TSにおけるテンプレ的再会の話
20歳になった日の夜、旧友達に盛大に祝われながら俺こと橘 大吉は思いっ切り自棄酒をしていた。
小学校の同窓会当日が俺の誕生日という幸運に恵まれつつ、8年ぶりに出会えるかつての親友を心の底から楽しみにしていたのだが、待てど暮らせどそいつは現れず二次会真っ只中の現在に至るのだ。
皆かなりいい具合に酒が回って声のボリュームもうなぎのぼりに上昇してかなり喧しい喧騒の中、黙々と酒を呑み続ける。
俺とそいつが出会ったのは4歳の時。
斜め向かいに引っ越してきた一家の子供がまさかの同い年の男の子。
公園に遊びに行くついでに興味津々で庭を覗き混んでいるとそいつと目があった。
「 なんだおまえ 」
それが俺の親友、一ノ瀬 ユウキとの出会いだった。
「 おまえじゃねーよ!ダイキチだよ!」
「 知らねーよ 」
最初のやりとりこそ最悪だったが、そこは年の近い男子で仲良くなるのに時間はかからなかった。
お互いの家でゲームをしたり、公園でサッカーをしたりとほぼ毎日一緒に遊び、ほんとの兄弟のように過ごす日々。
そんな日々の中、ずっと一緒にいるせいか気付いた事がある。
そう、ユウキはモテるのだ。
妬ましいことこの上ない。
見た目はまぁ、ガキの頃でもわかるくらい将来イケメンだろうなぁというツラをしていた。
サラサラとした髪質に整った目鼻立ち。
おまけにちょっとぶっきらぼうな性格で運動神経も抜群。
そりゃモテるて・・。
小学校に上がってからはもう凄かった。
一緒にサッカー部に入ったんだが、2年生の頃から周りの女子にキャーキャー黄色い声援を浴びせかけられていた。
「 ダイキチ、一緒に帰ろうぜ 」
ユウキはFWで俺はDF。
「 俺、一人で帰る・・」
俺は拗ねていた。
兄弟のように育ってきたのにどうしてこうも違うのか!?
練習後はどうせ待ち伏せした女子がいるのだ。
この頃恋愛沙汰などさっぱり理解はしてなかったが、やはり片方だけもてはやされると良い気分はしない。
小学校2年生で敗北を受け入れられるほど俺は大人にはなっていなかった。
実際ガキだしな。
「 ?? なんでだよ 」
「 どうせ女子待ってんじゃん!女子とばっか一緒にいやがって・・!男らしくねーんだよ!!」
「!!! あんなん知らねーよ!勝手についてきてるだけじゃんか!そんなん羨ましがってるお前が男らしくねーんだよ!!」
「 なんだとこの野郎!!」
その日、初めて大喧嘩をした。
普通に殴り合いだ。
喧嘩になると運動神経ってあんまり関係ないんだよな。
特にこのくらいの年だと体格も変わらない。
お互い馬鹿だのアホだの大声で罵り合いながら取っ組み合っていると追っかけ女子に通報されたのか先生がやって来てそこで初の大喧嘩は終了となった。
その後、別室で先生に事情聴取を受けていると母親に連絡されていたようで久しぶりのガチ説教。
俺はギャン泣きしながらも母親に連れられてユウキのいる部屋に入った。
その時ユウキの顔見るのが怖くて下を向いていたんだが、向こうから声がかかって来た。
「 ごめん・・」
ちょっと驚きながらもあいつの顔を見ると少し目元が赤かった。
なんだかその瞬間すげー自分がしょーもない奴に思えてしまって、ぐずぐずの声で謝った。
「 俺のほうごそ・・ごめん・・ごべんなさいぃ・・」
再びのギャン泣きである。
ちょっと俺に釣られたのかユウキの方も泣いてしまって、苦笑い状態のお互いの母親に引っ張られながら帰路についたのである。
その後の小学校生活は特に大喧嘩もせず、再び兄弟のように過ごしながら大きくなっていった。
小学校6年生になるとイケメン具合をさらにあげたユウキはクラスの中心的存在となり、俺はそれが少し妬ましくもあり、自慢だった。
親友として誇らしい存在であるために俺も必死で食らいつこうとサッカーや勉強も頑張っていてクラスでの評判は悪くなかった。
