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29.暗殺者、冒険者からバケモノ扱いされる



 俺が、魔王を討伐してから1ヶ月ほどが経過した。


 真夏の昼下がり。


 俺は拠点である、村近くの神社の中にいた。


「…………」


 俺は手印を組んで、目を閉じている。

 視界には【奈落の森アビス・ウッド】を鳥瞰した映像が映っている。


「つんつん」

「…………」


 これは俺の【式神】から送られてきている映像だ。


 俺には【影呪法】といって、影を使った異能力が使える。式神は呪法の1つだ。


「つんつん。あ、つんつん」

「…………」


 影呪法には10の型がある。


 これは俺は影に取り込んだ生物を、従僕サーバントとして操る【影式神】という術式だ。


 俺は式神を使って、奈落の森に異変がないかをパトロールしているのである。


「つんつんつんつん」

「……なんだ? さっきから」


 ウザすぎて目を開ける。


 俺のとなりには……金髪の美少女が座っていた。


「やー。なんといいますかな、退屈でして。ひかげくんをからかいたい欲がこう……むくむくと沸いてしまったのですよ」


 少女がニコニコぽわぽわ~と笑う。


 俺よりちょっと年上。

 ちょっとくせっけな長い金髪。


 翡翠を想起させる美しい瞳。

 そして目を見張るほどの……大きな乳房。

 彼女は【エステル】。

 近くの村で暮らす村娘であり……そして、俺の恋人だ。


「しかしここあついねぇ~。蒸し暑うい」


 今彼女はブラウスにスカートという出で立ちだ。

 真っ白なブラウスが、大きな胸によって、はち切れそうになっている。


 汗で湿っているのか、下に着てるブラがうっすらと見えて……俺は目をそらした。


「おっ? なんだいひかげくん。目をそらしちゃうのかい?」


 ニコニコと笑うエステル。


「いいんですぜ旦那。もっとお姉ちゃんのおっぱいをしっかりくっきりと見ても。何だったら触っても、いいんだぜ? うりうり」


 エステルは楽しそうに笑うと、俺の腕にしがみついてくる。


 う、腕に……生温かな、プリンが。


 いやプリンより張りがあった。湿っていて柔らかくてはりがあって……って、何を考えてるんだ俺は!?


「ほほほっ♪ いやぁ、ひかげくんをからかって遊ぶのは楽しいなあ」


「……仕事の邪魔するなら帰れよ」


「んま。邪魔する気なんてさらさらないよ。ひかげくんが頑張ってお仕事してくれてるからね、お姉ちゃんこうしてサポートしているの。お姉ちゃん流の応援だよ!」


「……胸を押しつけることのどこがサポートなんだよ?」


「元気でない?」

「……いや、まあ」


 そりゃ男の子だからな。

 女の子の柔らかい胸に触れたら、そりゃやる気は出るけれど。


「もっと触る? なんだったらお姉ちゃんおっぱいをご開帳するのもやぶさかでもないぜ?」


 ぷち……ぷち……とエステルがブラウスのボタンを外そうとする。


 ば、バカッ! 何してるんだこのアホ姉は!?


 しまえと注意しようとするが、俺はエステルのみずみずしい肌と、大きな胸に目が釘付けになっている。


 ぷるんと柔らかそうな乳房。

 ブラウスから解放されたことで、さらに大きくなってないか……?

 

「ほほほ。ひかげくん、お姉ちゃんの生乳に見とれちゃってるなぁ♡ いいんだよ♡ 触っても、もんでも、吸っても。好きにしていいんだよ♡」


 実に楽しそうに、エステルが言う。

 これはマジで言ってるのか……?


