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11.暗殺者、魔王の側近をねじ伏せ従える


 アリーシャとの小競り合いの後。

 夜。俺はミファを連れて、村へと向かっていた。


「あ、あの……ひ、ヒカゲ様……さきほどは……アリーシャが失礼いたしました」


「……いや、別に気にしてない。むしろ、大事なモンこわしてすまなかった」


 俺のとなりを、ミファがちょこちょこと歩いている。

 今、俺は彼女を送り届ける途中だった。


 というのも、さっきミファがなぜ俺の家にきたのかというと、夕飯を届けるためだったらしい。


 飯を食った後、ミファは家に帰ることになった。するとエステルが『女の子をひとりで帰らせるとはどーゆことか! 送ってきなさい!』といって、今に至る次第。


「ヒカゲ様……お優しい、です。命を狙われた側なのに……すてき……」


「……ど、どうも」


 キラキラとした目を、ミファが俺に向けてくる。どうにも照れくさかった。


「あの……その……ヒカゲ、様は」


 ミファが俺を見上げて言う。


「村に……住んでは、くれないのですか?」

「……必要ないだろ。結界は張られてるし、敵の排除は神社にいたほうが都合良いしな」


 村の中は影が少ないからな。森の中のように無限の呪力で戦えないし。


「け、けれど……その……む、村の中に敵が侵入してきたら、その……そういうこともあるかもだから……おそばに、いてほしいな……と」


 ミファがとがった耳を先まで真っ赤にして、消え入りそうな調子で言う。


「……まあ、それは一理あるが、まあほぼないだろうし大丈夫だろ」


 力業で結界を破壊して侵入してきたあの日以来、村長のサクヤは、結界の強度を上げた。


 結界を二重に張ったのだ。

 しかも外側の結界が破壊されると、俺にすぐ知らせが来るようまじないをかけてあるらしい。


 これなら仮に直接村の中に敵が外部から侵入してきても、対処が間に合う次第だ。


「ち、ちが……そうじゃ、なくて……。いっ、一緒にいてほしく……て」


 ? だから外部にいたほうが守りやすいといっているのに、なぜ頑なに一緒にいてくれと言うのだろうか。


 ……俺が頼りないからだろうか。


「……大丈夫だ。俺とサクヤが村の中に敵を絶対に入れない。安全だ」


「そ、そうじゃなくて~……あぅ~……」


 なぜか知らないが、ミファがさらに顔を赤らめてうなっていた。なんなのだ?


 しばらくすると、村が見えてきた。

 入った瞬間、


「「「さきもりさま~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」」」


 黄色い声とともに、若い女たちが、こちらにいっせいに駆け寄ってくるではないか。

「……そ、それじゃミファ。また明日な」


 真っ先に退散しようとしたのだが。


 ガシッ……!


「み、ミファっ?」

「あのえと……お茶でもどうでしょうかっ?」


 ミファがエルフ耳を朱に染め、ぴこぴこ動かしながら、俺の腕を掴んで言う。


 驚いている間に、若い女たちが到着。

 俺はあっという間に、たくさんの女たちに囲まれる羽目になった。


「きゃ~~~♡ さきもりさまだ~!」

「いつも来てくれないのに今日はどうしたのぉ?」

「お姉さんといいことしにきたのかしら~♡ いつでもいいわよ~♡」


 女たちが俺の腕を引っ張ったり体に抱きついたりする。柔らかい乳房の感触があちこちからするし……なんか良い匂いがそこかしこからするし……。


 い、いかんっ!

 俺は逃げようとするのだが……。


「だーめ♡ さきもりさま、一緒におしゃべりしましょーよー!」

「あー! ずっるいわよ! あたしだって防人さきもりともっと仲良くなりたいんだから!」

「さきもりさまは私のよ! あんたたちはひっこんでなさい!」


 ぎゃあぎゃあきゃあきゃあと、やかましいことこの上なかった。


 しかし本当にいろんなタイプの女性がいるな。


 人間、エルフ、獣人……あれは、砂漠エルフか?


