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01.暗殺者、追放される

新連載始めました、よろしくお願いします!

 12歳の少年勇者ビズリー。


 俺たち勇者パーティのリーダー。

 魔王を倒すべく、女神に選ばれし存在だ。


 ビズリーには仲間がいる。

 俺……【ヒカゲ】もそのひとりだ。


 現在、勇者ビズリー一行は、魔王四天王のひとり、【右方のドラッケン】との戦闘が始まろうとしていた。


 場所は大陸東端にあるとりで

 ドラッケンは砦の上から、勇者パーティを見下ろしていた。


【我こそは魔王四天王がひとり! ドラッケン! 上位蜥蜴人ハイ・リザードマンの戦士なり!】


 蜥蜴人リザードマンとは文字通り、人のように大きなトカゲだ。


 腕も首も大樹のようにぶっとい。筋肉男と称するのがお似合いのパワータイプの魔族である。


 ドラッケンは胸と声を張って、ビズリーたちに名乗っている。


 ……よし、この隙だ。


 俺は自分の持つ異能を発動させる。

 すっ……としゃがみ込み、【力】を練りながら、自分の影に手を入れる。


 つぷ……っと、まるで水面に手を突っ込んでいるかのように、手が影の中に沈む。


 そのままいっきに……俺は自分の影の中に【潜った】。


「僕は勇者ビズリー! 2年前、女神アルト・ノアに選ばれ、魔王を倒すべく選ばれた存在だ!」


 頭上でビズリーも名乗っている。

 ……戦闘でなぜ名乗るのかよくわからないが。

 ともかくドラッケンの注意が俺からそれているのなら好都合だ。


 俺は影に潜った状態で、泳ぐ。

 ……俺には特別な能力が備わっている。


 俺の家は代々【暗殺者】の家系だ。

火影ほかげ】と呼ばれる、【忍者】の子孫である。


 火影の里の人間は、みな異能の力を持っている。

 俺の異能は、名前を【影呪法】という。

 影を自在に操る能力だ。


 影に潜って泳いでいるこれも、【影呪法】の技ひとつ、【潜影】。


 文字通り自分の影に潜り、影を伝ってどこまでも泳ぐことのできるというスキルだ。


 俺は影に潜りながら、するすると砦の背後に回る。


「ドラッケン! 僕は貴様ら魔族を絶対に許さない! 正々堂々と勝負しろ!」


 ……いや、ビズリー。

 なぜ正々堂々と勝負しないといけないんだ。

 相手は魔族だぞ。敵だぞ?

 なぜ敵を相手に真正面から戦う必要があるのだろうか。


 敵は速やかに排除するべきだろう。


【ほうっ! その意気やよし! ビズリーとやら……貴様幼いくせになかなか気持ちの良い性格をしてるでは無いか!】


 ……そしてなぜかドラッケンも正々堂々を好むようだ。


 なんでだよ。

 こんなのさっさと倒せば良いだろ。


 俺は顔を上げて、影から出る。

 次の技を使う。


 俺は地面に手をつく。

 すると地面から、カラスが出てきた。


 これは【影式神】。

 自分の影から式神サーヴァントを作り出す能力だ。

 

「……いけ」


 影カラスが俺の命令で、飛翔する。

 目指すは砦の上で仁王立ちする、四天王ドラッケンのもとだ。


「なぜだドラッケン! なぜ魔王とその配下は人を襲うんだ!?」

【知れたこと! 人間なんぞ下等生物が、この地上を我が物顔で歩いているからだ!】


 ドラッケンとビズリートの押し問答? が続いている。

 しかし長いな……まあ好都合だけどさ。


 その間に影カラスがすぅ……っと音もなく飛び、ドラッケンの足下に着地する。


 これで【道】ができた。

 俺は再び影に潜る。

 そして次なる技を発動させた。


 体がぐんっ! と砦へ向かって引っ張られる。

 これは【影転移】。

 影から影へと、転移テレポートする技だ。


 影カラスは俺の影の一部だ。

 それが今、ドラッケンの影に触れている。それによって【道】ができた。

 道ができれば、あとは自分の影から影へと跳べる次第である。


 さて……。

 俺はドラッケンの影の中に潜り込むことが成功できたわけだ。

 いよいよしめだ。


「人間も魔族ももとはこの世界に一緒に暮らす住人だったではないか! また昔のように歩み寄ることはできないのか!?」


【……ふっ。敵を前に説得とはな。面白いやつだ。だがそれはできぬ】


「どうしてだ!?」

【貴様ら人間が魔族を迫害したからだ! それの悲しき現状を憂い、我らが魔王ベリアル様は反旗を翻したのだ!】


 ……なんだか議論がヒートアップしていた。

 ドラッケンも、そしてビズリーも、少し泣いてる?