 いや、俺をからかって遊んでるんだなこのアホ姉のことだから。


 なんだか腹立ってきたな。


「……吸ってもいいんだな」

「ふぇっ!?」


 俺が顔を近づける。

 エステルは顔を真っ赤にして、


「だだだだっ、ダメだよひかげくん! お姉ちゃんたちまだ付き合って1ヶ月しかたってないんだよ!? ちゅー以上のことしてないんだよ! おっぱいちゅっちゅはその……もうちょっといろんな段階を踏んでからですな……」


 エステルが顔を真っ赤にして、うつむき、もにょもにょとつぶやく。


 ……この姉は年上ぶってからかってくるくせに、防御力が0なのだ。


「そそそ、それに初めてはもっと雰囲気の良いところでがいいかなって……」


「……エステル。冗談だよ」


「あ、でもねひかげくんのこときらいってわけじゃ絶対ないの。受け入れる準備もできてるからね。安心してね」


「聞けよ! 冗談だっつってるだろ!」


 俺はアホ姉の頭にチョップする。

 ハッ……! とエステルが正気に戻る。


「ひかげくんに突っ込まれた……ひかげくんがお姉ちゃんに突っ込んだ!」


「……事実だがそこだけ抜き出すのはやめろ」


「ひかげくんが若い衝動を抑えきれなくなってお姉ちゃんに突っ込んだって村のみんなに教えて良い?」


「……それやったらマジで口きいてやんないからな」


「冗談だぜ♡」


 はぁ……と重くため息をついた、そのときだ。


【影探知】に、反応があった。使い魔ヴァイパーと連絡を取りあう。


 ……向かうしかないか。


「…………」


 俺は立ち上がる。


「ほよ、出勤かい? モンスターでも出たの?」


「……違う。人間」


「あー……。なんか最近多いよね。森に迷い込んでくる人」


 俺はうなずいて、はぁ……とため息をつく。


「……モンスターなら倒してそれでハイ終わりなんだがな」


 森に迷い込んだ人間の、何が面倒かって?


 倒して終われないところと、そもそも倒せないところだろう。


「しかしお姉ちゃんの優しい弟くんは、律儀に迷子のもとへいって、外へ返してあげるのです」


 エステルがニコニコしながら、俺に近づいてくる。


 俺のほっぺに、ちゅっ、とキスをする。


「いってらっしゃい。気をつけて♡」

「……あ、ああ」


 俺はキスされたところを手でふれる。


 熱い……。

 触れたところも熱ければ、顔全体が熱かった。


「……い、いってきます」

「おうさ! 帰りを首びよーんと伸ばして待ってるぜ!」


 笑顔で手を振るエステルを残し、俺は手印を組んで、【影転移】を発動。


 これは影呪法の一つで、影のあるところに転移できるという術式だ。


 迷子を発見した場所へと俺は転移テレポートする。


 場所は人間国側の、森の中。


 そこには冒険者らしき3人組がいた。


「ひぃいいいいいい!」「ま、また新しい【黒獣】が出たぁああああああああ!」「おたすけぇええええええええええ!」


 冒険者たちは俺と、そばにいる式神を見ておびえていた。


「……ヴァイパー。状況説明」


影鷲馬ヒポグリフがこの人間どもを発見。立ち去るように注意勧告をしたところ、向こうが戦闘行為に及んできたので、軽く反撃しました】


 軽く反撃……ね。


 そこら辺に生えていた木々がちぎれて倒れていた。


 風魔法でも使ったのだろう。

 だが威力が強すぎて、冒険者たちは戦意喪失した……というところか。


「……ヴァイパー。人間相手には手を出すなっていつも言ってるだろ」


【申し訳ありません。しかしご主人様のご厚意でこいつらを生きて森の外へ返そうとしたら、怖がって攻撃してきたどころか、バケモノ呼ばわりしたのでつい】


 はぁ……と俺はため息をつく。

 俺は冒険者たちを見やる。


「……えっと、俺は敵じゃない。あんたらを森の外へ送ろう」


 俺は両手を手の上に上げて言う。

 戦意がないのを表現したつもりだったのだが。


「し、死ね黒獣ぅうううううううう!!」


 冒険者のひとり、剣士の男が、大剣を俺に振りかざす。


 ヴァイパーが魔法で反撃しようしたので、俺はそれを止める。


 俺は動かない。

 冒険者の剣が、俺の頭にぶつかる。


 ピタッ……!


