<行き止まりの風景-3>
<行き止まりの風景-3>
交差点角のカフェ、その白い立看板に書いてある詩。
その詩を、噛みしめるように詠うジグ。
《ジグ様、御覧下さい、前方に異変が生じております》
間髪を入れず、ソラは注意を促した。
考察を中断し思わず前方に視線を戻す。
《どうした、この先で何が・・》
ジグは我に返り視線を戻した。
異変の領域は、道路の200mほど先にあった。
《あれは・・》
ジグは、前方の異変を確かめるため更に足を進めた。
《ほほう、なかなか面白いことになっているじゃないか》
ゆっくり歩いた先、ジグはとてつもない断崖に立っていた。
街並みが、南北に鋭利な刃物でスパッと寸断されている。
断崖の先は何も無く、空が地の果てまで伸びてこの街を包んでいる。
改めて道路に視線を戻すと、
断崖に向かう車はブレーキを踏むこともなく、
そこから転落することもなく、そのまま消滅していくではないか。
更に歩行者さえも、歩きながら次々と消えていくのだ。
逆にそこから現れる歩行者や車はなかった。
《おいおい、どうなってるんだ。街がこんなになってるのに、
なぜここの住民たちはそれに気づかない》
ジグは、この断崖の境界線を確認した。
どうやら、断崖は江戸山南4条通りと直角に交差している、
通称<江戸山通り>のセンターラインに沿って続いているらしい。
このことで、民家やビルが真っ二つになる悲劇だけは免れていた。
これだけ明確な異変が起きているにも関わらず、
地下鉄やクルマは普段通り街を通行し、
人々は何事も無かったかのように暮らしている。
大規模な異変が起こっているのに、
そのことに無関心ともとれる住民の反応。
どうなっている、このような平穏が保たれるはずがない。
《ここで下車せず地下鉄に乗車したままだったら、
乗客と一緒に蒸発したんだろうか。
それとも、<IN>していないことを踏まえれば、
ボクだけどこかに放り出されるのかな》
ジグは、地獄の淵とも形容される深遠な断崖の縁に立っても、
さしたる恐怖を感じなかった。
そもそも、ボクはこの世界の住民とは違うのだ。
それより、少し前から感じていた<違和感>の正体を暴くことが必要だ。
《オーケイ、とりあえず江戸山南4条西10丁目のカフェに戻ろうか。
あの店の立看板を見ただろう。ボクはカフェのオーナーと話しがしたい。
店の前に着いたらこの世界にINするよ》
ジグのことばに頷くようにソラが語りかけてきた。
《ジグ様、いま私に申し上げられることは、
体力をまず確保せねばならないということです》
まず体力か、あのカフェで食事でもできたらなあ・・
INする前の状態ゆえ、ジグは空腹を感じないはずだったが、
駅からの道のりを逆戻りし徐々にカフェが近づくと、
立看板に書いてあったランチメミューが何だったか、
必死に思い出そうとしていた。