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失敗譚

失敗譚2

作者: macchang

この身が妖に転じて幾星霜

ここらが潮時なのやもしれぬ

人の生き血を啜る忌嫌われし我が身ではあるが

心まで化け物というわけでもなかった

しかし耐えがたき飢えと渇きには勝てず、少なくない数の人命を奪ったのもまた事実。


それにしても失敗である

かつてこの日の元の国は大きな戦災と天災に見舞われた

我の住む東の都も人の生きる街ではなくなってしまった。

故に、我も人が戻るまで眠ることにした

焼野原となった都からさほど遠くない山の中でひっそりと


そして目覚めた現代

人は溢れ、そして皆健康で肉付きが良い。

ついに時代がやって来た

街に出れば高層建築物があふれ

夜にも明かりが町を照らす

そんな中にも照らされない闇はあり、人は常に動いている


生きやすい時代に、油断と慢心があった

思えばいくらでも気付く要素はあったのだ

街を照らす街灯は我が身に何の害も及ぼさないが、相も変わらず日の光は我が身を滅ぼす

昼夜を問わないコンビニエンスな新時代に、感覚を狂わされていたのかもしれない


今、私は籠目を数えている

抗えない本能

数えるまで動くことはかなわない

郊外の屋敷、そこの現代社会に珍しい深窓の令嬢なんぞを襲って観ようと欲を出したばかりに

町中で、ビルの隙間に倒れこむ酔っ払いや薬中を食うのとはわけが違うのに


かつての妖怪と呼ばれる者たちの中には籠目を見ると無防備に数えだすという本能を持つ者達がいた

我もその仲間だ

ああ、なんたることか

現代社会の技術のなせる御業か

今、我が身をとらえて離さないのは網戸だ

なんときめ細かい籠目か

その奥に見えるのはレースのカーテンなるものだ

どちらも昔はなかなかお目にかかれないものであった。


すこし町中を観察すれば、こういうものがあることに気付けたはずであるのに

いざ、侵入せんと令嬢の部屋のベランダに降り立った時に初めて気づくとは。


もうじき夜が明ける

網戸の目はもうじき数え終わるが、既にしかいにはレースの目が入っている。

このまま我が身は、そちらを数えながら塵と消えるであろう。

失敗だ

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