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23.暗殺者、魔王軍最強と戦う


 魔族国へ乗り込んだ俺。


 ヴァイパーの助力もあり、俺は魔王の居る部屋の前までやってきた。


 そこで待っていたのは、魔王軍最強の剣士・【剣鬼】。


 魔王を倒すためには、この剣鬼を撃破しなければならなかった。


「…………」


 俺は片手に刀を持ち、片手で手印を組む。

 呪力を極限まで高め、身体能力の上昇、刀の強度を上げる。


「どう、した。こない、のか?」


 剣鬼はその場から動かない。

 両手をだらりと下げ、自然体を取っている。


 一見するとただ突っ立ているように見える。しかしただならぬ殺気と呪力が、肌にビシビシと刺さる。


 わかる。無策で飛び込めば……死ぬ。


「…………」


 俺は奈落の森の魔物を倒しまくり、ステータスが向上した。


 魔物や魔族、そして魔王の秘蔵っ子ソロモン72柱を取り込んだことで、数多くのスキルを得ている。


 そして大量の敵を取り込んで、俺の体には、かつてないほどの莫大な呪力が満ちている。


 今この瞬間において、俺は人生で最高の状態であると言えた。


 ……だとしても、俺がこいつに勝つイメージというものが、まるで沸いてこない。

 

 ヴァイパーから、剣鬼のデータをある程度聞いてる。

 だが大賢者の知識を持ってしても、剣鬼の能力のすべてを把握しきれてない。


 それでも……戦うしかないのだ。

 俺は手印を組み、影呪法を発動させる。


 敵にバレないよう、こっそりと罠を張る。

 俺の戦い方は基本卑怯なものだった。

 だがそれがどうした。

 勝てば良いんだ。


「こない、のなら。私から、行くぞ」


 剣鬼が自分の手を、腰の刀の柄に置く。

 その瞬間、俺はスキル【未来視】、【超視力】を発動させた。


【未来視】。今から3秒間だけ、未来の映像を見るスキル。(※見てる間、時は止まっている)


【超視力】。発動中、動体視力が超向上され、動きがゆっくりに見える。


 どちらもソロモン72柱を喰ったことで手に入れたスキルだ。


 未来の映像ビジョンが頭の中に入ってくる。


 やつは恐ろしいスピードで俺に突っ込んできて、俺のがら空きの胴体に、一撃を食らわせていた。


 ……ヴァイパーの予測通りだ。やつは時間を本当に止めているのではない。


 目に見えない速さで動いているだけだ。


 未来視が切れる。

 と、同時に俺は次の手の準備に取りかかった。


 剣鬼は、未来視で得た情報通り、刀に手をおいて、突っ込んでこようとする。


 俺は呪力をありったけ込めて……その場から【動かなかった】。

 

 剣鬼の刀が、【俺】の胴体をえぐる。

 恐ろしい速さだった。


 剣鬼自身の動きも、そして、刀を振る速度も、桁外れだ。


 なにせスキルで動体視力を強化していても、目でギリギリ追えるかどうか、というレベルなのだ。 


「ちが、う」


 剣鬼がつぶやく。

 そうだ。違う。


 おまえが切ったのは、俺の【影】だ。


 俺は戦う前から、影の中に、呪力を極限までこめた影人形を潜めていた。


 未来視で行動を予測した後。

 俺はまずは影転移で、影人形と俺の位置とを交換。


 俺は影の中に入ってやつの攻撃をかわす。

 剣鬼が攻撃したのは影人形だ。

 そしてただの影人形ではない。


 影人形のえぐられた胴体から、ぶしゅぅうう……! と黒い煙が出たのだ。


 影呪法、俺オリジナルの型、【影領域結界】。


 黒煙の形をした結界だ。


 影人形の中に煙を詰めていたのだ。人形が壊れた瞬間、黒煙が辺りにばらまかれる。


 黒煙が剣鬼を包み込む。


 俺は影人形が消滅する前に、影から出る。(消滅する物体の影の中に入っていると、俺は外に永遠に出れなくなる)