 ……わ、わからん。

 何やってるんだこいつら……?


 こいつは人類の敵だ。

 敵を排除するのが勇者と、その仲間パーティの役割だろう?


 敵は速やかに排除するべきだ。

 可能な限り早く、人類に平和をもたらすのが……俺たちの役割じゃ無いのか?


 ……まあいい。

 俺は俺の仕事をしよう。


 俺はドラッケンの影に潜みながら、最後の準備をする。

 異能を使うための【力】……【呪力】を練る。


 幸いなことに俺には生まれつき莫大な量の【呪力】が備わっていた。

 呪力。この大陸の人たちは、【魔力】と呼ぶそれを、俺は体内で練り上げる。


 やがて俺は……ため込んだ呪力を影に流して、技を発動させる。


 どぷんっ……!!!


【な、なんだぁ!? 足下が泥のように、か、体が沈むぅううううう!!!】


 ドラッケンが自分の影に沈んでいた。

 これは【影呪法】のひとつ。【影喰い】


 物体を影の中に、飲み込む技だ。

 ドラッケンの腰より下が、影に沈む。


「ど、どうしたんだドラッケン!?」

【わ、わからぬ……なんだこの妙な技は!?】


 俺は次なる技を発動させる。


【こ、今度は影が! ひものように我の体に纏わり付く!】


 影呪法・壱の型【織影】。

 影の形を自在に作り替える技だ。

 影をヒモに変えて、ドラッケンの体をがんじがらめにする。


【まるで両手足を拘束されて底なし沼に引きずり込まれているようだ! く、くそ! 動けぬ! まったく動けぬぅうううううううううう!】


「ドラッケーーーーーン! くそっ! またかっ! またあいつがでしゃばりやがったんだなぁ!?」


 ……砦の下で、ビズリーが声を荒げている。

 すまんビズリー。また先走ってしまって。

 けれどおまえの……おまえたちの身の安全のためなんだ。


 ……面と向かってのバトルなんて、危険すぎる。

 勇者。おまえは人類の希望だ。

 このザコに、真っ向勝負なんて馬鹿げたことをして、ケガを負ってもらっちゃこまるのだ。


 ザコの処理は、暗殺者の俺にまかせてくれ。

 俺は自分の得意な仕事、暗殺の作業に集中する。


【ぐぬぅううううううううぅ!】


 ドスドスドスドス…………!!!


 影が無数の針となって、ドラッケンの体に刺さる。


【針なんぞで我を殺せ……ころれ……これ……こりゃ、は?】


 ……それは俺たち【火影】特製の、麻痺毒だ。


 火影は暗殺のプロフェッショナルだ。

 人を殺すすべに長けている。


 毒を【織影】で作った針にしみこませて、全身に打ち込んだのだ。


 影の沼に動きを取られ、全身を影のロープでがんじがらめ。そして麻痺毒を打たれたドラッケンは……。


【…………】

「大丈夫かドラッケン!? 動けるかーーーー!?」

 

 ぐったりと脱力するドラッケン。

 ……なぜビズリーが身を案じるんだ?

 まあいい。とっとと仕事をしよう。


 俺は影から出て、完全に動かなくなったドラッケンの背後に立つ。

 後から飛びついて、喉元を小刀で掻き切る。


 ぷしゅうぅうううううううううううううううう…………………………。


 気道から空気が抜ける。

 頸動脈から血液が、止めどなくあふれ出る。


 まだだ。これくらいじゃ魔族のトップは殺せない。

 だから俺は、今度は致死毒を含んだ影の針で、ドラッケンをめった刺しにする。


 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!!!!!!!!!


