プロローグ
超能力のある現代を舞台に生きる人々の日常作品
超能力バトルなどはありません(たまに出たとしてもメインではないです)
小さい頃からアニメの闘うヒロインや、魔法をつかってトラブルを解決する女の子に憧れていた。
かっこいい男の子との恋愛よりも、地球を守る正義の味方になりたかった。でも、そんなことは空想の世界の話で叶うことなんてない。小学生の時、将来の夢に”正義のヒーロー”と書いた私はその日からクラスの笑いものになった。妄想や想像の話だってことは誰よりも分かっていた。それでも憧れることくらいは許してほしかった。
成長していく私は理想の自分から距離をとった。社会で生きていくために、自分を嫌いにならないために。
嘘で塗り固まった私は昔のように楽しく夢を思い描けなくなった。
それでも正義のヒーローとまでは言えないけど、誰かの役に立つ仕事を目指そうと思った。
大学で法律について学び公務員資格を手に入れ、市役所職員になって人々の暮らしの支えになろうと。
頑張って頑張って、公務員になっ…て?あれ、私大事なことを忘れている気が…。
「まひるー、起きてるのー?」
「うーん…お母さんもう少しだけ…って今何時!!」
一階から響く母のモーニングコールで飛び起きた私は、枕元の八時を指そうとする黒いネズミの時計と目が合った。
「八時…って、始業時刻まで三十分しかないじゃない!」
急いで着替えを済ませて職場へと向かう準備を終えた私は、階段を駆け下りて洗面所で顔にお化粧を施す。
「あんま濃くしちゃダメよー、最初の印象は大切だからね」
「遅刻なんてしたら最悪になるけど」
のんきにテレビを見ている母を尻目にナチュラルメイクを終え、お仏壇の父に朝の挨拶をする。
「お父さん、おはよう。今日からの初めての仕事で不安だけど頑張ってお勤めしてきます」
線香の薄い煙の奥でほほ笑む父は、”お前なら大丈夫さ”と語りかけてくれるように見えた。
「あら、朝ごはん食べないでいくの?」
「いやいや、食べたら遅刻しちゃうから」
せっかく作ったのにー、とボヤく母には悪いけど朝からあのホームパーティーのような量の食事をしたら走ってる途中でわき腹が痛くなることは想像に難くない。
「まったく…はい、これ持っていきなさい」
「…?なにこれ?」
母が渡した風呂敷に包まれた大きな何かを素直に受け取る。
「お弁当に決まってるでしょ!朝食べれなかったんだからお昼くらいはしっかり食べるのよ」
「お母さんはたまに私のこと関取か何かと勘違いしてる気がする…」
思い(重い?)が詰まった重箱はカバンには入らないので脇に抱えていくことになりそうだ。
「でも、本当によかったわ。真昼は残念だったかもしれないけれど、超能力者なんかに関わらない普通の公務員になってくれて嬉しいんだから」
「………そうだね。でも私」
「あまり長く話ちゃだめよね。ほら、もういってらっしゃい」
言わなくちゃいけないことは遮られてしまったけれど、母にはいつかきちんと話さなければならない。
「それじゃあ、いってきます」
私が母が嫌いで嫌いで仕方がない超能力の相談員になったことを。