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夕暮れの公園

拙い文章ですが、ジグの物語がもう少しだけ続きます。

<Descartesの備忘録 ロスタイム>


SOLAソラ、生きてるか・・・》


《ジグ様、私はココにおります》


ボクのなかで、ソラが即座に反応した。

マスターは、ボクをまだ回収していない。

完結はしなかったが、

セイブルとマカインのミッションを全うするためにこのボクは生まれた。

マスターにとって、ボクが自我のある状態で存在する意味はない。

それでもなお、ボクは存在し続けている。

ここは何処だ、ボクは何をすればいい。


《ソラ、マスターから何か伝言はないのかい》


転送による影響からか、朦朧とした状態のままボクは辺りをゆっくり見渡した。


新緑の萌ゆる山、そこそこ緩やかな川、地方のちょっと大きめの街並。

そこで平和そうに行き来する人たち。

主人と散歩中の犬や、のんびり出窓に佇む猫。


《私の判断で申しますれば、ジグ様はアイドリング状態であると言えましょう》


ソラは、申し訳なさそうに答えた。


《アイドリングか》


クルマが発進する前の、エンジンだけが稼働しているあれ。

クルマは、ギアが入ればいつでもスタートできるが、

ギアのないこの状態では、ボクがいくらアクセルを踏み込んでも前に進まない。

ボクはいったい何の為にココに居る。


それにしても、マスターは厠から何処へ向かったのか。

どうも緊急の用事があるらしい。

あの方の<緊急>とは、次元世界全体を揺るがす本物の緊急事態から、

厠に常備するトイレットペーパーの買い出しまで、

振り幅がものすごく大きいので厄介だ。


この世界の公園らしき敷地内に立つ大樹。

その大樹の根元に、ボクはその身体をぐったりともたれ掛けている。


《ソラ、あの人たちにボクは見えているのか》


公園内でボクの前を行き交う人々は、誰もボクを見ようとはしなかった。


《いえ、ジグ様は現在可視化されておりません》


ソラの答えにゆっくり頷く。


《そうか、ボクの出で立ちを見る限り、

 マスターが最初に設定した教員モードになっているようだ》


《ジグ様、そのようです。この世界での名前は神宮弥彦じんぐう やひこ江戸山区立未来ヶ丘中学校3年B組学級担任、23歳男性、中肉中背、

人並みの顔立ち、スーツ姿、独身、趣味は競馬ゲーム、

あだ名は「銀パツ先生」。年齢に不似合いな若白髪がネタ元です》


なるほど、もしここの人たちにバトルスーツを纏ったボクが見えていたら、

公園内でパニックが発生していたことだろう。


《つまりボクはこの世界の固有時間に漂着したということか》


《流石ですジグ様。お察しのとおりです》


 ソラは、今のボクにとって無くてはならない存在だ。


《ではもし、ボクがこれから未来ヶ丘中学校に戻らない場合、

 この世界に何か不都合なことが起こるかもしれないということか》


 ボクは、婦人と散歩中の子犬にウインクしながらソラに問うた。

子犬は誰も居ないはずの空間に向かって立ち止まると、

不思議そうに首をかしげた。


《ジグ様を、この世界の時間軸にINさせない限りは大丈夫です》


 どうやらマスターは、今置かれた無防備な状態で、

ボクに何かを期待しているわけではなさそうだ。


 この世界を誰にも束縛されず見て歩く、それもまた良いかもしれない。

何よりボクは、心身共に相当疲れている。

とりあえず、アイドリングのままマスターからの通信を待つのもいいだろう。

ボクは、今置かれた状況に少しだけホッとしていた。

この状態なら、衣食住の心配も必要としないしお金の心配もせずに済む。

いいじゃないか、この際世界をゆっくり見て歩こう。


《ソラ、それならこのまましばらくこの辺りを見て回ろう。

 それで、移動するのに<フライ>若しくは<テレポート>は使えるのかな》


少しだけ気分が高揚したボクは、大樹の根元から腰を上げようとした。


《申し訳ありません、<フライ>もしくは<テレポート>のスキルを実施する場合、

 必要なエネルギーが不足しております》


《・・・ということは》


ボクは、上げようとした腰を再び元に戻した。


《申し訳ありません、しばらくはこの世界の人間と同じように足で移動することになります。

 しかし、人間と衝突することはありません。所謂スピリチュアルな存在ということです、はい》


《はい、ってか》


 やはり相当疲れてる。

 

《ジグ様、ひとつだけお伝えせねばならないことがあるのですが》


本当に申し訳なさそうにソラが続けた。


《どういうことだ?》


太陽が西の山に沈みはじめ、

公園を通り過ぎる人の影が人の丈より長く伸び始めていた。

さりげなく、ソラはボクに言った。


《この世界はまもなく崩壊いたします》


茜色に染まる西の空に大きく傾く太陽が、

深紅の衣装を纏いながら山の稜線に揺れ落ちる。

まもなく、夕焼け小焼けで日が暮れる。


《ほ、ほほう、それは悪い冗談だ》


この公園で、人々は笑顔で挨拶し合い子供たちは元気に飛び跳ねている。

こんな平和そうな世界で、いったい何が始まろうとしているのか。

ボクの頭のなかで、様々な感情と玉石混淆の想像が渦を巻き、

やがてそれは疲労というスパイスによってかき消された。

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