「おいどうした!?」

「け、剣が! 剣が当たらないんだよ!」


 何度も何度も、男が俺に剣を振る。

 だが剣が俺に触れるか触れないかというところで、止まるのだ。


「見たか人間ども!!」


 ずぉっ……! と俺の影から、ひとりの美しいダークエルフが出現する。

 

 長身に、エステルにも負けないほどの巨乳。

 

 チョコレートのような褐色の肌に、深い紫の長い髪。尖った耳。


 彼女はヴァイパー。元・魔王の側近であり、今は俺の式神【影エルフ】だ。


 普通の式神は、影鷲馬ヒポグリフのように自我と意思を失うのだが、こいつは【大賢者】という珍しい【職業ジョブ】を持っている関係で、自我を保てている。


「下等なる人間ども! 今のはご主人様が魔王を倒し、取り込んで手にした御技のひとつ【対物理魔法障壁】だ!!!」


 ヴァイパーがノリノリで解説する。

 ……こいつは、なぜかしらないが、俺の力を人に自慢したがるのだ。


「一定レベル以下の物理・魔法攻撃の一切を寄せ付けない。まさに絶対無敵の盾が、常時発動しているのだ! 貴様らのような下等生物の小技など、ご主人様の前では塵のようなものよ!」


 楽しそうに解説するヴァイパー。

 どうでもいいが辞めて欲しかった。


「な、なんだとぉ!?」「攻撃がすべて無力化!?」「ば、バケモノだぁ!!」


 ……ほれみろ。

 逆におびえてしまっているじゃないか。


「……い、いやあのな。俺はバケモノじゃないから。おまえらと同じ人間だから……」


 と、そのときだった。


【グロオォオオオオオオオオオ! 魔王様のかたきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!】


 ……地面がもこっ、と隆起した。

 と思ったらそこから、でかいモグラが出てきたのだ。


巨大土竜ジャイアント・モールです。魔王軍の残党。SS級の魔族ざこです】


 魔族って書いて雑魚って読むなよかわいそうだろ……。


 モグラが鋭い爪で、真下から俺の首を狙う。


 だが俺は動かない。

 対物理魔法障壁がある。


 ピタッ……! とモグラの爪が、俺の首の直前で止まる。


「ひぎぃいいいいいい!」「え、SS級魔族の攻撃すら止めるのかぁああああ!」「ば、バケモノすぎるううううう!」


 ……ああ、また誤解を生んでる。


【くっ! きかぬか! しかし我が輩の攻撃はこれでは終わらぬぞ!!!】


「……いや、あんたはもう、終わってるよ」


 俺は魔王を喰らって手に入れた、スキルを立ち上げる。


【何をぉごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!】


 するとモグラが……一瞬にしてドロドロに溶けたのだ。


【見たか人間ども! ひれ伏せ! 魔王から奪ったスキルの一つ『魔呪毒』!!! 一定レベル以下の敵なら、触れただけで溶解するほどの強い毒素を生成するスキルだ!】


 かつてはエステルやエリィたちを苦しめたスキルだ。

 

 魔王を取り込んだ今、俺がそれを使えるようになったのだ。(とある【スキル】があるため魔王が使ってたときより効果が上昇してる。)


 無論普段から発動させていると、日常生活に支障が出るため、いつもは発動しないようにスキルを切っている。


 SS級の魔族が、一瞬にして泥になった。

 それを見た冒険者たちは……。


「「「…………………………」」」


 全員が、恐怖の表情を浮かべ、震えていた。


「あー……その。俺は、敵じゃない。本当だ」


「「「うそつけぇえええええええええええええええええええ!!!!」」」


 冒険者たちが叫ぶ。

 ……しかたないか。


「僕たちが束になってもかなわない敵の攻撃を受け止めたんだぞ!?」


「しかも何も攻撃してないのに、その敵をデロデロに溶かしたじゃないか!」


「SS級を瞬殺とかどんなバケモノだよ!!」


 ……まあ、そういうふうに捉えてしまうのも無理からぬか。


「僕たちは信じないぞ! 黒獣! 僕たちを喰らうつもりだろ!」


「……い、いやそんなつもりはないって」


 参ったな……と困っていたそのときだ。


 ピキッ……!

 どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!


 地面が割れ、そこから新手の魔族が出現した。


【わしは地底王グランドモール! 魔王四天王に次ぐ実力者! 四天王に選ばれなかったが実力は十分あった!】


 ……また、新しいモグラが現れた。


 今度はさっきのモグラよりもさらにでかいモグラだ。


 ヴァイパー曰くSSS級だそうだ。

 対物理障壁は問題なく発動するだろうが、呪毒で一瞬で消すのは無理そうだ(時間をかければ可能だが)


 俺は自分の影に手を突っ込む。

 中から1本の、黒い刀を取り出す。


 これは【鬼神刀】。

 魔王の左腕、【剣鬼】を取り込んで手に入れた、俺の新しい刀だ。


 俺は鬼神刀を、無造作に、グランドモールの体めがけて投げる。


【目障りな四天王と魔王がいなくなってこれからはh………………………………】


 刀は、グランドモールの体を貫いた。


 そして貫いた場所を中心として、やつの巨体が吸い込まれたのだ。


 鬼神刀の能力だ。

 切ったものを【異空間】へと消し飛ばすという能力だ。


 剣鬼はこの能力と、そして【鬼神眼】というスキル(こっちもコピーしてる)を使って、音速かつ空間を削り取る攻撃をしていたわけだ。


「……あ、やべえ」


 鬼神刀はグランドモールを突き抜けた後、そのまま森の方へとすっ飛んでいく。


 刀は森の木々をバターのように問題なく貫く。


 そして刀が通った後の木々や地面を、異空間へと吸い込んでいく。


 ……それはあたかも、以前俺が【黒獣】となって魔王に特攻をかましたときのように。


 森が一直線上に、えぐり取られていた。


「「「…………」」」


 冒険者たちが、絶句していた。


「……ええと、えーっと……。敵じゃないよ。ほんとだよ」


「「「ふざけんなぁあああああああああああああああああ!」」」


 冒険者たちが、なんだか知らないが怒っていた。


「「「そんなバケモノみたいな強さで、何が敵じゃないよだぁああああああああああああああああああああ!!!」」」


 ……結局冒険者たちには、信じてもらえなかった。


 俺はヴァイパーの眠りの魔法で、冒険者たちを眠らせて、影転移で森の外へと送った。


 最初からこうしろ?

 いや無害な相手に魔法をかけるのは気が引ける。


 できれば穏便に事態を収めたかったのだ。

 ……タイミングが悪かった。


 魔族たちの襲撃は、以前と比べて減ったものの、しかし魔族が全滅したわけじゃないのだ。


 こうしてまだ襲われるのである。


 ……しかも、今度はミファを狙ってじゃなく、どうにも俺を狙ってやってくるのだ。


 ……それは、俺が魔王を取り込んだことと何か関係があるのだろうか。


 ……わからない。

 なにせ情報が圧倒的に足りていない。


 冒険者たちがやたらと森に足を運ぶようになった理由。


 俺を【黒獣】と呼ぶ理由。


 魔族たちがミファではなく俺を付け狙う理由。


 ……すべてが不明だ。


 俺には情報が足りていない。

 基本森の外に出ないからしょうがないとは言え。


 せめて諜報活動を手伝ってくれるやつがひとり居れば……と思ったそのときだ。


「兄上ー! あーにーうーえー! あなたの妹が参りましたよー!」


 ……新たな厄介ごとが、俺たちの元にやってきたのだった。

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