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(13) 目覚めの時

 暗かった。

 そして息苦しかった。


 まるで重い布団の中に包まれているみたいに暗くて息苦しくて。

 だから僕はその重い布団を力一杯はね除けた。


 轟音!


 なぜか凄い音がして、光が射した。

 眩しかった。

 空気がおいしかった。


 僕は土の上にいた。

 クレーターのような大きな穴の中心にいた。

 クレーターの周辺では木々が外側になぎ倒されていた。

 舞い上がった黒土がパラパラと降ってきた。


(ここで大きな爆発でもあったかのかな?)


 そう思ったものの、何かがおかしい。


 違和感その一。ここはどこだろう? 山の中? 僕はあのときたしかに死んだのでは?

 違和感その二。なぜ僕は全裸まっぱなのか? そしてなぜ僕はこれほどガリガリに痩せているのか? しかも髪がフサフサ!

 そして違和感その三。僕の中にはアレがある。これはアレだよアレ、カラアゲ君のスキルだよ……。

 それで勘の悪い僕もようやく気がついた。


「ここ、元の世界じゃん……。僕、生き返ってんじゃん……」


 そこで暫しのシンキングタイム。



 整理してみた。

・英霊召喚で喚ばれた僕の霊魂は、カラアゲ君が死んだことで受肉が解けてあっちにいられなくなった。

・こっちに戻ってきた僕の霊魂。でも霊魂にはお土産みやげがくっついていた。それがカラアゲ君のスキル。とくに「死んでも生き返る」という超チートな回復スキル。

・それで僕の死体が生き返ってしまった。たぶん、ここには僕の死体が埋められていたんだ。

・僕は死んでから三年半後にあっちに喚ばれて、そこに半年間滞在していた。つまり僕はとっくに白骨化していたはず。なんと、僕は白骨死体からよみがえってしまった……。



 その後。やはり全裸はマズいということで、僕は服と靴と少しのお金を調達した。(詳細は省略させてもらう)


 町まで走った。これが速かった! そして全然疲れなかった!


 少しの所持金をはたいて漫喫に入った。

 驚いたことに、あれから更に何年も経っていた。

 え、こち亀終わったの?



 それでまたシンキングタイム。


・カラアゲ君はものすごいスキルをたくさん持っているが、初期レベルで鼻クソ程度の魔力しかない僕にはどれも使えないものばかり。

・ところが回復スキルだけは僕の鼻クソ魔力でも使えたりする。ただしその分、回復速度はとても遅いものになる。

・白骨死体の状態から生き返るには膨大な魔力が必要。それを鼻クソ魔力で少しずつ、少しずつ。それは通信制限の携帯で大容量の動画データをダウンロードするようなもの。要はめっっちゃ時間が掛かる。

・それで僕の場合は生き返るのに五年も掛かってしまった! ダウンロードに五年間! こっちで死んだときから合計で九年も経ってますよ!

・ガリガリなのはたぶんまだ回復途中だから。完全に回復すればまたあのときのポッチャリわがままボディーになるのかも。でも死滅しかけの毛根まで回復してくれたのは超嬉しいYO!



 さてと。漫喫にきた目的を果たそうか。


 僕はネットで、ヨシエのことを探してみた。

 ヨシエの本名でぐぐっと調べてみたところ、SNSで出会い系みたいな売春みたいなことをやっているのを発見した。

 それにしてもヨシエさん。年齢を詐称しすぎぃ。あとプロフの写真が加工しすぎてえらいことになってますけどぉ。


 それでメールをポチっと送信。

 お姉さん、すっごい美人ですね。僕の超好きなタイプです。今こっちに出張で来てるんですが、よかったらこれから会えませんか? 僕の年齢は……。


 返事はすぐにやってきた。



 待合せ場所で、いやあ驚いた。

 あれから九年。整形モンスターのヨシエさんはただのモンスターになってましたよ。

 これは果たしてクラスアップなのか、クラスダウンなのか。

 というかあなたの実年齢ってまだ三十代だよね?その倍くらいに見えるんですけどぉ。

 クスリって怖いよね!


