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(15) ずっと探してた

 あともう少し。

 ほんの少しのゴブリンが足りなかった。

 なのに、僕はしばらく狩りができないでいる。

 ゴブリンどもが知恵をつけてしまったのだ。



 僕は狩場に行くといつもわざと姿を見せてやる。

 それで奴らが戦いの準備を整えるまで待ってやる。

 少しでも戦闘力を上げてもらった方が経験値が高くなるからね。


 なのに。今や奴らは僕を見ると逃げてしまう。

 狼が来た、狼が来たぞと大騒ぎのあげく、武器も持たずに逃げてしまうのだ。

 さすがにこれでは襲えない。

 そちらに害意と戦闘力がなかったら、襲ったところで経験値にならんのよ。


 きっと奴らも学習したのだろう。

 武器を棄てて逃げれば襲われないぞと。


 くそう。ゴブリンのくせに余計な知恵をつけやがって。

 くそう。「狼が来た」で本当に逃げるとか、おまえらはピュアな村人かよ。

 くそう。そもそもなんだよ、狼って……。


 結局、僕は目的を果たせないまま帰国せざるを得なかった。

 だってあれからそろそろ三カ月。観光ビザが切れてしまうから。



 来たときと逆のルートで藪を掻き分けて、山を越え雪融けの河を渡って中国に入る。

 もう春かあ。

 もちろん、密入国の際には髭と体毛はちゃんとキレイに剃り落しましたとも。

 だってあれじゃいかにも不審人物だからね。

 でも伸びた髪の毛はそのまんま。

 いいじゃん髪くらい。だってロン毛とか人生で初めてだったんだもの。

 髪が薄いとさ、伸ばしても落ち武者にしかならんのよ。(薄毛あるある)


 それで今の僕だけど。

 ワイルドなロン毛に、かなりの高身長に、超マッチョな風貌。

 ユーはどこのプロレスラーですかと。


 もちろんこれはレベルアップの弊害。

 連日のゴブリン狩りでレベルがガンガン上がったら、「肉体強化」でガタイがデカくなりすぎたみたい。

 これ以上やると魔王みたく四トントラックのサイズになるから要注意だね。


 風貌が怪しいので、せめて上等な服を買ってそれを着る。

 マッチョが隠せるし、カッチリした服を着ていれば職質されにくいと聞いたことがあるので。


 これがおそらく正解だった。

 中国では町にも駅にも空港にも、至る所に兵士が立った厳戒体勢。

 なんかもうね、やたらとピリピリしていた。

 オゥ、ワタシはぁ、ただのぅ、ツーリストですぅ。



 ピリピリしていた理由は、飛行機でニュースを見て知った。

 隣の国で政変が起きて、いろいろと混乱しているみたい。

 なんでも軍事施設を単身で襲って回るとんでもない破壊工作員さんがいて、そこから逃げ出した軍人たちが独裁者に粛清されるのを恐れて逆にクーデターを起こしたとか。

 その破壊工作の黒幕は米国とも、中国とも、ロシアとも。

 それで黒幕容疑者の大国がお互いに牽制しあってどうのこうのと。

 相手国のとんでもない破壊工作員に超ビビってどうのこうのと。

 まさに激動の世界情勢ってやつですか。

 知らんがな。


 僕にとってはどうでもいい話。

 僕にとって重要なのは、あと少しのゴブリンだけ。

 ああ、どこかによい害意とよい戦闘力を持った素敵なゴブリンさんはいないかしら……。

「いつか白馬に乗ったゴブリンさんがアタシを迎えに」なんてさ。

「お客様の中にゴブリン様はいらっしゃいませんか?」なんてさ。

「良いゴブリンはいねがぁーッ」なんてさ。

 そんな気分。

 とにかく今はゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。

 それ以外のことなどどうでもいい。

 だから。


【独裁国家を崩壊させ核戦争を未然に防いだ】


 いつの間にか、僕の魂にそんな偉業が刻まれてたことなんて、心の底からどうでもいい。

 知らんがな、知らんがな。

 そんなフラストレーションを抱えたままで帰国。



 帰国したけどそこは元引きこもり。

 他に行く当てもないから結局帰るのは僕の家。

 体感的には約一年ぶり。カレンダー的には実に九年半ぶりとなる帰宅。


 帰宅といっても僕の家はもう何年も昔に売却されて、取り壊されて、今では駐車場になっていたりする。

 まあ今は亡きセンパイに聞いてて、知ってはいたけどさ。

 つまりここにはもう僕の居場所なんてないってこと。

 居場所がないことを確認するだけのつもりだったのに……。


 なんだよこれ。


 電柱や、民家の塀とか、町の至る所に張り紙が。

 「探し人」の張り紙が。

 小学生の描いたような、下手くそな似顔絵が。

 何枚も、何枚も。

 つうか僕、こんなにハゲてねーし……。


 なんだよこれ。


 クレームが来てカラアゲ君のを剥がしに行ったあの家にも張ってあるし……。


 なんだよこれ。


 いなくなっても探してくれる人なんていないと思ってたのに、くそ、あいつ……。



 僕があいつを見つけたのは火葬場の帰り道。

 ゴミ捨て場で泥だらけの仔犬がぐったりしていて、その前であいつがボロボロと泣いていた。


 それで仕方なく僕が病院に連れて行った。

 僕は喪服のまま、あいつはランドセルのままで。

 保険も効かなくて、出費がけっこう痛かった。


「ウチ、犬が飼えないから……」


 それで仕方なく僕が飼うことにした。

 犬の名前は、いつの間にか勝手にあいつが付けていた。

 なんてセンスのない名前なんだ。

 そう思った。

 でも仕方がない。

 たぶんあいつの中ではあいつが飼い主なんだ。

 だから仕方がない。

 仕方がないけど、その辺カラアゲ君はどう思ってたのかな?