 俺は手印を組んで、煙の結界を球体状にする。

 剣鬼は結界に閉じ込められた。


 このまま影喰いを発動させる。

 結界内部に閉じ込めた剣鬼を、そのまま影に沈めようとする。


 影喰い発動と同時に、未来視を発動。

 ビジョンの中では、結界が破砕されていた。やはり。長く閉じ込めるのは不可能だ。

 未来視が切れる。

 ならばと俺は次の手を打っておく。


 剣鬼は結界を破壊。

 やつが出てきたときには、俺はまた【影領域結界】を発動させていた。


「暗幕、を。部屋全体、に。かけた、か」


 剣鬼が辺りを見回す。

 先ほどは剣鬼を飲み込むように、限定的に結界を張った。


 だが今は、俺を含めて、魔王の間の前の空間全部を、影の煙で埋め尽くしたのだ。


「私、を。喰うのは、不可能だぞ」

「……百も承知だよ」


 この結界は先ほどのように捕縛して喰らう目的のために張られてない。


 ……この影の領域内で、俺がヤツを殺すために張ったのだ。


 もとは暗幕結界というスキルだった、この黒煙。

 実は影呪法ととても相性が良かった。


 どういうことかというと、暗幕内は影の中と同様の効果をもたらすのだ。


 剣鬼の四方八方を、影の結界が包んでいる。

 つまり……。


 俺は影呪法、【織影】を発動。

 無数の影の触手が、剣鬼に殺到する。


 千にもおよぶ影の触手。

 先は鋭利な刃物になっている。


 影の刃が、雨あられのように、剣鬼に襲いかかる。


 やつは神速の抜刀でそれらを削り取ろうとする。


 だが攻撃は一方向からのみではない。

 なにせ周りすべてが影。つまり全方向から攻撃が襲ってくるのだ。


 打ちもらした触手が、剣鬼の体を削る。

 ……だが、2,3本しか当たらなかった。

 しかも、かすった程度だ。


「……なんだよ、あの機動」


 剣鬼は攻撃が当たる瞬間、今まで以上のスピードで動いたのだ。

 超視力で強化された目で、追えなかったのだ。


 気付いたときには攻撃が終わっており、かすり傷を負った剣鬼が立っていたわけだ。

 俺は織影を解く。

 今のでだいぶ呪力を持って行かれた。……領域結界を維持しておくだけでも、かなりの呪力を必要とするからな。


「ヒカゲ。見事、なり」


 剣鬼が平坦な調子で言う。


「練り上げた、呪力。あの1本1本、が。必殺の威力、だった。しか、も。刃に呪毒を、しこむ周到さ。驚嘆に、値する」


 スキル【呪毒カース・ポイズン】。そして【呪麻痺毒カース・パラライズ・ポイズン】。


 触れるだけで体を焼き、そして動きを鈍くさせる強力な呪いの毒の重ねがけだ。


 かすった程度だったが、それで十分。

 俺は影呪法を発動。


 再び全方向からの影の触手による攻撃。

 だがこれは目くらましだ。


 俺は影人形を作り、影繰りでそれを動かす。

 影転移で、影人形を、剣鬼の背後に出現させる。


 影人形ごと、影の触手で剣鬼を攻撃させる。

 剣鬼は動きがとろくなっていた。


 なにせ【超視力】を使わずとも、やつの動きが目で追えたからだ。


 剣鬼が触手を何十本か打ち払い、影人形を切り伏せる。

 だが打ち漏らした触手が、剣鬼の体を貫く。

 

 ここだ。

 ここで、勝負をつける。


 俺はありったけの呪力を込める。

 影人形を作りだし、そして一緒に俺は走り出す。


 剣鬼は刀を振り、俺の首を取ろうとする。

 ……人形デコイには引っかからないか。

 まあいい。

 攻撃が来るのは未来予測済みだった。


 剣鬼の剣速は毒と、そして影の触手によって、だいぶ遅くなっていた。


 俺は超視力スキルで、剣鬼の攻撃を見切る。

 首を撥ねられる前に、影転移を使って逃げる。


 代わりに一緒に走っていた影人形の首を、剣鬼が切り飛ばす。


 影人形が破壊された瞬間……。


 ぶしゅうぅううううううう…………!!