順風満帆の日々。
しかしながら、それは唐突に終わってしまった。
6年生の夏休み前のある日、いつものように一緒に学校へ行こうとユウキの家のチャイムを鳴らすと珍しくおばさんが出てきた。
「 ユウキは今日ちょっと体調が良くないみたいなの ・・」
その時は風邪でもひいたかーと気軽に考えていた。
次の日もその次の日も毎日学校に誘うが結果は同じ。
おばさんに会わせてくれと頼んでも、今は会えないの一点張り。
次第に終業式が近づいてくるとこんな噂が流れてきた。
「 ユウキ病院通ってるらしいぜ 」
聞いてない。
なんで親友である俺がそんな大事な事知らないんだ。
帰宅後すぐにユウキの家に行きおばさんに問いただした。
「 おばさん!ユウキ病気なの!?」
「 ダイちゃん・・」
「 学校で病院通ってるって話きいてさ・・」
「 ダイちゃん、ごめんね。ユウキは入院することになっちゃってその治療の為に引っ越すことになりそうなの・・」
ゴツンと頭をハンマーで殴られた気がした。
それくらいの衝撃だった。
その後のことはあまりよく覚えていない。
おばさんに何か言われながら抱きしめられたものの、俺は呆然と立ち竦んだままだった。
頭の中の処理が追いつかないくらいのショックで心ここに在らずのまま夏休みまでの数日を過ごしたのだった。
夏休み当日。
ユウキのおばさんがうちにやってきてお別れの挨拶をしに来た。
最後まで会えないのか・・と頭のどこかで思いつつも何かアイツの頭に残るものをと、当時大人気だったデビモンのキーホルダーをおばさんに手渡した。
あれから8年。
いつか会えると信じて色んなことを努力した。
だが、結果はご覧の通りの自棄酒である。
病気が原因なので不幸があったかもしれないが、不思議とそれはないと確信出来た。
アイツは生きてる。
「 顔見せるくらいいいじゃねぇか・・ 」
慣れないチューハイをずずずと啜りながら一人で愚痴る。
正直、8年も前のことを引きずっているのは客観的に見て普通に気持ち悪いが、俺の中ではそれくらい大きな存在だったので仕方がない。
そんな感じで少し悲しい20歳の夜を過ごしていたわけなんだが、ふと前を見るとなんかそこに可愛いナマモノがいた。
チラチラ、ひょこひょこ
座敷の入り口からこちらを所在無さげに覗く美人。
入り口からは対面に座っているも一番奥なのでまあまあの距離があるが、そこから見てもわかるくらい綺麗な女性だった。
髪はサラサラでショートボブって言うのかな?
目鼻立ちは必要以上に整っていて、モデルのようにスレンダー。
ショートパンツからすらりと伸びた脚はまさに美脚といえるものである。
そんな美人がひょこひょこと残念な仕草を見せているので「可愛い」が第一印象だったのだ。
隣のやつをつつく。
鈴木だったかな?
「 入り口んとこにめっちゃ可愛い子がいるぞ 」
「 んー?・・・うわ!マジだ!めっちゃ可愛いじゃん!!」
山田だったかな?
山田は我先にと立ち上がり彼女の元へ近づいていく。
「 キミもしかして同窓会の子かな??」
「 えっと・・んー・・・そうなんだ。少し遅れちゃって 」
「 おー!!良かった!こっちこっち!」
山田が手招きしながらその子をこっちに連れてくる。
ふと一瞬目があった気がしたが、すぐに視線は外れた。
「 俺 田中っていうんだけど覚えてる!? キミスッゲーかわいいけどこんなかわいい娘うちのクラスにいたかなぁってなってるわ!なはは!!名前なんていうの!?」
田中だった。
スベってるぞ田中。
「 あー・・えーっと・・・山下だよ。すぐに転校したから覚えてないと思う」
山下さん?はそんな曖昧な返事をしつつ、つかつかとこちらに近づいてくる。
そして・・・
「 隣いいかな?」
なんと俺の隣を選んだのだ!!