 砂漠エルフ。かつてはダークエルフと呼ばれ、魔族だったことのあるエルフの亜種だ。

 

 チョコレートのような焦げ茶色の肌と、明るい髪色、そして目を見張るほどの発育のいい胸が特徴的だ。


「くすっ♡ かわいいわね、坊や……♡」


 砂漠エルフが俺の胸に手を触れた……そのときだ。


 ザワッ……! と、殺気を感じた瞬間には……。


 ドスッ……!!!!


「………………え?」

「さ、さきもりさまが……さ、された……?」


「「「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」


 悲鳴があちこちから上がる。


「くふふっ♡ あーら坊や……思った以上にやるわねぇ♡」


 砂漠エルフが殺気むき出して笑ってくる。

 その手には氷の剣が伸びており、俺の心臓付近をひと突きしてきた。


 俺は【織影】を発動させ、影の触手を伸ばし、氷の剣を止めた次第だ。


「殺気と魔力を魔法で完璧に隠蔽していたのに……それに気付くとはさすがね」


「……魔王の手下か?」


 女たちが悲鳴を上げながら逃げていく。

 ミファは恐怖で腰が抜けていた。


 俺は【影式神】を発動させ、影鷲馬を出す。いざとなったらミファをこれに乗せて逃がすつもりだ。


「そ♡ わたくし魔王の側近、右腕を担当してる【ダークエルフ】の【ヴァイパー】よ♡ よろしくね、坊や♡ そして……さよなら」


 ダークエルフ……ヴァイパーが呪力を高める。


 氷の槍が地面から生えて、俺の体めがけて突き刺してくる。


 俺は【織影】で影の刀を作り、氷の槍をなぎ払う。


「これが【影呪法】ね。【大賢者】のわたくしでも見たことのない魔法があるなんて……世の中ほんと広いわね」


 俺は織影で影を伸ばす。尖端を刃に変えて、ヴァイパーを串刺しにしようとする。


 それをひらり……と、まるで蝶々のように、ヴァイパーが避ける。


 というか……。


「……飛んでやがる」

「飛行の魔法よ♡」


 ヴァイパーは背中に、氷でできた蝶々の羽を作っていた。それで飛んでいた。


 氷の魔法に、飛行魔法。

 隠蔽魔法……多彩な魔法を使う。


 それにこいつはサクヤの二重結界を、そして俺の影探知を抜けてきた。そうとうな魔法の名手と見た。


「……何しに来た?」


「あっはぁ♡ そんなのわかりきってるでしょう? そこの邪血のお姫様をいただきにきたのよぉ♡」


 ヴァイパーが空中で俺を見下ろしながら言う。


「……そうやって送り込まれた魔族を全員は返り討ちになってるんだが、情報共有はされてないのか?」


「されてるわよぉ。ばぁっちり。だから……坊やを殺す算段も、ちゃんとつけてきてるわよ」


 高い位置へと、ヴァイパーが飛び上がる。俺は手印を組んで【織影】を発動。


 影の刃をヴァイパーへと伸ばす。

 しかし……。


 ぴたっ……。


「あなたには弱点が多いわ。影を媒体にしているから、影のない場所での戦いに弱い。それにシチュエーション。今は夜。影は……日中より薄くなるわ」


 なるほど……よく研究している。

 朝より夜の方が、影が薄い。


 呪力と威力は、日中の方が強いのである。

「そして弱点その2……。遠隔での攻撃方法がほぼ皆無。こんなふうに!」


 ヴァイパーが氷の羽を広げる。

 パキパキパキ……! と羽の周囲に氷の槍が、いくつもできあがる。


 ドシュッ……!


 槍が俺めがけて降ってくる。

 俺は影呪法【潜影】を使う。

 自分の影に潜って、攻撃をかわす。


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド………………!!!!!


 速射砲のごとく、氷の槍が地面に刺さる。

 ……これはこっちも、策を練った方が良いな。


 俺は手印を組んで、準備をしておく。

 ややあって、【俺】は外に出る。


「あなたの弱点その3……!」


 ヴァイパーがまた氷の槍を生成。

 【俺】に向けて打ってくる……と思ったそのときだ。


「弱点が周りにたっくさんあることよ!」


 ヴァイパーは【俺】ではなく、村に向かって、氷の槍を撃った。


 氷の弾丸が村へと降り注ぐ。


「…………」


【俺】は影呪法【織影】を発動。

 あらんかぎりの呪力をこめて、影の傘を作り、村を覆う。


 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスッ!!!!


