<行き止まりの風景-2>
<行き止まりの風景-2>
未来ヶ丘中学校前で地下鉄を降り様子を窺っていると、
在校生らしき制服を着た生徒たちが、
慌てた様子で争うように3番通路に向かい走っていく。
やれやれ、この車両に乗ったら遅刻ギリギリということかよ。
ボクが教師として<IN>していれば、
遅刻しそうなこいつらを、校門で暖かく迎えることになるだろうな。
ホームの階段を上がると、出口に面した大きな通りの反対側に、
未来ヶ丘中学校の正門が見えた。
公立中学校ということで、特に新しくもなく古くもなく、
コンクリートでできた4階建ての校舎が何棟か連なり、
体育館もそれなりの大きさといったところか。
生徒達は正門前の横断歩道に向かい、
歩行者用信号が点滅中にも関わらず、我先にと正門内に駆け込む。
門の前には、生徒指導の体操着の男性教諭が仁王立ちして待っていた。
《ジグ様、ここで何をなさるのでしょうか》
ソラが、珍しく自分から話題を持ち出した。
《こんなバテた状態で<IN>するつもりはないけど、
ちょっと気になることがある。とりあえず、この辺りを散策してみる》
ジグは、中学校周辺に何かを感じていた。
その何かを確かめるため、
地下鉄の出入り口に立ち、中学校の敷地全体を一度見渡した。
朝のHRが始まる時間帯、もし生徒が道路を歩いているとすれば、
遅刻することだけは間違いない。
《ジグ様に、どのようなお考えがおありなのか推察しかねます。
しかし、お決めになったことに私は最後までフォローいたします》
ソラの誠実な言葉に、ジグは片手を少し持ち上げて応えた。
もし可視化されていたら、タクシーが停車するかもしれない。
しばらくして、ジグは地下鉄入り口のある歩道を左に歩き始めた。
中学校では既にHRのチャイムが鳴っている。
ジグは、特に急ぐでも無くマイペースで歩道を歩き始めた。
中学校のあるこの通りは真っ直ぐであり、
歩いても歩いても同じような街並みが続き遠くへ伸びている。
気がつけば、既に中学校のある辺りは遥か後方に去っていた。
地下鉄の駅二つ分は歩いたか・・
ジグは、まるで磁石に引き寄せられるように歩き続けた。
体力不足で、フライやテレポートは使えない。
歩くだけなら体力をそれほど消費しないので、
変わらぬ街並みを置き去りにしながら、ジグは散策を続けた。
それにしても、見事なまでの真っ直ぐな道路。
気温が上昇し30度を超えるなか、遥か前方では陽炎が揺らめいている。
しばらくすると、ジグは道の先が見え難くなっていることに気づいた。
陽炎による揺らめきの見え難ささとは違い、
空が徐々に降りてきて、街並みの地平線が接近してくるようなイメージ。
何かがおかしい、ボクの視力が歪んでいるのか。
ジグは<江戸山南4条西10丁目>と表示される交差点手前で立ち止まる。
混乱のなかで、ふと交差点の角で営業しているカフェの立看板に目が止まった。
そこには本日のランチメニューの他に、
詩のような文章が書かれていた。
長い道の果てに 白い壁の落書き
行き止まりの風景 引き返す時間も無い
微笑みさえ今は遠く 色褪せたドアを叩く
曇り硝子息を吐いて 見えるはずのない道を探す
乾いた風に乗せて 名も無い歌が流れる
乾いた風に乗せて 名も無い歌が流れる
《ソラ、これはいったい・・・》