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25.暗殺者、黒獣の力ですべてを飲み込む



 影呪法・最終奥義を使った俺。


 これにより俺の体のコントロールは、俺の体の中に住んでいた黒獣に乗っ取られ、暴走するはずだった。


 しかし俺の体は、俺の意思で、動いたのだ。


 魔王の間の前。

 暴走する元剣鬼と、黒獣となった俺が対峙する。


「OOROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


 剣鬼が肥大した両腕を、めちゃくちゃに振り回す。

 腕が俺にぶつかりそうになる。


 俺は右腕を伸ばす。

 ……黒獣となった俺の体は、影そのもの。自在に体を変化させることができる。


 右腕を伸ばし、そしてサイズを大きくする。


 巨大化した黒獣の腕を振る。


 剣鬼の両腕が、ガォンッ……! と削り取られる。


【影喰いを使ってらっしゃるのですね】


 俺の脳裏に、ヴァイパーの声が響く。

 ……コントロールできているのは、この大賢者のおかげなのだろうか。


【なるほど。黒獣となったご主人様は、自在に影呪法を手足のように使えるのですね。右腕で触れただけで影喰いが発動し、ああやって剣鬼の腕を喰らった……と】


 影呪法を使うときは、人間の時は呪力を練り、手印を組んで発動させる必要があった。


 だが今この状態だと、俺が意識せずとも、影呪法が使えるわけだ。


 ……というか、ヴァイパー。


【はいなんでしょう?】


 ……どうして俺は、俺の意思で体を動かせているんだ?


【それは、わたくしが影繰りで、ご主人様をコントロールしているからです。右をご覧ください】


 見やるとそこには、大賢者ヴァイパーがいた。

 その手からは影の糸が伸びていた。


 俺の体に、影の糸がついている。


 影繰りは影の糸で相手とリンクし、思うまま動かす影呪法だ。


 ……そうか。

 式神であるおまえは、俺と同様、影呪法が使えるんだったな。


【ええ。ですので影繰りでご主人様を動かす。また大賢者の五感共有スキルでご主人様の意識と繋がることができるため、ご主人様の意をくんで、こうしてわたくしが影繰りで、ご主人様の体を動かすことができます】


 ……つまり、間接的にだが、俺は自分の意思で、黒獣となった俺の体を、あやつれるのか……?


 ……なんてことだ。


 使ったら、自分の意思で体が動かせなくなる、自爆の術式。


 それをこんな方法で、あっさりと解決できるとは。


【無論だれにもできるわけではありません。大賢者を取り込んで初めてできる芸当です】


 ヴァイパーが得意げだ。

 まあそうか。五感共有スキルがないと間接的コントロールはできないわけだし。

 

 それになにより、影繰りは、操る術者の強さ(呪力量など)によって、操れるもののランクが決まるからな。


 黒獣を操れるほどの強さを持ち、なおかつ影呪法を使えるのは、影エルフとなった大賢者ただひとりだ。


 ……俺は、ついてたな。


【あとでご褒美をいただけますか?】


 俺はため息をついて、言う。


 ああ、思う存分、踏んづけて罵倒してやるよ。


【では、さっさと敵を排除しましょう!】


 ……そうだな。


「OROROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 肉の塊として、肥大化した剣鬼。

 体中から手と、そして刀をはやしていた。

 俺は体をかがめる。

 獣のように両手足をつく。


 黒獣のしっぽが……伸びる。

 1本だったそれは、2本……3本……と増えていく。


 やがて10本の影の尾となった。


 俺は飛び上がる。

 体を縦に回転させる。


 影しっぽが、まるで巨大な手のように広がり……。


 ガォンッ……!!!


 影の尾が、剣鬼の体を、斜めに削り取る。

 見上げるほどの巨体だったそれが、いっきに半分近くまで、肉体が削られる。


 剣鬼の体がふたつに分断される。

 ……あとは、苦痛なく眠らせてやろう。


 今度は10本の尾を、5本ずつに分ける。

 尾を両手のようにして広げる。


 そして手のひらで包み込むように、剣鬼の亡骸を、影の尾で覆う。


 影喰いが無意識に発動し、尾に剣鬼が取り込まれた。


 あとには、何も残ってはいかなかった。


【ご主人様。剣鬼を完全に取り込みました。『鬼神眼』と『鬼神刀』を影真似できるようになりました】


 ……そうか。まあ詳細は後で聞こう。


 ヴァイパー。元に戻ることは可能か?