【俺】の作った影の傘が、氷の弾丸をすべて防ぐ。


「おみごと。影の薄いこの状況下で、よくわたくしの弾丸を防いだわ。驚嘆に値する……さすが四天王ふたりを単独で倒したバケモノね。け・ど~♡」


 にぃ……っとヴァイパーが笑う。


「広範囲に影の防御魔法……。ずいぶんと魔力を使うみたいじゃない。それに肩で息してるけど大丈夫ぅ~?」


 ヴァイパーが【俺】を見て余裕の笑みを浮かべる。……よし、だまされてるな。


「…………」


【俺】は【織影】を発動。影のハシゴを作り、空中のヴァイパーまで限界まで伸ばす。


 そのままハシゴを駆け上がっていき、かげたの刀で、ヴァイパーを切りつける。


「甘いわぁ……!」


 ヴァイパーが羽を広げて、さらに上空へと舞い上がる。【俺】の刀がスカッ……! と空を切る。


「あら残念……。けどいいのかしら、そんな考え無しにつっこんできて」


 実に愉快そうに、ヴァイパーが笑うと、


「空中で、いったいどうやって攻撃を避けるというの?」


 氷の槍を無数に作り、【俺】に突き刺した。


 ドスドスドスドスドスドスドスドス……!!!


「ヒカゲ様……!!」


 ミファの悲痛なる声が、【頭上】から聞こえる。


【俺】は氷の槍で串刺しにされると、そのまま地上へと、頭から落下した。


 ぐしゃぁ……!!!!


「…………!!!」


 ミファが青い顔をして、【俺】の死体を見やる。


「あっはぁ♡ あなたを守るナイト様、しんじゃったわね~♡」


 ヴァイパーは実に楽しそうに笑いながら、地上へと降り立ち、ミファへ近づく。


「…………」

「あなたのせいで、あなたの大事なナイト様死んじゃったわ。あなたがおとなしく魔王様のもとへくれば……坊やは死なずにすんだのにね~」


 ニタニタ笑いながら、ヴァイパーがミファに顔を近づける。

 ミファは瞳に涙をためて、両手で顔を覆い隠して泣き出す。


「ヒカゲ様……ごめんなさい……わたしの、せいで……」

「はぁあああん……♡ いいわその表情……最高よぉ~……♡」


 ヴァイパーが氷の羽を解除して、ミファに顔を近づける。……よし、呪力もだいぶたまってきてる。


「はぁっ……♡ はぁ……♡ ンッ……わたくし、人が苦しんだり泣いたりしてる顔、だぁいすきなの……♡ あはっ♡ もっとその顔、じっくり見せてぇ~……♡」


 ヴァイパーがミファと、体を密着させる。至近距離でミファの顔を見たいのだろう。趣味の悪いやつだ。


 ……だが、体が重なったおかげで、準備が整った。


 ……俺は手印を組み、影呪法を発動させる。


 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス…………!!!!!!


「な、んなぁ……!?」


 ヴァイパーが驚愕に目を見開く。


「か、影の槍!? あ、あの坊やの術……くっ! ばかなっ!? あの子は死んだはずでしょう!?」


 バッ……! とヴァイパーが【俺】の死体……と思い込んでいる【それ】を見やる。


 だが……ずぁああああ、と【俺】は溶けて消えていった。


「な、まさか……影の身代わり人形……幻影!?」

「……その通りだよ」


「! ぼ、坊や!? どこのいるの!?」


 ヴァイパーが見当違いの方向を見ながら言う。


 俺はヴァイパーの影から出て、背後に出現する。影の刀で、やつの首を切る。


 すぱぁああああああああああああああああああん!!!!


