、喜んで俺に裸を見せようとするんだよ!?
「恥ずかしくないのかよ!?」
「「「まったく! むしろ見てー!」」」
きゃ~~~~~♡ と半裸の女性たちが、俺に笑顔を向ける。
俺はこの場から逃げようとする。
「おっと逃がさないぜ!」
ガシッ! とエステルが俺の腕を抱きしめる。
エステルは上半身裸だった。
ちょっ!?
「おまえ服着ろよ!!」
エステルの生の乳が、俺の腕にぐにっと押しつけられている。
なんだこの柔らかすぎる物体は……!?
しかもしっとりと肌に吸いつく。
「いかんぞぉひかげくん。女性たちがこうしてお酌してるんだ。それを飲むのが男のかいしょーってやつだな」
「姉上の言うとおりです! 兄上っ! せっしゃのお酒も飲んで欲しいのでございます!」
ひなたは全裸になって横たわろうとする。村人がひなたに酒をかけようとしていたので全力で止めた。
俺は潜影を使ってその場から離脱。
「ひかげくんがいないぞ! みなのしゅー、探せ探せぇい!」
エステルたちが俺を捜し回る。
俺はそのまま祠の外へと出た。
「死ぬほど疲れた……」
「いやぁ、もてもてじゃなあ防人どの♡」
すっ、とサクヤが俺のそばへとやってくる。
「……おまえも服着ろよ」
「それはむりじゃな。わしは森の妖精だからな。妖精が服を着ていたらおかしいだろう?」
俺はもう突っ込む気力がなかった。
「大人気じゃなおぬし♡ さすがの人気じゃのぅ」
「……正直疲れたよ。なんであんなかまってくるんだよ、あいつら」
サクヤがにまにまと笑う。
「そりゃみんなおぬしが大好きだからな♡」
「……そんな好かれることしてないだろ」
「ふふっ♡ おぬしのその謙虚なところも、好かれてる理由の一つじゃろうな♡」
サクヤが俺のとなりにやってきて、頬にキスをする。
「ど、どうも……」
俺はサクヤから距離を取る。
キスされた場所が熱かった。
「むふふ♡ かわいいの~♡ ういやつめ。もっとちゅっちゅしてやろうか? ん~?」
嬉しそうにサクヤが俺にしなだれかかってきて、ちゅっちゅしてくる。
「や、やめてくれってっ」
他の女と、こうしてキスされているところを、エステルに見られたらどうしよう……。
「おまえ様は純情じゃのう♡ からかいたくなるわい♡ ん~♡」
サクヤが笑って、俺の額にキスをする。
「おぬしが来てくれたおかげで、みな安心して森での生活を送れている。ありがとうひかげ」
「……別に。俺は守りたい人を、俺の意思で守ってるだけだ」
背後でまだ、エステルたちがぎゃあぎゃあ騒いでいる。
うるさいと思うことはあれど、あの喧噪を嫌わなくなっている俺がいた。
「おぬしは成長したな。立派な防人じゃ」
「……それおまえが作ったフィクションなんだろ?」
「まあな。けどおぬしは立派な、わが村の守り神じゃよ。いつも子らを守ってくれてありがとう。大好き♡」
にこっ、と笑ってサクヤが俺にまたキスをする。
俺はやめてくれ……と言おうとした、そのときだ。
「ッ!」
サクヤが上空を見やる。
「……侵入者か?」
「そうだ! しかもおぬしの呪力で強化された新しい結界をぶち破ってきた!」
魔王を倒した後、警備体制をさらに新しくしたのだ。
俺のスキルとサクヤの魔法を組み合わせて、更なる強力な結界を張っていた……のだが。
それを、侵入者はあっさりとぶち破ってきたらしい。
そして【そいつ】は……俺たちの前に、落下した。
「初めましてなのだ。神殺しよ。ワタシは竜神王という」
竜神王を名乗るのは……ひとりの少女だった。
「おまえ相当な強者らしいな! ……だから、ワタシと勝負だ!!!」