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10.暗殺者、女騎士を簡単に負かす




 四天王ドライガーを倒し、俺はホームである神社へと帰宅した。


「いやぁ……すっかり日が暮れましたなぁ……お疲れひかげくん!」


 金髪碧眼美女のエステルが、西の空を見上げて言う。


「……いや、空見えないだろほとんど」


「気分だよきーぶーん。お空とんでたときもう夕焼けこやけだったでしょー。あっという間に夕方になったね~」


 確かに今日は一日がすごいスピードで過ぎていった気がする。

 

 ひとりで魔物狩りしていたときは、1日が長くてしょうがなかった。


 だがこの幼なじみと再会してからは、1日があっという間に過ぎて行っている気がする。


「さぁさぁひかげくん、お風呂にする? ご飯にする? それとも……きゃっ♡ だめだよひかげくん、お姉ちゃんたち姉弟きょうだいなんだよ~♡ そういうのはだめだよぅ~♡」


 きゃあきゃあと楽しそうにエステルが言う。このアホ姉はいつも元気だな。


「冗談抜きでお風呂とご飯どっち先が良い?」


 俺たちは神社へと戻ろうと歩いている。


「……腹減ったかな」

「おっけー! じゃあ超特急で村に戻ってご飯作って……って、あれ? 神社の前に誰かおりますな」


 俺たちがそばに近寄ると、そこには銀髪の巫女ミファ。


 そしてもうひとり、赤い髪の女が立っていた。


 長身だ。エステルも女にしては背が高いが、こいつはそれ以上にでかい。


 そして……エステル以上に、胸が……でかい。な、なんだこれは……? 人の顔……いや、スライム……いや、なんだこれ……とにかく、でかすぎるおっぱいだった。


「…………」


 ギロッ……! と赤髪女が、俺をにらみ付けてくる。


 その目も髪も、燃えるような赤色だ。眼光は鋭い。猛禽のようである。


「……じろじろ見るな汚らわしい。これだから男は」


 とかなんとか、ぶつぶつ言っている。

 と、そこで気がついた。


「……獣人?」


 赤髪女の頭頂部には犬のようなとがった耳。

 腰の辺りから、ふさふさの犬しっぽが生えていた。


 髪は天然パーマとでもいうのか。ウェーブしており、それをサムライのように束ねていた。


「ミファ! それに……【アリーシャ】! 目を覚ましたのねっ」


 エステルがパァ……! と表情を明るくすると、二人の元へ駆け寄る。


 赤髪獣人女は……アリーシャという名前らしい。


 エステルはアリーシャに抱きつく。


「心配かけてすまないエステル」


「無事で良かったぁ~。あ! 頭とかぶつけてないっ? あのドラゴンにゴッ……! って殴られてたでしょう?」


 ドラゴン……。

 あ。そうか……こいつか。


 俺とエステルとがこの森で再会したとき、あの場には3人いた。ミファ、エステル……そして、赤髪の女。こいつか。


「心配は無用だ。それよりあのときはすまなかった。姫を守るのが騎士の勤め……だというのに、真っ先に倒れてしまった」


 アリーシャが直角に頭を下げる。


「きみと姫を守るのが私の使命だったのに。本当にすまなかった」


「ううん、気にしないで! お姉ちゃんもミファもぴんぴんしてるしっ! それに悪いドラゴンは、うちの可愛い弟分が倒してくれたしっ!」


 エステルの言葉にアリーシャが眉間にしわを作る。


「……姫は、それに救われたのか」


 アリーシャは俺を指さし、【それ】という。顔を不快そうにゆがめ、嫌悪感を丸出しにしていた。


 ……なんで俺は、この女に嫌われているのだろうか?


