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12.暗殺者、大賢者の力を取り込みさらに強くなる



 魔王の側近・大賢者ヴァイパーを討伐してから、数日後。


 俺は村を支える大樹・神樹の根元にある、祠の中にいた。


 朝。目を覚ますと……ダークエルフが俺に覆い被さっていた。


「……何してんだヴァイパー?」


「はぁ……はぁ……ご主人様の寝顔みていたら発情してしまいましたの……♡ はぁ……♡ はあ……♡ ねぇご主人様、めちゃくちゃにしても良いですか?」


「…………」


 俺は無言で手印を組む。影呪法を発動。

 ヴァイパーを影の中に沈める。


【あーん。ひどいですわご主人様。お外に出してくださいまし~】


「……勝手に出るな。俺の式神なんだから、俺が呼んだときだけ出てこい」


 先日この大賢者を俺は倒し、式神として取り込んだ。普通の式神は俺の意思に従って動くカラクリ人形のようなものであり、自我を持っていない。


 だというのにこのダークエルフ、自我がバリバリあって、自分の意思で勝手に出たり俺にちょっかいかけようとしたりする。


 さて。

 俺が寝ていたのは、神樹の祠の中。


 祠の中には和室がいくつもある。


 木の根元の中とは思えないほどに広く、快適だ。村長サクヤがまじないで異空間を作っているんだと。


 ……で、どうして俺が村の中にいるのかというと。


 サクヤとミファに、ヴァイパー襲撃事件の後、頭を下げられたのだ。


 村での襲撃が今後またあるかもしれない。

 だからどうか村で生活してくれないか……と。


 ヴァイパーのような手練れがそう何人も来るとは思えない。


 だがまた同じケースがないとも限らない。

 そうなったときミファから離れていては、敵に後れを取ってしまう。ゆえに俺は、この村での生活を決意した、のだが……。


 俺は朝食を取って、祠の外へ行く。

 すると……。


「「「防人さきもりさま♡ おはようございまーーーーーーーーーす!!!」」」


 祠の前には、村の若い女たちが、俺が出てくるのを待っていた。


「さきもりさまっ! ボク、おにぎりつくってきましたっ! ぜひお弁当に食べてくださいっ!」


「あーずっるいわよー! さきもりさまさきもりさま、アタシの手作りサンドイッチ! 愛情たぁ~~~っぷり入ってるのっ♡ こっちを食べてっ!」


 ある村人からはお弁当を押しつけられ。


「ねぇ、防人さま♡ 今日の午後おひまかしら♡ お姉さんと一緒に森でデートしない♡ こかげで気持ちいいことしてあ・げ・る♡」


「なあなあ防人さま! 近くに湖があるんだよ! アタシと一緒に泳ぎにいかないかい? ああもちろん全裸で水泳さ♡ なんなら途中でムラムラしたらアタシを押し倒してもいいんだぜっ!」


 ある村人からは、デートに誘われる。


 ……村で暮らすようになってから数日。

 こうやって村の若い女たちから、しつこくつきまとわれているのだ。


「こりゃー! みなのしゅー! 抜け駆けはえぬじー、だよ!」


 同じく祠の中から、金髪の姉エステルが出てくる。


「【SDC】の会則第1条を、忘れたのかねっ?」


「「「第1条! 防人さきもりさまの嫌がることは、絶対にしてはいけない!」」」


 エステルが言うと、村の女たちが嬉しそうに答える。


 え、SDC? 会則? 


