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17.暗殺者、魔物狩りの片手間に女騎士を鍛える



 英雄王とエリィが帰ってから、何日かが経過したある日のこと。


 この日も俺は、防衛任務(魔物狩り)をしていた。


 といっても、最近の魔物狩りの仕方は、以前と違ってきている。


 大賢者ヴァイパーを従えたことで、雑魚は彼女が勝手に倒してくれる。彼女が手に負えないものだけ、俺が倒す。


 それが俺の基本的な仕事。ただこの頃【もうひとつ】の仕事ができた。詳細は後で語ろう。


 さて。


【ご主人様。ソロモン72柱が出現しました。今回は三体同時で、結界の破壊を試みています】


 ヴァイパーからの連絡を受けて、俺は現場へと向かう。


 ソロモン72柱とは、魔王の秘蔵っ子の悪魔のことだ。1柱1柱がとんでもない強さを持っている。


 現場には3柱がいた。

 下半身がワニの老人。【アガレス】。

 単眼の大鷲。【ウァサゴ】。

 炎の狼男。【アモン】。

 

 ソロモン72柱は魔王がその存在を秘匿していた、いわば秘密兵器だ。本来なら名前なんてわからない。


 だがこちらには元・魔王の側近であるヴァイパーがいる。そのため、相手の名前、能力、強さなどを事前に知れるのだ。


【アガレスは地面を崩すスキル【地割り】をもっています】


 アガレスが太い前足を振り上げる。

 足を振り下ろす前に、俺は飛び上がる。


 どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 さきほどまで俺が立っていた地面が割れていた。落ちたらひとたまりもないだろう。

 俺は影呪法【影喰い】を発動させる。

 アガレスの足下を影の沼に変える。


 ドボンッ……!!


 アガレスは逃げようとするが、そのそぶりを見せる前に、影の沼に速攻で沈んだ。

 