「り、りーしゃ。だめ、だよ」


 ミファがアリーシャを見て、厳しい表情で言う。……りーしゃってのが、あの女のあだなか。


「ヒカゲ様は、わたしたちを……救ってくれたの。命の……恩人を【それ】呼ばわりは、失礼です」


「姫ッ! しかしこいつは……こいつは男です!」


 アリーシャが怒りで顔を染め上げて、俺をにらみ付ける。


「男は汚い、不潔……醜い存在です。姫やエステルを助けたのは……きっとよこしまな考えがあったのでしょう! 助けたんだから体を差し出せとか後々になって要求してくるに違いありません!」


「アリーシャ!」


 おしとやかなミファにしては、珍しいことに、声を荒げていた。


「あやまって!」

「ひ、姫……?」


 ミファは柳眉を逆立てて、赤髪獣人アリーシャに言う。


「な、なぜ怒っているのですか? あの男は……絶対に……」


 強面のアリーシャが、小柄なミファにたじろいでいた。上下関係はミファのほうが上なのだろう。アリーシャは姫って呼んでいるし。


「あの人は見ず知らずのわたしたちを無償で助けてくれたの! 恐ろしいバケモノから命をとして助けてくれた! 素晴らしい人です! なのに……りーしゃはひどいことばっかりいって……無礼です! あやまって!」


 俺は呆然としていた。

 あのおどおどとして、いつもエステルの後に隠れている子が、あんなにも攻撃的になるなんて……。


「し、しかし……」

「あやまって!」

「………………」


 アリーシャはギリ……! と歯がみする。

 俺をにらみ付けて、


「……姫の命令とあれど、それは承服しかねます」

「どうして!?」

「……それはやつが男だからです」


 アリーシャが俺の前へとやってくる。


「男はみなそうです。善人面して近づいてきて、結局は女を犯すことしか頭にないんです。獣よりも獣……いや、ケダモノです」


「…………」

「もうっ! アリーシャ! ひどいよ! ひかげくんになんてこというの! みんな仲良くして!」


 エステルも怒ってくれていた。


 俺は……別に怒っていなかった。


 初対面で結構酷いこと言われても、俺はまあ別にどうでも良かった。面識ないやつから嫌われてもな。


「エステル。姫。下がって。……おい下郎」

「……なんだよ?」


 アリーシャが俺の前にやってくる。


 改めてみると、こいつは剣士であることがわかった。


 胸当て、鉄ブーツなど最低限の防具に身を包み、腰には1対の剣を挿している。


「私の大事な姫と、その友人であるエステルを助けたことは……礼を言ってやろう。しかしもう二度と彼女たちに近づくな」


 しゃんっ……! とエステルが1ついの剣、双剣を抜き、その一つを俺に突きつける。


「りーしゃ! 何してるのっ!」

「姫は下がっててください。私はこれから……この男を試します」


「ためすってなにさっ!」

「こいつが姫や村を守るに足りる存在かどうかをです」


 アリーシャが殺気を向けてくる。

 ……良い呪力だ。よく練り上げられている。


「聞いたぞ下郎。貴様はこの村を守る防人さきもりらしいな」


「……まあいちおうな」


「ならば当然、この村の誰よりも強いのだろう。当然、私よりもな」


 呪力がさらに上がる。……威嚇のつもりか。なるほど……たいした呪力だ。だが……。


「……ああ。まあおまえよりはな」

「! ……言うじゃないか下郎のくせに」


 アリーシャの呪力がさらに高まる。


「……それで全力か? そこそこだな」

「……なるほど、よほど死にたいのだな」


「死ぬってなに!?」

「りーしゃやめて!」


 ふたりが止めに入ろうとする。

 だが呪力の波動に気圧され、ふたりは動けないでいた。


「勝負だ下郎。私と貴様、どちらが姫を守るにふさわしいかをな」


「…………」


 どうやらこいつは、ミファを守る役らしい。なのにこの間ドラゴンに倒され真っ先に気絶した。姫を守れなかった。


 ミファを俺が助けたから、腹が立っているのだろう。で、勝負を挑んできたと。


「……いやだ」

「なに? 貴様なんといった?」


 俺は素直に答えた。


「……いやだ。意味のない戦いはしない主義だ」


 俺は暗殺者だ。人を殺す、魔物を狩ることの専門家プロフェッショナルだ。


「……アマチュア相手に本気なんてだせねえよ。危なくて」


「アマチュア……ふざけやがっって……ふざけやがって!」


 なんだか知らないが、俺は地雷を踏んでしまったらしい。


「私の家は代々邪血の一族を守ってきた誇り高き最強騎士の家だ! その娘である私をアマチュアなどと愚弄するとは……極刑に当たるぞ!」


 アリーシャが一瞬で間合いを詰めてくる。

 高速で剣を振る。


 スカッ……!