 ドラッケンは、外から見ればハリネズミのような状態になる。

 俺は影に潜んで、ドラッケンの生命が停止するのを待った。


 ……見るからにパワータイプの相手に、パワーで挑むなど愚の骨頂だ。


 最小限の力で、最大の勝利を掴む。

 これが、もっとも安全な勝利の方程式だ。

 やがて致死毒がドラッケンの全身に回りきる。

 俺は影から出る。


「……まだだ」


 ドラッケンはすでに事切れている。

 だが相手は魔族。復活の魔法などを使うかも知れない。

 だから俺は……。


「……喰らえ」


 影呪法・【影喰らい】を再発動させる。

 影の中に、ドラッケンを沈めていく。

(影喰いで相手を完全飲み込むためには、相手を殺す必要があるのだ)


 やがて完全に、ドラッケンが影の底なし沼へと沈んだ。


「……ふぅ。任務完了だ」


 俺は長い安堵の吐息をついた。

 影の沼にやつは消えた。

 これで復活することはない。


「……これで魔王四天王は残り3体。そして魔王は1体……あと4体倒せば、世界に平和が訪れる」


 俺はその場に大の字になって倒れる。

 圧倒的な幸福感が、俺の胸を包んでいた。


「……暗殺者として、ガキの頃から人殺しの訓練を強要させられ十数年。やっと……やっと俺は、人のために生きることができる」


 俺の親父は火影の頭領だった。

 幼い頃から、俺は親父から人殺しの技を教えられていた。


 おかげで立派な暗殺者へと俺は成長した。

 だが暗殺者の何がいいんだ?

 人を殺す仕事なんて、誰からも感謝されない。後ろめたい仕事だ。

 

 ……俺はあの日、【あの子】に誓ったんだ。

 この技を、世のため人のために使うんだって。


 その決意が女神に届いて、俺は勇者ビズリーの仲間として、選ばれた。


 それから2年……長かったような、短かったような……。


 けれどこの2年間は、すごく充実していた。

 なぜなら人のために、この技を使えているからだ。


 人殺し一族に育った俺が、人々の平和のために貢献できている……素晴らしいことだ。


 四天王を3人倒し、そして魔王を倒せば世界は平和になれる。


 そしたら、俺は【あの子】の墓参りに行くんだ。

 あの日の誓いを、俺は守ったよっ……って。


 ……と、そのときである。


「ヒカゲ! てめえこの野郎ーーーー!」


 いつの間にか砦の上へと、ビズリーがやっていた。

 俺の胸ぐらを掴むと、


 ばぎぃいいいいいいいいいいい!


 思い切り、殴られたのだ。


「……な、なにするんだ、ビズリー?」


 俺は勇者を見上げる。


「それはこちらのセリフだ!」


 ビズリーは俺を見下ろす。

 その表情は怒りと、そして軽蔑に満ちていた。


「ヒカゲ! おまえにはもう我慢ならん!」

「……ど、どうしたんだよ?」


 訳がわからなかった。

 何を怒っている? なにか俺はしただろうか……?


 ビズリーは俺を見下ろし、声高に言う。


「敵の自由を奪った状態でなぶり殺すなんて……この卑怯者!」


 ……。…………。はぁ?


 卑怯者……だと?


 な、何を言ってるんだ……こいつ……? 


「卑怯もへったくれもないだろ? だってこいつは、こいつは敵なんだぞ?」


「ウルサい! そもそもおまえの独断専行にはいつもいつもむかついてたんだ! 僕が活躍する前に、手柄を全部横取りして……そんなに目立ちたいか!? そんなに自分の手柄が欲しいのか!?」


 な、なにを……いってるんだ?

 手柄なんて欲しくない。


 世のため人のために、俺は頑張っていたんだ。

 別に人からの賞賛なんていらない。

 この暗殺術を、人のために使いたい。そして世界を平和にしたい。それだけを思っていたのに……。


「おまえのせいで全然活躍できない! もううんざりだ! おまえのような卑怯者は、僕のパーティには必要ない!」


 勇者ビズリーは、ビシッと俺に指を突きつけて、言う。


「ヒカゲ! おまえを勇者パーティから追放する!」

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― 新着の感想 ―
「ヒカゲ! おまえを勇者パーティから追放する!」 こんな頭に砂糖が詰まっている者がリーダーをしているパーティから抜けることが出来て、万々歳だよ。良かったね。
[一言] シリアスとギャクはハッキリしたい。
[一言] お決まりのテンプレ
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