114.
《ヒカゲSide》
奈落の森にて、聖騎士の竜一が暴走していた。
同じく聖騎士の次郎がおそわれかかっているところに、俺は参上、彼を救出したのだった。
「頼む……竜一を……」
いいたいことはわかった。
殺さないでくれ、ということだろう。
今までの俺だったら苦労していただろう。
俺は暗殺者だった。
殺すことが生きる意味だったし、その技術に特化していた。
殺さずに敵を無力化することは、俺にとっては難しいことだった。
でも……今はちがう。
「ああ、任せとけ。俺があいつを、救ってみせる」
堂々と、そう言えた。
そう、かつての俺を乗り越えて、新しい力を手にした俺ならば、助けることができるのだ。
殺すでは無く、助ける。
……正直俺の命を狙ってきたやつを、助けることに意味があるのかと思わなくもない。
……だが、次郎は神器が破壊されてもなお、反撃しなかった。
つまりは、彼にとって竜一は大切な存在なのだろう。
俺にとってエステルがそうであるように。
……俺には助ける力がある。
なら……助ける。力なきエステルが、それでも、俺を闇からすくい上げてくれたように……。
力を持つ俺が、今度は奈落の森の人間だけではなく、困っている人を救う。
「あとは俺に任せろ」
俺はもう、暗殺者じゃない。
命令されて動くコマじゃない。
防人でもない。
使命感から、人助けする装置でもない。
俺は焔群ヒカゲだ。
それ以上でも以下でもない。
他でもない、俺が決めたのだ。
たとえ敵であろうと、困ってるやつは……救うと。
「こいよ竜一。その不幸を、俺が食らってやる」
「グラァアアアアアアアアアアアア!」