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(3) 勇者に乗って

 藪を掻き分けてカラアゲ君が風のように疾走する。

 それで作られた即席の獣道を、カラアゲ君の三人の従者たちがこれもまた風のように追走する。

 三人の従者はいずれも若い女性で、モデルや芸能人でもちょっと見ない程のとびきりの美女たちだ。

 なのにその足取りは軽く、急峻な山岳登坂でも激流の渡河行軍でも弱音を吐いたりへばって遅れることはない。

 なぜなら彼女たちはモデルでも芸能人でもなく武装した軍人。それもかなりのエリート軍人である。

 鍛え方が違うのだ。


 僕ですか?

 僕は今、カラアゲ君の背中の上ですが。

 ええ、僕は既に初日の山岳で弱音を吐きましたとも。

 ええ、物理的にも吐いてその場にへばりこみましたとも。

 やはり殺せ、いや殺せないの大騒ぎになりましたとも。

 見かねたカラアゲ君に背中に乗るようにうながされましたとも。


 チラリと振り向くと追走する三人の美女さんたちに「てめえ殺すぞ」の目で睨まれますけど仕方ないじゃないですか。

 こちとらちょっと前までは引きこもりエリートですよ?

 鍛え方が違うんですよ!



 三日前。

 僕は(精確には僕の魂は)、勇者であるカラアゲ君に呼ばれてこちらの世界へとやってきました。

 異世界からの英霊召喚という大魔法と聞きましたが、どうもイレギュラーだったみたいです。

 なぜなら英霊とは死んだ英雄の魂であり、英雄とは「その生涯で偉業を成し遂げる者」だからです。

 だから偉業を成し遂げていない英霊なんてありえないんだって。

 三美女のひとりであるセリエイヌさんが鑑定したところ、僕の魂プロフィールはスキル欄も偉業欄もまるきり空白なんだそうです。

 そりゃまあ生前はただの引きこもりだしね。


 それで三人の美女さんたちにしてみれば、戦闘力皆無の僕はすっかり期待はずれで、足手まといになるからと山中に埋められるところでした。

 それをとりなしてくれたのが我らが勇者様。僕の元愛犬であるカラアゲ君です。


『ばふ』


「勇者様、お下がりください。その男はここで始末するべきです」


「勇者様、どうやらその男は勇者様のお知り合いのようですが、今は戦時です」


「そうです勇者様、私情よりも使命を果たすことをどうか優先してください」


『ばふ』


「勇者様!」


「なんと。勇者様がここまで頑なとは」


「仕方ない。セリエイヌよ、あれを使え」


「はいジェスジア様」


「あ、あのう……」


 セリエイヌさんが大きな数珠を取り出したところで僕が声を掛けました。


「できれば生埋めなんかでなく、普通にどこかの人里で解放してもらえませんか?」


「な!」


「貴様、我らの言葉が分かるのか!」


『ばふ』


「ほらカラアゲ君もこう言ってますし」


「な!」


「貴様、もしや勇者様のお言葉が分かるのか!」


「え、あなたたちには分からないのですか?」


 三人の美女さんたちは再度顔を寄せて、なにやら相談をしてから。


「それで、勇者様は何と?」


「だから僕に危害を加えるなと」


『ばふ』


「僕に酷いことをしたらもう二度とあなたたちには協力しないと」


『ばふ』


「首を絞めてもビリビリしても絶対に協力しないって。はあ? なんだよ首を絞めるって! なんだよビリビリって!」


「ジェスジア様」


「うむ。勇者様のお言葉が分かるとはどうやら嘘ではなさそうだな」


「おいおまえたち、カラアゲ君にいったい何をした!」


「口を慎めこの無礼者め! 手打ちにしてくれるぞ」


「待てマギニッサ」


 剣の先を僕に向けたマギニッサさんをジェスジアさんが制しました。


「我らには果たすべき崇高な使命がある。その足手まといにならぬと誓うならば、貴様の同行を許してやる」


「ジェスジア様!」


「いやだからジェスジアさん、同行でなく解放してくださいよ」


「それでよろしいですね、勇者様」


『ばふ』


「カラアゲ君……」



 こうして不本意ながら僕はカラアゲ君のパーティーに同行することとなったのでした。

 カラアゲ君の従者である三人の美女さんたちは僕よりもっとずっとかなり不本意だったようですけどね。


 ちなみに僕だけ人里で解放する選択肢はないそうです。

 上空の飛行型モンスターによってカラアゲ君パーティーの動向は常に監視されていて、僕のことも既にチェックされたとか。

 僕がこのパーティーを離れたならば敵は必ずや僕をさらい、人質として利用しようとするんだって。

 過去にもこの勇者様パーティーから離脱したメンバーが何人かいて、それが例外なく拐われたそうです。


「奴らの遣り口を教えてやろうか」


 ジェスジアさんの語るところでは、モンスター軍は拐った捕虜が舌を咬まぬようにまずは歯を全て叩き砕くそうです。

 首が上下と左右に動けば情報を聞き出すにも事足りるとかで。

 もちろん捕虜には人権などありません。

 水も食料も与えられないし、逃げられないよう手足は切り落として血止めの魔法です。

 なにそれ。異世界怖すぎ。


「人質として利用価値がないなら、その後は死ぬまでゴブリンどもの慰みものだな」


 それで女ならばゴブリンの子を妊娠するし、体力が持てば生き長らえて出産する者もいるとか。

 ん? 水も食料も与えられないのに生き長らえる?


「でも水分補給と栄養補給はどうやって?」


 僕の質問は何かおぞましいモノを想像させたようで、マギニッサさんとセリエイヌさんが顔をしかめました。

 それってもしや……。





 い、異世界、怖すぎです。

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