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<崩壊の始まり>

<崩壊の始まり>

宛先のラベルから、届いた荷物が俺宛であることは間違いない。

重さと形状から察するに、借金返済の督促などではなさそう。

直夫は、何も無い四畳半で胡座を掻き段ボールの梱包を開けた。

すると、ラシャ紙に包まれたA4サイズほどの荷物が現れた。

5センチほどの厚みのある冊子のような形状で、

手に持つとずしりとした重みがあった。

直夫は、勢いに任せ包装を解いていった。

現れたものは、ハードカバーの冊子という装丁。

表紙にあたるタイトル欄には、こう表記してあった。


<週刊お宅 X計画特集>


表紙は地味な茶色系統で統一されていたが、

その上には独特の幾何学的な模様が全体に施されていた。

ぶつぶつと呟きながら、直夫はそれを手にした。

残念ながら、こちとら時間だけは十二分にある。

どうせヒマだから、少しだけ付き合うか。

正体不明のお届け物に少し興味が沸いてきた直夫は、

表紙にあたる部分を恐る恐る開いた。


どっしりと分厚い表紙を開くと、

次のページにあたるところから裏表紙まで、

すっぽりと綺麗にくり抜かれていた。

その空間に収まっていたのが、

数点の個別でビニール袋に包装された金属製のパーツだった。

機械や電子部品に関しては、

過去のキャリアから様々な専門的知識を持つ直夫だった。

しかしそのパーツを袋からひとつひとつ取り出し、

畳の上に並べてみても、

これが何なのかまったく見当がつかなかった。


直夫は子供の頃から、承諾無しに機械を分解したり、

それをまた元通りに組み立てたりするのが得意だった。

その度両親にはこっぴどく叱られたものだったが、

過去の経験を足したり引いたりしてもまったくわからない。



<週刊お宅>というお題目がある以上、

これは何かの部品が梱包されたマニア向け雑誌なのか。

もしそうであれば、配布されたパーツを順番に組み立てていけば、

例えば1/250スケールの船や、歴史上の建造物など、

そのジャンルのマニアが泣いて喜ぶ実物のレプリカが完成するはず。

直夫は造形物の下に敷かれた薄い冊子を取り出した。

指を舐め舐め頁を捲っていく。


<X計画指令書 ★エージェントα様用★>

  この度は、たいへんおめでとうございます。

 貴方は、私どものX計画に於ける<エージェントα>に当選なさいました。

 同封された工具と書面は、

 エージェントαと認められた貴方様専用のものです。


  この書面は今後送付される部品の組み立て工程表となっております。

 次回配布から毎週4回に渡り指定の部品を配布致しますので、

 工程表に則り組み立てを行ってください。

  なお全ての組み立てが終了し然るべき装置が完成すると、

 完成検査専任オペ-レーターとしての指示書が届く予定です。

  貴方様の当面の生活費及び予想される特殊部品の調達資金として、

 少額ではありますがJJBプリペイドカードを同封いたしました。

 効率よく活用されることを希望いたします。


<遵守事項>

 ・当該事案に関連する情報を第三者に漏洩してはならない

 ・現住所からの引っ越しを禁止する

 ・装置の完成及び最低限の生活に必要な経費以外に

  与えられた資金を使用してはならない

<特記事項>

 オファーを断った場合若しくは遵守事項に反した場合、

 本人は自らの死を以て報いる

 

 直夫はざっくり記載されている内容を読み終わると、

指令書とやらを畳に放り出し仰向けに寝転がった。


これは何かの工具だったのか・・


身じろぎもせず、じっと天井の雨漏り模様を眺めた。

しばらくして、手にしたJJBプリカを天井に向かってかざし、

カードの下部に刻まれた金額の目盛りを、目を凝らし確認した。

 

JJBだったら、ほぼ全業種で使えるか。


ひゃくまん・・・


直夫はその数字に反応して勢い良く起き上がると、

畳に正座して再度それを確認した。

プリカで百万といえば、百万円分ということだよな。


ひゃくまん・・・


それだけあれば、ヤバい借金取りの連中にも返済できるし、

しばらく食事は下のばあちゃんから貰えるとして、

久方ぶりにパチンコ、競馬、酒に女と豪勢に毎日過ごせる。

貧困生活ゆえ忘れかけていた欲望が、直夫の脳裏を横切った。

だが<特記事項>を思い出すや、

希望に満ちあふれた表情が再び元の直夫に戻された。


まあいい

とりあえず俺は何を組み立てるのか


 <工具>とやらは届いたものの、

部品が手元に無い状態で、面倒なだけの文書を読み進める情熱はない。

来週になったら、誰かが部品を勝手に届けてくれるんだろう。


仮にも<エージェントα>を任命されたこの俺様だ。

部品が届くまで、身嗜みを整えて待たせて頂こう。

そうだ、まずは銭湯へ行こう。

最低限の生活とはいえ銭湯に行くぐらいなら問題なし。

直夫はまだ金に余裕があったころ通っていた<松ノ湯>で、

このプリカを使ってみることにした。

<松ノ湯は>、現在営業している数少ない銭湯だった。

確かあそこでもJJBは使えたはず。

瓶入りのコーヒー牛乳を片手で一気飲みなんてね。


そのあとは<壇ノ浦理容院>で散髪し、

<テーラー毒島>でよそ行きのスーツを購入する。

更に<ワークマン等々力>で動きやすい工作用の作業着を手に入れる。

このプリカが果たしてどこまで使えるのか、

これから色々試す必要がありそうだ。


一歩間違えば消される可能性はあるものの、

何も無い毎日よりはましかもしれない。

直夫は、プラチナ色に妖しく輝く正体不明の工具を手に持ち、

果たしてこれから何が完成していくのかを案じた。

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