【無論です。わたくしは封印魔法を所有しております】


 大賢者は莫大な量の呪力、および大量の魔法を使えるらしい。


 その中の一つに、力を封じる魔法があるという。


 剣鬼を喰らって呪力回復したヴァイパーが、封印の魔法を発動させる。


 ざぁぁあ…………と、俺の体を覆っていた黒い影が、消えていく。


 影が剥がれ、その下から、俺の体が出てきた。


 影が晴れると同時に、失っていた自分の五感が元に戻る。

 

 あとには、元通りの、焰群ほむらヒカゲが立っていた。


「……生きてる、よな?」


 俺はとなりに立つヴァイパーに尋ねる。


「ええ。ご主人様……お帰りなさいませ」


 ヴァイパーが微笑んで、お辞儀をする。


「ありがとうな、ヴァイパー。おまえがいなかったら……やばかった」


「もったいなきお言葉」


 こいつがいなかったら今頃、俺は黒獣として、死ぬまで暴走しまくっていただろう。

 大賢者が、式神だったから。

 そして大賢者が、封印魔法を使えたから。

 俺はこうして、使えば死ぬとさえ言われた、呪われた術式を使って、生還できたのだ。


「いやーーーーーーーー! すごいよヒカゲくーーーーーーーーーーーん!」


 甲高い声がした。

 みやるとそこには、赤髪の科学者が、こちらにかけてくる。


「すごい! すごいよ君の黒獣は!!!」


 ガシッ……! と四天王ドランクスが、俺の腕を掴む。


「攻撃完全無効化! さらに常時影喰い発動! まさに通常攻撃が必殺技で連続攻撃! すごい! すごすぎるよきみーーーーーーーーーー!」


 半狂乱で、ドランクスが言う。


「しかも大賢者の【能力全封印スキル・パーフェクト・シール】を使うことで、黒獣化を解除することができるだって!? これで自爆覚悟の必殺最終奥義が何回でも使えるとか! それなんてチートだよおいおいおーーーい!!!」


 ばしばしばし! とドランクスが俺の肩をたたく。……うぜえ。


「どうでもいいですがドランクス。あなた今、窮地に立たされているとお気づき?」


 ヴァイパーが四天王をにらんで言う。


「そりゃもっちろん。最強の能力を使えるようになったヒカゲくんと大賢者。それに対して攻撃力ほぼ皆無なワタシ。いやぁ! 絶体絶命だねぇ! まいったねぇ!」


 ……全然参ってるようには、見えなかった。


「ま、今の君、呪力がからっけつだから、黒獣化は使えないけどね」


「……ああ。だからさっさと血をよこせ」


 黒獣化には思った以上に呪力が必要となるみたいだ。


 不死王ドランクスに回復してもらった呪力が、1分も経たずにからになっている。


「はいはい良いよぉ! 最高のデータが取れたんだ! 血でも何でも持ってけ泥棒!」


 ドランクスが自分の手首を切る。

 ドバッと吹き出た不死鳥の血を、俺は手で掬って飲む。


 ……呪力が完全回復した。


 体の傷も、疲労さえも、回復していた。


「んじゃワタシはこれで。良いデータが取れたからね! これをまとめないと!」


「……逃がすとでも思ってるのか?」


 俺は手印を組もうとする。


「いいや。見逃がしてもらえるとは思ってないよ。まっ、逃げるけどね」


 そう言うと、パチンッ! とドランクスが指を鳴らす。


 すると不死王の体が、ボッ……! と燃えた。


 一瞬で、ドランクスの体が灰になる。

 あとには……何も残っていなかった。


【楽しい実験に付き合ってくれたお礼に、君に良いことを教えてあげよう!】


 ドランクスの声が、どこから聞こえてくる。


「おそらくは先ほどのドランクスは、本体ではなかったのでしょう。不死王は体の一部から分身が作り出せるので」


 切り取った体の一部を、再生させて、本体を作る訳か。

 ……狡猾なヤツだ。


「……良いことってなんだ?」


【魔王の部屋いってみ? 空っぽだから】


 俺は目を見開く。

 ……俺はヴァイパーを連れて、魔王の間の扉を開けた。


 荘厳な作りの部屋。

 長く伸びた赤絨毯の先に玉座がある。


 玉座は……からだった。


【うちのボスさ~。すっげえ臆病もんなの。だからいつも引きこもって、部下をこきつかってるのね】


 ドランクスの声が、またどこからか聞こえてくる。

 ……なんなのだ? どこから聞こえてくるんだ?