「さきほどの、煙幕、か」


 影人形の中に込めていた煙幕の結界が発動。それはすぐさま、剣鬼を包み込む。


 今度は捕まったら、影喰いされると思ったのだろう。

 剣鬼は思い切り、後に飛んだ。


「!」


 剣鬼が初めて、動揺の色を顔に出した。

 そう、やつが飛んでいった先に、俺が刀を構えて立っていたからだ。


「……なるほ、ど。転移して、先回りしていたのか」


 俺は刀を両手で持って、やつの首めがけて刃を振る。


 刀と体には、膨大な量の呪力がこもっている。

 切れ味と剣速は最高のものとなっていた。

 俺自身、【超視力】を使わないと、自身の剣速が見えないほど。


 すさまじい速さで、刃が、剣鬼の首に届く。


 ザンッ……!!!


 剣鬼の首が切断され、飛ぶ。

 やったか……? と油断した瞬間だった。

 剣鬼の胴体が動き、刀を抜いて、俺の体めがけて振ってきたのだ。

 俺はスキル【超加速】を発動。


 通常の1000倍の速度で、1秒間だけ、動けるというスキル。


 剣鬼の胴体は、俺の心臓めがけて、突きを喰らわせた。

 俺はすれすれでそれを避ける。


 だが完全に避けきれず、俺の肩を、剣鬼の刀がえぐる。


 突きの体勢から、今度は斜めに、刀を振るってきた。

 俺はもう1度超加速を使い、後退。


 なんとか剣鬼の刀による切断をかわした。

 だが……俺の胸は、ざっくりとヤツの剣が切り裂いていた。

 この間たった2秒。


「ガハッ……! はぁ……はぁ……はぁ……」


 超加速は体に負担が大きい。

 なにせ1000倍の速度で動いているのだ。

 体がそんな速度に耐えきれるわけがない。

 骨も肉も肺も、無理な動きをしたことで、悲鳴を上げていた。


「見事。見事、なり」


 剣鬼の胴体が、そばに落ちている自分の首を拾い上げる。

 そして自分の取れた首を、元の位置に乗せる。


 それだけで、剣鬼の首は、元通りになっていた。


「ヒカゲ。焰群ほむらヒカゲ。火影一族の末裔、よ」


 剣鬼が、なぜか知らないが、俺に語りかけてくる。

 ……俺とやつとの、彼我の実力差を、計り終えたのか?