 ヴァイパーの首が、胴体から落ちる。

 俺は呪力を込めた刀で、急所である心臓を潰す。


「……答える義理はない」

「ヒカゲ様っ! ご無事だったのですねっ!」


 ぱぁ……! とミファが明るい笑みを浮かべる。


「けど……いったい今までどこに? それに……先ほど死んだヒカゲ様は……?」


「……あれは幻影。影で作った人形だ」

「でも……まるで本物のように動いてましたけど?」


「……【影繰り】。影で糸を作り、物体を動かす術だ」


 俺は潜影で影の中に潜ったとき、力押しではダメだと悟った。


 やつは制空権を取っている。上からバンバン攻撃するだろう。俺の呪力は今足りてない状態なので、無理な勝負をしたら負けるのは必定。


 なので俺は罠を張ったのだ。影の人形で死んだ風に演出し、油断するまでミファの影の中に隠れていた。


 やつはミファを連れ去りに来ているのだ。待っていればいずれ向こうから、罠にはまりにきてくれるだろう。


 あとは近づいてきたヴァイパーの影に潜んで背後を取った次第。影の中で呪力を込めまくっていたので、一撃で倒せた。


「なるほど……すごいです! さすがヒカゲ様!」

「……くふっ」


 バッ……! と俺はヴァイパーの死体を見やる。


 首だけになったヴァイパーが笑っていた。

「素晴らしい……素晴らしいわぁ~……♡」


 うっとりとした表情を、俺に向ける。


「最高……あなた、とっても最高……♡ わたくし、人を痛めつけるノ大好きだけど、ほんとうは痛めつけられるのも大好きなの。……けどわたくし強すぎて、誰もわたくしを満足させてくれなかったの」


 けど……と熱っぽくヴァイパーが呟く。


「あなたなら……わたくしを満足させてくれる。ねぇ……わたくしの旦那に」


「……ならん」


 俺はヴァイパーの死体を、【影喰い】でさっさと処理した。


 影の沼に、大賢者ヴァイパーが沈む。


「ふぅ……」


 と安堵の吐息をついた、そのときだ。


【くふっ♡ これでわたくしも、あなたの下僕になれた訳ね♡ ご主人様♡】


 脳裏にやつの……ヴァイパーの声が響いた。


「な、なんでおまえ自我を保ててるんだよ……?」


 式神になったやつは、みな自我と意識を失い、俺の完全な下僕になる。


【さぁ。わたくしが特別な職業……大賢者だからじゃないかしら?】


「……おまえ、魔族のくせに職業ジョブもちかよ」


 さて、とヴァイパーと言う。

 

 ずぉおおお……! と、俺の影から、式神が勝手に出現する。


 そこにいたのは……黒衣を纏った、ダークエルフのヴァイパーだった。


 妙な服装だ。給仕メイドがきるような服を着ている。


「はぁ……♡ はぁ……♡ ご主人様~♡」


 ダークエルフ……いや、影エルフとなったヴァイパーが、目に♡を浮かべて、俺の元へ来る。


「はぁ……はぁ……わたくしこれで……あなたの忠実なる下僕に……いや、犬になれたのですね♡ どうぞわたくしを虐げてくださいまし♡」


「い、いやだよ気色悪いな……」


 ヴァイパーが俺の腰にしがみつく。

 俺はぐいぐいとその頭を押しのける。


「はぁ~~~~ん♡ いいです最高ですぅ~……♡ ご主人様、もっとわたくしをいじめてください……♡」


「……式神解除して完全に消すか」


「お、おまちください!」


 ヴァイパーが俺の前にひざまづいて言う。

「わ、わたくしを下僕……いや犬……式神にしておくと便利かと思います!」


 必死になってヴァイパーがうったえる。


「たとえばわたくしの身には莫大な魔力が内包されています。影の薄い場所でも、影呪法が森の中と同じレベルで使えるようになります! またわたくしは強力な魔法も使えます! かならずや戦いのお役に立つかと!」


 それに! と続ける。


「わたくしには【鑑定眼】があります。今回のように隠蔽してやってくる敵を見抜くことも可能! さらに言えば【並列思考】というスキルを使えます! これがあれば影呪法をさらに応用させることが可能です!」


 なのでどうか! とダークエルフの美女が、地面に頭をこすりつけて言う。


「どうかわたくしをあなた様の忠実なるメス奴隷としておいてくださいまし! どうか、どうかお願いしますぅううううううううううううううううう!!!」


 ……結局、俺は魔王の側近を飼うことにしたのだった。式神として……こいつの言葉を借りるなら、メス奴隷として。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 夜は影が薄い? (異世界が地球と同じかは分かりませんが) 夜は地球の影となった部分ですが……。 影使いなら夜の方が能力アップとなるのでは?
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