 それからなんだかんだあってドライブに。ヨシエの車で。

 僕がハンドルを握って、ヨシエがトランクで。

 行き先はロマンチックな夜の海。古い倉庫の並ぶ寂れた埠頭。

 そこなら真っ暗だし誰もいないから、女性が少々はしたない声で叫んでも無問題。

 そこでほんのりソフトに尋問タイム。



 まあ要点だけ。

 九年前に僕を誘拐したのは、ヨシエのクスリ関係のお知り合いとそのお仲間らしい。

 僕を殺した動機など詳しいことはヨシエは知らされていないし、そもそも僕が殺されたとも思っていなかった。

 身ぐるみ剥がされてどこかで強制労働でもしているのかと思ってた、だってさ。


 あとはそのお知り合いの連絡先を聞き出して、ヨシエは用済みに。

 用済みだから、ヨシエは解放することにした。

 だって、まさか殺すわけにもいかないし。

 こいつは誘拐犯だけど、殺人犯ではなかったし。

 それに。

 誰なの、あなたいったい誰なのと、最後までうるさくてうるさくて。

 正直に僕だって言ってるのに。

 何度も何度も言ってるのに。

 どうして信じてくれないのかな?


 見た目が若いから?

 ガリガリだから?

 フサフサだから?


 まあいい。

 ヨシエに車のキーを返してそこで現地解散。

 お疲れ様でした。さよおなら。

 そのはずだった……。



 近づいてくるアクセルベタ踏みのエンジン音。

 僕を照らすヘッドライトのハイビーム。

 いったん去ったはずのヨシエが戻ってきたのだ。

 ヨシエの車が僕に向かって加速してくる。

 運転席のヨシエの顔は憤怒に歪んで、まるでゴブリンのようだった。

 それでぼんやり考えた。


(ヨシエはどうして僕を殺そうとするのかな? )


 さっきの仕返し?

 誘拐殺人に荷担した口封じ?

 クスリでアタマがイカレてるから?


 もうどうでもよかった。

 殺人犯でなかったから解放してやったのだ。

 でもヨシエが僕を殺す気ならば、それはもうそういうことだ。

 それに所詮は乗用車。たとえ当たっても大したことが無さそうだとも感じていた。

 こんなもの、カラアゲ君の突進に比べればぜんぜん迫力がなかった。


 ヨシエの車がノーブレーキで突っ込んできた。

 だから僕は魔王がやって見せたように、その突進をヒラリとかわすと、擦れ違う瞬間に横からガツンと体当たりしてやった。


 ヨシエの車は猛スピードのまま片輪を浮かせてそのまま横にゴロンと半回転すると、屋根を下に火花を散らして滑って行き、派手な音を立てて海へと落ちた。

 ヨシエは即死だった。


 なぜそれが僕に分かったか。

 そのとき。

 経験値が入り、僕はなんとレベルアップしてしまったのだ。


 これには驚いた。

 今日は朝からいろいろ驚いたけれど、これが一番驚いた。

 こっちの世界でレベルアップできるとは思ってもいなかったからだ。

 こっちの世界では、たとえ英雄であろうとも「ゼロ成長」がデフォだと思っていたからだ。


 原因はやはりカラアゲ君のスキルだった。

 カラアゲ君があっちに喚ばれた際に勇者として獲得した超超チートスキル「成長百倍」

 僕にはこれがあるから、こっちの世界でもレベルアップできるってことか……。



 泣いた。

 僕は声を出して泣いてしまった。



 そりゃ泣きますよ。

 だって経験値さえ積めば、僕はレベルアップできるんだから。

 レベルアップすれば、使える魔力が増えるんだから。

 そして魔力さえ、魔力さえ増えてくれれば……。



 だから僕には経験値が必要だった。

 だから僕にはゴブリンが必要だった。





 たくさん、たくさん、ゴブリンが必要だった。

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