 ……ソロモン72柱を倒しまくって、俺は強くなった。おかげで影喰いも強化されており、動きの遅い敵は、基本即死させられるようになったのだ。


「……次。ウァサゴを狙う」


【ウァサゴはスキル【未来視】が使えます。相手の3秒先の未来を見通す力を持つうえに、かなりの素早く飛び回ります】


 単眼の大鷲ウァサゴが俺の周りを、かなり速さで動く。


【おそらくウァサゴがご主人様を翻弄し、アモンが万物を焼き尽くすの呪いの炎を吐くスキル【煉獄炎】でご主人様をしとめる作戦かと思われます】


 ヴァイパーが敵の作戦まで見切っていた。

 なんて楽な戦いなんだ。


「BAoooooooooooooooooooooooooooo!!!!」


 アモンが口から、漆黒の炎を吐く。

 ヴァイパーいわく、これは使用者が解除しない限り、燃え続ける呪いの炎なのだそうだ。


 使われ続けると厄介だ。

 俺は新たに手に入れた【スキル】を発動。

【暗幕結界】。結界王ドラシルドを取り込んで、手に入れたスキルだ。


 俺の右手から黒い煙が放出される。


 黒煙は炎を、そしてアモンを包み込んでいく。


 煙はドーム状の結界となって、アモンとその吐いた炎を包み込んだ。


【ご主人様。アモンが焼け死ぬ前に、影喰いを発動させておきました】


「……ご苦労」


 アモンの炎は万物を焼き尽くす。万物とはつまり、アモン自身も含まれる。


 結界で炎とアモン本体を包みこめば、自滅するという寸法だ。


「……さて。仕上げだ」


 俺は飛び回る……というか、逃げ去ろうとするウァサゴを見やる。


 影呪法【織影】を発動。無数の影の触手が、ウァサゴに襲いかかる。


 ウァサゴは逃げようとするが、四方八方を影の触手に覆われている。なすすべもなく触手にとらわれる。


「……たとえ未来が見えても、避けられるとは限らないだろ」


 あとは触手を戻して、そのままウァサゴを影の沼に沈める。スピード特化のモンスターだったので、触手を振りほどいて逃げることはできなかった。


 影の触手のスピードも、ここ最近でずいぶんと上がってきている。俺がレベルアップしてるからだろう。


 さて。


「……ヴァイパー。結果をまとめてくれ」


【三体の魔族を式神に加え、アガレスからは『地割り』スキル、ウァサゴからは『未来視』を、アモンからは『煉獄炎』をコピーしました】


 ヴァイパーは変態だが役に立つ女だ。

 こうして手に入れた力の整理までしてくれる。


【ソロモン72柱は今のところ見当たりません。帰還しても良いと判断します】


「……了解。おつかれさん。褒美は後でな豚女」


 ヴァイパーの【んほぉおおおおおお♡ まちきれにないにょぉおおおお♡】と珍妙な声を無視して、俺は影転移で、【彼女】たちの元へ行く。


 ……新しい式神を手に入れたからな。


 転移した先は、俺が前に住んでいた、神社だ。


「ヒカゲ様っ」


 てててっ、と銀髪のハーフエルフ・ミファが、俺の元へ駆け寄ってくる。


「お疲れ様でしたっ。どうぞっ」


 ミファが笑顔で、俺にタオルを手渡してくれる。別に汗はかいてないが、礼を言って受け取る。


「ヒカゲっ」

「……アリーシャ」


 たたたっ、と赤髪獣人騎士が、こちらにかけてくる。


「ヒカゲ聞いてくれっ。もうだいぶおまえの【式神】を倒せるようになったぞ!」


 硬い表情そのままに、アリーシャが犬しっぽをブンブンさせる。


「……そうか。また強いの捕まえたから、それを使ってくれ」

「わかった。いつもすまないな」


 俺は手印を組んで、影式神を呼び出す。


 アガレス。ウァサゴ。そしてアモンだ。


「つ、強そう、です。りーしゃ、倒せるのですか?」


「大丈夫です姫。こいつらはヒカゲの命令で、動きません」