他にも空きはあるものの、敢えての俺の隣か!?
なんか知らんけどラッキー!!
田中の恨めしそうな顔が映る。
「 お〜、どうぞどうぞ」
俺は内心動揺しつつも平静を装って隣を勧めた。
「 山下さんだっけ?ごめん、俺も昔過ぎてあんまり覚えてねーや。何年の頃転校したの?」
「 あー・・6年の頃だったかな・・?」
はて、6年の頃に転校した奴なんかいたっけ?
まあどうでもいいや。
こんな美人と喋れるならなんでもいい。
この降って湧いたチャンスをモノにするべく何か話題はないかと考える。
「 えーと、山下さんもしかして結構サッカー好きだったりする?」
ふと目に入ったのは彼女の背負っていたカバン。
そのカバンが有名サッカーチームのロゴが入ったものだった。
「 !!・・・どうして?」
「 だってそのカバンのロゴ。俺も好きなんだそのチーム」
「 あぁ・・・。なるほどね。・・うん、好きだよサッカー」
これはラッキー!!共通の話題発見だぜ!少し残念な表情なのが気になるがここで畳み掛ける!
「 やっぱり!実は俺サッカーずっとやってて結構得意なんだぜ!DFなんだけどその辺の奴には抜かれる気がしねーってくらいには自信あり!」
「 ・・・知ってる」
「・・・ん???」
知ってる???何をだ??
「あっ・・・えーーっと・・・・選抜の試合観てたから・・腕章着けてたでしょ?」
なんと!!俺の勇姿を観てくれてたのか!
これはまたとないチャンス!
ここで攻めるしかない!
ポジションはDFだが攻め時はしっかりわかっているのだ!
「 おーー!!観てくれてたんだ!俺カッコよかった?カッコよかった!?」
少し戯けて聞いてみる。
「・・・っぷ」
身体をくの字に曲げてくつくつと彼女が笑う。
「あはははは、変わってないなぁキミは・・」
目尻の涙を拭いながら笑う彼女に見惚れてしまい
「 ワタシの名前は山下ユキ。君の名前は?」
頭の中の疑問は吹っ飛んじまっていた。
それから俺と山下さんは色んな話をした。
好きなサッカーチームの話。
好きな選手の話。
よく見るテレビの話。
やってるスマホアプリの話。
取り留めもない話題ばかりだが、妙に話の馬が合い楽しかった。
話が進むと酒も進む。
結果的に俺はベロベロに酔ってしまった。
そして先程の感情を思い出話がてら初対面?の娘に愚痴る。
「 そっからなーーーーんも音沙汰無し!ひでぇと思わねー?」
「 そっか・・・。ダイキチー・・くんは彼にまた逢いたい?」
「 逢いたいなぁ・・。だってアイツと逢う為にこれまで色々頑張ってこれたんだ・・。俺もすげー男になったぞー!お前にも負けねぇくらい頑張ったぞーーってさ」
「・・・っ!」
「 まぁ俺がこんくらいならアイツはもーーーっと上まで駆け上ってる気がするけど」
「 もし・・・もし彼がどうしようもなく腐ってたらどうする・・?サッカーも辞めて・・色々諦めて・・しょうもない人間になってたら」
「 うーーん、そうだなぁ。それでも俺はアイツと肩を並べるかなぁ。昔アイツが俺にそうしてくれたように、今度は俺が歩幅を合わせてやる!」
あの大喧嘩の時もそうだった。
どうしようもなくアイツが腐っていたなら今度は俺から声を掛けようと思う。
ゴツン。
気づくと彼女はテーブルに頭をつけて俯いていた。
「 あれ!もしかして気持ち悪くなってきた??」
酔ってしまったんだろうか?
