107.
竜一の剣は俺が纏う黒獣の鎧を、まるで紙のように容易く斬って見せた。
「がはっ!」
俺は血を吹き出してその場に転がり込む。
「はあ……! はぁ……!」
『ご主人様! ごぶじですか!』
「あ、あ……なんとかな……」
やつに攻撃される刹那、俺は影でデコイを作った。
目の前に俺そっくりのカカシを用意したのだ。
やつはカカシごと俺をぶった切った。
距離感を見誤ったやつは、俺の急所を捕らえることができなかったのだ。
しかし……。
「げほっ! ごほっ!」
やつの斬撃をまともには食らわなかったものの、衝撃波をもろにうけてしまった。
そのせいで骨がいくつか折れている。
「はあ……はぁ……くそ……」
敵はほぼノーダメ。
こちらは重傷。戦える人材は……いない。
万事休すだ。
『撤退しましょう』
……俺もそれに一票を投じたい。
だが逃げるわけにはいかなかった。
今ここで逃げたら、エステルたちはどうなる。
彼女たちの身を危険にさらすことはできない。
「……やるしか、ないのか」
本気で……殺す気でやらないと、こちらが殺されてしまう状況だ。
でも……俺はもう暗殺家業から足を洗った。
もう……誰も人間は殺せない。
でも……。
「ガギャアアアアアアアアアアア!」
「しま……」
考え込んでいたせいで、敵が襲ってくるのに、気づかなかった。
やられる……とおもったそのときだ。
がきぃいいいいん!
……誰かが、攻撃を防いだのだ。
「力、貸そうか?」