 村の女たちは俺に挨拶をすると、その場から散っていく。


「エステル。【SDC】ってなんだ?」


「【防人さきもり・大好き・クラブ】……だよ!」


「……なんだそのあやしいクラブは?」


「ひかげくんのファンクラブだよ! ひかげくんのこと大好きな子たちで結成された組合なのだっ!」


 ……俺は頭を抱えた。

 いつの間にそんなものが結成されてたんだ。


「ちなみに会長はお姉ちゃん。名誉顧問はサクヤ様。部長はミファです!」


 ……俺の知ってる人が全員ファンクラブに入っているんだが。


 というかミファまでこんな妖しげな組合に入ってるのか。おとなしいやつだと思ってたんだがな。


「会員数は順調に伸びてますぜ。村人全員がSDCの会員になる日は……ちかい!」


「……仕事に行ってくる。ミファの護衛は【影エルフ】に任せてあるから安心しろ」


「おっけー! いってらー!」


 ……俺はエステルに見送られ、村の中を歩く。途中、そのSDCとやらの会員からもみくちゃにされながら、村の外へ到着。


 すぐさま影転移で、森の中へとやってきた。


「……はぁ。落ち着く」


 このまま森で暮らしたい。


「ではそうすれば良いのに、そうしないさすがご主人様……♡ やさしくて……すてきですわぁ~……♡」


「……ヴァイパー。おまえミファを守れって」


 いつの間にかヴァイパーが、俺の影から出ていた。

 給仕服を来た褐色紫髪の巨乳女が、よだれを垂らしながら言う。


「ご心配にはおよびません。きちんとあちらのわたくしとこちらのわたくしは、意識を共有させていますもの」


 そう言って、ヴァイパーが【手印】を組む。

 すると……。


 ヴァイパーのとなりに、もうひとりの影エルフが出現したではないか。


 これは影呪法のひとつ【幻影】。影で身代わり人形を作る術。


「……俺の式神になったから、俺の影呪法も使えるようになったのか」


「おそらくは。ご主人様ほど上手に操れませんし、威力も数段落ちますが、術をまねて使うことはできますわ♡」


 ミファの護衛は、ヴァイパーが作った幻影にさせているらしい。影繰りを使って、いざとなったら攻撃させることも可能だそうだ。


 それに数段威力が落ちるとは言え、元々のこいつの攻撃力が高いからな。


「けど村の中の様子はどうやって察知するんだよ」


「ご心配無用。わたくしには【並列思考】という特殊な技能がありますの」


「へいれつ……しこう?」


 ええ、とヴァイパーがうなずく。


「複数同時に別々のことを考えることができるというスキルですわ。平たく言えば、わたくしの意識を、こうして別のものに移すことができますの。ねえ、わたくし?」


 ヴァイパーが幻影に問いかける。


「そのとおりですわ、わたくし♡」


 幻影の方のヴァイパーが、応答する。


「幻影にだけでなく、他の影式神にもわたくしの意識をつなげることは可能です」


 俺は試しに影犬を出す。

 すると影犬は俺に飛びかかってきた。


「はぁあ♡ はぁ♡ ごしゅじんさまぁ~♡ メス犬ちゃんのわたくしとぜひ野外で獣のようなセ」


「……なるほど。便利だな」


 俺は術を解いて、影犬ヴァイパーを消す。


「今まで影式神は思考を持っていませんでした。ですがこうしてわたくしの意識を移すことで、考え、行動ができるようになったのです」


 ぱちんっ! とヴァイパーが指を鳴らす。

 森の中から、影犬が出てきた。

 その口には大きなカエルがくわえられている。


強酸蛙アシッド・トードです。影喰いで取り込めばスキル【強酸吐き】という、防御鎧を溶かす便利なスキルが手に入ります。ぜひ取り込むべきかと」


「……助かる」俺は影喰いを発動させ、新しい式神とスキルを得る。


 今まで式神は、俺の【魔物を倒せ】という命令にのみ従って行動していた。


 つまり、相手がどんな魔物か考えず、倒した後もそのまま死体を放置。


 なので倒せない魔物に遭遇しても無謀な特攻をかましたり、そして取り込めば有用な魔物を腐らせていた。


「これからはわたくしが、影式神の管理を行います。適切な相手に適切な式神をぶつけ、使えそうなら魔物を回収。など細々とした運用はお任せあれ」


 ニコッとヴァイパーが笑う。


「わたくしで対処できないときは、ご主人様にお知らせする形にすれば、ご負担が軽減されるかと思います」


 今まで俺は敵を見つける作業と、敵を倒す作業を同時に行っていた。


 こいつが管理してくれるなら、戦闘(防衛)のみ集中することができる。


 ……できる変態だ。変態だが、できる女だ。


「すまん、助かる」


「はぁああああああん♡ も、もったなきお言葉ッ! お、お褒めの言葉はいらないので、ぜ、ぜひっ! わたくしを罵ってください! 踏みつけてください! 虐げてくださいまし~~~~~♡」