 敵を式神にすると、自我を失い、俺の言いなりとなる(ヴァイパー除く)。


 つまり俺が命じれば、最強魔族も、このとおり一歩も動かなくなるのだ。


「……あとはひとりで大丈夫だな。俺は休む」

「ああっ! よしッ……!」


 俺はアリーシャを残して、その場を離れる。

 神社の入り口前に座り、一息つく。


「あの……ヒカゲ様」


 すすっ、とミファが近づく。

 俺のすぐ真横に座る。


「ど、どうぞっ、です」


 ミファが顔を赤くして、自分の太ももをポンポンたたく。


「……え、なに?」

「そのあの……膝枕、です。おつかれかと、思ってっ」


 耳の先まで真っ赤にして、ミファが言う。

「……いや別に」

「えいやーっ」


 ミファが俺の腕を引く。

 俺はミファの柔らかな太ももに、頭を乗せた。な、んだこれは……柔らかすぎる。


 それに呼吸するたび、花のような良い匂いが鼻孔をつく。


「そういえばヒカゲ様。りーしゃはいつも、何をしてるのでしょうか?」


「……あ、ああ。あれはアリーシャの修行だ」


「しゅ、ぎょー?」


 俺はうなずく。

 アリーシャは庭先で、影式神相手に、剣を振るっていた。


「ヒカゲ様。修行とはもっとていやーとやっと、戦うものではないですか? みたところ、りーしゃが一方的に、式神を切ってるように見えます」


 アガレスなどの影式神たちは、アリーシャからの攻撃を、受けまくっているが、いっさい反撃しない。


「……修行というかレベルアップだな。敵を倒せばレベルが上がる」


 アリーシャは言ったのだ。

 強力な魔族に後れを取りたくない、だから俺につよくしてくれ……と頼んだのである。


「……影式神は元モンスターだ。つまり式神を倒しても経験値がたまってレベルが上がる」


「な、なるほどっ! つまり超強力なモンスターも、ヒカゲ様が命じれば一歩も動くことはない。安心安全にりーしゃが敵を倒しまくれる、というわけですね!」


 そういうことだ。

 俺は前から影式神を使ったトレーニング法(式神を倒してレベルアップさせる)を考えていた。


 アリーシャからお願いされ、こうして実行に移したわけだが、思ったより効果が出ているようだ。


「はぁッ……!!!」


 十数分後。アリーシャがアガレスを撃破。

「すごいですりーしゃ! ソロモン72柱を倒せるなんて!」


「ありがとうございます姫。しかしヒカゲはこの敵を瞬殺できます。彼に比べたら……私はまだまだです」


 アリーシャが俺を見て微笑む。

 いつも怖い顔のこいつだが、笑うと結構可愛いな。


「……いや、アリーシャも十分強くなったぞ。地道にトレーニングした結果だろうな」


 この式神を使ったトレーニング、最初は影犬、影鷲馬ヒポグリフ……と段階的に相手を強くしていった。


 式神は破壊されても、呪力を込めれば、いくらでも量産できるからな(強い式神の場合は復活にそのぶん多くの呪力を必要とするが。影エルフの例外を除いて、ほぼすぐに壊れた式神は修復可能)。


 アリーシャは地道に、式神を倒していった。こいつ結構真面目でさ、暇さえあれば俺のところに来て、トレーニングつけてくれと頼んでくるのだ。


「ヒカゲ様。それはおそらく、違うと思います」

「……違う? 何が違うんだ?」


 ミファはぷくっと頬を膨らませる。


「わからない、のですか?」

「……だから何が?」


「りーしゃは、強くなりたいというのもそうでしょうがっ。でも……それ以上に、ヒカゲ様にあいたいのだと思います」


「……はぁ?」


 俺に会いたい? なんでだ?

 家に帰れば会えるだろうが。


「ヒカゲ様は、どんかんです」


 ぷぅ、と頬を膨らませるミファ。なんなの……?