少し肩が上下している。
「 大丈夫!?ヤバイならトイレ行く?一緒に行こうか?あっ付いてったら犯罪じゃん俺」
酔っ払っているせいかめちゃくちゃテンパる。
「 ・・・っぷ」
情けねぇな俺。笑われてしまった。
「・・・・・・ありがとう」
それからしばらくして彼女は落ち着いたようでムクリと起き上がった。
先程よりも少し顔の険が取れたような気がする。
「 ありがとう・・。もう大丈夫」
「 いやー焦ったわ!急に俯くんだもん」
「 ごめん・・心配かけた」
「 吐きそうなら遠慮なく言ってくれな!」
「 ・・・・キミ。そーいうとこデリカシーが無いぞ」
あっやべーーー。心配するあまりにデリカシーゼロ発言を連発していたようだ。
「 あーー昔彼女にもよく言われてたわ。あはは」
ゴツン。
再び彼女がテーブルに突っ伏す。
「 あれ!?また吐きそう??」
「・・・・・ううん」
「えーっと・・・?」
「・・・・彼女いるの?」
チラリとジト目でこちらを見る。
大丈夫だろうか?
「 高3の時に初めて彼女が出来たんだけど、よく同じこと言われてたんだ。大学上がるときに疎遠になって別れちゃったけど」
さりげなく今はフリー宣言をしてみる。
「ぐぬぬ・・・」
何故か彼女は悔しそうだった。
何故だ。
「 全く・・・こっちの気も知らないで・・・」
「 ん?なんて言った?」
「 なんでもない!」
怒ってらっしゃる!
なんか不味いこと言ったっけ?
「 えーっと、山下さん?」
「 まぁそういうところもキミらしいけどね」
ふっと彼女が笑う。
「 ダイキチ・・・良かったら友達なろう・・!」
!!!
突然の宣言に俺は驚きつつも冷静に分析してみる。
同級生。趣味が合う。そして美人。
おまけにあっちからの友達宣言。
これは・・・立て続けに舞い降りた幸運が春を呼び込んでくれたのか!?
とんでもない誕生日プレゼントだぜ!
「 よっ・・・喜んでっ!」
つい手を出して彼女と握手をする。
脳内がお花畑モードになり、居酒屋に店員のような返事をしてしまった。
しっかし!こんな美人と付き合えたらどうしよう。
モデルと言われても違和感のない彼女と並んで歩くのを想像するだけで途方も無い優越感に浸れる。
そんな妄想に浸っていると彼女がジト目で睨んでいた。
あっやべ!キリッとした表情に戻りたいが口元がニヤけてしまう。
すると彼女は思案顔から不敵な笑みへと変わる。
そして彼女の形のいい唇がこちらに近づいてくる。
えっこんなところで!?とかなんかいい匂いがするとか考えていたが、彼女の口は俺の耳元で止まり・・・
「 ワタシ、男には興味無いからな」
えーーーっと・・・ん?????
どういうこと?
男に興味が無いってつまりは百合的なアレですか?
「えーーっと・・・」
彼女を見る。
ニヤリと笑うその表情は、たしかに同性をも惹きつけてしまいそうな魅力を秘めている。
女子校に通ってたら後輩からはお姉様とか言われてそう。
「 ええええええええええ・・」
俺の希望は断たれた。
がっくりと項垂れる。
「 あははは、ちょっとはスッキリしたな!」
「 なんだよそれーーー!」
そして再び彼女は俺の手を握って
「 改めてよろしく、ダイキチ」
そう言って笑う彼女はとても綺麗で
どこか懐かしい感じがした。
「 お、おう」
俺も握り返す。
アイツには逢えなかったが、この出会いを俺は大事にしようと思った。
趣味が合うとは思ったが、なんせコイツのカバンにはデビモンのキーホルダーまで付いているのだ。
話は尽きないな。
こうして俺の二十歳の夜は更けていった。