110.
いったん村に戻った。
ミファの血……邪血を取り込むためだ。
「ヒカゲ様」
「ミファ……」
「事情は、姉様からうかがいました」
エステルとともにミファが戻ってくる。
ハーフエルフの少女が、心配そうに俺を見てきた。
多分彼女も、俺が邪血を取り込むことで、暴走することを危惧しているのだろう。
「大丈夫。俺は……防人だよ。何があっても」
邪血を取り込み、自我がなくなったとしても、俺はこの体が朽ち果てるまで、村を守るだろう。
「ひかげくん……」
愛するエステルが俺を見つめてくる。
大丈夫、とうなずくも、彼女の表情は晴れない。
……不安にさせてしまって、ごめん。
でも、俺がやらないといけないことなんだ。
「ミファ」
「はい……」
彼女が俺の前でしゃがみこんで、クビを差し出す。
艶っぽい雰囲気にはならない。
俺はしゃがみこんで、彼女の首筋に、歯を立てる。
「んっ」
痛がってるようなそぶりを見せるミファに、申し訳なさを覚えながら、俺は血を取り込む。
その瞬間……。
どくんっ、とうちなるケモノ……黒獣が活性化したように覚えた。
どくん……どくん! と強く脈打っている。
体のなかに凄まじい力が満ちていくようだ。
「ぐ……が……」
俺はこの森にきたばかりのことをおもいだす。
魔王を倒すとき、俺は自爆の技を使った。
もう戻れないと思っていた。
でも……俺は無事帰って来れた。
それはエステルを何が何でも守るんだ、という強い意志の力が合ったからだ。
エステル……。
俺の、恩人。大好きな少女。
この子がくらす森を、村を、守りたい。
村人の日常を……守りたい……。
そう、強く願った瞬間……。
俺の意識は、ぶつりと途切れたのだった。