 カラアゲ君は僕にとっては唯一の家族だったけど、カラアゲ君にとってはどうなのか。

 ちょっと怖くて、その辺はあっちでも聞けなかったりする。



 まあとにかく。そういうことだから。

 僕はこのまま消えることにした。

 たぶん、この町には二度と来ない。


 だって僕は人殺しだから。

 あっちの世界で無辜の生贄を何万人と殺して。

 こっちの世界でも数えきれないくらいに殺して。

 どろっどろの血まみれだから。

 こんなのに触ったら汚れちゃうじゃん。


 ああ、でもここを去る前に一仕事だな。

 妖怪アンテナに反応があったから。

 ふだんなら見逃すくらいの小さな反応。

 だけどなにせ今はその少しのゴブリンが欲しいんだ。

 それに。あいつのいる町を少しでもきれいにしてやりたいし。

 それでやって来たヤクザの事務所。



 中から男たちの野卑な笑い声。

 会話の内容はロクなもんじゃない。

 下っ端がいつもの場所に若い女を拉致したから、これから皆で行ってお楽しみとか。

 それでクスリでどうのこうの、裸を撮影してどうのこうの。


 ようしよし。いいねいいね、ナイスゴブリンですぅ。

 門番の若手の骨を砕いて、ドアを蹴破って。


「こんばんわー。お邪魔しまーす。今から皆さんを殺しますので、三分でスタンバイお願いしまーす」


 これにゴブリンさんが大騒ぎでキーキー鳴いて。

 皆さんが武器を手にしたところで。


「闇黒瘴気(極小)」


 はい、まいどありー。

 これで待望のレベルアップ!


 いやあここまで長かったぁ。

 や、そうでもないか。

 だってカラアゲ君があっちで三年半掛かったところを、今回僕は数カ月。

 やっぱあっちのゴブリンより、こっちのゴブリンの方が断然高いみたいね。経験値がさ。

 重火器サイコー。

 とくに戦車と戦闘機とミサイル基地がおいしかった。


 ともかくこれで目標達成。

 気分もサイコー。

 気分がいいから、よっしゃ、ついでに拉致られたとかいう姉ちゃんも助けたるわ。



 それで来ました。あやしいビルの前。

 中にいるのは下っ端の兄ちゃんがふたりかな?

 まずはそっと聞き耳をたててみる。


「ふうん、結構上玉じゃん。どうやって連れ込んだ?」


「いやそれが、コイツ俺の地元では有名な奴なんですよ。いなくなった昔の男をずっと探してるみたいで」


「それでその男のことを騙ったのか。コイツも馬鹿だねえ。そんな見え見えの嘘に引っ掛かるなんてよ」


「それだけ忘れられないオトコってやつですかね」


「まあ俺たちで忘れさせてやるけどな」


「今頃はアニキたちもこっちに向かってるだろうし」


「きっと一生忘れられない夜になるぜ」


 ゴブリンどもがギャハハと笑う中で、僕のスーパー聴力が女の呟きを拾ってしまった。


「どんなに見え見えの嘘だって……あの人の名前を出されたら……だってあの人は……」


 そこで僕、いつもの感じで参上。ドアを蹴破って。


「どうもこんばんわー」



 それで、今、僕、ピンチ……。

 いかん、これ、マジで、ヤバい……。

 完全に、予想外……。

 魔王戦より、絶体絶命……。

 どうしよう、どうしよう……。



 いや、中にいたゴブリンはすぐに骨を砕いて無力化したわけですが……。

 拉致られてた女の子も解放してあげたわけですが……。

 そしたら……。


「うえーーん。今までどこに行ってたんだよう。うえーーん」


 ヤバいよ、ヤバいよ、マジでヤバいよ……。

 どうしよう、どうしよう……。


「探したのに、いっぱいいっぱい探したのにい。うえーーん」


 ガッツリしがみついて放してくれないし……。


「あの……、だから、たぶん、人違いじゃないかなって……」


「なんでそんなこと言うのさ、ぜんぜん変わってないくせにい。うえーーん」


 そういうあなたは随分変わりましたよね?

 あの頃は乳歯の抜けたガキんちょだったし、男子よりも女子にモテるタイプの子だったし……。


「ちょっと背が高くなってるけど、ちょっとマッチョになってるけど、かなり髪の毛が増えてるけど、ぜんぜん変わってないくせにい。うえーーん」


 マジでどうすりゃいいのよ、これ……。


「シゲ兄ちゃん、もうどこにも行かないでよお。うえーーん」


「だから違いますって。人違いだから放してくださいよぉ。お願いだから放して、ねえウシオさんってば!」





 あ……。

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