 ずしゃー! とヴァイパーが俺の前で仰向けで寝る。


 ……へ、変態だ。だが確かに褒美は必要だとは思う。俺は仕方なく、こいつのお腹に足を乗せる。


「~~~~~♡」


 ヴァイパーが目を♡にして、体をビクビクさせた。下腹部がひくひくっ! とけいれんしている。


「……しあわせすぎて、果ててしまいましたぁ」

 

 き、気持ち悪いやつだ……。


「ご主人様。南西の方角に、強力な魔物が出現しました。位置は把握してますので、影転移して対処に向かってください」


 変態っぷりをさらしていたと思ったら、すぐさまヴァイパーが正気に戻って、俺に敵のアナウンスをしてくる。


 ヴァイパーが正確な位置を、式神を使って把握している。俺はそこへ飛ぶだけだ。影探知を使って呪力から敵を探る必要ないので楽である。


 そこにいたのは……。


「……なんだ、あの魔物? ……いや、魔族は?」


 俺の見たことのない魔族だった。

 青色の肌に髪、体の周りに2匹の小さな龍を侍らせている。


【あれは【アストロト】という悪魔ですわご主人様】


 すかさずヴァイパーが、影の中から、俺に敵の情報を告げる。


【魔王軍の手配した強力な悪魔です。やつの体と龍には強力な呪いの毒が付与されていますので、直接攻撃は避けてくださいまし】


 ……こいつを飼って、さまざまな恩恵を得た。ひとつはさっきのように、並列思考を使ってのサポート。


 もうひとつはこうして、敵(魔王軍)の詳細な情報を、事前に知ることができるという点。


【本体は龍のほうです。ひとがたを何度倒しても無駄です】


「了解」


 俺は【織影】で槍を2本作り、それを龍めがけて投げ飛ばす。


 槍は正確な機動で龍の急所を突いた。


 ……途中、槍が勝手に動いた気がする。


【僭越ながら【影繰り】を使わせて、槍の刺さる位置を修正させていただきました。あのままでは急所を正確に射抜けなかったので】


「……助かる」


 この変態を式神をしたことで、苦労が増えた。

 だが大賢者が加わったことで、戦闘が楽になっているのは確かである。


【ご主人様! 褒めないでください! ののしって! もっと口汚く! 醜い豚に叱りつけるように!】


「……うるせえ。無駄口たたくな」


【あぁあーーーーーーーりがとうございますぅうううううううううう!】


 ……訂正。

 苦労が増えまくっていた。


 アストロトを影喰いで取り込み、スキル【呪毒カース・ポイズン】をゲット。


【触れるだけでうつる呪いの毒を生成するスキルですわ。あ、保有スキルはわたくしがすべて把握しておりますので、したいことをおっしゃってくだされば適切なスキルをご紹介いたします♡】


「……助か」【ののしって!】「……助かったが豚が勝手にしゃべるな」【あざっす!】


 その後もヴァイパーの先導のもと、俺はサクサクと悪魔を倒してくる。


 何でも今のアストロトをはじめとした悪魔の魔族は【ソロモン72柱】という、魔王が自ら生み出した強力な魔族の軍勢であるらしい。


 このソロモン72柱は、魔王にとっての秘蔵っ子。つまり今までの歴史で、実戦投入されたことのない特殊な魔族だったらしい。


「……秘中の秘を使うってことは、向こうもいよいよ本気ってことか」


【おそらくはそうでしょう。魔王四天王も残り2体。人間サイドにバケモノがいるとわかった以上、邪血の姫君をなんとしても手に入れたいと躍起になっているのかと思われます】