「なっ!? け、剣が体をすり抜けただと!?」


 アリーシャが目をむいている。


「それは俺が作った幻だ」


 俺はとっさに影呪法を使っていたのだ。

【幻影】。影で身代わり人形を作り、相手の攻撃をかわすスキルだ。


 俺は一瞬で後に飛んで、身代わり人形を置いたわけだ。人形は影でできているので攻撃は当たらない。


「めくらましは得意のようだな!」


 アリーシャが再び特攻をかまそうとする。

 俺は手印を組んで、アリーシャの影を操作。


 影を触手に変え、アリーシャの足に絡ませる。


「きゃんっ……!」


 びたーん!


 ……アリーシャは転び、顔を地面に激突させる。


「……意外と可愛い声出すな」

「う、うるさい男の分際でなめた術つかいやがって!!!!」


 アリーシャは双剣を素早く振るい、触手を切断する。


「男なんぞ女を犯す以外に何の能もない猿の分際で! 誇り高き騎士を愚弄するなど身の程を知れッ!」


 こいつなんでそんなに男を目の敵にするんだろうか……。


 疑問に思っている間に、またアリーシャがこちらに攻めてくる。


 面倒なのでさっさと気絶でもさせるか。

 俺は再び織影を使って、触手を足に絡ませようとする。


「甘い!」


 だんっ……! と勢いよくジャンプし、俺に向かって飛びかかってくる。


 弾丸のごときスピードだ。

 触手が間に合わん。


「くたばれこの猿がぁあああああああああああああああああ!!!!!」


 音を超える速さで、双剣が振るわれる。

 俺の首を撥ねるような、正確無比な斬撃だ。


「しねぇえええええええええええええええええええ!!!」


「……いやだ」


 俺は両腕をあげて、構えを取る。


 ピタッ……!


「んなぁ……!? なんだとぉおおおおおおおお!?」


 アリーシャの双剣の刃を、俺はつまんで止めていた。


「な、なんだそれは!? ま、まさかスキル、【白羽取り】か!?」


 たしか自動で相手の斬撃攻撃を100%受け止めるスキルだったか。


「う、うそだ!? そ、それはごく限られた武人にしか習得できない超レア技能スキルだろうが!? 貴様のようなヒョロガリが持ってるわけない!」


「……ああ。もってねえよ。スキルなんて使ってないよ」


 単に攻撃を見極めて、刃を掴んだ。それだけだ。最強の暗殺集団【火影】の人間ならこれくらい普通にできる。


「くっ……!? は、離せっ!」


「……離したら俺を殺すんだろ?」


「当たり前だ! クソッ……! 取れぬ…

…なぜだぁ!?」


「……そりゃ俺の腕力のステータスがあんたより上だからだよ」


 俺は奈落で魔物を倒しまくった結果、レベルアップし、最強のステータスを手に入れた。


 素手でSS級モンスターを倒せるほどの腕力だ。呪力で強化しているとは言え、女に力で負けるはずがない。


「ちくしょう! 離せ! クソッ! 離せこの野郎! その首はねてやる!」


「……それは困るな」


 こいつに刃物を持たせると危なそうだ。

 俺は純粋な力を、指先に込める。


 ぐっ……!


 ぱりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん……………………!!!


「な、なぁ!?」


 アリーシャの目が驚愕に見開く。

 

「なんて強さだ……オリハルコンの剣が……こなごな……に。ばけものか……こいつ……?」


 俺は白羽取りでとった剣を、指の力だけで砕いたのだ。


 武器が壊れればさすがにかかっては来ないだろう。


「そ、そんな……そんな……」


 その場にへたり込むアリーシャ。


「母上から受け継いだ……大事な双剣が……」

「……あ」


 やべえ。大事なものっぽかった。


「う……ぐす……」


 アリーシャが体を震わせる。

 彼女は……泣いていた。泣くほど大事なものだったのか……。


「ご、ごめん……」

「うるさい! 話しかけるな!」


 アリーシャは声を荒げる。

 だがまた泣き出した。


「……姫の守り手をかけた戦いにも負け……大事な剣を壊され……敵に情けをかけられ……う、ぐす……うっ……うっ……」


 両手で自分の顔を覆い……そして俺に背を向けて、だーっと走り出す。


 ……後には俺と、そしてミファたちだけが残されたのだった。


 

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