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15.勇者ビズリー、暗殺者に格の違い見せつけられる



【ほ、ほ……、お、おぬしどうやって、わが暗幕結界を解いたんだっ?】


 奈落の森の中。ドラシルドは、ビズリーたちの前に立っていた。


「申し訳ございませんご主人様。結界の解除に少々手こずりました」


 ヒカゲのとなりに、あのダークエルフの女が立っている。


【ばかな!? 結界王の暗幕結界をとけるものなど……大賢者ヴァイパー様くらいのもの……って、ぇええええええええ!? な、なぜヴァイパー様がここにぃいいいいい!?】


 ドラシルドが仰天している。


「わたくしは一度死にました。そして今は……愛しいご主人様の忠実なるシモベ」


【う、うそだろぉ!? あのバケモノ級につよいヴァイパー様を、そこの男が従えた!? な、なんということだ……バケモノか貴様!?】


 ドラシルドが動揺しまくっていた。

 ビズリーはダークエルフを見やる。


「……魔王の右腕? そんなものが、いたのか!?」


「あらあら。そんなことも知らなかったのですか勇者の分際で。不勉強もいいところですね」


 ヴァイパーが冷たい目を勇者に向ける。

 馬鹿にされて……羞恥心で頬を赤くするビズリー。


「あなたは運が良いですね。今わたくしはご主人様の犬。もしご主人様にわたくしがであっていなかったら、魔王城であなたは瞬殺されていましたよ? ご主人様に感謝なさい」


 ぐぐっ……! とビスリーは歯がみする。

 なぜヒカゲに感謝しないといけないんだ!