 改めてこいつを仲間にして良かったと思った。

 今までの雑魚魔族とは違い、ソロモン72柱は、未知の強敵だったからな。


 さっきのアストロトだって、毒を使うやつだと知らずに直接戦っていたら、どうなっていたことやら(急所が龍にあることも知らなかったし)。


 敵の内部を知るやつがいてくれて、ほんと助かる。だから俺はヴァイパーに言う。


「ありがとよ、このきめぇメス豚」


【ふぁぁああああああん♡ し、しあわせぇ~~~~~~~~♡】


 ……正直悪口? をいうの疲れるんだが。こいつにもご褒美をやらないといけないのだ。我慢しよう。


 さてそんなふうに、ソロモン72柱を楽々と狩っていた……そのときだ。


【ご主人様。強敵です。72柱の中でも特に強い敵が現れました】


 俺はヴァイパーに道案内させ、敵の場所へと移動。


 そこにいたのは……巨大な、クモだ。


「……なんだあれ? 下半身がクモで、上半身が人間だ。きめぇ」


「ソロモン72柱がひとつ、【バアル】ですわ」


 俺のとなりにヴァイパーが出現する。

 俺たちは並んで、そこにいたデケえクモ男を見上げる。


「知性はありませんが、純粋な攻撃力で言うとSSS級……つまりほぼ魔王レベルの強敵です」


「SSS級……」


 どうやら、魔王も本気でミファを取りに来ているらしい。


「……やるか」

「お待ちください。ここは大賢者の魔法を使うべきです」


「……根拠は?」


「やつは強力な再生能力を持っています。斬撃を使うのは危険です。体の一部から、あの巨大なクモがそのたびに生成されます」


「……つまり殺すなら一気に殺せってことか」

「ええ。なので魔法を使いましょう。わたくしの氷魔法でやつを一瞬で凍り付けにします。その後は影喰いで食べるのが一番かと」


 その作戦で行くことになった。


 バアルがおれに気づき、その大きな足を振り上げる。


 俺はそれを避ける。……再生持ちであることを知らなかったら、切って払っていたことだろう。危なかった。


 俺はバアルから距離を取る。

 織影で柱を作り、それに登る。


「……俺、魔法って使ったことないんだけど」

【大丈夫です。わたくしにお任せあれ。ご主人様は敵に手を向けて、ただ呪力を込めればそれでいいです】


 俺はうなずく。

 右手を蜘蛛男バアルに向ける。


 ヴァイパーから魔法の名前を教えてもらう。それを、口にし、呪力を流す。


「……【永久氷獄棺セルシウス・コフィン】」


 すると天空から、バアルを中心に氷の嵐が吹く。


 びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお………………!!!!!


 ……嵐は、一瞬でやんだ。

 そこにいたのは、氷付けになったバアル。

 そして……。

 見渡す限りの、氷の大地が、どこまでも広がっていた。


「…………」


 俺は言葉を失っていた。

 な、なんだこれ……? お、俺がやったのか……?


「まごうことなきご主人様の手柄です! ここまでの威力……わたくしだけでは出せませんでしたわ! さすがご主人様! 素敵っ! 踏んづけてっ!」


 きゃあきゃあ♡ とヴァイパーが黄色い声を上げる。


 ……どうやらこいつの魔法に、俺の持つ森から引っ張ってる呪力とが合わさったことで、ここまでの威力が出たらしい。


 俺は魔法が発動する前に、危険を感じて、とっさに村(の結界)を覆うように影の傘で覆っていた。


 ……そうでなかったら、余波で村にも被害が出ていただろう。あ、危なかった……。


「……ヴァイパー」

「はいはいなんでしょう!? ご褒美っ? ご褒美をくださるのかしらっ?」


「……魔法は、ここぞってときだけにしとくぞ」

「? もっとバンバン使えばいいじゃないですか?」


「……周りの被害考えろ、この豚」


「そのとおりでございますぅううううううううううううううん♡ さすがご主人様聡明でらっしゃるるぅうううううううううううううううう♡ んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおお♡」


 ……かくして。大賢者を手にしたことで、俺は強くなった。魔法も使えるようになった。


 だがとんでもない威力であることを、知った。使い方は考えようと、思ったのだった。


 ちなみに後に凍り漬けになったバアルを影喰いで取り込み、【超再生】スキルを手に入れたのだった。

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[一言] 変態だけど使えるとは。使い道に困るやつだ
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