 勝ちを確信しているのか? だからおしゃべりしている、ということか。

 ……なめられたもんだ。


 だが好都合だ。俺は【準備】を整えている間、やつとの会話をすることにした。


「……なんで俺が火影だって……知ってるんだ?」


「知れた、こと。私も、また。火影の里の、出身、だからだ」


 俺は驚愕に目を見開く。


 ……そういえばこいつも、俺と同じで黄色の肌、黒い髪をしていた。極東人とは思っていたのだが……まさか火影の里出身者とは。


 ……驚く一方で、俺は準備を整える。【向こう】はまだもう少し時間がかかるらしい。


「……俺、あんたなんて里で見たことないぞ」


「それは、そうだ。私は、鬼。人の何倍も、長生き、する。ヒカゲ。おまえが、私を知らぬのも、道理だ」


 俺は体に流していた呪力を解く。

 全呪力を、【向こう】に送る。


「……あんたが俺のご先祖さまってことか」

「そう、だ。焰群ほむらヒカゲ。おまえには、私と同じ血が、流れている」


 俺もこいつ同様、鬼の血が混じっているのか。

 影呪法も、あんがい鬼の使う術が源流にあるのかも知れない。


「……ご先祖さまが、なんで末裔を殺そうとするんだよ。手心加えてくれよ」


「無理、からぬこと。私には、使命がある。魔王様を、守る。その使命が」


 ……【向こう】があと1分と告げてきた。

 俺は呪力がからっけつになりそうだ。もう立っているだけで辛い。


「……なんで魔王なんて守るんだよ」

「それ以外に、何もないからだ」


 剣鬼が攻撃してこない。

 向こうもまた、首を撥ねたダメージが体に蓄積されているのだ。


 首は繋がって入るとはいえ、体力はまだ回復しきってない。

 だから攻撃してこないのだろう。


「私、は火影の暗殺者として、生を受け、訓練を積んだ。だが次第に、生き方に疑問を覚えた。この殺人術は、なんのためにあるのかと」


 剣鬼の語る内容に、俺は既視感を覚えた。

 というか、まさに俺と同じだったからだ。


「私は、意味を求めた。なぜこの世に生まれたのか。この体に宿した力を、何のために使うのかと」


「……で? それが魔王を守ることと、どう繋がるんだよ」


【影】を通して、【向こう】から通信が入る。……準備が、整ったらしい。


「意味を求め、私はすべてを殺し続けた。だが、意味は見つからなかった。何も見いだせなかった。……そんな私を、魔王様だけが、拾ってくださったのだ。魔王様だけが、私を必要としてくれたのだ」


 ……ああ、つくづく。

 つくづく、こいつは俺と同じなのだと思った。


 暗殺術に意味を見いだし、何のために使うのかわからないままに力を行使した。


 そして、誰かのためにその力を使っている。


 俺の場合はエステル。

 そして剣鬼の場合は、魔王。


「ヒカゲ。おまえ、も同じ、だろう? 殺人術に、意味を見いだそうとした。ゆえに、里を抜けた。違う、か?」


 ……そうだ。

 この人殺しの術を、何かの役に立てたいと思ったから、里の暗殺者を辞めたのだ。


「ヒカゲ。おまえは、私と、同類だ。きっと……手を取り合うことが、できる」


 こいつ、あろうことか、俺を勧誘してきているのか?

 自分の同類がそこにいるから、と?


「……かもな。俺とあんたは、似てるかも知れない」


 俺は目を閉じる。


 ーー脳裏に、エステルの笑顔が浮かんだ。


「……けどそれは断る」


 目を開ける。

 俺は決めたのだ。

 

 エステルを、村を守ると。


「そう、か。残念、だ」


 剣鬼が落胆の表情を浮かべる。

 体力が回復したのか、刀を持って、俺のそばまでやってこようとする。


 一歩……二歩……とヤツが近づく。


 剣鬼が、射程範囲に、入った。


「やれ!!! ヴァイパー!!!」 


 俺は叫ぶと同時に影に潜る。


 剣鬼をつつむ影の結界。

 そこから、【影エルフ】のヴァイパーが出現したのだ。


 影式神のヴァイパーは、俺と同様、影呪法が使える。

 つまり影転移が使えると言うことだ。


「! 貴様は……ヴァイパー!」

「そう。魔王の右腕。そしてさよなら、左腕」


 ヴァイパーは結界の外で魔法まじないの準備をしていたのだ。


 魔法を外から撃つことはできない(結界が魔王城に張られているから)。


 だが俺が城内部に侵入し、中からなら……魔法が使える。


「消えなさい」


 ヴァイパーは右手を、剣鬼に向ける。

 剣鬼が刀を振ろうとする。


 俺は影の中で、織影を発動。

 影の触手を伸ばし、剣鬼の動きを封じる。


「【獄炎灰燼爆イフリート・エクスプロージョン】!!!」


 ヴァイパーが叫ぶ。

 すると魔法が発動。


 大賢者の手のひらから、小型の火の球ができる。


 その火の玉が剣鬼にぶつかる。

 すると……爆発した。


 どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 影の結界内を一瞬で爆炎が覆う。

 

 破壊の炎が中にいたものをすべて灰燼に帰す。


 ……ヴァイパーの最上級魔法を受けても、まだやつはヒトガタを保っていた。


 爆炎の魔法をその身に受けている最中であっても、やつはまだ生きてる。


 文字通りのバケモノだ。

 だから……バケモノは、バケモノでしか倒せないんだ。


 俺は潜影からの影転移を使って、やつの背後を取る。


 俺が影から出た瞬間を見計らい、ヴァイパーが魔法を解除。


 体の中に残っている、すべての呪力を使って、刀を作る。


 それで剣鬼の首を撥ね、そして体を縦に切る。


 そして刀を縦横無尽に振る。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 刃の嵐が剣鬼の体を粉々にする。


 やがてどれくらいの時間が経ったろうか。

 ……気付けば、剣鬼は塵となって、その場に消えていたのだった。

 

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