表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

土星

土星は鉛を司る。そう教えてくれたのは他ならぬエステル=メイジだった。

 空前の錬金術師(れんきんじゅつし)にして、絶後の(せん)(せい)医術師(いじゅつし)

 ただし自称。

 そんな彼女が、シグルドにそのことを忠告したのは、彼が意気揚々(いきようよう)とギルドから依頼書を持ち帰ったときのことであった。

「急募。ダンジョンの最下層に生える薬草を採ってくるだけの簡単なお仕事」

得意満面でその紙切れをエステルの鼻先に突き付けると、彼女は深くため息をついて、(かぶり)を振った。

「シグルドさんは『下のものは上のもののごとく』という言葉をご存知ですか?」

「何それ、禅問答?」

「惜しい! (いにしえ)の賢者の言葉です。要するにこの世界は、思ったよりも星の巡りに振り回されているということですね」

「うーん。いまいちピンとこないな。具体的にはどういうことなの?」

「例えば、今年の春分の日、太陽が牡羊座に入った時、東の地平線(アセンダント)に上っていたのは土星でした。こんな年には、地中深く眠る金属は自ずと「鉛」の性質を帯びてきます。ほら現在、あちこちで(なまり)瘴気(しょうき)による健康被害が問題となっているのはシグルドさんもご存じでしょう」

「うん、そういう奴らをエステルさんがいつも拾ってきて治療してるもんね。治らなくても診察代だって身ぐるみを()いで…」

「ゲフン。ゴホン。とにかく。それも元を質せば、気化した鉛が地上に噴出したものなのです。そうした毒は地下ダンジョンに棲息する魔物の爪や牙にも溜まっていきます。もしそんな奴らの攻撃を受けでもしたら、たとえ傷は浅くとも致命傷になりかねません。だから、今は地下ダンジョンなんかに足を踏み入れないのが最も賢明な判断であり、踏み入れちゃった人はバカなんです」

そう口を酸っぱくして、彼女は警告していたのに…。

それでも、シグルドがのこのことその死地に赴いてしまったのはバカだった上に、とある紳士にそそのかされていたからであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