【まあまあお気になさらず。んでね、魔王軍最強の剣鬼のもとに、ヒカゲくんが到着した時点で、城を捨てて逃げたんだよ。部下を捨てて逃げるとか、ほーんと卑怯なヤツだぜまったくよぉ】


 ドランクスが饒舌に、上司をディスってるんだか……。


【つーわけで君の倒したいと思っていた魔王様は逃亡。残念だね~。かわいそうだね~。エステルちゃんは一生氷付け確定だよ~! いやぁ残念残念!】


 ……むかつく野郎だ。


 だが俺は焦っていなかった。


「……ヴァイパー。奈落の森に、いったん帰るぞ」


 俺は影転移を発動。

 奈落の森に残していた、影式神のもとへと、一瞬で転移。


 奈落の森の、神社の中。

 俺はひとり立つ。


「ご主人様。何をなさるおつもりですか?」


「……魔王を見つける」


「ま、まさか!?」


 ヴァイパーが焦っていた。


「ご、ご主人様。それは無理です。先ほどから魔力探知スキルを使って魔王を探しています。ですが、魔王は魔力を遮断する特別なスキルを使っているようです。魔力から探知するのは無理です」


 どうやら大賢者には、魔力を感じ取るスキルがあるそうだ。


「……そうか。けど、俺にはできる」


「ど、どうやって?」


「ヴァイパー。黒獣化するぞ。コントロールを頼む」


 俺は【月影黒獣狂化】を発動。

 俺の体が、黒い獣になる。


【ご主人様。いったいなにを……?】


 こうするんだよ。


 俺は奈落の森から、呪力を吸い上げる。


 俺は影から呪力を吸うことができる。ゆえにこの森の中でなら、俺は影呪法を無制限に使える。


 俺は森の無制限の魔力を吸い、影の尾を、大量に生み出す。


 何十……何百……何千……何万……。


 数え切れないほどの影の尾が、辺り一面に広がる。


 影喰いは発動しないよう、切っておく。


 影の尾がどんどんと増殖し、どんどん大きくなって、この地表を、覆っていく。


【そ、そうか! 影の尾でこの星の表面を覆うのですね!】


【ほーほー! なるほどぉ! ヒカゲくんの尾は影そのもの! 影の尾で星の表面を覆えば、影探知で魔王の場所を特定できるってわけだね!!!】


 影探知は俺の影に触れている物体の気配を察知するスキルだ。


 奈落の森の外にいる物体の探知はできない(森の影と俺の影が重なっているため、森の中の探知は可能)。


 しかしこうして、影の尾でこの星を包み込めば……。


 星全体が俺の影に触れていることになる。


 ただこの荒技、とんでもなく呪力を喰う。


 だがこの奈落の森でなら、呪力無制限で技がつかる。この森限定での奥義だ。


 やがて……。


 ……見つかった。


 星を覆った影の尾が、魔王の居場所を突き止めた。


 俺はすぐさま尾を解除する。


 魔王は魔族国から逃亡するつもりらしい。

 ……そうは、させるか。


 俺は獣のように、両手足を地面につける。


【今度はワタシにどんなものを見せてくれるんだぁあああああああああ!】


【うるさいですよドランクス!】


 ……もう、なんであの不死王が俺の中にいるのか、聞かない。面倒だ。


 俺は獣のようにぐぐっ……! と体を縮める。


 そして……勢いよく、飛び出した。


 がぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんん!!!!!!


 黒い獣が、すさまじいスピードで飛んでいく。


 黒い弾丸となった俺が、一直線に、魔王を目指していく。


 その途中、山脈やら建物やらがあったが、すべて【影喰い】で削り取る。


 黒獣は触れただけで影喰いを使うことができる。


 途中の障害物を、こうして削り取りながら、文字通り一直線に、魔王の元へと飛ぶ。


 進路に魔族たちが居る。

 なにせ魔族国の中だからな。

 だが関係なく、俺は影喰いで喰らっていく。


 土地も、建物も、魔族たちも影喰いで飲み込み、削りながら、前へ前へと進む。


 漆黒の死の風が、魔族国に吹く。

 やがて……。


 おめおめと逃げる人影があった。


 そいつは青い顔で、こちらを振り返る。


【やつが魔王です】


 ヴァイパーの一言。

 俺は標的を魔王にさだめ、そのまま一気に特攻。


「き、貴様これで終わりだと思うなよ! わしの他にmーーーーー」


 魔王が、何かをいう間に。

 黒獣が、魔王を覆う。


 黒い風となった俺が、魔王を飲み込む。

 

 俺は両手足を使ってブレーキを踏む。


 ……振り返ると、そこには。

 一直線上に、地面が削られていた。


 魔族国の地面も、建物も、全部飲み込み

 そして……魔王さえも、飲み込んだ。


 俺はヴァイパーに封印魔法を使わせる。


 黒獣化が解ける。


「……終わったな」

「ええ。魔王は、黒獣となったご主人様が、丸呑みにしました。魔王の呪毒は解除されました」


 ……そうか、と俺は安堵の吐息をつく。

 そしてまた黒獣化する。


 この姿だと、身体能力が普段よりも強化されるようだ。

 でなければ、この長距離を、風のように駆け抜けることはできなかっただろう。


 ……帰るか。


【ええ。エステルの待つ、あの村に帰りましょう】

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