「ご主人様。解除はすみました」

「……ご苦労。後は俺がやる。【そっちは頼む】」


「かしこまりました……」


 すっ……と頭を下げると、ヴァイパーはヒカゲの影の中に消えた。 


【お、おっと近づくなよ小僧! わ、わしの体内には、あのエリィとかいう小娘がいるんだぞ!?】


 ぴた……っとヒカゲが動きを止める。


【まだこいつは丸呑みした状態で生きてる……ちょっとでも動いてみろ!? すぐに殺す! 殺すぞ! いいのか!?】


「…………」


 ヒカゲはドラシルドを前に動かない。


「お、おいヒカゲ! なにやってるんだ! さっさと倒せよ!」


「……できない」

「なぜ!?」

「……エリィが、仲間が死ぬからだ」


「そ、そんなやつ見捨てていいだろ!? 敵を倒すのが最優先だろ!?」


「……違う。敵を倒しても、仲間が死んだら意味がない」


 ヒカゲは両手を挙げる。


【ひゃっひゃーーーーーー! それでいいんだよぉーーーーーー!】


 ドラシルドは超高速で動くと、ヒカゲの前にやってくる。


 ……いきなり消えていたのは、この機動があったからか。この亀、見かけの割に素早かったのだ。


【ひゃっはーーーーーー! し、しねぇええええええええええ!】


 ドラシルドは天高く飛び上がる。

 体を甲羅の中にひっこめて、猛スピードで落下してくる。


「…………」


 ヒカゲは冷静に、手印を組んだ。


 ずぉおおおお…………! と、ヒカゲの周りに、無数の影の触手が現れる。


 触手はドラシルドの甲羅を、空中でキャッチ。


【なっ!? ば、ばかな!? わ、わしは魔王軍随一の重量を誇るんだぞ!? それを持ち上げるなど……ありえない!! バケモノか貴様は!?】


「……うるさい」


 ヒカゲは手印を組んで、右手に影の刀を出現させる。


 刀を構え魔力を込めると……そのままドラシルドめがけて、縦に刀を振るった。


 途中、刃が伸びた。

 伸びた刃は、ドラシルドを、甲羅ごと真っ二つにしたのだ。


「……う、うそぉ~」


 ビズリーは唖然とした。

 聖剣で切ってもまるで刃が立たなかった、超硬度を持つ、ドラシルドの甲羅が……。


 ヒカゲの、あんなひょろひょろな男の一撃で、紙のように真っ二つになったではないか。


 ずずぅー……ん、とドラシルドの巨大な死体が落下。


【ヒカゲ……か。なるほど……ドラッケン……ドライガーを倒し、ヴァイパー様を従えるだけは……ある。恐ろしい、強さだ】


 瀕死の状態で、ドラシルドが声を震わせて言う。


【し、しかしおぬしと言い勇者と言い……、仲間を大事にしない外道だな。わしとともに、仲間を切るとは】


「そ、そうだっ! な、なかまを犠牲にして勝利なんて、意味がないぞ!」


 ……さっきとまるで、180度違った意見をビズリーが言う。


 そうでもしないと、このヒカゲという男を非難できなかった。


 自分が刃が立たなかった相手を、ヒカゲはあっさり倒した。それでは英雄王へのメンツが立たない。


 だからこそ、ビズリーは探したのだ。ヒカゲの汚点を。英雄王に報告するとき、ヒカゲがこんな酷いことしたのだと、信用を落とすための言い訳を。


「くふっ♡ あわれですねドラシルド。至高なる御方と、そこの外道勇者とを同類項でくくらないでくださいまし」


 すると影の中から、あのダークエルフが出てきたではないか。


「え、エリィ!」


 ヴァイパーが、エリィをお姫様抱っこしていたのだ。


「かわいい寝顔だこと♡ 食べちゃいたいわぁ……♡」


「……おまえ、エリィは女だぞ?」


「それがなにか問題でも?」


「……もう良い。よくやった。ご褒美はあとでな」


「ありがたき幸せぇえええええええええええええええい!!!」


 ひゃっはー! とヴァイパーが狂喜乱舞する。


「ば、ばかなぁ……。な、なぜエリィが無事なんだぁ~……?」


 訳がわからなくて、ビズリーが情けない声を上げる。


【なるほど……ヴァイパー様。あなたでしたか。わしの体内に感じた異物の正体は】


 ドラシルドがヴァイパーを見て瞠目している。


「ええ。ご主人様の作戦ですわ。影蝿をご主人様が作り、それをわたくしが並列思考で意識をリンクさせ動かし、ドラシルドの体内へ。あとはそこへご主人さまがわたくしを影転移させ、この子を回収しまた転移したと」


【なるほど……勇者との無駄な会話も、そのための時間稼ぎであったか。いや、あっぱれだ……】


 ヒカゲは敵に褒められても、特に何も感情を示さなかった。


【影喰い】を発動させ、ドラシルドの死体を影の沼に沈める。


「「…………」」


 あとにはヒカゲとビズリー。ヴァイパーと眠るエリィ。


 そのときだ。


「ヒカゲ! ビズリー! 無事だったか!?」


 森の奥から、英雄王が駆け足でやってきていた。


 ヒカゲはうなずく。

 英雄王はビズリーたちを見て、心からの安堵の吐息をついた。


「ぜぇ……はぁ……か、影転移はすごいな。あの距離を一瞬か」

「あ……ああ……」


 ビズリーは恐怖に震えた。

 きっとこの後、英雄はヒカゲに何があったかを聞くだろう。


 この卑怯者は、あったことを、ありのまま報告するに決まっている。


 すると、自分が負けたこと。

 そして、ビズリーがエリィを犠牲にしようとしたことも、バレてしまうかも知れない。


 その前にこっちが言うのだ!

 こいつはエリィを犠牲にしようとしたぞ……! と。しかし……。


「……魔王四天王とビズリー・エリィが邂逅。影エルフの報告を得て俺が転移で急行。結界を解いて、ドラシルドを倒しました」


 と。敵を倒したという事実だけを、このヒカゲは、報告したのだ。


 ……ビズリーの無様な姿を、こいつは報告しなかった。……情けを、かけたのか?


「……エリィは寝てるだけです。ビズリーは重体なので……ヴァイパー。回復を」


【かしこまりました】


 ヒカゲはビズリーに右手を向ける。

 その手が緑に光ると……一瞬にして、ビズリーの体が、完全に回復したではないか。


「お、おまえ……治癒が使えるのか!?」


「……ああ。もっとも、俺がじゃなくて、この式神の……影エルフの力だがな」


 ビズリーは……すさまじい敗北感を感じた。


 自分がまったく歯が立たなかった相手を、瞬殺した。


 勇者の外道ともとらえられる行為を、一言も語らなかった。


 そして……治癒まで、施された。


 実力でも、負け。

 人格でも、負け。

 自分にない治癒の力まで、持っている。


 ……大敗北だ。


「ヒカゲ、ありがとう。ビズリー、エリィを守ってくれて。やはりおまえがいないとダメだ」

 

 英雄王が、ヒカゲに笑いかける。


 ……それを見て、ビズリーの中で、何かがプッツリと切れた。


「ビズリー?」と英雄王。

「うっ……うぐっ……うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ビズリーは立ち上がると、3人を背にして、駆け足でその場から逃げる。


「ビズリー! まて、どこへ行く!」

「ぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 英雄王が自分を呼び止める。

 ビズリーはその声を振り切って走る。


 ……恥ずかしかった。悔しかった。


 勇者として、ヒカゲにすべてにおいて負けたことが……恥ずかしかった。


 英雄王が、ヒカゲに感謝しまくっていたことが……悔しかった。


「畜生畜生畜生ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」


 ……こんな無様をさらして、英雄王に、顔を合わせられなかった。だからビズリーは、逃げたのだ。 


 いや、逃げたのではない。


「くそがぁああああああああああああああああああ! ぼくは、ぼくがっ! 勇者なんだぞおおおおおおおおおおおお! 見てろそれをぼくが証明してやるぅうううううううううううううううううう!!!!」


 ……ビズリーの向かう先。

 それは、この世界の支配を企む、魔王のもとへ。


「待ってろ魔王ぉおおおおおおお! ぼくが1人で倒してやるぞぉおおおおおおおおお! 見ててください英雄王! ぼくが! ぼくが勇者なんだ! あなたはぼくだけを勇者と認めてくれればいいんだぁああああああああああああああ!」


 ……ビズリーは走る。

 魔王の元へ。


 たったひとりで……勝てるわけも、ないのに。

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[一言] ついに狂ったか、いや元々か。
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