(14) 冬の狼
それから。
ヨシエ情報から僕はあの殺人犯のひとりに接触した。
ちーす、センパイお久しぶりっす。
僕のこと覚えてますか?
やだなあ僕ですよ僕。
ホラ、九年前にセンパイがいたぶって殺してくれた僕ですよ。
思い出しました?
え、おまえなんか知らないって?
冷たいなあ……。
そうだ!
思い出せないなら、いい方法がありますよ。
センパイが僕に教えてくれたアレをやるんですよ。
あのときと役割を交代して、僕がこっちでセンパイがそっちで。
さあさあ今日はいろいろと思い出してもらいますね。
あんなこともこんなことも、知ってることは全部洗いざらい。
大丈夫ですって、分かってますよぉ。
全部吐いたらちゃんと楽にしてあげますからね。
いやあ楽しいなあ。
こうして僕は九年前に僕を殺したゴブリンどもを芋づる式に捕まえていった。
そいつらを尋問してみて分かったこと。
・そいつらはやはりあの国の人たちだった。あの国の準工作員みたいな、要は下っ端さんたちだった。
・僕を殺した動機は、ダミー取引きに使える日本人名義の銀行口座。今は架空名義では口座を作れないし、自分達の口座は公安にマークされて使いにくいとか。
・つまり僕は法的にはまだ生きているらしい。生きていて、仮想通貨の取り引きなどの経済活動を行っているし、なんと毎年税金まで納めているんだって。
・ちなみに僕の口座のひとつは結構偉い人が不正蓄財のために使っていて、預金残高はとんでもない額になっていた。
・当然それらは全部僕のもの。だってこれ、僕の銀行口座だもの。もちろん念のために印鑑や暗証は変えておくけどね。
・その手続きで銀行に行ったがまた驚いた。本人確認の指紋認証であっさりパスしたから。僕、白骨死体から蘇ったのに以前と指紋が変わっていないのよ! 回復スキルさん、ぱねえッす!
というわけで、僕はこれで一気にお金持ちに。
さっそくパスポートをとって、ルンルン気分で海外旅行。
だってこの国にはもう、あいつらの仲間がいなくなったからさ。
全員、僕が経験値に替えたせいでさ。
でも僕にはまだまだゴブリンが足りないからさ。
ホラ、僕を殺したゴブリンさんを芋づる式に手繰っていくと、どうしても本国の偉いさんたちに繋がっているじゃない?
だったら本国のエリートゴブリンさんにも僕の経験値になってもらわなくちゃ。
それでその国に。直接入国……はさすがにマズそうなので、そのお隣の中国に観光旅行。
電車とバスで国境近くまで行って、そこから雪を掻き分け山を越え河を渡ってその国に。
まあ不法入国ですが何か?
いやあでも懐かしいなこれ。
あのときはへばってカラアゲ君に乗ってたけど、体力があるとアウトドアライフもけっこう楽しいね。
大自然の中で毎日ハイキング。
テントはないけど野営用にカマクラを作って、その中で鹿肉なんて焼いたりしてさ。
そう。季節は真冬。なにせ雪ですよ、雪。
それでなんとなく体毛を濃くしてモコモコにしてみたり。
顔も髭で覆ってみたり。
いえね、「耐寒スキル」があるからTシャツでも全裸でも寒くはないんだけど、気分の問題ですよ。
そうそう。この体毛コントロールももちろんカラアゲ君のスキル。
あ、そうか。カラアゲ君のあのタテガミ、あれもこうやって伸ばしてたのか。
あのタテガミは実用性でなく、単にカラアゲ君の気分の問題だったという衝撃の事実が発覚……。
それからの毎日はゴブリン退治のひとり旅。
行き先は妖怪アンテナで目立つ所から。
ここで妖怪アンテナについて。
・そうこれ、別に魔族に反応するんじゃなかったみたい。たぶん「こちらへの脅威」の大きさに反応してると思う。
・脅威とは、こちらへの害意とそいつの戦闘力との掛け算みたいな感じかな。
・この戦闘力がクセ者で、同じ人でもナイフより拳銃を持った方が、拳銃よりも機関銃を持った方が大きくなる模様。
・だから軍事基地とか、ミサイル施設とかがアンテナに大きく反応するし、そこを襲うとこれがまた経験値がガンガン入るのよ。
・つまり軍事力と経験値がほぼ比例関係みたいな感じみたい。
そういうわけで、経験値の欲しい体毛モコモコ髭面男が、この国の軍事施設をあちこち襲って回るわけですよ。
「悪い子はいねがぁーッ」とか言って。
いや、言わんけどさ。
そこでまた衝撃の事実を発見。
なんかね、銃弾くらいなら「危険察知」のスキルで普通にかわせるみたいなのよ。
カラアゲ君は敵の攻撃をけっこう食らってたけど、どうやらあれはわざと食らってたみたい。
たぶん死にゆく敵への、カラアゲ君なりの情けだったのかな。
それと、カラアゲ君が一度も使ったことのないスキルもあった。
それが範囲攻撃スキル「闇黒瘴気」
これがヤバい。超ヤバい。
これを放つと周囲のゴブリンが血を吐いて死ぬの。
火とか光とか魔法っぽいエフェクトは一切なし。
見えない攻撃でただ死ぬの。
こりゃカラアゲ君が封印したのも分かるわ。
だって敵味方関係なく全方位の範囲攻撃だもの。
カラアゲ君が使ってたら三美女だって死んでたわ。
あいつら、カラアゲ君に見逃されて生きてたくせに……。
それでこの闇黒瘴気が超ヤバいけど超便利。
魔力をたくさん込めればそれだけ攻撃範囲が広がるのと、敵の電子機器がほぼ無効化されるのがいい。
たぶんこれ、正体は放射線とか中性子とかそんな奴だと思う。
EMP効果で電子機器が焼けて壊れちゃうみたいな感じかな。
だから慣れてきたら戦車もこれで潰せるし、戦闘機も落とせるようになった。
最初は一方的にやられて死ぬか逃げるかだったのにさ。
まあ僕には回復スキルがあるから、死んだところで何時間かすれば生き返るわけですが。
そうそう、あれからたくさんレベルアップしたので回復速度も大幅アップ。
今ではダウンロードもサクサクだぜ!
そんな感じで。
妖怪アンテナ、お宅訪問、はっちゃけタイム、服が燃えて全裸マン、無人になった設備でそのまま民泊&着替えを拝借。
だいたい毎日がこのルーティン。
もうどれだけ殺したか分からない。
もともとは僕を殺した連中だから。
僕にはたくさんゴブリンが必要だから。
害意と戦闘力のある奴らを殺すことに躊躇いはない。
だけど人を殺して何も感じなくなったわけでもない。
たとえ害意いっぱいの敵だって家族はいるし、そいつなりの人生だってあったわけで。
だからその命を奪うのはやっぱり辛い。
僕の中にそういう辛さとか、悲しさとか、言葉にできないやりきれなさみたいなものがどんどん貯まってくる。
だから僕は、人を殺した後は空を見る。
大地は死体でいっぱいで見たくないから。
空には死体がないから、そこに僕の中のどろどろをぶち撒けたくなる。
それは、自分のしでかしたことを思い出して夜中に叫びたくなるのと少し似ていて。
「ウオオオオオオオオオォ!」
だから僕は、人を殺した後は空に叫ぶ。
「ウオオオオオオオオオォ!」
明日も明後日もその次の日も、人を殺していく僕だから。
「ウオオオオオオオオオォ!」
今日も僕は空に叫ぶ。