 ミファと雑談しているその間にも、アリーシャは式神のウァサゴ、アモンと、式神ソロモン72柱を倒していく。


 ややあって。


「ぜぇ……はぁ……や、やったぞ! 動けないとはいえ、ソロモン72柱を三体も倒したぞ、ヒカゲっ!」


 汗びっしょりのアリーシャが、俺のとこへ、笑顔でかけてくる。


「……そ、そうか。あんまり、近づくな」

「なぜだ?」


「その……汗で、むねが……」


 アリーシャのシャツが、べったりと、汗で濡れいてる。

 おっぱいにもシャツがくっついており、その輪郭がハッキリと見える。


「…………」

「……いててっ、なんだよミファ。なんで耳引っ張るんだよ?」


「別に、なんでもありません」


 ぷいっ、とミファがそっぽを向く。


「りーしゃ。すぐに着替えてきなさい。今すぐっ」


「わ、わかりました姫」


 そう言ってアリーシャが、神社の建物の中へ消える。

 あとには俺とミファだけが残される。


「ヒカゲ様は、やはり大きな方がよいのでしょうかっ?」

「……な、何の話だよ?」


「胸の話です。りーしゃの大きな胸の方が好みなのですかっ?」

「……知らねえよ」


 俺は体を起こし、ミファから距離を取る。

 ずいずいっ、とミファが俺に近づいてくる。俺の背中にしがみついて、その大きな乳房を押しつけてきた。


「りーしゃがいいんですか? 大きくなきゃだめなんですかっ?」


 ……め、めんどくさい。

 俺は影転移で逃げようとしたが、ちょうどそのときだ。


【ご主人様。呪竜カース・ドラゴンです。取るに足りませんが、数が膨大です。ご助力くださいまし】


「……わ、わかった! ほら、ちょっと行ってくるな!」


 俺は立ち上がる。


「ヒカゲ。私にもついて行かせてくれないか?」


 着替えたアリーシャが、戻ってきて俺に言う。


「頼む、いかせてくれ」


 ミファは結界内にいるし、さらに近くにつねに影犬(ヴァイパーの意識とリンクしている)がひかえている。


 ちょっと行って帰ってくるくらいなら、大丈夫か。


 俺は影鷲馬ヒポグリフを出し、アリーシャとともに、ポイントまで向かう。


「……うじゅうじゃいやがる」


 呪竜の大群が、邪血をもとめて、ぞろぞろと歩いていた。


 俺はそれを上空から見ている。


「リベンジマッチさせて欲しい。どこまで強くなったのか……知りたいんだ」


「……了解」


 俺は【暗幕結界】を発動。

 影鷲馬ヒポグリフの上から、結界を張る。


 呪竜たちを結界内に閉じ込める。

 1匹をのぞいて。


「ありがとう。行ってくる!」


 アリーシャが鷲馬ヒポグリフから降りる。


「GUROOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」


 呪いで腐ったドラゴンが、アリーシャと対峙する。


 アリーシャは双剣をぬくいて、呪竜に特攻。


「ーーはぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 すさまじい速さで呪竜へ近づき、2本の剣を振るう。


 目にもとまぬ速さだ。呪竜の体が、瞬く間に削れていく。


 そしてあっという間に、呪竜の肉をすべて削りきる。大きな音を立てて、呪竜が倒された。


「や、やった……! やったぞヒカゲっ! 私もSSランクを単独で倒せるようになったー!」


 犬耳と犬しっぽをぱたたっと嬉しそうに動かして、アリーシャが笑顔で言う。


 俺は影鷲馬から降りて、そのとなりに着地。彼女は嬉しそうに、俺に抱きついてきた。


 で、でけえ……お、溺れる……溺れる!

 それになんか南国の果実みたいな、甘酸っぱい匂いが……って、いかん!


「……離れろ。俺の仕事が待ってる」


 俺は影で刀を作る。

 呪力を込める。


「何をするんだ? 結界を解かないと攻撃が通らないぞ?」


「……大丈夫だ。何も問題ない」


 俺は影の刀に呪力を走らせる。

 思い切り、刀を横に振る。


 刃を途中で伸ばす。

 影の刀は、結界まるごと、呪竜の大群をたたっ切ったのだ。


「…………」


 その場に、アリーシャがぺたりとしゃがみ込む。


「……どうした?」

「いや……うん。改めて、おまえの規格外っぷりを、見せつけられてな」


 アリーシャが驚愕に目を見開きながら、俺を見て言う。


「私も強くなったつもりだった……だが、いかんな。驕っていた」


 ふっ……と微笑んでアリーシャが俺を見やる。


「さすがヒカゲだ。強いのに、驕らない。強さと人格を備えている。たいしたやつだよおまえは」


 アリーシャが、なんだかべた褒めしてくる。

 このように、最近はなんだか知らないが、こいつの態度が柔らかくなってきているのだ。


「ヒカゲ。おまえのように強くなれるよう、私も今まで以上に精進しよう」


 アリーシャは顔を赤くすると、


「だ、だからな、今まで以上に、トレーニングの回数を増やしてくれっ」


「……そうか」


 それほどまでにミファを守りたいんだな。感心した。


「べ、別に他意はないぞっ! おまえと会う回数が増えて嬉しいとかそういうのじゃないからな! 勘違いするな!」


「……はぁ?」


 よくわからんやつだ……。

 アリーシャを連れて、ミファのいる神社へと戻る。


 アリーシャが嬉しそうに、ミファにトレーニングの回数が増えたことを報告。


「ふぅ~~~~~~~ん…………」


 ミファがジトッと、と俺を見やる。

 てててっ、と俺に近づく。


「仲がよろしいようでっ」


 むぎゅっ、と俺のほっぺを、ミファがつねったのだった。ほんと、何なんだよ……?

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